手向けの花を…

※ 魔神任務 第二章第四幕 淵底に響くレクイエムクリア後前提なのでネタバレあり
※クリア後読みを推奨
クリア前に読んでしまっても苦情は受け付けないのでご了承下さい。

プレイしていて、インテイワットの花のくだりやダインの新たな一面やその過去…。

それによって涙ボロッボロ出ました…。

そのやりとりから、空くん、ダイン、そして蛍ちゃん、それぞれが想うことを中心に書いたお話です…。

・短め
・インテイワットの花のくだりを中心に、要所要所を切り取ってる感あります
・ダインと蛍ちゃんの旅のやり取り捏造

参考資料
・魔神任務第二章第四幕 淵底に響くレクイエム
・公式PV『テイワット』メインストーリーチャプターPV「足跡」

※初出 2022年5月22日 pixiv


層岩巨淵の地下にて。

「………。」

インテイワットの造花を両手いっぱいに抱えているのは、長い金髪を三つ編みに結んだ黒を基調とした旅人装束を身に纏った少年、空である。その表情はひどく悲しげでその大きな琥珀色の瞳もひどく揺らいでいる。

このインテイワットの造花は、あるものを見てから空がひとつひとつ丁寧に作ったものだ。気休め程度にしかならないが無いよりマシだった。それに、こうでもしないと空の心の整理がつかなかったからだ。

スッ
(蛍…)

そのあるものを発見した場所へと来た空は、悲しげな表情をしたまま片膝を折ってしゃがみ込んだ。そこは、ヒルチャール達が力無く横たわりながら、最期の時を過ごしていた藁の上であった。

ことの次第は、冒険者協会からの依頼から始まった。

長いこと閉鎖されていた層岩巨淵が解放されて、その採掘作業をする鉱夫から、ヒルチャール達が虚ろな様子で地下の奥深くに消えていく…。何だか不気味なその雰囲気に怯えて仕事が手につかなくなった仕事仲間である鉱夫達…。これでは仕事にならないので、鉱夫達が安心して仕事が行えるように、その原因を調べて欲しい、という依頼を引き受けたのであった。

周囲に居る人々から協力を得ながら調査を進めて、紆余曲折を経て辿り着いたその場所は逆さの都市がある奇妙な空間であった。同時に、ダインスレイヴとも予期せぬ再会を果たしたのだ。

そんなダインスレイヴと共に行動する中で、謎の黒鎧の騎士と遭遇した。そのことに関しても調査をしていくうちに、地下の奥深くに消えたヒルチャール達は、最期の時を過ごすためにこの層岩巨淵の地下に集まっていることが分かった。

その最中、ふと足を止めてこの場所を見つけたのである。

どうして地下に花が…、と疑問符を浮かべるパイモンをよそに、どこか見覚えのある花に空は切なさに胸が締め付けられる感覚を覚えた。そんな2人に、ダインスレイヴは説明をし始めた。

この花はインテイワットという名前の花らしい。

かつてカーンルイアにて至るところで咲いていた国花だというその花は、蛍の髪飾りにもあるものと同じ花だった。

この花の開花期間は、およそ2週間ほどである。だが、誰かに手折られて、カーンルイアの土から離れるとその花びらは成長を止めて硬まる。そして、故郷の土に還って初めて、花びらは再び柔らかくなりやがて塵となって消えゆく…。

故に、インテイワットは"遊子"、つまり郷を離れて旅するものを象徴すると同時に、"故郷の優しさ"という意味を持つのだという。

この花が添えられていた…。
それは、紛れもなく蛍がここに訪れた証拠でもあった。

触れようとした瞬間、不思議なことに蛍とアビスの使徒・激流との会話が流れ込んできたのだ。

そこで知ったのが、カーンルイアの復興、そして、ヒルチャールをはじめとする異形の者に変えられてしまったカーンルイアの民を救う…。その為にも、この地下に設置した浄化装置を使って、呪いを浄化するという会話であった。

たとえ1パーセントでも望みがあるのなら…。

そう蛍は言っていた。

(だけど…)

空はギュッと目を閉じた。

たとえ1パーセントの確率で救われても、99パーセントは苦しみながら死んでしまう。

他人の命を選択する権利など誰にもない。
それに、あのヒルチャール達はすでに帰る場所を見つけている。

そうなってしまうのなら、蛍のやり方にはどうしても賛同できなかった。

それに、ダインスレイヴも言っていた。無理矢理呪いを浄化しようものなら、痛み以外に与えられるものは無く、無理にでも浄化しようものならば、全身が焼け焦げていくような苦痛を味わうだろう、と…。

現に、装置を発動した直後、ダインスレイヴをはじめとするヒルチャールや黒鎧の騎士達は、とても苦しんでいた。だが、"ある者"の尽力によって装置を停止することが出来たのだ。装置の停止後は、消耗していたもののダインスレイヴも苦しみから解放された。

ひとまず危機は去った。だが、蛍やアビス教団は次なる手を打つ為に動いているはずだ。

だからこそ…

バッ
(俺が、蛍を止めないと…!)
ソッ…

先程の悲しげな表情とは打って変わって、空は、決意に満ちた表情で顔を上げた。その意思を誓うように蛍が供えたのであろうインテイワットの花の隣へ造花のインテイワットの花を置くために、手を伸ばすのであった。

逆さの都市、その中心に同じく逆さに存在する噴水の真下にて。

「………。」

台座に置いた右手は、呪いに蝕まれてひどく醜い。500年共にある呪い、既に見慣れたものだが、何度見てもその醜さはどうしようもなく嫌悪の情を抱いた。

スッ
「………。」

台座から右手を離して佇むのは、ハニーミルク色の金髪を持つ澄み切った夜空に浮かぶ星々の意匠を施した服装を纏ったミステリアスな雰囲気を纏わせる男、ダインスレイヴであった。

一等星の煌めきをそのままはめ込んだような瞳は、仮面のような眼帯の奥底で悲しげな色を宿している。

「蛍…。民を戻したとして、国の復興になるものかと何度も言ったはずだ…。」

それは、蛍と旅をしている最中に言い聞かせていたことだ。唇を尖らせながらも、しぶしぶ納得したように返事をしていた。それに、ダインスレイヴ自身もあまりしつこく言っても逆効果か…、とそれ以降は言わないようにしていた。

だが、今の蛍の行動を見る限りでは、どうやら胸の奥底では、ダインスレイヴの言っていたこととは裏腹のことを考えていたようだ。

「諦めていなかったとは…。相変わらず頑固なやつだ…。」

それを蛍の血縁者であり雇用主である少年、空と話したことを思い返す。

アビスの使徒の痕跡を追っている時に、偶然再会した空とパイモンと共に、この辺り一帯を調査していた。その時に発見した供えられたインテイワットの花…。

呪いに蝕まれて500年…。殆どの記憶を無くしたダインスレイヴがどうしても忘れずにいたこと…。

彼女…、蛍もこのインテイワットの花が好きだったということ。

それが供えられていたことには、内心驚いたものだ。

また、それを空が見た瞬間、少しの間意識を虚げにしてからダインスレイヴが尋ねれば、蛍がアビスの使徒・激流とそのようなやりとりをしていた、と言っていた。双子だからこその奇妙な繋がりに感心していたダインスレイヴは、そこで、蛍とアビス教団の狙いを認識した。

ヒルチャール達を元に戻して、カーンルイア復興の礎にするのだと…。

なにしろ"国民"なくして"国家"とは呼べないのだから。

諦観したような表情を浮かべながらそう言葉を紡いだダインスレイヴに、そんなことが可能なのか、と空は尋ねてきた。

結論から言えば、そんな可能性は1パーセントもない。

それは、この呪いと共に500年過ごしてきたダインスレイヴが、誰よりも理解しているからこそ確証を持って言えることであった。

呪われたら最後、元には戻せない。

仮に強引に呪いを払おうとすれば、痛み以外に得られるものは何もないだろう。

それを聞いた空は、迷いを滲ませながらも覚悟を込めた瞳で、ダインスレイヴに同意した。

蛍を止める、と…。

その琥珀色の瞳と決意に満ちた眼差しは、蛍にとても似ていた。

正直に言えば、ダインスレイヴだけでも止める気ではいた。アビス教団のことはダインスレイヴのほうが熟知しているので、何かあっても多少の対策は取れるからだ。

しかし、空がいなければ、浄化装置を止められなかっただろう。現に、あの時は、呪いが無理やり浄化されてゆく痛みによって、情けないことに何もできなかったのだ。そんなダインスレイヴに代わって、装置を止めてくれたのだ。

それに、決して忘れてはならない者がもう一人…。

「ハールヴダン…。」

呟いたその名は、かつての同志の名だった。

その最期に、黒鎧の騎士の姿から人の姿を刹那の間に表した彼は、カーンルイア出身の証たる一等星の煌めきをはめ込んだような瞳で以って、ダインスレイヴに敬意の念を込めて見つめていた。

もう、自分以外に見ることは叶わなくなったその瞳を持つ者と邂逅できたこと、また、その刹那の奇跡に、自分らしからずひどく狼狽したものだ。

浄化装置をその身を犠牲にして止めてくれた同志は、カーンルイア滅亡寸前に出された命令を忠実に守っていた。

ここへ来るまでに見かけた破損した仮面が置いてある場所は、最期の時を過ごすヒルチャール達が消滅したことを意味すると同時に、黒鎧の騎士達が、ヒルチャール達をカーンルイアの民と認識して、最期まで守ろうとした場所である。

そのことを呪いに対して理性を以てして"あれは人間ではない"と言いかせてきたダインスレイヴが忘れかけていたことだった。

(…これでは、"末光の剣"の名折れだな…)

そう自嘲したダインスレイヴは、自身の右側へ視線を送る。それは、かつて共に旅をした蛍が、ダインスレイヴの横に並んで共に歩く時のの定位置でもあった。

仮面のような眼帯に覆われて見えづらいダインスレイヴの右側の視界を気遣っていた少女の姿はもうそこにはいない。

いつか、再び肩を並べる時が来るのだろうか。無論、あの旅人の少年も一緒に、だ。

だが、それはまだダインスレイヴにも分からない。しかし、そんな日が来るのを願ってしまうのは、高望みしすぎだろうか。

フッ
(………まさか、こんなことを俺が思うとはな…)

そんなことを思ってしまうのは、パイモンと空の影響なのだろうか。

それが何だか可笑しくて、微かに口元を緩めたダインスレイヴは、まだ装置による浄化の影響で痛む身体を揺らして、パイモンが言っいた"休暇"という自身に似つかわしくない言葉を思い出して、再び微笑するのであった。

アビス教団の最上階の部屋にて。

薄いレモンイエローに似た淡い色合いの金髪の少女、蛍は、自身の身体の左側へ何か気配を感じて、長い睫毛に彩られた琥珀色の大きな瞳をほんの僅かに見開いて振り返る。双子の兄、空とは対照的に白を基調とした旅人装束であるワンピースドレスの裾がその動きによってふわりと広がった。だが、当然ながら、そこには何も無く空虚であった。

アビスの詠唱者・紫電から聞いた話によれば、浄化装置による浄化の儀式は、ダインスレイヴと空、そして謎の黒鎧の騎士によって中断されたという。

スッ
「やっぱり邪魔をするんだね…。」
ギリッ

再び窓の外の景色へと振り返って、その淵にかけた手を握りしめる。ふつふつと込み上げてくる怒りと悔しさを必死に押し殺しているからだ。多少は想定していたことだが、それでも悔しい気持ちは抑えきれなかった。

"天理"への対抗。

そしてカーンルイアの"復興"。

どちらも蛍が果たさねばならない使命である。

しかし、"天理"への対抗に傾倒するあまりに、その大事な使命を忘れかけていた。

こんな優柔不断なままではいけないのだ。

既に深淵に飲み込まれてしまっているのは、何も"あの者たち"だけではない。蛍だって同じなのだ。

尊厳なく生きるより一刻も早く循環へと戻ったほうがいい。

これ以上、謂れのない罪を"あの者たち"に背負わせない為に…。

あの場に供えたインテイワットの花。

それと同じ花の髪飾りがある場所へそっと手を滑らせる。少しでも"あの者たち"が苦しまずにすむように、と手元にあった僅かばかりのものを添えたのだ。

しかし、それも失敗してしまった。

だが、装置の結果は充分に分かった。後は使うタイミングを悟られないようにすればいいだけだ。

しかし、それでも邪魔をするのであれば…

「例え、ダインでも、………空でも、容赦はしないよ。」

そう言葉を紡ぎながら見上げる蛍の眼差しには、覚悟の色が灯っていた。

双子の閃光星。
一等星。

決意の方向は違えども、着地点は同じはずだ。

今はまだ戸惑いや疑問、そして迷いによってその方向を見失っているだけだ。

いつか。

いつか、彼の者達が和解して、再び喜びを分かち合えるように見守るしかない。

-END-


あとがき

淵底に響くレクイエム…。

この物語は、インテイワットの花のくだりをはじめとして、双子ちゃんにフォーカスを当てながらも、ダインのことについても触れられたストーリーでしたね。彼の過去や新たな一面が垣間見れたことに、喜び…、よりも切なさが勝っていました…。

浄化を行っているムービーのハールヴダンの活躍のシーンには、見終わった後、涙腺崩壊してリアルに溢れて止まらない涙が止まるまで、何分間かうずくまってしまいました…。

また、最後のムービーでも、戸惑いと驚きに瞳を揺らして、ハールヴダンが消える直前の問いかけに、きょとんとした顔、そして寂しげな笑顔を浮かべたダイン…。その今までに見たことがなかった表情の数々に、あぁ、これこそが彼本来の性格から出た表情なんだな…、と思うとますます切なくなりました…。

空くん、蛍ちゃんの部分は、2人の名前や言い回しを変えれば逆の立場にして読め…るのですかね??←
(蛍ちゃんの場合、インテイワットのくだりがどうなるのか分からないので…)

ここまで読んで頂きありがとうございました!

おまけも用意しましたので、そちらもどうぞ!!


おまけ

閃光星達の戯れ

完全にシリアスブレイク
※あくまでも、弊ワットの双子ちゃんの設定です。

(まさか、双子の繋がりがこれほどまでとはな…)
「貴様達は、余程仲のいい兄妹なのだな。」

ダインスレイヴは、空にそう言葉を紡いだ。

「…そうでもないよ。昔は喧嘩もしょっちゅうしていたし。」

「…そうなのか?」

意外に思ったダインスレイヴは聞き返した。

「うん。

4の字固めとかさそり固めとかやったりやられたりしたなぁ…。」
サラリ

「えっ。」

「えっ?」

さらっという割にあまりにも衝撃は発言をした空に、ダインスレイヴは思わず声を漏らした。それにつられて、空も声を漏らした。

コホン
「…4の字、やら、さそり固め、とやらは分からないが、やったりやられたりしたのか?」

「うん、そうだよ。」
サラッ

「…………そうか。」

またもあっさりと返答する空に、ダインスレイヴはそれ以上深く考えるのをやめた。

しかし、やはり気になってどうやるのかを尋ねたダインスレイヴは、こうやって、こう!と勢いよく説明する空にますます衝撃に固まった。

その頃、蛍はくしゃみをしていたという。

-END-

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