見出し画像

【エッセイ】「やめなよ、そんな人」 という女たち

「やめなよ、そんな人」
平日の昼下がりのカフェ、金曜日夜の洒落たバーで開かれている女子会の参加者の興味は、専ら他人の不幸な恋愛談だ。
そんな談義の落とし所のキメ台詞は決まって「やめなよ、そんな人」

そんな恋愛談をする歳でもなくなった私は、近くで女子会が開催されていると、昔の自分を懐かしむように耳を傾けてしまう。

今では友人たちと集まった時(「女子会」などとはとても言えない)の話題の相場は「育児家事を手伝わない旦那の悪口」だ。
それぞれが、参加者を楽しませるために用意した「旦那のダメなところ」を披露しながら、心のどこかでは、「あの人の旦那よりうちの旦那はマシだ」と、この結婚が"間違い"ではなかったことを確かめ続けている。

そんな確かめ合戦に飽き飽きしている私にとって、若い女の子の"女子会"に耳を澄ませる事は、一時的にタイムスリップをしているようで、趣深いのだ。

そんな"女子"による"女子"のための"女子会"の話題は、新たに始まりそうな恋愛や、"ダメ彼氏"の恋愛相談が相場。
恋愛の始まり特有の甘酸っぱいドキドキを思い出して追体験したり、"ダメ彼氏"のエピソードを引き出して、「彼氏がいない方が」「今の彼氏の方が」マシだと確認をしている。
その確認は、女子会の参加者全員が目標としている「結婚」の先も続くとは知らずに・・・

女子たちは、「友達の事を思って」という大義名分にかこつけて、「そんな人、やめなよ」と自分の中の正義を振りかざす。
女に生まれた私は、一生の中で何度この言葉を聞いてきただろうか。

私は、この言葉を聞くたびにこう思わずにはいられない
「この人に、相手の幸せを決めつける権利はないのではないか」
このひとたちが「やめなよ、そんな人」と言うのは、
"一般的にみて"ひどいとされる行動を取る人のことだ。

例えば、風俗店を利用した既婚男性芸能人に対して「ひどい!」と意見をする人がいる。
しかし、もしかしたら相手の女性は「性的な関係は持ちたくないが、お金と知名度のある男性と結婚したい。夫の性的欲求は私には一切向けず、外で発散してきてほしい」という願望があったかもしれない。
その場合、この男性を非難することができるだろうか?

もしかしたら、「彼氏が浮気している」「仕事が忙しくて会ってくれない」と嘆く友人も、女子会への参加者を喜ばせるための話題を用意してきているだけで、本当は、手放し難いなにかを隠し持っているのかもしれない。
いや、なにかを持っている可能性の方が高い。
なぜなら、その友人は彼氏が浮気している事実を嘆いている今その瞬間まで、「彼氏と別れる」というカードを持ちながら、使っていないのだから。
もしかしたら本人もその"手放し難いなにか"がなんなのか、わかっていないのかもしれない。

そんな時は、ひとえに「やめなよ、そんな人」と一蹴するのではなく、その人が心に秘めているかもしれない"手放し難いなにか"を一緒に探してあげる方が友人として親切なのではないだろうか。

もしかしたら、その結果、「浮気されても付き合っていた方が幸せ」という着地になるかもしれない。
そんな時は、そんな友人を受け入れてあげるのも、友情だ。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?