公演中は、どうかお静かに…
エピクレシス歌劇場で鑑賞中の空くんと、その隣に座ってきたタルタリヤのお話です。
かなり短めです。
・魔神任務の時系列ガン無視の謎時系列です(おい)
・フォンテーヌやエピクレシス歌劇場などの国の政策事情(で合っているはず…)等に対して、自己解釈多々気味
参考資料
・空くんのボイス "歌劇について"
エピクレシス歌劇場。
正義を理念に掲げる水神の国、フォンテーヌにおける最大の特徴であると同時に国の象徴とも言えるこの場所では、日々、様々な公演が開催されている。
ある時は、歌劇を。
ある時は、マジックショーを。
そして、最も多いのが"審判"である。
とはいえ、世間一般がイメージするような厳かなものとは違って、"審判"で裁かれる事件の内容、それをまるで"演劇"を披露するような仕組みとなっている。
告発された者と弁護人が、互いに譲らぬ討論をする様。
その中に見出したドラマ性。
そして、暴かれていく真実…。
"真実は小説よりも奇なり"という言葉があるが、まさに、その"奇"となった部分を大衆により分かりやすく伝わるように、具現化したのがこの仕組みである。
そうした過程を経た後に、諭示裁定カーディナルは最終判決を下す。それと同時に発生する"信仰心"を律償混合エネルギーへと変換して、フォンテーヌの人々の生活を支えている。
これぞ、七国には当て嵌まらない特徴であると同時にフォンテーヌ独自の発展と言える代物だろう。
しかしながら、そんなフォンテーヌといえでも、いくなんでもそこまで頻繁に"審判"をするわけではない。より正確に言えば、半分合っていて、もう半分は不確かなものだと言える。
というのも、最高審判官であるヌヴィレットの多忙さがその一因であると言える。いくら最高審判官であるとはいえ、そこまで頻繁に"審判"を行っていては、彼の身が持たないからだ。
告発されれば"審判"となるが、逆を言えば、それさえ無ければ"審判"にはならない。
それに、犯罪を未然に防ぐ為にも、警察隊や警備ロボが日々尽力しているおかげで、フォンテーヌの平和は保たれているのだ。そうでなければ、今頃フォンテーヌは、犯罪が蔓延る治安の悪い国となっていただろう(ただ、あながち間違っていない可能性も完全には捨てきれない)。
その為、フォンテーヌの法律に違反しない、もしくは、余程の大事件の黒幕が現れない限りは、エピクレシス歌劇場では"審判"は行われず、ほとんどの場合は"公演"に連なる催し物が開催されるのだ。
そして、本日、エピクレシス歌劇場にて行われるのは、人気の舞台として名高いある演劇である。
客席にて。
(前に見たけど、2回目もなかなかいいな…)
赤色の上質なベルベット生地で作られたふかふかの座席に座って鑑賞していた空は、満足そうな表情を浮かべていた。
演劇の内容は、以前、パイモンと一緒に観たことがある"タンクレードとカリクレア"だ。
テイワット大陸に来る以前、別の世界でこのような場で鑑賞したことがあったものの、このエピクレシス歌劇場に来て、テイワット大陸に来て以来としては、初めて見るであろう劇場において展開される演劇、それをパイモンと一緒に観た時に久々に目にしたものだ。
その時は、あまりにも夢中になって観てしまったので、もう一度ストーリーをしっかり味わいたくて、こうして鑑賞しているのである。
その演劇も、物語の展開が半ばまで差し掛かったころ…。
スッ…
ポスッ
(? 遅れて来た人かな??)
スッ…
左隣の席に、観客らしき誰かが座る気配がして、鑑賞に夢中になっていた空は、軽く視線を送った。
しかし…
ギョッ
(!! な、何で………!??)
そこにいた人物を見た途端、空は驚きに目を見開いた。
何故ならば…
その席で、すまし顔で鑑賞するタルタリヤの姿があったからだ。
(いつの間に…!!??)
ずっと見てしまっていたのか、タルタリヤは視線に気付いたらしく、少し視線を動かして流し目を送るようにこちらを見る。
クスッ
スッ…
そして、うっすら微笑んだ後に、右手の人差し指を口元へと持っていく。勿体ぶるようにゆっくりとした動きを、自然と目で追ってしまう空は、その先に待つ終わりを見ようとする。
そして………
"シーー………"
右手の人差し指を口元に当てて、うっすらと口角を上げながら微かに吐息を出す仕草をした。
まるで、"公演中は静かにしていなきゃだよ?"と言い聞かせるようであった。
そんな子どもに対してするような仕草に、色々と疑問を浮かべて困惑していた上に、タルタリヤを気にしてばかりいた自分が、この場において酷く不粋な気さえしてくる。
(…………後で、問いただしてやる…)
プイッ
色々言いたいことはありながらも、展開から見てそろそろ終盤に差し掛かってきた演劇に、上演時間が残り僅かだと知って静かにする空であった。
しかし、その後、どさくさに紛れて、座席に置いていた空の手を握るタルタリヤの行動に、驚きながらも必死に声を抑えることになるとは、この時の空は、知る由もなかった。
-END-