こんなに見え辛いのか…


塵歌壺である物を見つけて試そうとする空くんのお話です。
めっちゃ短いです。

改めて、タルタリヤの仮面について考えてみたら、めちゃくちゃ視界悪そうだな…、と思いついたお話です。


塵歌壺にて。


リビングのテーブルには、ぽつんと置かれた仮面がある。

それは、いつもタルタリヤが、髪飾りのように頭に被っている仮面であった。

ギョッ
「あいつ、なんて忘れ物してるんだ…!?」
パシッ

それを見つけた空は、驚きに目を見開きながら仮面を掴んだ。

いつもは、タルタリヤの頭に髪飾りのようにぴったりフィットしている赤いそれは、邪眼発動時には、不思議なことに瞬時に彼の顔に装着される。

ふと、その場面を思い返して、疑問が湧いてきた。

果たして、そうした場合の視界はどうなっているのか、と…。

キョロキョロ

(ちょっとだけなら…)
スッ

好奇心に駆られた空は、周囲を見て塵歌壺に時折出入りする仲間達など、誰もいないことを確認する。

そして、仮面を着けてみた…。

スッ…
「め、めちゃくちゃ見辛い…。」

実際に着けてみると、仮面の視界はほぼ見えない状態に等しい。

平時ならともかくとして、雷元素の邪眼を発動した時や魔王武装を纏った時のタルタリヤは、一体これでどうやって闘っていたのか疑問に思うほどだ。

(よくこんな状態で戦えるな…)
フラ…フラ……

そう思う空の足取りは、とてもおぼつかないものとなっている。その様子は、まるで、好奇心から筒状の何かを覗き込んだ結果、抜けなくなってしまった猫のようである。

そんな危なっかしい足取りをしている空であるが…

ガチャ
「おかしいな…。一体どこに…。」

「!!」
ビクゥッ!

聞き覚えがある声を聞いたと同時に、盛大に肩を揺らした空は、思わずその場で立ち止まる。

何故なら、聞こえてきた声は、仮面の持ち主であるタルタリヤの声だったからだ。

「「……………。」」

声がした方へゆっくりと振り返る空であるが、案の定、閉鎖的な視界では、タルタリヤの姿は確認できない。

しかし、お互いに無言でいる故に作り出されたやや不自然に静かな空間は、タルタリヤが、空の行動を見た上で言葉を失っている、と彼の様子が解釈できるほどであった。

「わ、悪い!!」
あたふた

その沈黙を破った空は、声を出しながら慌てて仮面を取ろうとする。

ギュッ

ズルッ

「!!」
グラッ

しかし、元々ふらついていた足取りのところに、足を急に動かしたせいでもつれてしまう。それが、床に敷いていたカーペットの布のたわんだ部分をを踏みつけてしまった。

(や、やばい…!!)
ぎゅっ

身体が傾いていく感覚に、空は仮面の下で思わず目を瞑った。

すると…

ポスンッ

「…っと、大丈夫?」

「………っ!?」

床に激突したような衝撃はなく、代わりに軽い衝撃を感じると同時に布擦れの音を耳にした。その後に、頭上からタルタリヤの声が聞こえてきた。

どうやらタルタリヤに受け止められた後に、抱きしめられている体勢になっているようだった。

「あ、あぁ。悪いな…。」

(は、早く離れないと…)
モゾモゾ

言葉を紡ぎながら空は離れようと身体を動かす。

だが…

ギュッ
「!!??」

「こーら。そんなフラフラしてるのに、離れたら危ないよ??」

まるで離さないと言わんばかりに、タルタリヤにますます強く抱きしめられるのだった。

「……っ、も、もう平気だから離してくれ…!!」

「え〜? どうしようかな〜…。」
ムギュギュッ

慌てるように声を出す空に、楽しそうな声を出したタルタリヤは、ますます抱き締める力を強めた。

「って、それ以上力を入れるなっ!!」

「あははは。だって、空、ジャストフィットだからさ〜。」

「そんなことない! だから、離れろって…!!」

その後の数分間は、まるで抱っこを嫌がる猫のように、両手を伸ばして離れようとする空であったが、その努力虚しく、抱き枕のごとくタルタリヤに抱きしめられるのであった。

その間、タルタリヤは満面の笑みを絶やさなかったが、空の視界は仮面によって覆われていた為に、それを知る由はなかったという。

-END-

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