【タル空】包み込む
手が荒れた空くんの手をケアするタルタリヤの話です。
・空くんが手が綺麗なことにコンプレックスがある設定です。
・空くん乙女度マシマシ
・タルタリヤの空くん好き好き度もマシマシです(何言ってるんだ)
「それにしても、空が手袋を外してるなんて珍しいよね!」
「何だよ、いきなり…。」
「ははは。何となく、ね。」
タルタリヤの唐突な問いに、空は訝しむ様子を見せるが、タルタリヤ本人は気にした風でもなく快活に笑っている。
現在、タルタリヤの大きな手は、空の両手を包み込むようにして塗り薬を塗っている。
というのも、空の手が少し乾燥気味で、手袋を外して様子を見ていた時に、偶然尋ねてきたタルタリヤが、塗り薬を塗ることを提案してきたのだ。
最初は断ろうとした空である。いくらなんでも、ハンドクリームを塗るくらいは自分でできるし、わざわざ塗らなくても…と抗議したからだ。だが、満遍なくやったほうが効果的だよ? と言われてからは、返す言葉が無くなってしまったのである。
その言葉の裏に、"手早く済ませて他のことをやるつもりだろ?"というのが透けて見えて、図星であったのだ。確かに、まだやらなければならないことがあったので、素早く塗布して、はい、終わり!と済ませるつもりであったのだ。
見抜かれていたことにも驚愕するうちに、丸め込まれてしまって、あっという間に、手袋を外したタルタリヤの両手が空の両手を包み込んでしまったのである。
それに、空にはもうひとつ、断りたい理由があった。
それは…
「あ、あんまり、ジロジロ見るなよ…。」
バッ
「なんで?」
ガシッ
塗り終わったタイミングを見計らって、両手を離すもののそれ以上に素早い動きで、再びタルタリヤの両手に包み込まれてしまった。
「だって、こんな手、恥ずかしい、から。」
その速さに驚きながらも、空はたじろぐ。
実は、空は自身の手に対して、密かにコンプレックスを感じているのだ。
まだ、少年特有の華奢さが残るそれは、すらりと綺麗な指先ながらも、大きさとしてはまだ小さい。流石に同年代の異性と比べたりすれば、男女差もあって、空の方が大きい。しかし、比べる対象が同年代の同性となると、どちらかといえば、空は華奢な部類に入るのだ。
それが、空にとってはひどくもどかしいのだ。
それに、こうして、青年であるタルタリヤの手と比べると、その差は歴然である。空の手をすっぽり包むような大きな手は、すらりとした長い指をしてながらも、戦闘狂のタルタリヤらしく歴戦の戦士のように強く骨ばっていて、男らしい手だといえる。
だからこそ、空は余計にコンプレックスを感じてしまうのだ。
それに…
(取りこぼしてきたことだって、多い…)
旅路の最中、己の無力さを感じることも多々あった。それが、まるで、掬い上げた砂が指の合間から滑り落ちるような虚しさを空に与えていた。それは、空自身のの手の小ささも相まって、ますますコンプレックスを強く感じるのだ。
スッ
「そんなことないよ?」
スルッ
だが、そんな空の不安を感じ取ったのか、タルタリヤは、一旦両手を離してから、空の左手に指を全て絡ませるように握る。
所謂、恋人繋ぎ、と呼ばれるものであった。
「!!」
その温もりと感触が、お互いに手袋をしていない分、ダイレクトに伝わってくることに空が困惑する一方で、タルタリヤは構わずに続けた。
「この手は、困っている人をたくさん助けてきた温かくて優しい手だ。それに…。」
「そ、それに…?」
言葉も表情も真剣なタルタリヤに、空は恐る恐る尋ねた。その様子が、まるで、巣穴から様子を伺う小動物のようで、タルタリヤは微笑む。
そして…
スッ
「空の手、凄く綺麗だよ??」
スルリ…
微笑みながら、絡ませた空の左手から一旦指を離したタルタリヤは、今度は優しく掴んでから頬擦りをする一歩手前まで引き寄せた。
その際、言葉を紡ぎながら一段と安心したような笑みを浮かべた。
ボフンッ
(〜〜〜っっっ………!!!)
「か、からかうなよ!!」
バッ
「え〜? 本当のことなのに…。」
一気に顔を赤く染め上げた空は、羞恥に達して手を離した。案外すんなりと離したタルタリヤも、先程の真剣な様子から一変してあっけらかんと言葉を紡いだ。
(これだから、油断ならないんだ!!)
バクバクバクバク
高鳴る鼓動と一向に引かない熱に混乱しながらも、心につっかかっていた何かが解れたことに、悔しがりながらも安心する空であった。
-END-