靴下を履く
靴下模様の猫を可愛がる空くんとからかい気味(弊ワットではいつものこと)のタルタリヤのお話です。
めっちゃ短いです。
・ウルが、ゲーム内には実装されていない調度品を売っていて、それを空くんが買っている設定です。
塵歌壺にて。
にゃあ〜
「か、可愛い…!!」
原っぱに座りながら先程ウルから購入した子猫を抱き上げている空は、その可愛さに琥珀色の瞳を輝かせていた。
生後2ヶ月ほどの黒を基調に時折白が混じる毛並み、所謂、ハチワレと呼ばれる模様をした子猫は、人懐っこい性格なのか、空が抱き上げても嫌がる素振りはない。むしろとても嬉しそうに喉を鳴らしている。
ヒョコッ
「空、また可愛い子をお迎えしたの??」
「あぁ、そうなん………って、タルタリヤ! いつの間に!?」
ギョッ
そんな子猫を可愛がっている最中、急に声をかけられたので、振り返ってみると、タルタリヤの姿があった。
「居たなら声をかけてくれよ…。」
ストッ
「割と前に居たけど、空があまりにも夢中だから、邪魔しちゃ悪いと思ってね。」
(俺、そんなに夢中だったのか…)
座りながら紡がれたタルタリヤの言葉に、それほどまでに夢中だったことを改めて認識した空が内心驚いていると、タルタリヤは言葉を続けた。
「だから、
空が猫を可愛がる様子をちょっと観察してたんだ〜。」
「なっ…!? 尚更声かけろよ!!」
「え〜? どうして??」
ニヤニヤ
(絶対分かってやってる…………!!)
しかし、続けられた言葉が、あまりにもからかい口調だった為に抗議の声を上げれば、ニヤッと笑みをしてタルタリヤは尋ねてくる。その様子が、確信犯めいたものだということを悟った空はじっとりとした目でタルタリヤを睨む。
「それにしても、何だか模様が空とお揃いみたいだね。」
「え?」
「ほら、前脚の途中辺りが白いところとか、空にそっくりだよ!」
「そうか?」
スッ
タルタリヤの言葉に、目を丸くした空は、猫を下ろしてよく観察してみる。
確かに、両前脚の中間辺りが白く、他は黒い、という独特の模様をしている。それは、まるで、空の黒を基調とした旅人装束の一部である独特な形をした肘近くまでを覆うグローブと、袖とグローブの間に露出した肌、そのコントラストに非常に似ていた。
「ね? 俺の言った通りでしょ?? 空。」
「確かにそうだ……。」
にゃあん
「えっ?」「え?」
2人がやりとりしていると、子猫が"空"の名前に反応してひと声鳴いた。
驚いて振り返った2人の声は、見事なまでにタイミングがピッタリであった。
「………空?」
ピクッ
にゃあ!
タルタリヤがもう一度呼べば、片耳をぴくりと動かして元気よく返事をした。どうやら、先程からタルタリヤが空の名前をずっと呼んでいた影響なのか、子猫は自分の名前を"空"として認識し始めたらしい。
「これじゃ、どっちがどっちだか分からないね??」
ニヤニヤ
「〜〜〜っっっ!!」
カァァァッ
追撃するようにますますからかいの言葉をかけるタルタリヤの様子に加えて、子猫が自分の名前だと認識してしまうほどに名前を連呼されていた事実を受け止めざるを得ないことに、だんだん羞恥を感じてきて、空は顔を真っ赤にしていく。
そして…
ガバッ
「タルタリヤが呼びまくるからだろっ! ばかっ!!」
タタタタ〜!!!
とうとう羞恥が限界に達したのか、勢いよく立ち上がった空は、捨て台詞を吐いて走り去ってしまった。その様子は、さながら驚いた子猫が勢いよく走り去っていくようだった。
「ちょっ、空?! 待って…、って行っちゃったな…。」
驚いて声をかけるタルタリヤであったが、その前に空が一目散に走っていってしまったので、言葉は空虚を舞うだけになってしまった。
スッ
「あちゃ〜…、からかいすぎたかな…。」
じぃっ…
後頭部に右手を置いて、困ったように眉を下げるタルタリヤは、流石にからかいすぎたようだ、と反省してひと言溢した。そうしていると、非難するような目線を送る子猫の姿が視界に映り込んだ。
タルタリヤを見ながらも、空が走り去った方向を時折見ている。どうやら空を追いかけたいらしいが、その原因であるタルタリヤに、まるで文句を言いたげな様子で見つめている。
スッ
「君のご主人様があまりにも可愛いから、ついからかっちゃったよ。」
右手を下ろしたタルタリヤは、眉を困ったように下げながらも、口元に笑みを浮かべて子猫に言葉をかけた。
空が聞いていれば、ますます抗議の声を上げるだろうが、それはタルタリヤが感じた紛うことなき事実であるのだから仕方ない。
子猫を可愛がる姿は勿論のこと、子猫の模様を観察する姿に、子猫が返事したことに共に目を丸くして驚く姿。
そして、それを指摘して顔を真っ赤にして恥ずかしがる姿…。
全てが、タルタリヤには、とても愛らしく映ったのである。
(それにしても可愛かったな…)
ニコニコ
そんな空の姿を思い出して、タルタリヤは下げていた眉と口元を上げてにこやかな笑みを浮かべる。
にゃあ〜〜…
タッ
そんな彼に対して、タルタリヤの言葉を理解しているのか、それとも偶然なのか、まるで、言い訳するな、と言っているようにひと声鳴いてから、空の去った方向へと走り出すのだった。
「あ、俺も行くから待ってよ!」
スクッ
タタッ
子猫に釣られるように立ち上がってから走り出すタルタリヤは、やはりやり過ぎたことを再認識して慌てて追いかけるのであった。
その後、謝りに来たタルタリヤに、俺も言い過ぎたよ…としょんぼりする空、そんな2人に寄り添う子猫の姿があったという。
-END-
あとがき
猫とかの動物が読んだ名前を認識してくれたら嬉しいけど、それが自分の名前だったり、ましてや他の人が呼んでいるのを聞いて認識したら、照れくさいよね、というお話を書きたかったので、満足しています!
ここまで読んで頂きありがとうございます!