あまいほしくず
ある日の不卜盧。
お客さんから貰った金平糖の瓶がなかなか開けられない白朮先生と七七。
それを開けてあげる兄属性全開の空くんの話です。
超短い、ほのぼの、会話文多め、捏造も多め、です_〆(・ω・ )
書いた当時は、まだ七七をお迎え出来ていなかったので、その祈願の意味も込めての短編です。
※七七の味覚については、お迎え前だった為、キャラストーリーを読む前の自己解釈の扱いでお願いします(^◇^;)
※書いた当時は、稲妻実装前だった為、多少齟齬があると思いますが、ご了承ください…。
※初出 2020年11月30日 pixiv
不卜盧。
玉京台の正反対の場所に位置するそこは璃月でも有名な薬舗である。長い階段を登り切ると、そこにはまるでサザエの貝殻のような独特な屋根の造形をした建物が鎮座する。入口はまるで来るもの拒まず、と言っているかのように簾が上げられて開放的になっている店内が処方箋を片手に持つ患者を出迎える。中から漂う薬草の香りが鼻腔をくすぐり棚には所狭しと整理の行き届いた薬草達が並べられている。優れた医学者、白朮が店主を務めるここはよく効くことで有名である。また良薬口に苦しの言葉に違わずよく効いても苦い薬にぐずる子供も多いとか。
これはそんな不卜盧のとある出来事である。
「おーい。薬草をくれ〜、ってあれ? あそこに居るのは七七じゃないか⁇」
「う〜ん、なかなか開かないですねぇ…。」
「白先生でも…難しい…⁇」
空とパイモンは薬草を買いに来ていた。主に販売しているのは清心、馬尾、ハスの花托。採取でも取れる薬草ばかりだが、まとまった数が売られているので重宝しており、探索の合間に立ち寄ることも多い。しかし、いつもの不卜盧とは少し違う様子に2人して首を傾げる。そこにはカウンターから出て何かをしている様子の白朮と七七が居た。何やら取り込み中のようだ。
「お〜い。そんなところで何してるんだ?」
「おや。これは旅人さんとパイモンさん。いつも薬草のご購入、ありがとうございます。」
「…いらっしゃい。」
「どうかしたんですか⁇」
「実は、以前来たお客様から少々珍しい品を頂きましてね。」
空達に気付いた白朮はにこやかに、七七は囁くように来店の挨拶をして2人を迎えた。相変わらず白朮の首元には喋る白蛇、長生がとぐろを巻いていたが、視線が合った瞬間、そっぽを向いた。"お前達と話す気分じゃない"と言わんばかりの態度なので、空気を読んでそれ以上口を挟まないようにした。
改めて視線を白朮に戻した空は疑問を投げかけた。それに疑問に答えるように白朮は手にしていた瓶を見せた。瓶の中には色とりどりのトゲトゲした突起がついたものだった。揺らすたびに、瓶の中でころころと転がる。そのうち物欲しそうに見つめる七七の視線に気付いたのか瓶を手渡した。瓶に顔を近づけてじっと見つめる姿は心なしかいつもよりも表情豊かに見えた。
「何だぁ、これ⁇」
「不思議な形ですね。」
「金平糖と言うお菓子だそうです。以前、稲妻から来たお客様から七七へのお土産として頂いたものを保管していたのですが、いざ開けようとすると瓶の蓋が固くてなかなか開かなくて困っていたところです。」
「金平糖…。食べてみたい…。」
「へぇ…。稲妻のお菓子。また独特なものですね…。」
「お菓子⁉︎ オイラにも1個くれないか⁉︎」
「…ダメ。」
サッ
稲妻独自の文化に感心しているとお菓子と聞いて真っ先にパイモンが反応した。取られると思ったのか、拒否の言葉に言いながら七七は瓶を後ろに隠した。僅かだか、やや眉根が寄っているように見える。
「コラ、パイモン。七七ちゃんが貰ったんだから駄目だろ。」
「ちぇ〜、けちんぼ‼︎」
「白朮さん、俺が開けてみてもいいですか?」
「えぇ。構いませんよ。」
パイモンを嗜めながら白朮に許可を取る。納得がいかないように憤慨するパイモンを尻目に、承諾を得た空はしゃがんで七七に目線を合わせた。
「七七ちゃん。ちょっとそれを借りてもいいかな?」
「………。」
サッ
なるべく優しげな声で話しかける。一方、七七は先程のパイモンの言動の影響か正面に持ち直していた瓶を再び後ろに隠した。
「大丈夫。取ったりしないよ。」
それに臆することなく笑顔で再度話しかけた。空の言葉に金平糖を取る気配がない事を察したのか、七七は瓶と空を交互に見つめる。
「……分かった。…お願い。」
スッ
「ありがとう。」
何度か繰り返した後に、決心が着いたのかおずおずと瓶を渡した。その瞳には不安と期待が入り混じっているように見える。瓶を受けとった空はお礼を言うと瞳を閉じて集中した。そして…
「ふっ‼︎」
パカッ
「!」
「はい、七七ちゃん。」
「…ありがとう。」
「どういたしまして。」
掛け声と同時に瓶の蓋はあっさりと開いた。驚きに多少瞳を見開いた七七の手元へ瓶を返した。瓶を見つめて蓋が開いているのを再確認した七七はお礼を言った。
「流石は旅人さん。なかなか器用ですね。」
「パイモンとかによく蓋開けを頼まれるので。」
「えへへへ。というか、瓶くらい開けられないのかよ⁇」
「いやはや。痛いところをつきますね。生憎と力仕事は不得手でしてね。」
「すいません、白朮さん。パイモン、失礼だぞ。それに、この瓶、結構固かったぞ。」
「うぇえ⁉︎ オイラが悪い流れか、これ⁇」
「…白先生、食べていい?」
「えぇ。いいですよ。」
「…いただきます。」
三者の押し問答をしてる間、そわそわと落ち着かないようにしていた七七はようやく白朮に許可を切り出した。承諾を得たのを確認した七七は、瓶からそっと水色の金平糖を取り出した。角度を変えながら物珍しげに見つめている。その瞳はますます輝きを増している。ようやく決心がついたのか、金平糖をそっと小さな口へ運んだ。瞬間…
「‼︎‼︎」
パァァァ
あまりの美味しさにさらに瞳を輝かせている。心なしか頬が紅潮しており、雪のような白い肌によく映える。金平糖を頬張ったほっぺたを両手で押さえて、足をその場でパタパタとステップを踏んでいる。しまいには軽くジャンプをし始める。その度に後ろに括った三つ編みがしっぽのように揺れて、同時におでこと後頭部に貼られたお札もカサリ、カサリと音を立てながら揺れる。普段表情の乏しい七七の全身で喜びを表現する珍しい姿に空の頬も自然と緩む。
ようやく食べ終わった七七は今度は懐からノートを取り出した。慌てて近くの机に置いて夢中で書き出す。もちろん金平糖の瓶もちゃんと近くに置いている。座る手間も惜しいのか、少し高い位置のテーブルに対して少し爪先立ちになって一心不乱にノートに書いている。ようやく書き終わったのかとてとて、と不思議とそんな擬音がしてくるような足取りで空に駆け寄り今しがた書いたページを見せた。
『 こんぺいとう あまあま きらきら びん 旅人 開けてくれた 』
「忘れないように、ちゃんと、書いた。」
「うん、偉いね。」
「良かったですね、七七。」
ナデナデ
コクン
「……うん。」
嬉しそうにノートを見せてくれる七七の姿にその場は微笑ましい雰囲気に包まれる。そんな七七の頭を撫でる白朮とはにかみながら頷いている七七、2人の姿はまるで父娘みたいで空もパイモンも顔を見合わせて見守る。
不卜盧のとある1日はこうして過ぎて行った。
-END-
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