【タル空】静謐なる場の攻防

西風騎士団の図書館で、本を読んでいた空くんが偶然タルタリヤと会うお話です。

・いつにも増してちょっかいを出すタルタリヤがいます
・西風騎士団の図書館にタルタリヤが思いっきり入り浸っています
・テイワット文字と漢字、ひらがなについて完全自己解釈気味です



西風騎士団の図書館にて。

ペラ…
(たまには、こうしてゆっくり本を読むのもいいな…)

本を1ページめくった空は、読むことに夢中になっていた。図書館のような場所は、空にとってテイワット大陸を知ることができる貴重な情報源のひとつである。それに、物語を読むことも楽しみであるのだ。

スッ…
ガタッ

(………? 何だか見覚えが……)
フッ

そんな読書に夢中になっている空の向かいの席に座る影が視界にちらついた。それが何やら見慣れたものであったので、気になって顔を上げて見てみると…

ニコッ
ヒラヒラ

左手で頬杖をついて、笑顔を浮かべながらこちらに右手を振るタルタリヤの姿が映った。

「…!!」
(な、なんで、タルタリヤが…!?)

驚きに声をあげそうになる空であるが、口元に手を当てて寸でのところで思いとどまった。流し目でリサがいるであろう貸出カウンターを見る。しかし、立て札で"休憩中"とあったので、口元に当てていた手を下ろすと同時に、胸を撫で下ろした。

ホッ
(何とか大丈夫そうだな…)

もし、大きな音を立てようものなら、図書館の決まりを破ることになり、同時に、リサの怒りの雷を浴びることになり得るからだ。

(それにしても…!)
キッ

カキカキ

元凶であるタルタリヤを睨みながら、空は手元にあった紙とペンを取って

スッ

"何でいるんだ"

そう書いてから彼に見せた。筆談にて問いかけてきた空の行動に、最初は驚きに目を丸くするもののすぐに"面白そう"と言わんばかりの表情を浮かべて、タルタリヤは手近にある紙とペンを持った。

そして、同じく筆談にて

"ちょうど通りがかったから"

と書いた。

"ここがどこか分かっているのか?"

"分かってるよ"

"ならリサさんが戻る前に帰れ"

"つれないな〜"

(このままだとまだまだ居座りそうだな…)

そうしてしばらく筆談をしていたが、黙っていても楽しそうに笑う表情が分かるタルタリヤの様子から埒が開かないと悟った空は、最後の筆談にするつもりで、漢字とひらがな構成で、

"だったら本でも読んでろ"

と書いた。

空が書いた紙をわくわくした様子で受け取ったタルタリヤはその文字を読んだ。しかし、読んであろう瞬間、困惑の表情を浮かべて首を傾げた。何故なら、テイワット文字とは違う見たことがない読めない文字だったからだ。

ジッ

トントン

(知るもんか)
プイッ

そんなタルタリヤは助けを求めるように空を見つめた上に、本を持つ手を軽く叩いた。しかし、空は知らんぷりを決め込んでそっぽを向いた。

しかし…

スルリ…

ビクッ!
「っ?!」

手に感じるくすぐったい感触に、空は身体を震わせた。

バッ
(な、何……、!!)

困惑する空が顔を向けると、原因はすぐに分かった。

タルタリヤが、本を持つ空の左手に、指を滑らせていたからだ。

より正確に言うと、人差し指と中指を添わせている。どうやら、空が答えないので、悪戯をすることにしたみたいだ。

ニコッ

その証拠に、こちらを向いたことが嬉しいのか、ますます笑みを浮かべている。そして…

ツツツ…

「……!!」
(く、くすぐったい………!)

フル…フル………

その状態のまま、ゆっくりと指を滑らせてくすぐってくる。そのこそばゆさに何とか耐えて首を力無く横に振る空は、これが終わってくれるように祈る。しかし…

スッ…

ツツツツツ…

(………っ!!!)

そんな耐える空の反応が気に入らなかったのか、タルタリヤは指を離して、手のひらをパーにして広げてから、5本の指でなぞる、と行動をエスカレートさせてきた。

ススス…

(…も、もう……、無理だ………)

くすぐったさが倍増した空は、何度も行き来してなぞってくる指に耐えられる気がしなくなってきた。そして…

パタン…
「…………ぁっ………。」

途中から読むことができなくなっていた本を支えられなくなって、机に軽い音を立ててしまう。それと同時に、くすぐったさに耐えきれず漏れた声を小さく発してしまう。それは、ほぼ吐息にも等しいもので本が机に触れる音に掻き消されるほどに、ささやかなものであった。

ハッ!
(い、今…、俺から変な声が出たのか…??!!)
チラッ

我に帰った空は、出した声が、周囲に聞こえていなかったか、その最短距離にいるタルタリヤを恐る恐る見上げた。すると…

深い青の瞳を大きく見開いて、手を離して固まっているタルタリヤの姿があった。

その様子から、先程空が発した声を聞いていたことは明白であった。

(〜〜〜〜っっっ!!!)
カァァァッ…

そんなタルタリヤの反応に、改めて自分の発した声のことやそれを図書館で発してしまったこと、そして、タルタリヤに聞かれてしまったこと、様々な要因によって羞恥を感じた空は、顔を真っ赤に染め上げていく。そして…

ガタンッ

キッ!!
(お前のせいだからな!!)

バッ

スタスタスタ

羞恥に耐えきれなくなった空は、思いっきり立ち上がって抗議の意味を込めて睨んだ後に、タルタリヤから紙を取っ払って立ち去っていった。

(しまった、やり過ぎたかな…)

空が去った後、残されたタルタリヤはしばらく固まっていたが、ようやく我に帰ってから、空の様子を思い出す。

本を真剣に読む姿。

筆談の為、紙に文字を書き込む姿。

タルタリヤの悪戯に耐える姿。

そして、漏れた声の羞恥によって赤く染まった顔で睨むその瞳は、うっすらと涙が滲んで潤んでいて…。

ズル…
(反則だよ…、空………)

悪戯を仕掛けたのはこちらであるのに、それ以上にお返しを食らった気がしたタルタリヤは、空の可愛らしくなった姿を思い出して身悶えるうちに、机に突っ伏すのだった。

-END-

いいなと思ったら応援しよう!