思い出=瞬間の共有 in熱海
職を転々としながら、日本各地を訪れる。
2023年8月、熱海のホテルで2ヶ月間働いていた時のこと。
この夏、私は何度も「花火」に助けられた。
熱海では8月に計5回もの海上花火大会が開催される。
その日、15時に仕事を終えて同僚と花火大会を鑑賞することになった。
歩いて30分、向かった先は熱海サンビーチ。
ビーチの白い砂浜は、人によって埋め尽くされていた。
浴衣姿のカップルに、子連れの家族、お酒を飲みながらバカ笑いをしている大学生くらいの男性グループ。
会場は、騒々しかった。
あたりは紫色の薄暗い空、いつもならセンチメンタルな気分になるけれど、
今日は人混みのおかげでわくわくする。
早めに会場に着いたため、砂浜にレジャーシートを広げ、
打ち上げの瞬間を待つことにした。
「プシュッッ」
道中買ったビールを開けて、みんなで乾杯!
仕事終わりということもあってか、ビールがいつもより沁みた。
話にも花が咲き、時間はあっという間に過ぎた。
気づくと、打ち上げ3分前。
会場司会者は、打ち上げのカウントダウンを始める。
観客と共に、ビーチは大合唱だ。
「さんっ!にぃっ!いちっっ!!ーーー」
会場は、一瞬静寂に包まれた。
シンとした空気。
突然、黒い夜空に一筋の光の線が、くねくねと上にあがっていく。
遅れて、「ひゅ〜〜」と、なんとも気の抜けそうな音。
次の瞬間、会場はオレンジ色に染まった。
「ッッッバアアァァァン!!!!」
心臓に響く音の波動。ギュッとなった。
そして、はじけた花火の全貌を見逃さないよう、いつもより目を見開いた。
「うわぁぁぁぁぁ〜!」
「おおおお!!」
「きゃぁ〜!」
カップルは目を見合わせ微笑み合い、
子供たちは立ち上がって夜空を指差し、
男性グループは少年に戻ったように「うぉぉっ、すげぇ!」と感嘆。
会場は、熱気に溢れた。
その盛り上がりは、クライマックスに近づくまでクレッシェンド。
フィナーレの特大花火にはもう、みんな子供に戻ったように歓声をあげる。
一番大きい花火が、空一面に広がった。
最後の花火はきらきら輝きながら枝垂れて消えていく。
まるで終わりを惜しむかのよう。
会場は、温かい拍手に包まれた。
「ありがとう。今日まで準備してくれた花火師のみなさん。
暑い中ありがとう。感動をありがとう。」
こんなメッセージが込められた拍手だったと思う。
花火はとても美しく、私の夏を照らしてくれた。
でもふと考える。
「もし一人で見ていたら、どうだっただろうか?」
一人だけだったとした、きっとここまで感動できなかっただろう。
大切なことは、集まった人全員で、同じ瞬間を共有できたこと。
終わってからの、「すごかったね。来年もまた来ようね。」
この言葉を共有できる相手がいるからこそ、瞬間が思い出になるのだと思った。
私も、たまたま出会った同僚と、この場所でこの瞬間を共有できた。
これは奇跡であると心に刻みこんだ。
来年もみんなであつまることを願って。
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