【タル空】味わいゆく甘味

あるものを味わいながら、料理の研究をする空くんのお話です。

イベント"西より届く香り"が開催される、ということで、その嬉しさと食べた時の反応セリフを活用したくて思いついたお話です。

こちらのお話(https://note.com/famous_minnow879/n/nd94383ec161e?magazine_key=meb8d8561338d)の続きのような感じですが、単体でも読めると思います。

・空くんは料理の腕だけでなく味覚も優れている設定です。

参考資料

・タルタリヤのボイス 贈り物を受け取る・1


璃月港から少し離れた場所にある釣り場にて。

パクッ

モグモグ


「う〜ん………。」

座り込んで三〇式·携帯式栄養袋から何かを取り出してから、何かを口にして神妙な顔つきで味わっているのは、長い金髪を三つ編みにした少年、空である。

ゴクン…

「やっぱり、あといくつかの調味料が分からないな…。」

食べていたものを飲み込んでから、空はひと言呟く。そうしていると…


ヒョコッ
「何が分からないの?」

ビクッ
(この声は…!)

クルッ

急に後ろから聞き覚えのある声がしたので、驚きに身体を揺らした空は、振り返って確認する。

そこに居たのは、案の定メッシュの入った柔らかな茶髪に存在感ある仮面を髪飾りのように着けている青年、タルタリヤであった。風に吹かれてマフラーに似た装飾を揺れている。

「いきなり声をかけるなよ…。」

「ごめんごめん。あまりにも集中しているから、ついちょっかいかけたくなってさ。」

「なんか本音が漏れていないか!?」

「あははは。気のせいだよ。それよりも、何が分からないの?」
ストン

(誤魔化したな…)
「お前がくれたトリュフの味付けに使った調味料だよ。」

「調味料?」

ちゃっかり空の隣へと腰を下ろしながら言葉を紡いだタルタリヤに、若干納得がいかないながらも、空は説明をした。それは、先程味わっていた食べ物…数日前にタルタリヤがくれたトリュフのことについてだった。

空は料理人である香菱を始めとして、知り合う人達に料理上手だと褒められ認められるほどの腕前を持つ。それ故なのか、料理をよく味わって食べれば、味付けに使われた調味料が何となくではあるが分かる、という特技があるのだ。

そんな時、タルタリヤが作ったトリュフが(悔しいことに)あまりにも美味しかったので、作る時に使われた調味料を始めとする素材を研究する為に、入れると不思議と長持ちする三〇式·携帯式栄養袋に入れて、摘んでは味わう…、ということをしていたのだ。

先程もしばらく釣りをしていたのだが、その休憩がてら味わっていたところに、後ろからタルタリヤが現れて現在に至るのである。

「そうだったんだ…。」

「あぁ…。

悔しいけど、美味しかったから、何とか味を再現してみたいんだ…!」
クッ

(めっちゃ悔しがってるな…)
「そんなに気になるなら、俺が使って調味料を教えてあげるよ?」


ズバッ
「それは、何だか負けた気がするから無しだ。」

「空の料理に関する探究心、嫌いじゃないよ。」

握り拳を作りながら浮かべるその表情が、あまりにも悔しそうなので、タルタリヤは助け舟を出そうとする。だが、その言葉を聞いた瞬間、空が右手の平を突き出すようにしながら勢いよく否定したので、その言葉の続きは遮られた。しかし、タルタリヤは全く気にした様子はなくむしろ、探究心豊富な空に感心した。

「そうだな……。あっ! こうするのはどうかな?」

「! 何か思いついたのか??」

顎に左手を当てて考えていたタルタリヤは、何かアイディアを思いついたのか、左手を離しながら声を上げる。それに、空は藁にもすがるような思いで声を掛ける。

「ちょうど、君にどうお返ししたらいいのか、考えていたところなんだ。だから…。」
スッ

「?」
(トリュフを取り出してどうしたんだ?)

タルタリヤはそう言いながら、左手を三〇式·携帯式栄養袋に入れながらトリュフを取り出す。疑問符を浮かべながらも、空はその動きを目で追いながら、言葉の続きを待つ。

そして、紡がれたのは…


「こうして、俺が食べさせてあげるよ。」
スッ

トリュフを摘んだ左手を空の口に運ぶジェスチャーをして食べさせてあげる、ということをしてみようという提案であった。


「なっ………!?? えっ、はぁ??!!」


その言葉に、空は盛大に狼狽えた。何故なら、それは、まるで恋人同士が食べ物を食べさせる、所謂"あ〜ん"なる行為そのもののようであったからだ。

さらに言えば、空の右側の頬と顎の中間あたりに右手を添えながら言っていたので、その仕草からどうやら本気で食べさせてくれるようであった。

(一体、何を言ってるんだ??!!)

パッ
「ほら、作った本人、つまり、俺から食べさせてもらったら、何か分かるんじゃないかな?」

「何だその理屈は??!!」

「え〜? これなら君のお返しにもなるからいいかな、って思ったんだけど…。」

混乱しながらも抗議すれば、右手を離しながらも何だかよく分からない説明をされた。いつもであれば、ますます抗議する空であるが…

(でも、確かに一理あるかもしれないな…)

顎に右手を当てて考えながら、タルタリヤの言うことに納得しかけていた。

それは、ここ数日、貰ったトリュフの研究に没頭し過ぎたことで糖分を通常よりも多めに摂取したことによる判断能力の低下、さらには、料理に関しての探究心が強すぎる故に、そんな方法もあるのか…、と自分の知らない方法を発見して試してみたい、と思ったことが重なったが故の判断であった。

その状況が重なって、空は、タルタリヤの言うこともあながち間違いではないような気がしてきた。

「…分かった。やってみる。」
スッ

そんな通常時に比べて、判断力がやや斜め上の方向になっている空は、顎に当てていた右手を離して、提案を受け入れた。

「えっ? 本当に!?」

「あぁ。だけど、1回だけだ!!」

空の返答に、驚きの声をあげると同時に、それ以上に喜びを露わにしたタルタリヤは問いかける。そのあまりの喜びように、もしかしたら、判断を見誤ってとんでもない提案を受け入れたのではないか…、という気持ちになりつつある空は、回数制限を設けた。

(恥ずかしいからな…)

流石に、何回も"あ〜ん"のような行動をするのは、傍から見れば、まるで食べることに慣れていない子供に食べさせる親の図のようになりそうだ、と判断したからだ。

「俺としては何回もやりたいんだけど…。」

「……っ?! だ、駄目に決まってるだろ!?」

「分かった。それじゃあ、


目を瞑ってよ?」

「な、何でだよ!?」

「意識を味わうことに集中させた方がいいと思ったんだよ。視界が遮られていた方がより味が分かると思ったからさ。」

「た、確かに…?」

またしても、とんでもない提案をしてきたタルタリヤに抗議する空であるが、さらなる説明に、疑問符を浮かべながらも納得してしまう。

(こ、これも料理の為だ…!)

「わ、分かったよ…。」
スッ

そうして意を決した空は、自分に言い聞かせるようにしながら、目を閉じるのであった。


クスッ
(一生懸命だな…)

目を閉じる空に対して、タルタリヤは小さく笑みを溢す。元より料理上手でありながらも、それにあぐらをかかずに、むしろ何としてでも自身の力で掴み取ろうとする健気な姿が微笑ましく思ったのだ。

スッ

ビクッ

そんな気持ちになりながら、タルタリヤは空の右側の頬と顎の中間あたりに再び右手を添える。目を閉じて視界から入る情報が無くなった分、感覚が研ぎ澄まされているのか、触れた瞬間、空は驚きに身体を揺らす。

「いい子だね。

じゃあ、口を開けて…?」


閉じられた目。

それ以上に強く閉じる唇。

それらを見て、何だか高揚感が高まるような気持ちになりながらも、口元が開かなければ元も子もないので、優しく問いかけた。


「!!」
(こ、声が………??)

視界を遮られたせいなのかいつもより過敏になった感覚、それに、囁かれたタルタリヤの声がいつもよりも近いことに加えて、どこか甘やかさを増した響きを含んでいるような気がして、空はますますたじろぐ。

だが、これでは埒が開かないので、目を開けて確認したい気になりながらも、ぐっと堪えて、恐る恐ると口を開けた。そんな空の口(本人は普通くらいだと思っているが、大きさとしては小さい部類に入るだろう)の中に、タルタリヤの指先が摘んであろうトリュフを待ち侘びる。

そして…

ソッ…

(あ…、置かれた………)
スッ

まるで、羽根が置かれたかと錯覚する程に、そっと優しく置いてくれたことに少々拍子抜けしながらも、タルタリヤの指先が居なくなった気配を感じるまで、口を開けた後、ゆっくりと閉じた。

舌先にそっと置かれたトリュフ。

その丸みや表面にかかったココアパウダーのざらつき。

幾度も味わったはずのそれは、タルタリヤが食べさせてくれた、ということも加味されたせいなのか、何故だか特別感溢れるようなものになっている錯覚を覚える。

コクン…
(これは…、もしかして…?)

ゆっくりと味わってからようやく飲み込んだ空は、幾度も味わった味の中に、以前から予想していた味の他に、何か閃くような感覚を覚える。

何かを掴みかけたような…、それを感じ取る寸前…

「どう?


ちゃんと味わえたかな…?」


「!!!」
パチッ

タルタリヤの声によって、急に現実に引き戻されて、目を開ける。そこには…


「あれ? もういいの??」

至近距離でこちらを見つめているタルタリヤの姿があった。彼の深い青の瞳と空の琥珀色の瞳、2人の瞳の視線が交わる。

「なっ、タルタリヤ、離れたんじゃ…?!」

「うん? ずっと居たよ??」
スッ

「!!!」

食べさせてくれた後、てっきり離れたものだとばかり思っていた空は、半ばパニック状態になる。だが、タルタリヤの言葉と右手を離していた様子から察するに、どうやらそれほどまでに味わうことに夢中だったらしい。

そう。

右側の頬と顎の中間あたりに再び右手を添えられているのにも気付かずに、

目を閉じた状態で味わっている姿も、

果てには、美味しさに堪能している姿も…。


それを全部、見られていることに、気付かないほどだったようだ。

(ぜ、全部、見られていたのか…??)
「〜〜〜っ!!」
カァァァッ

全てを理解した空は、徐々に顔を赤らめていく。そして…

「空? どうしたの……。」


ガバッ
「み、見るなーーーー!!!!」

ダッ!!


「ちょ!? 空??!!」

耐えきれなくなった空は、タルタリヤが声をかけるものの、物凄い勢いで立ち上がって走り去ってしまうのだった。

(熱、治ってくれ…!!)

そして、走りながら顔の熱が引くことを願う空であった。


「行っちゃったな…。」
スクッ

立ち上がりながら空が走り去っていった方向を見つめて、タルタリヤはひと言呟いた。

(それにしても…)

目を閉じながらも、口を開けてトリュフを待つ姿。

ゆっくり噛み締めながら、美味しさを感じているのか、目を閉じながらでも分かる恍惚とした表情を浮かべる姿。

そして、それら全てをタルタリヤが見ていたことが分かった瞬間、恥ずかしさに顔を真っ赤にする姿…。

クスッ
「空の反応、可愛かったな…。」

それらを思い浮かべて、ますます高揚感が上がった故の笑みを浮かべるタルタリヤであった。


味は、結局、全ての味は分からなかった。

何かを掴みかけた気がしたが、それは遠く彼方まで走り去ってしまったから。

それに…

彼の行動全てが、まるで溶かしたチョコレートが全てを包み込むような甘さを纏って、空の感覚を麻痺させてしまったのだから。

その後、残ったトリュフを見るたびに思い出してしまうので、いっそのこと全て食べ切ってしまうべきか、それともしばらく時間を置いてから食べるべきか、悩みながら、結局携帯食料袋に入れる空の姿が見られたという。

-END-


あとがき

本日が、弊ワットにおけるタルタリヤの好感度MAX達成記念日であり、来るVer.3.5にてイベント"西より届く香り"が開催予定と聞いたので、好感度繋がりと称して思わず書いてしまいました…!

書いていてめっちゃ楽しかったです!

ここまで読んで頂きありがとうございます!!

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