将軍様、これなら作れそうですか?
雷電将軍、誕生日おめでとう!(書いた当時)
その記念に書いた空君に料理を教えてもらう雷電将軍のお話です。
雷電将軍の"料理ができない"を自己解釈した結果生まれた話です。
料理画面にて、雷電将軍の"料理ができません"表示を見た時の衝撃と言ったら…!
そんな気持ちも込めてのお話です。
※暑さで茹った頭で作ったせいか、分かりにくい、読みづらい部分があると思いますが、ご了承ください…
・諸々の設定に自己解釈あり
・雷電将軍の過去の思い出など完全捏造
参考資料
・魔神任務 稲妻編
・雷電将軍の全ボイス、キャラストーリー
・雷電将軍の伝説任務 第一幕、第二幕
・綾華さんの伝説任務
・秘境"夢想楽土の結末"での雷電将軍のセリフ
・モナのオルタコスチュームの説明
※初出 2022年6月26日 pixiv
稲妻城。
そのやや下にある浜辺近くにて。
「まさか、こんなことになるなんて…。」
「大丈夫です。あなたに何も落ち度はないのですから…。」
神妙な顔付きで佇んでいるのは、旅人の少年である空と稲妻を治める雷神であり将軍様と呼ばれる雷電将軍である。余程のことであるのか、2人は何かを手に持って、かなり深刻そうに両目を閉じている。さらに付け加えるとするならば、空は片手で頭を抑えて、雷電将軍は項垂れている様子だ。
「お前ら…、意味深に言ってるけど…、
料理に失敗しただけじゃないかー!!」
そんな様子の2人に思いっきり叫びながらツッコミを入れたのは、不思議な妖精、パイモンである。憤慨したように空中で地団駄を踏めば、その感情に合わせるように幻想の翼から星座の形に似た鱗粉が周囲に大量に撒き散らされている。
だが、それも無理はないだろう。
空はオレンジを基調とした二対の流れ星が浮かんだデザイン、雷電将軍は薄紫を基調とした桜が浮かんだデザインのエプロンを身に付けて、包丁を持っている…。
そんな2人の周囲の木々は、何か鋭利な刃物で切りつけたように、葉っぱや枝などの残骸がところどころに飛び散っているからだ。すぐそばにあったラズベリーの実も枝から落ちていて、やや小ぶりな岩場と砂浜は、まるで真っ直ぐ線を引いたように切り裂かれたような跡を残している。
さらに言うならば、項垂れる2人の足元には見るも無惨に切り刻まれた調理器具や食材の残骸、さらには食材が乗っていたであろうテーブルの木片が細かく刻まれて落ちている。
何かの惨劇にも見えそうだが、料理を教えて欲しい、と雷電将軍、もとい影から頼まれた空が料理を教えていただけなのっある。
しかし、教え始めた直後、包丁を持った影の手が震え始めたかと思えば、すぐさま周囲の空間を丸ごと包み込むように物凄いスピードで切り裂き始めたのである。その勢いは、風圧によって空の長い三つ編みが勢いよく揺れるほどであった。それだけにとどまらず、影のそばに居た空は勿論のこと、離れて見ていたパイモンも無傷で済んでいるのは流石の手腕だと言えるだろう。
そんな周囲の様子を頭を抱えていた手を離して、反対の手に持った包丁をしまった空は、納得と困惑、ふたつの意味を込めたため息をついた。
前々から疑問に思っていたのだ。
何故、影は料理ができないのかと。
これまでに出会ってきた仲間達は、得意な料理がそれぞれにあって、作ればたまにオリジナリティ溢れる料理を生み出している。それを見るのが密かな楽しみとなっている空は、仲間達に聞く調子で、影に何が作れるのかを聞いてみた。すると、私は、その、作れない、と言いますか、作ることができないのです、とかなり歯切れ悪く答えていたのが印象に残っていた。その回答に驚くと同時に、不思議に思っていたのだ。
"作ることが苦手"というのであれば、まだ分かる。
だが、"作ることができない"というのはどういうことなのだろうか?
無論、誰しも苦手ものがあるのは当然のことであるし、それを克服するか克服しないかは本人が決めることだ。なので、何か事情があるのだろう、と深くは追求しないでいた。だが、今回、影が真剣に、かつ覚悟を決めたような様子で、私に、料理を教えて下さい、と頼んできたものだから、空の疑問が解消されると同時に影の憂いをはらえるのであれば、と承諾したのだ。
しかし、実際に料理を教えてから、空が抱いていた疑問は解消されることになる。何故ならば…
影が料理を"作ることができない"理由…、
それは人形である"将軍"の"永遠を追求する機能"が半ば暴走して制御不能になるから、だと…。
料理というのは変化の連続だ。食材を切るのは勿論、焼いて、煮込んで、味付けをして…。料理にもよるが様々な過程を経て出来上がるものである。
しかし、『永遠』を追求し、その障害になるものを排除しようとする"将軍"の機能がその行為を拒んでしまうのだろう。
まず、食材を切ること。
これは、食材の元の形を『永遠』とするならば、それを"切る"行為は、障害となる。
次に、味付けをすること。
これも、食材の元の味を『永遠』とするならば、それに"付け加える"行為は、障害となる。
最後に、盛り付けをすること。
これも最終的には全ての食材の姿形を『永遠』に"変える"行為となる。
恐らくこれが、影の言っていた料理を"作ることができない"理由になるのだろう。
無論、これはあくまでも空の憶測に過ぎない。だが、"将軍"の機能が、"料理をする過程を排除しようとする"というのであれば、今しがたそれを目の当たりにしたのだから、憶測はほぼ間違いないと言っていいだろう。
(影の言う通り、屋外にしてよかった…)
影からもうひとつ、屋外でやりましょう、と言われていたことを思い出して、空は納得した。
焚き火で食材を焼くのならまだしも、料理をするのにわざわざ屋外で?と疑問に思っていたが、その配慮に心底感謝をした。何せこんな惨劇じみたことになれば、見回りをしている奥詰衆や天領奉行が駆けつけてくるだろう。そうなれば厄介ごとになるのは目に見えて分かる。
「(食材の)永遠は、無かったのですね…。」
「うん…。というか、たった今無くなった、って言うか……。」
包丁をしまいながら言葉を漏らす影、そして、その言葉に何だか聞き覚えがある空は冷静にツッコミを入れた。こうなってしまうとやや無気力気味になってしまうのは仕方ないだろう。
「というか、どうするんだよ? これじゃあ、料理を教えるなんて、できないぞ…。」
「そうだなぁ…。」
困ったように眉を下げるパイモンの言葉に、空は顎に右手を、腰に左手を添えて考え始めた。何かを考える時の空の癖であった。
「すみません…。やはり、私が代わっても"将軍"の身体が言うことを聞かなくて………。」
「気にしないで、影。こればっかりはしょうがないよ…。」
申し訳なさそうに影は言葉を溢した。普段は設計した人形の"将軍"が稲妻の執政を行うが、意識を切り替えることが可能な為、今は影になっている状態である。しかし、その状態で以ってしても、"将軍"の機能が勝ってしまうのか、身体が勝手に動いてしまったようだ。
「やはり、私には無理なんでしょうか…。」
「そ、そんなことないぞ! 包丁を持たなきゃいけるんじゃないか?!」
「せめて、一心浄土のような場所があればいいのですが…。」
(包丁を持たない…、一心浄土のような場所……)
ますます困ったように落ち込む影とそれを励ますパイモン…。
そのやり取りを聞きながら、空は紡がれた言葉を反芻していった。
そして…
(!!)
「そうだ!」
「??」
何かを閃いたらしい空は声を上げる。その様子に首を傾げる影に、そっと耳打ちをするのだった。
後日。
塵歌壺の邸宅内。
薪と煙の厨房にて。
「…本当にこれで大丈夫なのでしょうか…?」
「うん。ここならきっと大丈夫だよ。」
案内された影は、不安そうに言葉をこぼした。そんな影に対して安心させるように空は言葉を紡いだ。
2人は以前と同じくエプロンを身につけて、さらには、空は金髪、影は紫紺に薄紫色のメッシュが入った髪、それぞれを三つ編みにした髪をさらにお団子状にして結んでいる。屋外でやった時と打って変わって、室内で料理を行う為と、すぐそばに食材が置かれた棚があるので、衛生面を考慮して髪をまとめたのである。
「ここなら、俺以外は武器を使えないし、影も将軍の体を借りずに存在できてるだろう?」
スッ…
スッ…
「確かに…、そうですね。」
空の言葉を確認するように、影は手を動かしたり少し身体のの向きを変えている。その表情と声には、少し驚きも含まれていた。
ここ、塵歌壺では、空が言うように、主たる空以外、より正確に言えば、空とその編成に入れた仲間達以外は武器を振るうことはできない。なので、塵歌壺に招待された状態の影に武器を持つことはできない。無論、刃物である包丁もだ。
さらに言えば、塵歌壺は影の一心浄土によく似た状態で存在している(どういう理屈であるかは置いておくことにする)。これならば、人形の"将軍"の身体を借りずとも、影は存在することができるのだ。
2人のやり取りを聞いているうちに、条件がぴったり合う場所を思いついた空が案内したのだ。これで、前のような惨劇じみたことは起こらないはずだ。
そう安心したところで…、
「早速だけど、サラダを作ろう!」
「サラダ、ですか??」
「うん。簡単だし、食材を手で千切ればできるから。」
空の提案に、きょとん、としながら首を傾げた影は尋ねた。その様子に、解説を始める空は、さながらお料理教室にて授業をする先生のようであった(料理を教えているので、間違ってはいないだろう)。
恐らく影は料理に関しては初心者であること。
そして、万が一に備えて、今回は包丁を持ち込んでいないこと。
これらを考慮して考え出したメニュー、それがサラダである。
「でも、失敗したら食材が…。」
「大丈夫! 俺の知り合いの腹ぺこな占星術師にあげるから。」
以前の惨劇じみたことを思い出して気がかりなのか、尚のこと不安そうにする影に、空は追加で説明していく。失敗しても大丈夫だ、と伝える為だ。そのうち、空の脳裏にお腹が鳴るのを我慢するモナの姿が浮かんできた。
「そう、でしょうか?」
「うん! 最近、割引とは言え新しい服を買ったから金欠だって言ってたし…。」
さらに話しているうちに、前にプラネタリウム予約金で得た三割引きクーポンで新しい服を買ったんです!と衣装を見せながら嬉しそうに話すモナの姿が思い浮かぶ。良かったね、と言う空の言葉にますます笑みを深くするモナを見てから、次に持っていく食事は品数を増やしていこう、と決めていたのだ。
「えぇっ?? その人は大丈夫なんですか? その、色々な意味で…。」
「大丈夫だよ。定期的に料理を作って持っていってるから。」
驚きに目を見開いて心配そうにする影に、空は時折モナの様子を見に行っていることを説明した。いくら私でも、サラダだけでは流石に味気ないです!という不満げなモナの声が聞こえたような気がするので、それを払い除けるように手を素早く動かしながら、空は付け合わせに鳥肉のスイートフラワー漬け焼きを足そう、と考えた。
「………あなたが作った料理なら、きっと美味しいでしょうね。」
ぽつりと呟いた影の表情が、何故だかとても寂しそうに見えた。それを励ますように、空は次なる言葉を紡ぐ。
「俺は普通に作ってるだけだよ。でも、強いて言うなら…。」
「??」
「相手を想って作ること、かな。」
「相手を、想う…。」
空の言葉に、いつの間にか伏せていた顔をハッとしたように上げた影はその言葉を反芻していく。
それは、空が誰かに料理を作る上で心がけていることだった。料理を作っている過程は楽しいし、何より完成すれば達成感がある。だが、それ以上に空が嬉しいのは、食べた人の笑顔を見ることだ。
美味しい、と言いながら笑顔を浮かべているのを見ていれば、嬉しくなるし、何より次はもっと美味しく作って喜んでもらいたい、と言う気持ちになるからだ。それは、相手を想って作る時ほど、作った時に自然と気持ちが入るのか、美味しい、と言ってくれる時が多い気がするのだ(恐らく、それが空が料理が上手と言われる由縁であるだろうが、本人は気付いていないだろう)。
だからこそ、空は相手を想って作ることをより一層心掛けていて料理を作るのだ。
美味しい料理と笑顔。
それは、"食"に対して何より大事なことである、というのが空の持論だ(まぁ、半分は香菱の受け売りではあるが、彼女ならきっと同じ考えであることを喜んでくれるだろう)。
「素敵なことですね。」
スッ…
空の言葉に、顔を綻ばせた影は、サラダの材料であるキャベツを手に取った。
ちぎって、
器に入れて、
またもちぎって、
さらに器に入れて…。
それを何度もやりながら、彩りとして緋櫻毬や鳴草を付け加えていく。
やがて…
「……でき、ました…。」
時間をかけて、ようやくサラダが完成した。余程嬉しいのか、出来上がったサラダを驚きと喜びが入り混じった目で見ながら、影は感激の声を漏らした。あまりに感動して打ち震えているのか、その声量は普段よりも小さくて、口元を両手の人差し指と中指で隠すように覆っている。
本来であれば、サラダの材料はキャベツ以外に、半熟たまご、切ったりんご、茹でたじゃがいもである。空がその他の食材を用意してもよかったのだが、今回は万が一に備えて包丁はしまっているので、それらの食材は入れていない。それに、あくまでも影の力だけで…、とアドバイスのみをして、見守りながらも手助けはしなかったのである。
幸い、食材の棚やバッグに緋櫻毬や鳴草などの稲妻の特産品もあるので、彩りも兼ねて入れたのである(一応、食べられなくはないはずなので、大丈夫だろう)。
(私が、料理を作ることができたなんて…)
目の前の全体的に淡い色合いになったサラダを見つめながら、サラダを作っていくうちに脳裏に浮かんだ記憶に、影は打ち震えていた。
それは、影が影武者をしていた時、つまりは、まだ眞が居て、神子が宮司でもなかった頃だった。
あの頃から、影は料理を作ることに対して苦手意識を持っていた。どちらかと言えば、眞が料理をすることが好きで、そんな眞が作ってくれた三色団子を始めとするお菓子を共に食べることが何よりの幸せであった。あまりにも影が美味しそうに食べているので、それを欲しがる神子にも小さく小さく切り分けて一緒に食べるほどであった。
影も、気が向いたら作ってみたらどう?
作るのも結構楽しいわよ。
そう言葉を投げかける眞に、そういうことは眞が向いているから、と言って遠ざけていた。あの頃は、眞の"影武者"としての役割を全うすることが最優先だと考えていたからだった。それを聞いて、そう…、なら仕方ないわね、と寂しそうに微笑んでいた眞が思い浮かんだ。
いつか、そのうちに…。
だが、眞を失って、人形の"将軍"を作ってからは、そんな考えが浮かぶ余裕すら無かった。
目の前に居る旅人の少年が、影の気持ちを変えるまでは…。
稲妻の目狩り令や鎖国令を解除して、神櫻の異常を調査するうちに、眞の気持ちを知ることが出来て、気持ちに余裕ができた影は、今なら、眞の気持ちが分かるのではないか、と思って料理を教えて欲しい、と空に頼み込んだのだ。
その考えに至ったのは、木南料亭に追加された新メニューであるピザ、それが実は空の考案である、と聞いたからだ。他にも様々な場所で、空が料理が得意であることを聞いたからこそ頼み込んだのだ。
しかし、影は失念していた。
"将軍"の機能は、料理をするにも影響があることに…。
何せ"将軍"を作った時には、この先料理をすることになるとは想定していなかったのだ。その為、数日前は空とパイモンに迷惑をかけてしまった。だが、2人は呆れることなくむしろいい方法が無いかを考えてくれて、現在に至る。
(これを眞は伝えたかったのですね…)
そうして、影は、空が言っていたことも含めて、眞が伝えたかったことがようやく分かった。
料理をした後の達成感。
誰かを想って料理を作ること。
それを誰かと一緒に食べること。
それは、こんなにも幸せで尊いことなのだと…。
だからこそ、眞はあんなにも笑顔を浮かべていたのだ、と………。
気付くのには、遅すぎたかもしれない。だけど、やっと分かった? 結構楽しいでしょう??と不思議と眞の声が聞こえてくるような気がする。
それに…
(だからこそ、神子も欲しがっていたのですね…)
三色団子を食べている影に、欲しがっていた神子の行動にも納得がいった。食べるだけなら1人でもできるが、それを共有するのであれば、もっと美味しくなる。それを神子は知っていたのだ。ふと、時期を考えてある考えがよぎった。
(これは、神子にも食べてもらいたいですね…)
「影。初めて料理を作れた感想は?」
様々な想いを浮かべているであろう様子の影に、空は微笑みながら言葉を投げかけた。
「凄く…
凄く嬉しいです…!!」
空の問いに、影は微笑みながら答えた。
それは、影が髪飾りとして着けている桔梗の花のように、たおやかでありながら溢れんばかりの喜びに満ちた笑顔であった。
雷神でも、将軍でもない。
ただ自身で料理を作ることをやり遂げた。
そのことに、無邪気な少女のように喜ぶ影の姿があった。
その姿は、見ているこちらも幸せをお裾分けして貰ったような気分になるほど、とても微笑ましいものであった。
こうして、影はサラダを作ることに成功した。
後に、なぜこれだけ一生懸命作ったのか、なぜあれだけ必死だったのか。
それは、眞の気持ちを知りたかったからだということ。それに、そう遠くない日に誕生日を迎えるとある狐耳の宮司の為だったことが分かった。
また、その準備の最中、件の狐耳の宮司が影の誕生日を祝うために訪れて、自身の誕生日をすっかり忘れていた影を見るのは、まだほんの少し先の話である。
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