玉衡様、どうぞ、こちらにおいでませ

幼馴染4人に声をかけようか悩む刻晴ちゃんのお話です。

海灯祭期間中の璃月各地に配置されたキャラにちなんだお話です。

参考資料

・璃月各地に配置されたキャラ
・海灯祭2023記念ミニキャライラスト
刻晴ちゃん&胡桃Ver.
・【原神】ストーリームービー「世にある至味」 幼馴染4人の幼い時の姿

糖葫芦(タンフールー)の作り方


※初出 2023年1月30日 pixiv


璃月港の埠頭。

そこへと続く道の少し逸れた場所にて。

(ここは、勇気を出して…! でも、やっぱり場の雰囲気を壊しちゃいそうだわ…)

階段を降りた場所で、立ち往生しながら一喜一憂するように葛藤しているのは、薄紫から水色のグラデーションを織りなす髪色をお団子が連なるようなツインテールという特徴的な髪型をした少女、刻晴である。

いつもは意志の強さが現れている薄い紅色の目張りに彩られた菖蒲色の瞳が、今は困惑気味に揺れている。璃月七星の"玉衡"としての彼女の姿を知る者であれば、今の姿を見れば何事か、と動揺することであろう。

そんな刻晴がそのような状態になっているのは、目の前の光景が原因であった。

紺色の髪を特徴的な三つ編みにまとめて暖色と動きやすさを兼ね備えた装いの少女、香菱。

アシンメトリーに切り揃えられた紺色の髪と少し暗めの紺青色の装いが特徴的な少年、行秋。

ところどころツンツンと跳ねた氷雪に似た髪色に方士たる服装に身を包んだ少年、重雲。

梅の花飾りが付いた帽子を被って、薄焦茶色にグラデーションがかった髪をツインテールをした堂主の少女、胡桃。

この4人が談笑し合っているのが視界に映ったからだ。

最初は香菱の姿を見かけたので、思わず反射的に右手を上げながら、声をかけようとした。だが、行秋、重雲、胡桃と楽しく話し合っているのを見て、その勢いは止まって右手も下ろしてしまった。

他の3人とは、別に、刻晴と知り合いじゃない、というわけではない。だが、以前香菱から皆、小さい時からの付き合いがあった、その話を聞いたのを思い出した刻晴は、少々尻込みしているのである。

小さい時からの付き合いがある4人に比べて、まだ知り合ってからはそこそこの付き合いであるの関係(と刻晴が思い込んでいるだけである)の刻晴が入り込むのは、もしかしたら失礼になるのではないか…。

そんな懸念があったのだ。

しかし、本音を言えば、あの場の中に混ざってみたい、という気持ちもあるのも確かだ。

(でも、やっぱり私が輪の中に入り込むなんて…)

だが、やはり場の雰囲気を自分が壊してしまいそうであり、そんなことは決してあってはならない、という葛藤が現れた結果、現在の刻晴の行動に現れてしまっているのである。

しかし、それは、刻晴が仕事での人との付き合いは慣れては居るが、友達との付き合い方に慣れていないが故の杞憂であった。仕事の向き合い方を見直した刻晴に、今度は、友達との距離感をどうしたらいいのか、という課題がのしかかっているようだ。

普通の人からしてみれば、海灯祭の時期に仕事…?と思うかもしれないが、璃月七星の"玉衡"という立場上、仕方ないことではあるし、これでもマシになったほうである。

現に、この場にいるのも、海灯音楽祭の手配などの仕事がひと段落ついたので、休暇の一環として散歩に来たからである。それは、去年の働き詰めの状態を知る者であれば思わず目を瞬かせてしまうほどであろう。

そんな刻晴は、葛藤することに集中していたせいか、そばへと寄って来た人影に気付かなかった…。

「あれ? 刻晴、どうしたの??」

ビックゥ!!!
「きゃっ!? た、旅人??!!」

後ろから声をかけて来たのは、長い金髪を三つ編みにした少年、空である。絶賛葛藤中だった刻晴は、驚きに身体を揺らして盛大に声を上げてしまう。

「え、ごめん! そんなに驚くとは思わなくて…。」

「いいのよ。私も考え事をしていたから…。」

刻晴の予想以上の驚きっぷりに、つられて驚いた空は謝罪をした。そんな空に、気にしないで欲しい、ということを伝えようとすると…

タッタッタッ
「どうしたの?! 何かあったの??!」

駆け足と共に鈴の音を鳴らしながらこちらへ来たのは、香菱であった。

(香菱?!)

「どうしてここに??」
(ま、まさか、こっそり様子を伺っていたのがバレたのかしら…)

思いもよらない人物の登場に、先程とは違う驚きをしながら、刻晴は冷や汗を掻いた。何故なら、葛藤している最中、はたからみれば陰で見ているような行動をしていたように見えたこと、それがバレてしまったのではないかと思ったからだ。

「何だか悲鳴が聞こえたから、見てみたら刻晴と旅人がいるから何かあったのかな、って思って、様子を見に来たんだよ。」

パッ
(そんなに大きな声、出てたのかしら…)

香菱の言葉に、どうやらこっそり見ていたことは気付かれていないことに安堵すると同時に、自分で思っていた以上に大きな声を出していたことに気付いて、反射的に口元を両手で覆った。

「俺が後ろから声をかけたからなんだ。刻晴、改めて謝るけど、ごめん…。」
シュン…

ハッ
パッ
「旅人は悪くないわ。私も必要以上に驚いただけだから。そんなに謝らないで。」

落ち込んでいる様子の空に、慌てた刻晴は口元から両手を外して先程言いかけていた気にしないで欲しい、という気持ちを込めた言葉を紡いだ。

ホッ
「なら、良かったよ。」

ホッ
「そういうことなら、良かったぁ。」

キョロ…
(そういえば、もうこんなに時間が経ってたのね…)

安心に息を吐く空と香菱を見ながら、ふと辺りを見渡せば、すっかり陽が落ちていることに気付いた。どうやら葛藤している間にいつの間にか結構な時間が経っていたらしい。

(! そうだわ!!)

次第に辺りが暗くなっていくと同時に、街や港に明かりが灯っていくのを見た刻晴は、来る途中で見てきたあるものを思い出した。

「あの、香菱。もし良かったら…。」

思いついたことを提案しようと、刻晴が言葉を紡ごうとした瞬間…

「あれれ〜? 何が面白い話でもしているの〜??」
スゥッ

刻晴の後ろから、胡桃が声をかけてきた。

「きゃあっ!?」

「うわっ!?」

「わっ、胡桃?! いつの間に?!!」

気配が全く無かった胡桃の突然の登場に、刻晴、空、香菱は盛大に驚いた。

「香菱がなかなか帰って来ないから様子を見に来たんだよ〜。そしたら、旅人と玉衡がいるから何事かと思ってさ〜。」

最早、驚かせるプロフェッショナルと化している胡桃の登場は、先程、空が後ろから声をかけて来た時とは比べ物にならないくらいに心臓が飛び跳ねる感覚に陥る。現に、ニヤニヤとした笑顔を浮かべる胡桃の様子は、確信犯めいたものが感じられた。

タタタッ
「どうしたんだい?」

タタタッ
「何事だ??」

そんな未だにニヤニヤとした笑みを浮かべる胡桃が言い終わると同時に、心配した行秋、重雲も駆け寄ってきた。

「あ、皆、集まって来たね。何を話していたの?」

「折角皆で集まったから、何するか話し合ってたんだよ! 」

「でも、すっかり陽が暮れちゃったね〜。私、小腹が空いて来たよ〜。」

(!! チャンスだわ!!)

勢揃いした一同に、空が疑問符を投げかけると、パッ、と笑顔を浮かべた香菱とニヤニヤした笑みを引っ込めた胡桃が話し始めた。そして、胡桃が発した言葉にいち早く反応した刻晴は、チャンスだと言わんばかりに勢いに乗って喋り出した。

「わ、私、美味しい飴とか甘味とかを売っている屋台を見つけたの!! 皆が良ければ、一緒にどうかしら…?」

一気に話してしまった。いい提案だと思ったのだが、皆の反応が薄い、ような気がする。

(やっぱり迷惑だったかしら…?)

不安になった刻晴はうつむいてしまう。だが…

パシッ
(えっ?)
パッ

「刻晴…。

それ、すっごくいいよ…!!」
キラキラキラキラ

うつむいてしまった刻晴の両手を包み込んだ手の持ち主を確認しようと顔を上げれば、いつも以上に目を輝かせた香菱が興奮気味に言葉を紡いだ。

「そ、そうかしら…??」

スッ
「うんうん! いいねいいね! 私もね、おやつ以上夕食未満のいい具合のものが食べたい気分だったんだよ…!!」

あまりの勢いに困惑する刻晴の右肩に、左手を置いた胡桃は、何度も頷くような仕草をしながら言葉を紡いだ。

「それ、結局甘味じゃないのか??」

「細かいことは気にしない方がいいよ、重雲。それに、もしかしたら君が事あるごとにアイスを食べているのを見たから、胡桃も食べたくなったんじゃない?」

「なっ! 僕のアイスは必要なものだから、食べているんだ!! 行秋もそれは知っているだろう?!」

「はははっ。うん、分かってるよ。ほんの冗談さ。」

胡桃の言葉にツッコミをいれる重雲に対して、行秋はからかうように茶化した。それに対して重雲が盛大に反応するので、ますます行秋は笑うのだった。

パッ
「そうと決まれば早速行こう〜!!」
バッ

刻晴の肩から左手を離した胡桃は、勢いよく駆け出していく。

「ちょっ、胡桃!? 場所は分かるの!??」

ピタッ
「ううん、分からないよ!!

だけど、関係ない…。

甘味が私を呼んでいるならそれに従うまで〜!!」
ダダダッ

「それって結局、直感ってことじゃ…、って行っちゃった…。」

慌てて刻晴が声をかけるが、少し止まってキメ顔で言葉を紡いでから、再び胡桃は駆け出してしまった。香菱も言葉をかけるが、完全なるノンストップ状態である。

その証拠に"ひゃっほ〜!"と言いながら、時折輝く蝶と共に刹那に姿を消しながら駆けていっているので、いつも以上にテンションが高いことが分かった。

「しょうがない…。胡桃は僕達が追いかけるから、先に行くよ。重雲も来てよ!」
グイッ
タッ

グイッ
「って、ボクも行くのか?! ちょ、行秋!! 走るから袖を引っ張らないでくれ!!」
ダダッ

いち早く状況を判断した行秋は、重雲の袖を引っ張りながら駆け出した。それに、驚きながらも重雲はつられるように慌てて走り出した。

パッ
「うん、分かった!! 刻晴! 早く行こっ!! でないと胡桃が迷子になっちゃうよ!!」

「え、えぇ。でも、旅人は…。」
チラッ

手を離して行秋と重雲に声をかけた香菱は、胡桃が気になる為か、少し慌てた様子で刻晴に促す。それに、自分の提案によって、あまりにも状況が急展開なことになってしまい呆気に取られていた刻晴は、空のことを気にしながら慌てて返事をする。

「俺は、もう少しこの辺りを見て周りたいからいいよ。楽しんできて。」
(璃月港以外とか、な…)

一方、空はまだやりたいこと(璃月各地にいるであろう仲間達の今年の位置が知りたい)があるので、断った。

「わ、分かったわ。」

「刻晴〜!! 早く早く〜!!」

「! 今、行くわ!!」
タッ

返答した刻晴は、香菱の声に反射的に駆け出していた。当初の予定よりだいぶ慌ただしくなってしまったが、結果として4人の輪の中に入れたことに、喜びに満ち溢れていた。

小さな時から勉強することばかりで、こんな風に友達と遊んだりすることは、去年の海灯祭の時までは無かったことなので、改めて感じる心地よさに、刻晴は酔いしれていた。

(思い切って誘って、良かったわ…)

香菱に追いつくように駆けながら、刻晴は嬉しさのあまりに、ほんの少しだけ笑みを浮かべるのだった。

それは、海灯祭の時期、夜空に灯されて宙へと浮かび上がる霄灯のように温かなものであった。

(楽しそうだな…って、あれ?)

見送るように手を振る空がふと見てみると視界に一瞬だけ幼い姿の5人が映ったような気がした。

ゴシゴシ
パッ
(………気のせいか…)
スッ

振っていた手を下ろして目を擦ってから再び見てみる。すると、いつもの5人の姿が目に入った。

今しがた見た光景に少し驚くが、そもそも、幼い時の5人に会ったことがないしありえないことなので、特に気にしないことにした。そして、他の仲間達が居そうな場所を探す為に、歩き出すのだった。

海灯祭。

それは、新年を祝う為に皆が集いし祭典。

そこには、皆の浮かべる笑顔がまるで霄灯のように温かなもので満ち溢れているのであった。

その後、刻晴、香菱、行秋、重雲、胡桃が糖葫芦(タンフールー)を(重雲は十分に冷めているのを確認してから慎重に)食べている姿があったという。

-END-


あとがき

友達が他の友達と楽しそうにしていると、その中に入っていいか悩むよね………と思いついたお話でした!

特に、刻晴ちゃんとかめっちゃ悩む&気を遣いそうだな…、と思っていたら筆が進んでいました!

それとイベントストーリーの甘雨との会話から、去年と比べて刻晴ちゃんが休みながら仕事をしていることが分かったことにも嬉しさを感じて書きました!

適度に休んでいるようで良かったよ、刻晴ちゃん…!!

ここまで読んで頂きありがとうございます!!

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