灯る蛍火、流れゆく空

海灯祭にてお互いを想い合いセンチメンタルになる双子ちゃん達のお話です。

ベタな展開&何番煎じ感ありますが、最近のPVなどの双子ちゃんムーブにエモさが爆発した結果、この話が生まれました…

参考資料
・オープニングムービー
・双子ストーリームービー
・Ver.1.3PV
・世界任務 枝を拾う者・ダインスレイヴ

特に世界任務の内容がちらほらとあります。ネタバレにはならない程度だと思いますが、気になる方は避けてください。


※初出 2021年2月25日 pixiv


ワンクッション

・捏造、自己解釈だらけ(空くんの髪が長い理由、双子ちゃん達の幼少期、蛍ちゃんの口調や置かれている状況、アビスの魔術師の生態など)
・キャラの見た目や色の描写、服装等の語彙力乏しい(今更)
・参考にしたPVの台詞やシーンの一部引用箇所あり
・エキストラ出演として
海灯祭を楽しむ幼い兄妹
気弱なアビスの魔術師(カタカナ喋り)
が出てきます

それでもよろしければどうぞ↓


海灯祭。

それは璃月で新年を迎えて最初の満月の夜に開かれるお祭りである。英雄を祀り夜空へ放たれる霄灯と明霄の灯が英雄の魂を故郷へと導くと信じる人々の手により暗闇を照らす灯りはとても温かで優しいものを感じられる。普段から活気づいた街は祭りの飾りつけで彩られると同時に様々な屋台が立ち並びますます賑わいを見せる。夜になれば人々の願いを載せた霄灯が空へと舞い上がって普段より明るい夜の璃月の街を照らしていく。

そんな璃月でも盛大なお祭りである海灯祭を訪れる者達が居た。黒を基調とした異国の装いをした旅人の少年、空は祭りの飾りつけで彩られて普段と違う雰囲気を醸し出す街並みを物珍しげに瞳を輝かせて歩いていた。その隣で、屋台の食べ物を頬張りながら浮遊する不思議な生き物、パイモンを街並みから視線を移して呆れを含んだ眼差しを向けた。

「やっぱり璃月の料理は美味しいなぁ〜…。」
もぐもぐ

「パイモン、いくらなんでも食べ過ぎじゃないか?」

「大丈夫だ! オイラの胃袋は底なしだからな!!」
もぐドヤァ

「ほどほどにな。」

「おぅ!!」
もぐもぐ

半ば心配を込めて指摘すれば、咀嚼しながらドヤ顔をした。確かにパイモンの言葉にも同意せざるを得ない。普段から美味しいと感じる璃月の料理はお祭りの雰囲気と相まっていつもの何倍も美味しく感じる。それに屋台を出す人達が張り切って出しているものも多い。それが相乗効果となっているのだろう。

「おっ! あっちにも美味しそうな料理がありそうな予感がするぞ!!」
ビュンッ

「ちょっと、パイモン!! あんまり離れるな…ってもう居ない…。」

まだ屋台料理を抱えながら、目にも止まらぬ速さで幻想の翼を動かしてパイモンは去っていった。去った後には星座に似た鱗粉の残滓が辺りを漂ってあまりにも美味しそうにするパイモンの様子に料理のレパートリーに加えようと考えている。あまりにも美味しそうにするパイモンの様子に料理のレパートリーに加えようと考える。

(今度作ってみるか…)

色とりどりの垂れ幕の束を見ようと視線を上に移せば夜空に浮かぶ霄灯が視界を捉える。それがまるで蛍火のように見えたせいか、頭をよぎったものにぽつりと言葉をこぼした。

「蛍…。」

無意識のうちに出た双子の妹の名前。見かけぬ旅人の少年の言葉を気に留める者は無くその呟きは祭りの喧騒に掻き消されていく。

(一体どこに居るんだ…)

コツン
「ん?」

蛍の所在と安否を気にし始めるが、足に何か軽い物が当たる感触に視線を落とす。見るとそこには霄灯が転がっていた。ようやく作り方に慣れて海灯祭に伴って来る依頼により様々な場所で作ったりそれを渡したりして見慣れてきた物だ。どこからか転がってきたそれに疑問符を浮かべていると…

「わたしの霄灯、ここにあった〜!!」
たたたっ

「え?」
(この声、どこかで…)

聞き覚えがあるような、ないような、そんな声とこちらに向かって走ってくる音に振り返れば、幼い少女が息を切らせて空のそばに立ち止まった。先程の言葉から察するに、恐らくは空の足元にある霄灯の持ち主なのだろう。視線を合わせるためにしゃがみ込んで少女に尋ねた。

「これ、君の?」

「うん!」

「ちょっと俺の足が触っちゃったけど、壊れてないよ。」

「ありがとう!! お兄ちゃん!!」

空の足に当たりはしたが軽くであった為、損傷した形跡は無い。それを確認して霄灯を渡せば笑顔で答える幼い少女の声に微笑ましさと既視感を覚えてつられて笑みを浮かべる。すると遠くからまたしても声が聞こえてきた。今度は幼い、だが目の前の少女よりいくらか歳上の少年の声だ。

「お〜い! どこに居るんだ?」

「あ! おにいちゃん!!」
たたたっ

「危ないから急に走り出すなよ! 」

「うん、ごめんなさい…。」

「分かったらいいよ。」

駆け寄って少年はどうやら少女の兄らしい。少女を見つけた少年は、少しきつい口調で少女を注意するが、そこには怒りは感じない。むしろ心配だからつい強い口調になっただけだ。その気持ちはよく分かる。しょんぼりする少女に今度は優しく声をかける姿にも、同意の気持ちを感じていれば、少年はこちらに訝しげな視線を向けてきた。

「ところで、この人は?」

「このお兄ちゃんがわたしの霄灯を拾ってくれたの!!」

「そうだったのか…。妹の霄灯を拾ってくれてありがとうございます。」
ぺこり

事情を聞いた少年は、少し申し訳なさそうに頭を下げてお礼を言った。しかし、無理はないだろう。この辺りでは見慣れぬ人物が妹に声をかけていれば、警戒するに決まっている。自分だって立場が逆であれば同じことをしたはずだ。気にしていないのを感じさせるように笑顔を浮かべて返事をする。

にこっ
「どういたしまして。君達は兄妹なの?」

「はい。」

「うん!!」

「そっか。海灯祭、楽しんでね。」

「ありがとうございます。ほら、行くぞ。」

「うん!! お兄ちゃんも楽しんでね〜!!」
たったったっ

兄に手を引かれながら歩き出す妹、妹の元気な返事を聞きながら、返事が代わりに手を振って送り出す。その仲睦まじく微笑ましい姿に笑みを深めるが同時に胸に痛みを感じた。ようやく姿が見えなくなったところで立ち上がり再び夜空へと視線を移した。

(あの子の声、蛍に似てた…)

流れゆく霄灯を見つめながら先程の幼い少女の声を思い出す。何故ならば、蛍がここに居るのでは、と錯覚して一瞬足を止めてしまうほどに少女の声は蛍によく似ていたのだ。鈴を転がすような無邪気な声。しかし…。

(でも、今……俺……)

一瞬、浮かんだ考えを振り切るようにして、首を横に振り長い三つ編みを揺らしながら人混みの波に逆らって駆け出した。

「お〜い! これも美味しいぞ〜!!ってあれ??」
キョロキョロ

ようやくお目当ての屋台から料理を買えた(空からお祭りの費用として少しばかりモラを貰っていたのだ)のかご満悦気味のパイモンは、辺りを見渡すが、見慣れた長い金髪の三つ編みの姿が無いことに焦りとほんの少しの怒りを覚えた。

「あいつ、どこほっつき歩いているんだ!!」
プンプン

しかし、その焦りもすぐに消える。何故なら、こんなこともあろうかとあらかじめ3箇所の場所を集合地点の候補として決めておいたのだ。ひとつは人目につきやすい屋台の前。しかし、見渡したところ空が居る気配がないので除外だ。次に今回の海灯祭の名物のひとつである機関棋譚の周辺だ。しかし、周りで楽しむ人々の中にそれらしき姿は無い。設計人である瑞錦にも空が来ていないかを尋ねてみれば、今日は来ていない、と返事を貰う。毎日のように通うせいでパイモンまで覚えられたのだ。楽しそうに行う空に設計人として好感を覚えたのか、残念そうな様子の瑞錦にお礼を言って立ち去る。また来てね、と後ろから聞こえる声に振り返って手を振り返して、待ち合わせ場所に決めていた最後の場所へと向かう。残る場所は…

場所は変わって天衡山。中でも玉京台から璃月の街並みを一望できるこの位置からは霄灯が絶えず夜空に舞い上がる様が堪能できる。海灯祭で祀られている仙人、『移霄導天真君』のモニュメントも見られる。ここから見るだけでもその大きさが分かるほどに大きく立派なものだ。適当な場所へ腰を下ろせば、深いため息をついた。その琥珀色の瞳は、先程街並みを見て輝かせていた時とは打って変わって暗く沈んでいる。

(俺には、この祭りは眩し過ぎる…)

その理由は明白であった。海灯祭は家族と過ごす大事な時期でもあると聞いた。街中で聞けば仕事の都合で家族の元に行けない人達も居るが、それでも彼らにはちゃんと帰る家と待つ家族が居てくれる。しかし、それを聞いているだけでも空のぽっかりと空いた心の隙間を刺激するには充分だった。

(蛍に会いたいな…)

まだ旅を始めて間もないとは言えあまりにも少なすぎる手がかりに辟易する日々だ。モンドの西風騎士団や璃月の七星や千岩軍にも手伝って貰い尋ね人として貼り紙を出してもらっているが、未だに確かな情報は掴めずにいる。張り紙には決まって"行方不明になった少女を探している。金髪、異国の服装をしている、とても目立つ。"と言う一文を頼んでいるが、それだけでは足りないと感じている。しかし、分かりやすく、かつ簡潔に特徴を分かるようにする為に仕方なくそう書くように頼んでいるのだ。本当は伝えたい姿を思い浮かべていく。 

ひとことに金髪と言っても薄いレモンイエローに近い淡い色合いをしている。長い三つ編みにしている自分とは正反対に、蛍はショートヘアーでもみあげ部分の髪が少し長い。撫でれば指の間を通り抜けるほどにさらさらとした心地良さを感じたものだ。それを蛍はくすぐったそうに笑いながら撫でられていたので、それが嬉しくてつい撫でる時間が長くなったものだ。向かって左、つまり右側の髪には二輪の花が挿してある。白い花だが花弁の1枚が水色をしている蛍が好きな花だ。

ふと蛍が花を挿している場所へ手を置く。当然ながらそこに花は存在しない。しかし、長く伸びた自分の髪を嬉しそうに三つ編みにする蛍の姿を思い出したのだ。まだ小さい頃は、蛍と変わらないくらいの短い髪であったが、少し伸びてきた時に、蛍が遊び半分で髪を嬉しそうに結わえたのが伸ばすきっかけになった。

最初は結わえるなんてまるで女の子がするみたいで恥ずかしかったが、"お兄ちゃんの髪、柔らかくてふわふわだね"とまるで自分のことのように喜ぶ蛍の笑顔がもっと見たくて伸ばしたのだ。色々な髪型を試していたり、手入れをしてくれたりもした。

ある時、蛍は伸ばさないのか、と聞いたことがあった。そうすれば自分で自分の髪を自由にいじれるのではないか。そういう意図で聞いてみれば、"自分の髪じゃなくてお兄ちゃんの髪だからいじりたい"と少し不満げに言ったりしていたのを思い出す。しかし、もう随分とこの伸びた髪は自分以外の人には弄られていない。唯一出来るこの三つ編みがいつの間にか定着してしまった。

左耳には自分と同じくピアスをしているが小鳥の羽根のような軽やかなものだ。双子である為か顔立ちも似ているとよく言われるが、空自身はそうは思わない。蛍は睫毛が長くて大きい。それに自分によく似ているけど、少し違う色合いの琥珀色の瞳もまん丸で大きく可愛らしいのだ。

異国の服装も黒を基調とした自分とは違い白を基調とした服装だ。華奢な体躯を包む前後で長さが違う独特のワンピースドレスは、ほんのり水色がかった白色をしていてまるで空の青さを反射する雲のようである。ところどころに星々の煌めきを映し出した意匠が施されている様は昼間に浮かぶ星々みたいだ。見ることは難しいけれどそこには確かに存在している。

しかし、その色の中にも自分の装いと同じ黒を使っているのが密かに嬉しかった。唯一服装で似ている点を挙げるとすれば羽根を模したマフラーとマントが合わさった独特な装飾部分だろう。正確に言えば蛍は合わせ目が逆で裏地が淡い水色であるが、同じく星々の煌めきを映し出した意匠は同じだ。全体的に白く羽根を模した装いは小鳥のような印象を受ける。

(こうやって、姿は思い浮かべられるのに…)

抱え込んだ膝をぎゅっと掴んだ。姿を思い出すことは容易だ。何せ今までずっと旅をしていたのだから。ずっと隣にいるのが当たり前でそれが変わらないものだと信じていた。しかし、あの謎の神によってそれも圧倒的な力の差で引き離された。無力と虚無。それを痛感してからは、空の胸にはずっとぽっかりと穴が開いたままだ。それに…

(あの光景、蛍はあんなものを見たのか…?)

ついこの間会った謎多き男、ダインスレイヴを思い浮かべた。冒険者協会で聞いた金髪と異国の装いをした人物。もしやと思って尋ねてみれば違う人物であった時には内心落胆したのだ。ハニーミルク色に近い色の金髪に一等星の煌めきをそのままはめ込んだような紺碧色の瞳。その周りを顔半分を覆い隠す独特な造形の仮面で彩り、澄み切った夜空に浮かぶ星々の意匠を施した服装を纏ったミステリアスな雰囲気を醸し出す男。エンジェルズシェアの酒場で淡々とした口調で問われた質問に答えたことを思い出す。

それに風龍廃墟での遺跡守衛の足跡と踏まれた蒲公英の痕跡から見たフラッシュバックのように浮かんだあの光景が脳裏から離れない。焼け野原になった世界にあの謎の神が操っていた赤黒い箱に似た物質のようなものが宙に何個も浮かぶ悍ましい光景は見るに堪え難いものだ。

ふと、視線を上げれば目の前をホタルがよぎっていく。掴み取ろうと手を伸ばすが、驚いたのか慌てるように逃げていった。

"お兄ちゃん"

「蛍…。」

掴み損ねた手を見つめながら、こちらを振り返りながら自分を呼ぶ蛍の姿を思い浮かべた。それがホタルが逃げたことによって遠くへ消えていくような気がして、名前を呼ぶと同時に堪えていた涙が流れそうになる。だが、視界の端に星座に似た鱗粉がこちらに向かってきているのを捉えて慌てて拭った。

「お〜い!! ようやく見つけたぞ〜!!」

「パイモン…。」

また新たに料理を抱え込んだパイモンがやって来た。あらかじめ決めておいた集合場所の候補地へと来たのだ。

「探したぞ! こんなところで何して………ってどうしたんだ? 何だか顔色が悪いぞ??」

空の様子に気付いたのか不安げに尋ねてきた。指摘されて反射的に顔へ手をあてる。そんなにひどい顔色をしているのだろうか。これに関してはパイモンに対して誤魔化すことは失礼に値する。先程会話を交わした幼い兄妹達を思い浮かべて、覚悟を決めた空は気持ちを吐露した。

「…実はさっき、街で妹の声が聞こえた気がしたんだ。」

「えっ?! それってまさか…!!」

フルフル
「いや、声が似ているだけで見知らぬ小さな女の子だったよ。」

驚くパイモンに捕捉するように首を横に振って否定する空の眼差しは悲しさと寂しさと色々なものが入り混じっているように見えた。それはまるで、初めて会った時に今までの経緯と事情を話してくれた時のようだった。帰る家を失った迷子のような、瞳の奥底に宿る虚無を隠して必死に取り繕ったような、そんな無気力さを感じた。

「そうだったのか…。元気が無いのはやっぱりこのお祭りが原因なのか??」

「それもあるけど………。」

空の様子を気にかけながら、璃月に住む人々がどうな風に海灯祭を過ごすのか、それが原因かどうかについても尋ねてみた。何故ならば家族について璃月の人々が話すたびに、寂しげに笑っていたのが印象に残っていたからだ。

「けど、なんだ?」

「……怖くなったんだ。」

「怖くなった? なんでだ??」

返ってきた曖昧な返事に少し拍子抜けして再度尋ねてみれば、更に疑問符が浮かぶばかりであった。しかし、焦らずに問えば、空はゆっくりと話し始めてくれた。

「前に鍾離先生に聞いたことを思い出したんだ。人は声から忘れていくんだって。」

人は五感でいうと、聴覚・視覚・触覚・味覚・嗅覚の順に忘れていくのだと言う。蛍の声を最後に聞いたのは謎の神に捕らえられた瞬間の短い悲鳴だ。大きく見開かれた瞳が赤黒い箱に似た物質に包み込まれていく姿は今思い出しても恐ろしく、そして自分の無力さを嘆くばかりだ。

「さっき、街で女の子の声を聞いてようやく蛍の声を思い出したんだ。けど…。」

空自身もその後封印されて、目覚めてからは封印されてから何年経ったのかも分からない状態だった。しかし、それでも蛍の声が思い出せずにいたことに落胆していた。あれだけ一緒に居た大事な家族なのに、こんなに自分は薄情だったのか、と。しかし、それを認めてしまうと蛍が永遠に消えていってしまいもう二度と会えなくなってしまうみたいで怖くなったのだ。

「今まで忘れていたことが、怖くて怖くて、たまらなくなって、少しでもそこにいたくなくて離れたんだ。」

偶に夢を見ることがあるのだ。蛍が真っ白な光に包まれながら、こちらに背を向けて去っていく夢。必死に手を伸ばすもどんどん距離は離れていく。叫ぼうとしても声が出ない。気付けば姿は見えなくなり、ようやく声を出してその名を呼べるようになるところで目が覚めるのだ。

「情けないよな。こんなことで落ち込んで…。」

「………。」

「パイモン?」

すすす
「??」

素直に気持ちを吐露すれば、少しスッキリした反面、認めたくない事実を浮き彫りにしてしまったようで居心地が悪い。それに弱音を吐いてしまったようで何だか格好がつかない。それを笑って誤魔化そうとすれば、聞いていたパイモンが黙り込んでしまった。それに疑問符を浮かべて問いかけてみると、不意に近寄ってきた。すると…

「ふんっ!!」
ぺちんっ

「ふぇ?? ぱ、パイモン??」

掛け声と同時に両頬に小さな何かに叩かれる感触がした。どうやらパイモンの手が空の両頬を叩いたみたいだ。しかし、音のわりに痛くは無い。突然の行動と人間の子供よりも小さな手の感触で、驚きに瞳を瞬かせながら尋ねる。するとパイモンは大きな声で言葉を紡いだ。

「情けなくなんか無い!! それに、そんなに弱気になっていたら、見つけられるものも見つからないぞ!!」

「パイモン…。」

「それに、似ている声を聞いたら思い出したんだろ?」

「あ、ああ。」

「なら大丈夫だ!! 忘れていたらそれすら思い出せないんだからな。」

「そうなのか…?」

気にしていたことに、慰めの言葉をかけられる。それは嬉しいが納得するかどうか曖昧に返事をすればそうだぞ!とドヤ顔をするので、そうすることにした。

「それに、オイラ達なら絶対見つけられる!!!」

「…どうして、そんなに自信満々に言えるんだ?」

「決まっているだろう!! オイラを見つけて助けてくれた奴なら家族だって見つけられるはずだからな!!」
ドヤァ

「!!」

続けて出た言葉は自信に満ち溢れている。その謎の自信は一体どこから出ているのか疑問符を浮かべて問いかければ、紡がれた言葉に初めて会った時のことを思い浮かべた。やけに大きな魚を釣ったと思えば、釣れたのは不思議な生き物だった衝撃は今でも忘れられない。あれからそんなに時間は経っていないはずだが、もう随分と昔のことのように感じる。しかし、それでも根拠が無いのにやたら自信満々にドヤ顔をするのが面白くて思わず噴き出してしまう。

ぷっ
「何だよ、それ。めちゃくちゃだな…。」
くすくす

「何だとぅ!! オイラは本気だからな!!」

「めちゃくちゃだけど、元気出たよ。ありがとう、パイモン。」

「おぅ!!…だから、そんなに寂しそうに笑うなよ…。」

「…うん、分かったよ。」

根拠はないが真っ直ぐに気持ちを表すパイモンらしい慰め方にお礼を言えば、先程とは反対に心配そうに空を労る言葉を告げた。知らず知らずのうちに心配をかけていたことを反省していれば、パイモンは何か思いついたように、空の両頬から手を離して手のひらを合わせた。

「あ、そうだ!! こんな時こそ霄灯の出番だろ!!」
サッ

「でも、霄灯はもう…。」

ナイスアイディア!!と言わんばかりの提案をするパイモンに、空は遠慮がちに言葉を紡いだ。確かに作り方を教わったし、手元に材料はある。機関棋譚の挑戦用に大量に残してあるのだが、既に霄灯は流した後だ。"妹の願いが叶いますように"と綴って。それだけでも充分満足なのだが、パイモンは首を横に振って、いーや!!とやや不満げに言葉を紡いだ。

「1人1個まで、なんてルールはないだろ?それに、妹さんの願いも大事だけど、お前自身の願い事がまだなんだからノーカンだ!!」

「分かったよ。」

パイモンの謎の理論に妙に説得されて、霄灯を準備した。しかしこうでもしなければ、きっともうひとつの霄灯は飛ばさなかっただろう。もし、妹も会いたいと願っているのであれば、それは空の願いと同じだからだ。だか、物足りない気はしていた為、こうして助言してくれる人(この場合は不思議な生物、だろうか)が居たからこそ遠慮は無くなったのだ。

「一緒に飛ばすぞ! せーの…!!」
フワッ

(蛍に、会えますように…。)

そうしてパイモンと共に霄灯を流した。綴った願いを胸中で想いながら、琥珀色の瞳に今しがた流した霄灯と夜空に浮かぶ無数の霄灯を映し出す。その瞳には、奥底に潜んだ虚無は感じられずどこか安心したように満ち溢れていた。

「じゃあ、お待ちかね!! 屋台の料理食べようぜ!!」

「ああ。」

「それで、良かったら妹さんについてもっと教えてくれよ。いつも尋ね人の文が簡単過ぎると思っていたぞ?」

ギクッ
「…バレていたのか。分かった。長くなるけどいいのか?」

「もちろんだ!!」

「そうだな。どこから話そうかな…。蛍は…。」

そしてパイモンと屋台の料理を食べながら、蛍についてまずは、双子であるが違う部分が多々ある見た目の話をする空であった。

いつか再会できる日が来るのを信じて。





同時刻、青墟浦付近にて。

高台にぽつんとひとつだけある石珀を白を基調とした異国の装いをした少女がその長い睫毛に縁取られた瞳に映していた。見つめる眼差しはどこか寂しげか色を宿している。

(この石珀、まるでお兄ちゃんの瞳の色みたい…)

少女の名は蛍。空が必死で手がかりを探している双子の妹張本人であった。紆余曲折を経て、現在はアビス教団へと身を置いている蛍は、この時期は璃月の海灯祭の開催期間だということを思い出して無理を言って半日だけ休みを貰ってきたのだ。断られるものだとば思っていたが、離れたところで祭りの様子を見守るだけ、という条件付きで許可が降りた。とはいえ、祭りの様子を見守るにも活気付く街並みに溶け込める気がしないので、こうして離れた場所から夜空を流れる霄灯を眺めるだけで満足している。

護衛をつけることにも断りを入れた。今日はただただ1人で居たかったからだ。慌てるアビス教団の面々を尻目にそれを聞いたリーダー格であるアビスの魔術師は後で迎えをよこします、と言ったのだ。あいつらはずる賢い。きっと蛍の気持ちを気付いていた上で、泳がせるつもりで送り出したのだ。あくまでも手のひらの上で踊らされているようで苛立ちを覚えたが、それを振り払うよう首を横に振って、再び石珀へと視線を落とした。

(今頃、お兄ちゃんはこの璃月に居るはず…)

以前、モンドでトワリンを戦争兵器へと変える計画の報告を聞いた時にあのアビスの魔術師が口にした"思わぬ邪魔"。予想はしていた風神のことかと思いきや、残念ながらと言葉を添えられて続けて告げられた"貴方の肉親…"という言葉。それが兄、空であることは明白であった。

"蛍!"

瞬間、フラッシュバックしたのは、あの謎の神に捕らえられて赤黒い箱に似た物質に包まれながら視界が黒く塗り潰されていった時のこと。こちらに手を伸ばして悲痛に顔を歪めて、名前を叫ぶ姿は今も瞳に焼き付いて離れない。その時は、いてもたっても居られなくなり衝動的に風龍廃墟に足を向けたことがあった。そこで風元素を纏ってヒルチャールと戦う光景を見た。兄の所在は憶測だ。恐らく少しずつ国を巡って居るはずの兄は、きっとモンドの隣の国であるここ璃月に居るはず、という勘に過ぎない。あの日見た変わらない兄の姿を見つめたのがつい昨日のことのようだ。

同じ金髪であっても、自分とは異なる暖かな色は太陽を彷彿とさせる。まるで持ち主の人格を体現したようなその色合いと頭頂部にまるで猫の尻尾のように一房弧を描いてピンと逆立ったくせ毛にふわふわとした金髪は見ていると不思議と安心したものだ。ショートヘアーでもみあげ部分を少し長くした自分の髪とは正反対にその金髪は長く三つ編みに結わえられている。"蛍の髪はさらさらしてるな"と撫でてくれるのが嬉しくて、撫でやすい長さに整えていたのは秘密だ。

男の子でありながらその綺麗な金髪をしていることに幼い頃は、子供ながらにそれに嫉妬を抱いていたのを覚えている。ある時、少し伸びてきた兄の髪をからかい半分でいじっていたら、予想以上に触り心地が良くて嬉しそうにしていたら、兄も自分も嬉しいと言わんばかりに頭を撫でてくれた。以来、兄の髪をいじるのが好きになり嫉妬の気持ちはいつの間にかどこかへと消えていった。

日に日に伸びる髪に切らないのかと尋ねた時は決まって"切るのが面倒になった"と言っていたが、その理由を実は知っている。あまりにも自分が兄の髪を手入れしたり色々な髪型にしたりしていじるのが好きなことを気付いた上でその気持ちを汲んでくれたのだ。しかし、それを照れ臭そうに言うのが何だか可笑しくてまだまだ伸びるであろう髪の手入れに気合いを入れたのを今でも覚えている。しかし、今ではもうあの金髪に触れられなくなってしまった。

その長い三つ編みを彩る髪飾りは蛍自身が左耳につけたピアスと色違いの羽根飾りで、お揃いにしようと蛍がプレゼントしたのだ。照れ臭そうにはにかみながら、髪飾りをつけてくれたのが嬉しかった。その左耳には自分と同じくピアスをしているが羽根と黒曜石が着いている。

双子である為か顔立ちも似ているものの蛍自身は、兄、空にあって自分には無いものの違いははっきり分かると自負している。空は小さい頃から瞳が大きくまだ幼さが残る故かそれが健在である。もしかしたら、自分よりも大きな瞳をしているかもしれない、と思ったことが多々あるほどにだ。睫毛が長くて大きいとよく褒めていたが、蛍自身は自分よりも深い琥珀色をした瞳がまるで宝石を嵌め込んだみたいに綺麗に輝いているのが何よりも好きで、それを褒めたものだ。

異国の服装も白を基調とした自分とは違う黒を基調とした服装だ。動きやすさを重視した腹部周りに少し肌の露出が目立つ装束である。やや茶色混じりの黒色は一見威圧感を感じさせるが、ところどころに星々の煌めきを映し出した意匠が施されている様は、夜になり始めてぽつりと浮かび出す宵の明星のようにも、明け方に一層輝きを増す明けの明星のようにも見える。

その色の中にも自分の装いと同じ白を使っている羽根を模したマフラーとマントが合わさった独特な装飾部分は、合わせ目が逆で自分の細いものとは違いとても大きく端には、ピアスと同じく黒曜石の飾りがついている。星々の煌めきを映し出した意匠を施されたそれが風に靡いてはためく様は、まるで鷲が翼を広げて大空を羽ばたく様を彷彿とさせる。

鷲と聞くと恐ろしい猛禽類を思い浮かべるが、蛍自身は、自分が白い小鳥のような装束に対して、兄が鷲のような装束をしているのが何だか似ているみたいで嬉しく感じている。それに裏地が淡いオレンジ色になっているのが、兄の人柄を表しているみたいで好きだった。だが…

(今は、まだ会えない…)

空の姿を思い浮かべて、会いたい気持ちが強くなるが振り払うように首を横に振った。思い浮かぶのは焼け野原に赤黒い箱に似た物質が一面を包む光景。それを食い止める為にも、まだ会う訳にはいかないのだ。会えばきっと決心が鈍ってしまうから。その為に、自分はアビス教団にいるのだから。

(もう、帰らないと………、??)

自分の立場を再認識して、これ以上ここに居るのはよくない。そう思い踵を返せば視界の端に淡いオレンジがかった黄色い光がぼんやりと灯った気がした。

(あれは…)

近付いて見てみればそれは、木に引っかかった霄灯であった。恐らく誰かが飛ばしたものが枝に引っかかってしまったのだろう。その衝撃のせいか少し端が歪んでしまっているが、直せばもう少し飛ぶことができそうだ。

(どんな願い事を書いたのかな…)
スッ

「!!」

ふと、どんな願い事が書かれているのか気になった。勝手に覗き込んでいるみたいで気後れするが、咎める者はここには居ない。少し芽生えた好奇心が突き動かされてついつい見てしまう。だが、見た瞬間、蛍は瞳を見開いて固まった。その願い事は…

"おにいちゃんとずっといっしょにいられますように"

子供が書いたのか拙い文字で綴られた願い。読みづらくも確かに込められた願い。その真っ直ぐな想いが込められた霄灯に、蛍は震えながら膝から崩れ落ちた。遅れるようにワンピースドレスの裾と羽根を模したマフラーとマントが合わさった独特な装飾がふわりと揺れた。

「私だって…。」

「私だって、お兄ちゃんとずっと一緒に居たい…!!」

その拙い文字が綴る願いは、蛍の心に衝撃と動揺を与えて、ひとしずくの粒となって蛍の心の隙間に染み込んだ。まるで、さざなみをたてるように。次第にその波は大きくなっていきまるで荒波のように蛍の心を揺らしていく。そして、溢れ出たしずくは涙となって、瞳から洪水のように大粒の涙を流す。やがてそれに同調するように心の奥底にしまい込んでいた本音を漏らしていった。それを抑え込むように地面の草を両手で硬く握りしめる。しかし、涙は溢れて止まらず手の甲と親指だけ包まれた独特な形の黒い手袋と周りに小さな海を作りながら蛍の頬を濡らしていく。

(会いたいよ…)

『ヒ、ヒメサマ…。』

「誰っ?!」

ビクゥッ
『ム、ムカエニマイッタモノ、デス…。』

堪えていた気持ちを言葉にしていれば、聞こえてきたか細い声に反射的に鋭い声を出した。問われた者はオドオドと自信なさげに答えた。人の話し声とは違う反響するような独特な声色。アビスの魔術師だ。言葉の通りであれば迎えにきた者だろう。だが、いつも自分と関わるリーダー格のそれでは無いことに違和感を覚えて、まだ溢れて頬を伝う涙を見せたくなくて振り向かずに涙によって出そうになる鼻声を必死に隠しながら問う。

「貴方、聞き覚えのない声だけど最近入ったの?」

『ハ、ハイ! ツイセンジツハイゾクサレマシタ!!』

「そう…。」
(わざわざ新しく入った魔術師を寄越すなんて、気を利かせたつもり??)

アビスの魔術師は賢い。だが、それはヒルチャールの言語を理解している、という意味であり、人間の言葉を流暢に話せるのはまだ少ない。少し片言混じりの言葉を聞く限りまだまだ力が弱いのだろう。それに言葉の端々からも気弱な性格なのが伺える。しかし、いつもの遣いではなくこのアビスの魔術師を寄越したのは、配慮だろうか。いや、奴らにそんなことなどありはしない。あるのは、蛍が何かしらの弱味を曝け出しているのを見つけて、報告させるためであろう。それを餌に何かよからぬ企みをするのが奴らの手口だ。

(そんな隙、決して与えないわ…)

奴らは蛍を"姫様"と呼んで恭しく振る舞う中で利用できるものはないかと探っているのだ。そんな隙を一切与えまいとアビス教団全てを疑ってかかるのにももう慣れてしまった。しかし、そちらがその気であればこちらも利用できるものは全て利用するまでだ。

全ては兄、空に会うその日を信じて…。

『ハ、ハヤクキテシマイマシタカ? デシタラ、マタデナオシマスガ…。』

「いえ、もう充分よ。帰りましょう。」

『エッ?! ヨ、ヨロシイノデスカ??』

クスッ
「ええ。」

『デ、デハ、マイリマショウ…。』
スイッ

涙を拭って振り返れば、耳を垂れさせてこちらの様子を伺う姿があった。心なしか仮面で作られた顔ですら、弱々しく目を垂れさせているように見える。青白い毛色に紺色の仮面、恐らくは氷を操るアビスの魔術師であろう。そのアビス教団の一員らしからぬ気遣う気弱な魔術師を促せば、驚いたような反応が返ってくる。どうにも人間くさい仕草に少し笑いながらついていこうとすれば、少し歪んだ霄灯に再び足を止めた。

『…?? ヒメサマ……??』

「…やっぱりちょっと待って。」

ビクッ
『ハ、ハイィィ!!』

「そんなに緊張しなくてもいいわ。すぐに済むから。」

『イ、イッタイドンナヨウジガ…?』

「貴方には関係ないことよ。」

『ワ、ワカリマシタ!! デハ、シタノミチデマッテイマス!!』
ビュンッ

霄灯を見つめながら思い浮かんだことを実行する為に呼び止めた。案の定、疑問に問われたが、特に言いたくなかったので、少し強めの口調で言えば、身体を揺らして怯えたように足早に下への道へと向かっていった。ずる賢い奴らにしてはどこか調子の狂う反応に、拍子抜けしながら霄灯の歪みを直す。以前にも作っだことがあるので容易なことであった。直ったところで霄灯を飛ばそうとする。が、手を降ろしてそれをやめた。

(貴方の願いは、きっと届いているわ…)

蛍は霄灯を飛ばさない。それは見知らぬ兄妹に対しての意地悪でも、面倒だからでもない。兄と同じ名である空に飛ばせば心の奥底に眠る願いが叶ってしまいそうだと思ったからだ。所詮は杞憂に過ぎないことは分かっている。

だが、それは蛍の望んだものではないのだ。

"蛍"

瞳を閉じて自分の名前を呼ぶ兄の姿を思い浮かべる。そして再びゆっくり開ける。その瞳には決意の色が宿っている。まだ残っているであろう涙を拭った蛍の瞳に迷いは無い。そこには先程まで兄に会いたいと泣いていた少女の姿は無い。頬と目元に涙の跡を残しながら、空を見据える眼差しは強い覚悟に満ち溢れていた。

私達はいずれ再会する。
だけど、今はまだその時では無い。

きっと貴方は戸惑うでしょう。
何故、と問いかけるでしょう。

でも、もう決めたことだから。

(旅の終点で会いましょう、お兄ちゃん)

心の奥底に抱えた気持ちの矛盾に蓋をして、いつか来るであろう再会の時を待ちながら蛍は小鳥の羽根に似た装飾を揺らして去っていった。その姿がどこか寂しげに見えたのを知るのは、照らされた満月と高台にぽつんとひとつ存在する石珀だけであろう。

双子の閃光星の運命は『天理』の調停なる者により分たれた。

片方は渇望と期待を、
もう片方は決意と寂寥を胸に抱いて。

閃光星達がどんな結末を迎えるのか。

それは神が、いや、もしかすると神すらもその結末を知り得ることは出来ないのだろう。

-END-



あとがき

最近の1.3PVやダインスレイヴの世界任務、それにこの海灯祭の端々で空くんの蛍ちゃんを想う気持ちにエモさが爆発して投下してしまいました…!!
特にダインスレイヴの世界任務での双子ストーリームービーの伏線回収、それに終わった後のモチーフマーク(で合っているはず)に鳥肌と涙が止まらなかったです…。゚(゚´Д`゚)゚。

心なしか私の書く双子ちゃん達が涙もろい気がします…
空くん視点を基準にしていますが、順番を入れ替えて蛍ちゃん視点にも出来ると思います。

まだまだ旅が始まったばかりですが、双子ちゃん達が無事再会できる日を願っています…!!

余談ですが、つい先日注文していた双子ちゃん達のアクリルスタンドが届いたので再会できますように、という気持ちで隣並べています…
ついでに服装の描写の参考資料にもしました!←

長くなりましたが、ここまでお付き合いくださりありがとうございます!!


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