【タル空】白のヴェールを纏いゆく
塵歌壺で、調度品のシーツなどを洗濯中にうっかりかぶってしまう空くんのお話です。
・空くんドジっ子全開
・弊ワット設定として、塵歌壺の邸宅にベランダがある、塵歌壺の調度品のシーツなどは基本的にはマルが洗濯などを管理、たまに空くんが手伝っている、という感じになっています。
※初出 2023年2月1日 pixiv
塵歌壺にて。
ふぅ…
「さて、あとはこのシーツだけだな…。」
邸宅の2階部分にあるベランダにて、洗濯物を取り込む空はひと息ついた。
調度品が増えれば、当然、その分だけ洗濯物も増えていく。
幸い、マルに頼めば指定したものは洗濯を終えた状態にしてくれるのだが、数が数なだけに、毎回頼むわけにもいかなかった。
それでもこなしてくれるマルに対して、少々の罪悪感を感じていた空は、提案として細々としたものはマルに任せることにして、ベッドシーツなどの大きなものは、空自身が洗濯するようにしているのだ。
「よしっ、じゃあ、取るか…。」
バサッ
ススッ…
早速取り込もうとする空は、勢いよくシーツを掴む。なかなかの大きさの為に、こうでもしないと取り辛いので、取る時はこうしているのだ。すると…
グラッ
「って、うわわっ!?」
バッ
あまりにも勢いよく取ったせいなのか、バランスを崩してしまった後に、妙な浮遊感に襲われる。慌てて振り返れば、庭に落ちていっているのが視界に映り込んだ。
(や、ヤバい!!)
ぎゅっ
背中に嫌な汗を掻きながら、少しでも衝撃に備えようとして、空はシーツにくるまると同時に目を閉じた。
しかし、それでも避けられないであろう痛みを覚悟したその時…
「空!!!」
ギュッ
(!!)
ドサッ…
鋭い声が、空の名前を呼んだかと思えば、身体が何かに強く抱き締められる感覚になる。それに、シーツにくるまれたままの空は目を開いたが、その直後に、鈍い音が響いた。そして…
「……空、相変わらずドジっ子だね…。」
「う…、わ、悪い……。」
シーツ越しに心配と呆れ、そして、安堵を感じたような、様々な感情が入り混じる声が聞こえてきた。その声に、安堵を感じると同時に、申し訳ない気持ちになった空は謝罪するのであった。
「いいよいいよ。」
ポンポン
口籠もってしまった空を安心させる為なのか、声の主…、タルタリヤは、空の左肩あたりを優しく叩いた。
1階の庭にて別の洗濯物を干すのを手伝っていたタルタリヤであるが、どうやら空が落ちてくることに気付いて、慌てて受け止めてくれたらしい。
(いくら重力が半減されているとはいえ、流石に重かったよな…)
実を言えば、現実世界とは法則が少々異なる塵歌壺において、重力は半減されているのだ。しかし、だからといって、安全面に考慮しなくていいということにはならない。
それに、先程の鈍い音がした割には、そこまで痛みを感じていないことから、恐らくタルタリヤが身体全体を駆使して、空を庇ってくれたことが分かった。
(いくらなんでも、呆れたよな…)
ギュッ
急激に恥ずかしくなってきた空は、ますますシーツに埋もれると同時に、タルタリヤの胸元にも埋もれてしまうのであった。
(空、そんなに怖かったのかな…)
空が羞恥を感じている一方で、タルタリヤ自身の胸元に隠れてしまった空の様子に微笑みながら、心配してしまう。
実際は、空が羞恥を感じた故の仕草であるが、タルタリヤには、先程落ちたことに恐怖を感じた故の仕草のように見えた。
だが、先ほどの光景を思い出して、タルタリヤはつい笑みを浮かべてしまう。
何故なら…
頭から真っ白なシーツを被るその様子は、まるで天使が舞い降りて来たようだった、と…。
クスッ
(いいものを見られたな…)
ギュッ
グイッ
「えっ!?」
ドサッ
ますます笑みを深めたタルタリヤは、先程より強く抱き締めて、自身の腕の中にすっぽりと収まる空が驚きに声を上げるのも気にせずに、共に芝生へと寝転がるのだった
「な、いきなりなんだよ…!!」
(びっくりした…!!)
突然、引き寄せられたかと思ったら、強制的に芝生に寝転がってしまった。その主犯であるタルタリヤに抗議を申し出た。
「あはは! 折角だしここで昼寝しようよ?」
「で、でも…。」
「だって、洗濯物は、これ以外はもう終わりでしょ?」
「うぐっ…。そうだけど…。」
視界に、タルタリヤの姿が映り込む。共に寝転がっている故に、シーツをやや被ってしまっている彼から出された提案に、空は戸惑いの声を上げる。
だが、"これ以外"とわざわざ指を刺されてまで強調されてしまったので、空はそれ以上、何も言えなくなってしまう。
「なら、ちょっとだけ、ね?」
「……本当に、ちょっとだけだぞ…。」
「そうこなくっちゃ!」
グイッ
「!!」
(俺は抱き枕じゃないんだけど…)
根負けした空の言葉を皮切りに、ますます引き寄せたタルタリヤの行動に、空は内心で反論した。
(また洗濯し直さなくちゃな…)
うとうと…
すぅ…
そう考えながらも、塵歌壺の日差しによる暖かさと、タルタリヤの体温による温かさに心地よさを感じて、空の意識はだんだん沈んでいった。
そうして、お互い抱き寄せるように寝っ転がって、2人は昼寝をするのであった。
後日、安全面を考慮して、マルが邸宅の2階のベランダの手摺の位置を高くしたという。
-END-