騎士様、貴方は凄いんです…!!!
※酒場逸話"堅氷、酒に溶けやすし"の内容を若干含みますので、クリア後推奨です
空くんとアンバーでエウルアお姉様を褒めちぎる話です。めっちゃ短いです。
前々から、エウルアお姉様が登場するお話を書いてみたいと思っていたのですが、なかなか題材が浮かばぬ未熟者でして…
そこで、今回の酒場逸話でのエウルアお姉様が可愛すぎたので書いてみました!
また、同時にとても悲しげだったので、その気持ちも汲んで書きました…
・酒場逸話"堅氷、酒に溶けやすし"から数日後の設定
参考資料
・伝説任務 波沫の章
・イベント 白雪に潜みし影
・酌い交す酔夢 酒場逸話 堅氷、酒に溶けやすし
※初出 2022年3月15日 pixiv
鹿狩りにて。
「でね、こんなことがあってね。」
「そうだったのか…。」
オープンテラスで話しているのは、特徴的な赤いリボンを揺らす濃い色の茶髪の少女、アンバーと長い金髪を三つ編みにした旅人の少年、空だ。注文の品を食べ終わった後のか、空っぽになった皿が何枚もある。
そんな食後の談話を楽しむ2人の元へ早足で歩く者が1人…。
スタスタスタ
ストン
「サラ、テイクアウトで鳥肉と野生キノコの串焼きをちょうだい。」
「「エウルア!!」」
アンバーと空の座っていたテーブルへ座ったのは、白のメッシュが入った水色の髪を持つ波花騎士である麗人、エウルアであった。
サラに流れるように注文しながら座った際に、黒のレースのカチューシャと雪の結晶と花、そして薄氷色と群青色のリボンが合わさった独特な髪飾りが揺れた。アンバーと空が名前を呼ぶのを聞いて、顔を上げた。その表情はどこか焦っているように見える。
「は〜い! ありがとうございます!!」
「エウルアが来るなんて、もう任務は終わったの??」
「えぇ。終わって、次の任務に向けての物資調達も兼ねてよ。」
注文を聞いたサラが元気よく返事をするのを聞きながら、アンバーはエウルアへと尋ねた。どうやら、次の任務の準備中らしい。
「一体どうしたんだ??」
チラッ
チョイチョイ
ススス…
(どうしたんだよ?)
コソッ
(…この間のことは、全部忘れなさい)
空が尋ねた瞬間、チラリと横目で見ながら手招きをしたので側へと寄れば、空の耳元に手を添えながら、エウルアは小声で話した。
(この前、って酒場でのことか…)
バッ
(私も酔っていたのよ…)
スッ
どうやらバーテンダー体験ウィーク中のことを口止めしに来たようだ。パイモンの言う通りになった…、と思いながら、同じく小声で話した。すると、エウルアは空の口元へ人差し指を添えてひと言囁いた。どうやらそれ以上追求しないで、という現れらしい。言って満足したのか、指を離していった。
キョトン
「2人とも、どうしたの?? 内緒話??」
ギクッ
「な、何でもないわ。それより2人は何を話し合っていたの??」
アンバーが怪訝そうに聞けば、エウルアは話題を逸らすように言葉を紡いだ。
「あぁ。それは…。」
「エウルアの凄いところを話し合っていたんだ〜!!」
「………………へ??」
空を遮って放たれたアンバーの言葉に、たっぷり間を置いて、エウルアは間の抜けた声を発した。
「そうなんだよ。オレと初めて会った時もファデュイの攻撃から守ってくれた話とか…。」
「ちょ、ちょっと?!」
「そうそう! この間のドラゴンスパインの時だって、雪崩から私を咄嗟に庇ってくれたし!」
「あ、あれは反射神経よ!!」
呆けているうちに、空が語り始めたので止めようとする。だが、次にアンバーが語り出すのでまたも慌てて反論する。
「そうかなぁ? あの後、旅人の腕も引いてくれてたし…。」
「そうそう! それに、あの後、偽物のアルベドの攻撃からオレを守ってくれたし…。」
「ちょ、ちょっと君たち!!」
ガタッ
まだまだ語り足りない、と言わんばかりに止まらないアンバーと空に、耐え切れなくなったのかエウルアは立ち上がって…
「も、もう…、そこまでにしなさい……。」
カァァァ…
新雪のように真っ白な肌を真っ赤に染めながら、静止を呼びかけた。余程照れているのか、だんだんと声が小さくなっていく。
「えへへ〜。エウルア、照れてるんでしょ〜?」
ニコニコ
「て、照れてない!!」
そんなエウルアの様子を満足そうに笑いながらアンバーが言えば、またも反論した。しかし、真っ赤に染まった顔では照れ隠しにしか見えない。
「ほら、言っただろ?
風向きは変わるもの、って。」
「!!」
空の言葉に、エウルアは驚きに目を見開いた。それは、今のエウルアに対しても、そして、あの日の酔ってつい本音を漏らしたエウルアに対しても答えているみたいだった。
「少なくとも、俺たちはそうだし、きっとベネットやアルベドもそうだよ。」
それな、きっとドラゴンスパインで行われた冒険者教会での冬季訓練のことだろう。
新人冒険者の引率は不慣れと言っていたが、ベネットは褒めていたし、偽物のアルベドが行った危険なことに対してアルベドに咎めていた。それについては、根底にあるエウルアの優しさの現れでもあるので、アルベドは気にしていないだろう。むしろその優しさに対して感銘を受けたはずだ。
そう感じ取ったことを空は伝えた。
その顔はとても穏やかに微笑んでいて、その表情だけで、心からそう思っているのが伝わってくる…。
ハッ
「こ、この恨み! 君たちの分まとめて覚えておくから!!」
「うん。分かったよ。」
「あちゃあ〜、また増えちゃったな〜。」
「ふんっ。」
我に返ったエウルアは、顎を向かって右側へと上げて両手を腰に当てている。何かを認めたくない時の彼女の癖である。それを熟知している2人は、お決まりのセリフを聞いて返事をしながらもその顔は微笑ましいものを見るように穏やかだった。
スッ
(きっと、君のそんなところに、皆惹かれるのね…)
体勢を直しながら、エウルアは微笑んでいる空を見つめる。
酒場でふと溢した本音…。
それは皆の空に対する評価についてのことだった。
空が関わった者は皆、空の話をする時に、その言葉の端々に憧れが見えて、嬉しそうに皆微笑んでいる…。目の前に居るアンバーだってそうだ。それでね!とまたも話し出すアンバーに何だ?と興味津々に聞こうとしている。
空は肩書きではなく1人1人のことに向き合って寄り添う。そして、真剣に取り組む姿勢を崩さない。それは、エウルアも重々承知している。だからこそ、自分自身も空のそんなところに惹かれると同時に羨ましくもあるのだ。あの日、酔いが覚めてから机に書き残していたメモがそれを何より物語っていた。
俺たち以外にも、皆がエウルアを認める日が来る。
風向きは変わるもの。
そう投げかけられた言葉…。それは紛れもなくエウルア自身にかけられた言葉だ。
"ローレンス家"でも"旧貴族"でもなくただ1人の"エウルア"に対して…。
(きっと、私が変えてみせるわ)
空だけでなくパイモンも言っていたローレンス家のイメージを変える…。その言葉に、改めて誓いを立てるエウルアであった。
その後、サラから鳥肉と野生キノコの串焼きを受け取りながら、もしまだ今度エウルアが悪く言われるようであれば、2人がその都度いいところを言う、と言い出したのでエウルアは全力で止めたという。
-END-
あとがき兼補足説明
個人的に、エウルアお姉様は、例の"この恨み、覚えておくから!!"のセリフやつっけんどんな言動で誤解されがちですが、随所のムービーを見ている限り咄嗟の行動で守ってくれるところに、やっぱり優しい方だと思うんです…! 緊急時になるほど、人間は咄嗟に出る行動に本質が現れますから、そこで庇う行動ができるエウルアお姉様に心底惚れているので、その部分を褒め称えたくて書き連ねました!