【タル空】赤の意味
雪を見たタルタリヤのセリフに対してやりとりする空くんのお話です。
※出だしのタルタリヤのセリフが物騒ですが、中身はほのぼの(私基準)なので大丈夫です!(何が?)
・冬場の傷に関する描写が出てきますが、素人知識故、ご了承ください…←
・照れたタルタリヤ、略して照れタリヤ(おい)が出ます
参考資料
・タルタリヤ 雪の日・スネージナヤのボイス
ドラゴンスパインにて。
「素晴らしい雪だね! 天地が月光のように綺麗だ。
こんな舞台で流れる鮮血はより際立つだろうね…。」
空中を舞う雪。
それによって作り出された銀世界。
それらを見たタルタリヤは、宙を舞う雪の結晶へと手を伸ばして、手のひらに降り立った雪の結晶が体温に触れて溶けゆく様を見ながらそんな言葉を漏らした。
ゴクッ…
「………それって、どういう意味だ…?」
それを傍で聞いていた空は、固唾を呑んで言葉の続きを待った。
雪景色を見て、彼の故郷であるスネージナヤ、そして、ファデュイの執行官であり戦闘狂である一面が刺激されたが故の言葉だと受け取った空は、戦慄を覚えると同時に警戒心を抱いたからだ。
そんな空の様子を知ってか知らずか、こちらを見て笑みを溢しながら、タルタリヤは言葉を紡いだ。
「あぁ。だって…
怪我をしたりしたら、すぐに見つけて手当てできるからね!」
サッ
そう言いながら、タルタリヤは、どこからともなく絆創膏を取り出した。
ズルッ
「そっちかよ?!」
てっきり戦闘狂の彼らしく戦っている最中、倒した敵が流した血、その赤色が銀世界に映えることによって、静かな喜びを得られることに対する言葉だと思ったのだ。
だからこそ発せられた予想外過ぎるその言葉に、空は盛大にズッコけた。
「え〜? だって、空気とか肌が乾燥していると皮膚が切れて血が流れやすいんだよ。」
「確かにそうだな…。」
「トーニャやアントン、それにテウセルにもよくやったんだよ。」
「そうだったのか…。」
説明しながら、彼の弟妹達の名前が連なったので、以前出会ったテウセルの顔が思い浮かんだ。
「それに…。」
スッ
グイッ
(えっ?)
空が考え込んでいると、タルタリヤは絆創膏を持っていた右手と反対の左手を伸ばした。かと思えば、空の左手首を掴んだ。あまりにも自然な動作に、咄嗟に反応できない空が見守る中で…
「ほら。こうした怪我もすぐに見つけやすいからね?」
タルタリヤは、そう言葉を紡いだ。言われた箇所をよく見てみると肘辺りがうっすらと切れて血が滲んでいる。
「どこかで切ったのかな?」
(いつの間に…)
「全然気付かなかった…。」
「乾燥で切れても小さいと気付きにくいし、寒いと血の巡りが悪くなって治りにくいからね。」
手当てしてあげるよ、と言いながら、タルタリヤは患部へと顔を近付ける。
「あぁ、ありが………。」
怪我の具合を見る為に近付いてくれたと思っている空は、お礼を言いかける。だが、その言葉は途切れてしまう。何故なら…
チュッ
血が滲んだ肘あたりへとタルタリヤが口付けをしたからだ。
バッ!
「!!! な、何してるんだよ!!!」
「え? 何って、消毒代わりに…。」
「だからって、何で、その…、く、口を…。」
驚きに身体を揺らした空は、勢いよく腕を離しながら抗議した。だが、当のタルタリヤは全く気にしていない素振りであっけらかんと答えたので、説明をする空だが、次第に言葉が尻すぼみになっていく。
そんな空の顔は、だんだんと赤くなっていく。話していくうちに、肘に触れたタルタリヤの唇の感触やふと見えてしまった彼の唇の周辺が、まだ乾いていなかった血が付いてしまったのかうっすらと赤くなっていることに気付いてしまったからだ。
「本当だったら、舐めたほうがいいかと思ったけど、衛生面を考えたら流石にね。だから、応急処置だよ。」
「なっ、舐め………!??」
スッ
ペタペタ
「よし、これで大丈夫だよ。」
ポン
さらっと爆弾発言をしたタルタリヤは、空がキャパシティオーバーになりかけていることにも気にかけずに、患部を消毒しながら絆創膏を貼る、という動作を手早く済ませた。そして、"治療完了"という合図の意味を込めてなのか、優しく手を触った。
「あ、あり、がとう…………。」
シュ〜…
「うん。どういたしまして。」
あまりにも色々な衝撃があった為に、まるで、湯気が出ているのでは、と錯覚するほどに、顔を赤く染めながら途切れ途切れにお礼を言う空に、タルタリヤはにこやかに返答した。
(…手慣れていたな………)
恐らく真っ赤になっているであろうほどに、熱が灯る顔を隠しながらお礼を言う空は、手当てしてくれたことよりも、タルタリヤの手慣れた手つきに気が気でなかった。
ガバッ
(もしかして、家族以外にもやったことがあるのか…?!)
勢いよく顔を上げながら手を離した空は、ふとそんな考えがよぎって、より錯乱する。先程のタルタリヤの言葉からして、消毒に適したものがあれば、それを使うことが推測できたからだ。
ブンブン
(いや、手当てしてくれたんだから、余計なことを考えるのはやめよう…)
脳裏に浮かんだ考えが不躾なものであるような気がして、首を横に振って否定する空であった。
(ちょっとやり過ぎたかな…)
一方、百面相をしている空に気付かないタルタリヤは、空の手当てをすることに夢中で思わず取ってしまった行動に、時間差でじわじわと頰が赤くなりつつあった。
ファデュイの執行官であり戦闘狂たるタルタリヤは、大きな傷を負うことはないものの細かい生傷などは日常茶飯事だ。
故郷に居た時も勿論であるが、戦闘に明け暮れる日々だからこそ自身で手当てする術を身につけている。しかし、たまに消毒用の道具を切らしてしまうことがあるので、先程、空にしたように傷口を舐めたり、あるいは何かで拭ってからやる時がある。
本当ならば衛生面を考慮してちゃんと手当てをするべきなのだろうが、応急処置としてしていることだ。
それを思わず空にやってしまったのだが…。
(油断した、かな…)
改めて驚いた掴んだ手の華奢さ。
口付けた時に触れた空の肌の柔らかな感触。
慌てたように離れた空の驚いたような、困ったような、それが入り混じった表情。
(………今度は、俺が火傷しそうだよ…)
グイ…
まるで熱されたようにじわじわと熱さを纏っているような錯覚を覚えて、タルタリヤは胸元を押さえた。その時に、思わず右手で口元を拭うが、手の中間辺りまでに包まれた手袋の指先についた僅かな赤色を見て、ますます顔に熱が集まるのを感じるのだった。
そうして、しばらく2人は無言でそれぞれ熱が灯った部分が、熱が引いてくれることを願うのだった。
-END-