にているなにか
ウルが気になる七七、そのわけを聞くお話です。かなり短めです。
七七ってあの動物に似てるよね、と個人的に思ったことから思いついたお話です。
・ウルの口調はノリです。
・名前だけですが、ヨォーヨが登場します。
・ボイスや最近の会話(百人一揆と聞いて百人一首と咄嗟に出るなど)で、私達の住む世界の単語も出ているので、過去に空くんがそこへ旅をしたことがある設定です。
・空くんが絵を描く場面がありますが、絵心は捏造です。多分人並みくらい…?←
参考資料
お月見イラスト
※初出 2021年10月1日
塵歌壺内にて。
ここでは、執事として管理するマルの他に、決まった曜日に現れるもう1匹(で数え方は合っているはずだ)の仙人が居る。尋瑰納琦真君、通称ウルと呼ばれる仙人だ。穏やかなマルとは対照的に、老人口調で喋るウルは気難しい印象も受けるが、慣れてしまえばその口調も何なく受け止められるだろう。
そんなウルの買い物に、今回、空は七七を付き添わせていた。
「では、この品々で良いのだな?」
「うん。お願いするよ。」
「…ところでお主よ。」
「ん? 何??」
「そこな童はなぜワシを見ているのじゃ?」
買い物を済ませた空に向かって、ウルは先程から気にしていた事を問いかけた。あまりにじっと七七が見つめてくるので居た堪れなくなったらしい。そんな珍しくタジタジなウルに空は答えた。
「いやあ、一緒に来てもいいか言われてさ。断るのも後味悪いし…。」
「なるほどな。」
じっ
「…おっきな、ヤマガラ…。」
クワッ
「ワシはヤマガラなどではない!! 尋瑰納琦真君じゃ!!」
「まあまあ。落ち着いて、ウル。もうひとつ買うからさ。」
スッ
「…仕方ないのぉ。」
七七の発言に憤慨したウルは、声を荒げて収まっている茶器を揺らした。心なしか湯気も出ている気がする。慌てた空は、追加で品物を購入して何とか宥めるのだった。
邸宅前。
買い物が終わってから、七七に話しかけた。
「そういえば七七。何でウルを見つめていたの?」
ウルに妙に興味津々な様子だったので、気になったのだ。空に問われた七七は、少し考え込んでからぽつりぽつりと話し始めた。
「……ヤマガラ、似てた……。それに、色……ところ、どころ……ヨォーヨ…みたい。」
「ヨォーヨ??」
「あぁ! あいつか!!」
ポン
聞き慣れない名前に、空が首を傾げていれば、それを聞いていたパイモンが反応した。心当たりがあるらしい。
「知り合い?」
「おう!!前にお月見の時に、オイラと七七と一緒に月餅を食べたんだ。」
空が尋ねれば、パイモンはそう答えた。同意を求めるように、そうだよな?とパイモンが七七に聞けば、七七は頷いてノートから何かをを取り出した。
取り出した物を見てみれば七七とパイモンの他に見知らぬ少女が映り込んでいる写真であった。確かにまん丸な月の下で色鮮やかな月餅を食べている。この少女がヨォーヨなのだろう。見に纏う鶯色の衣服が、確かにウルの収まった茶器のところどころの模様に似ていた。
「そんなことがあったのか…。」
ハッ
「べ、別にお前の分の月餅を残しておけばよかった、とかないからな!!」
「…パイモン、全部口に出てるよ。」
「あぁっ?! しまったぁ!!」
「別に楽しめたなら、それを聞けただけでも充分だよ。」
ホッ
「そうかぁ…。」
納得していた空に、何故かパイモンは1人で焦り出して弁解するように言葉を紡いだ。どうやら内緒で美味しい物を食べたことを気にしているらしい。しかし、空は別に気にしていない。楽しんでいたのならそれに越したことはないのだ。それを伝えれば、安堵したようにパイモンは胸を撫で下ろした。
「ヨォーヨ、可愛い…。ヤマガラみたい。」
「そっか。でも…。」
「??」
「ヨォーヨがヤマガラなら、七七はシマエナガに似てると俺は思うな。」
「シマ、エナガ?」
コテン
七七の言葉からある動物を連想した空はその名を口にした。聞きなれない言葉に、七七は首を傾げた。
「俺が旅していた途中で出会った鳥なんだ。真っ白でふわふわで首を傾げるところが似ているよ。」
噛み砕いて説明する空だが、いまいち分からないのか、口元に人差し指を当てて考えていた七七は、丁度近くにあった木製の露天用お茶机にノートを広げた。
「ここに描いて。」
「え、いいの?」
コクン
「あんまり自信ないけど…。」
サラサラ
七七の要望に自信なさげにしながら、空も椅子に座って描き出していく。興味津々なのか、空から見て右斜めにある椅子に座った七七は、足をぶらぶらさせながら待っているが、待ちきれないのか時折覗き込んでいる。
「こんな感じかな?」
サッ
「………。」
ススッ
「オイラにも見せてくれ〜!」
ようやく描き終わった空の様子を見てから、さらに七七は覗き込んだ。パイモンも一緒に覗き込む。だが、その時に近付き過ぎて密着しているせいか、七七とパイモン、お互いのもちもちとした頬がむにゅっとくっついた。
そこに描かれていたのは、丸っこいフォルムの小鳥だった。やや上の方の真ん中に小さな黒い丸が2つと同じくやや小さな三角がある。恐らく目と嘴だろう。木の枝に止まっているのか、棒らしきものとちょこんと3本に分かれた黒い線が2対ある。
「なかなか上手いな! まあ、アルベドほどじゃないけど…。」
「アルベドは別格だろ…。」
「それにしても変わった鳥だなぁ…。本当にこんな鳥がいるのか?」
「俺も昔に見たきりだから記憶が曖昧だけどこんな感じだったよ。」
「そうなのか〜。」
「………。」
賛辞を述べながらも他に思い浮かんだ絵の上手い人物の名を述べるパイモンに苦笑しながら、空は説明した。納得したように頷くパイモンの一方で、先程からノートに視線を釘付けにしたまま七七は俯いている。そんな七七に、空は声をかけた。
「七七、上手く描けなくでごめんね。大事なノートなのに…。」
やはり大事なノートに描くのはご法度だっただろうか。もしかして、お気に召さなくて不機嫌になっているかもしれない。そう気にした空だが、七七が溢した言葉で杞憂になった。
「可愛い…。」
「え?」
「本当に、この鳥、七七に似てる??」
「う、うん。寒い場所に住んでいるから氷元素を使うところも似てると思ったんだ。」
「シマエナガ……。」
ひと言呟くと同時に顔を上げた七七の瞳は、出会ってから今まで見たことがない以上にキラキラと輝いていた。やや興奮気味にしてくる質問に答えれば、さらにその鳥の名前を呟いた。そうして、暫くノートを見つめた後、パタンと閉じてギューッ、と抱きしめた。そして、抱きしめたまま椅子から降りて、その場でステップを踏みながらくるくると回り出す。どうやら喜んでもらえたようだ。
「…ありがとう。大事に、する。」
「うん。俺も喜んでもらえて嬉しいよ。」
七七の好反応に、空は微笑みながらお礼を述べた。
それから暫く後はノートに描かれたシマエナガを見つめる七七が見られたという。
-END-