アンビグラムを始めた
皆さんは「アンビグラム」をご存知か?
180度ひっくり返して見てみても、言葉として認識できるもの。
部首など文字の一部を入れ替えるタイプ。
ひと塊に複数の読みをなせるようにしたもの。
などなど、実に様々なバリエーションがあるが──
要はだまし絵的な、視点を変えることで別の見え方ができるようデザインされた、文字アートである。
ただいまお見せしたのは、ペーペーの僕が隙間時間にせっせと描いた素人作品なので、実際に世に出回るものは、もっと読みやすく、デザインも凝ったものだと留意されたし。
それに今挙げたタイプの他にも、様々な様式のアンビグラムが存在する。
どれも唸るようなデザインばかりなので、是非ともご検索いただきたい。
それと話は逸れるが、
ホラー作家である"梨"先生が現在連載する
リアルタイム更新で読者を当事者に引きづりおろす、
──ホラー制作物掲載サイト『つねにすでに』
並びに、
平成のエラリー・クイーンこと"青崎有吾"先生の書いた
明晰なJKが友のため頭脳を振り絞る、
──頭脳心理戦×青春小説『地雷グリコ』
どちらも途轍もなく面白いので、是非ともご拝読いただきたい。
閑話休題。
このnoteの目的は「体験してみる」これに尽きる。
僕は、前回の自己紹介記事を投稿したあと、何を体験するべきか少し考えてみた。そして前々から興味のあったこの「アンビグラム」の世界に片足を突っ込んでやろう、と思い至ったのだ。
そもそも興味を持ったキッカケは、Twitterだった。
詳しくは書かないが、僕はTwitterで『特定の奇声を発する界隈』に属している。とにかくそういうものがある。
所属するのは主に、北の大地に居を構える大学の生徒たち。
『界隈』の名が某大学にて、どれほどの知名度を誇っているのかは僕の知るところではないが、恐らく評判は芳しくないだろう。
寄って集って奇声を上げるコミュニティが称賛される世などあってはならぬ。
だが、何故かは知らないが、変な集団には変人が集まり、変人のなかには芸術的素養を持て余した人物が、ぽつぽつ現れる。
打ち込み音楽やイラストといった、創作物と聞いてパッと思いつくようなものから、コラ画像など、どうしようもなくインターネットじみたモノを作る者まで幅広かった。
もちろん僕より本を読み、優れた筆力をふるう人間も在籍していて、作家をなんとなしに目指す身としては視線を逸らしたくなることもあったが。
そしてそのなかの一人が、『作字』を得意としていた。
(アンビグラムに限らず、フォントのデザインや、文字の形を駆使したロゴを制作するのを『作字』と呼ぶらしい)
彼?彼女?の創るものは、当時作字のサの字も知らなかった僕にとっては新鮮で、かなり興味をそそられたものだ。
そこから少しづつ、その人のリツイートした文字や、ハッシュタグ検索で出てきた文字を見るのが、趣味のうちに入っていった。
これだけなら、僕はこの記事内で全く別のことを実行していたかもしれない。
後押ししたのは、一冊の本だった。
星海社FICTIONSから発刊される、"青島もうじき"先生の小説、
──『私は命の縷々々々々々』。
思弁SF、青春小説、少女小説、ライトミステリ──
──を併せたような欲張りな本作は、そのエンタメ然としたカテゴライズとは裏腹に、中身がかなりむつかしい。
哲学的な主張が、ポエトリーに語られ、さらに科学用語がこれでもかと散りばめられる。
しかも、この散りばめられ方が厄介で、語義を知っていることを前提とし、用語が「比喩」として詩に用いられるのだ。
逐一Wikipediaを参照し、解釈の正誤の定かならぬまま、抽象的な一文一文を咀嚼する。
なかなかに骨の折れる読書体験だったが、人間関係の行き着く先や、テーマの着地……、そして文体の美しさには「読んで良かった」と思わせるだけの力があったと記しておきたい。
ネタバレになりかねないので、詳しくは語らないが……、
主人公は「目的を持つこと」≒「続くこと」≒「形を持つこと」に対してぼんやりとした忌避感を持っている。
作中。そんな思想と対をなすがごとく、ハッキリとした形状を持つことを良しとする少女が登場する。
そんな彼女の思想『形あるもの』のシンボルとして、アンビグラム好きであることが語られるのだ。
──別々のコミュニティで、同じ作品を二度以上も目にしたとき、それは自分にとって『見るべきもの』である。(意訳)
これは僕の好きな、頭ゆるゆるWebメディア『オモコロ』の編集長"原宿"さんが掲げる「二回理論」なるものだ(ちなみに本作の参考文献には同じくオモコロライターの"品田遊"作家先生の小説も載せられている)。
この本を読み進めている際、脳裏を掠めたのは──
探検家の衣裳を身にまとい、怪訝そうな面持ちでこちらを見詰める、原宿さんのTwitterアイコン。
そして界隈の者たちが発する、あの甲高い叫びだった。
かくして記事冒頭に至る。
こうして見返すと、アンビグラムを始めたキッカケは偶然性に満ちていて「作字が大好き!」という人間に見せられるようなものじゃあない。
けれど逆に言えば、これから「好き」を深める余白が大きいとも言える。
そんな感じで。
ゆるーく、執筆の邪魔にならない程度で。
アンビグラムを続けていきたい。
消臭坂でした。
■リンク
・アンビグラム│Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%B3%E3%83%93%E3%82%B0%E3%83%A9%E3%83%A0
・アンビグラム│ニコニコ大百科
https://dic.nicovideo.jp/a/%E3%82%A2%E3%83%B3%E3%83%93%E3%82%B0%E3%83%A9%E3%83%A0
・つねにすでに│梨
https://always-already.net/
・地雷グリコ│青崎有吾
https://www.kadokawa.co.jp/product/322011000437/
・私は命の縷々々々々々
https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000376205
・オモコロ
https://omocoro.jp/
・原宿が書いた記事
https://omocoro.jp/writer/harajuku/
・ただしい人類滅亡計画 反出生主義をめぐる物語│品田遊
https://www.eastpress.co.jp/goods/detail/9784781620046