ぼくの愛しの知的障害へ
ぼくの彼女は知的障害
12歳年下
一般的に言う"一回り違う"ってやつ
彼女とはライブハウスで出会った
同じ出演者で、メイキャップしてる時鏡越しで話したのが初めて
話してると、食べ歩きが好きって知って意気投合
それからたまに会ってご飯を食べに行くようになった
その最初の回で、彼女には知的障害がある事を聞いた
それも2番目に重い障害・・・
10月の寒くなった日、友人と夜遅く歩いて色んな話をしながらスーパーに買い物に行った
電話がかかってきた
彼女からだった
「私と付き合ってほしい」
そう言われた
それから、ぼくらは彼氏と彼女になった
彼女は出会った時から会うたびに、実家を出て一人暮らしをしたいと言った
彼女の子供の頃からの家庭環境や今の生活を聞いて一つ決断をした
「俺んちに来てもいいぞ」
年が明けた1月の上旬、マフラーとゴワゴワの服と暖かそうなブーツタイプの靴を履いて、キャリーバッグとリュックサックを背負い、彼女はぼくんちへ越してきた
同棲開始1日目
全然普通の女の子じゃん
同棲開始1週間
ん?やっぱ障害あるかも
同棲開始1ヶ月
やっぱ知的障害あるな
同棲開始1年が経った頃ぼくは、重めの知的障害がある事をしっかりと悟っていた
越してきた時は26歳で、全くと言っていいくらい何もできなかった彼女
ご飯は炊けない、茶碗の洗い方も知らない、包丁は持てない、卵焼きも掃除も洗濯も寝床の上げ方も全く知らず、服を着て食べて仕事に行って風呂に入って寝る事以外は全く何もできなかった
ぼくは彼女には家事や炊事などを愛を持って気長に教えてくれた人がいなかったんだろうと思った
ぼくは厳しく、そして優しく愛を持って彼女に教えていくことにした
ただただ頭ごなしに怒って見放してはダメなんだ、こういう事は
食事前のテーブルの拭き方、こぼしたり落としたりしたらちゃんと拾ってゴミ箱に捨てる事
目玉焼きの作り方、卵焼きの作り方、ご飯の炊き方、包丁の持ち方、炒飯の作り方、揚げ物の仕方、掃除機の掛け方、拭き掃除の仕方、電子レンジの使い方、洗濯機の使い方、洗濯物の干し方に畳み方、布団の敷き方に上げ方、風呂の掃除の仕方に溜め方
とにかくほぼ全ての家事や炊事を教えた
同棲開始から2年間はぼくなりに愛を持って、嫌われるのも覚悟の上で、厳しくもしたしその後はちゃんと優しくフォローもしてきた
3年が経過する頃、ぼくは新しいやり方も一つ取り入れた
ここまで真剣に一つ一つのことを教え、指摘し、良いところは「良い」と、不出来な所は「もう少しこうやってみろ」と言ってきたけど、それでも本人が気づかずやってる失敗やできない事がやはりある
それに関してはもう彼女の努力の範囲ではないんだなと確信し、フォローする事にした
彼女は3年間頑張ってきた
ぼくはそれをよく知ってる
よくぼくのきつい言い方にも耐えてきたと思う
今では掃除も洗濯も料理も、ぼくの2倍近く時間はかかるけど、ほぼ普通にできている
自分の翌日の弁当も作れるようになったし、ぼくが夜勤から帰宅し、自分がその日休みであれば早くから起きて2人分の朝食を準備して、布団を上げて洗濯物を回してるほどに
ぼくの彼女への愛が伝わったのか
彼女は今でもぼくが好きだと言ってくれる
基本的に、彼女に色んなことを教えたからと言って見返りは期待しないタイプなんだけど、ぼくの事を少しでも思って作ってくれた野菜炒め、家で晩酌を始めた時こそっと作り始めてくれるちょっとしたおつまみ、疲れて夜勤前に寝てる時済ませてくれてる食器洗いにぼくは、一回一回感謝してる
それを口に出して伝えている
ぼくは、彼女と結婚する事に決めた
彼女に知的障害があるとか関係ない
ぼくは彼女を愛している
そして彼女もこんなうだつの上がらない奴を愛してくれて、いつまでも一緒にいたいと言ってくれる
ぼくが彼女に3年半かけて蒔いた愛が育って、今大きな花を咲かせようとしてる
Dear.ぼくの愛しの知的障害へ