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読書感想 失敗の科学
マシュー・サイド著『失敗の科学』を読んだ。
最初にショッキングな医療事故や航空事故の事例から始まり、人はどのようにして失敗するのか、どうすれば失敗を繰り返さなくて済むのか、また失敗を続けてしまう組織にはどのような問題があるのかということを、豊富な事例を参考にしながら解説していた。
私自身、医療業界に長く携わってきたので、この本で挙げられていた問題点はとても身近に感じるものだった。特に印象的だったのは、同じように人の命を預かる医療業界と航空業界の失敗への対処法の違いだ。医療業界では失敗を「運が悪かった」「仕方がなかった」と片付けてしまうことが多い。責任追及の文化も根付いており、問題を隠蔽しやすい土壌ができている。これに対し航空業界では、失敗の責任を追及するのではなく、誰もがその失敗事例にアクセスでき、共有し、学ぶという土壌が構築されている。その結果として、航空機事故は劇的に減少した一方で、医療事故は実態さえ正確に把握できない状況となっている。
確かに医療現場でもインシデントレポートやヒヤリハットなどのシステムを導入し、失敗を共有しようという試みは行われている。しかし、私が現場で働いている実感としては、これらの取り組みは表面的なものにとどまり、失敗を隠蔽してしまう根本的な組織文化の改革には至っていない。航空業界と医療業界では、その複雑さやシステムの違いなど様々な違いがあるため、航空業界で成功した事例をそのまま医療業界に持ち込んでも成功するとは限らないが、このような意識の改革を進めていかない限り、同じようなミスはずっと続くのではないかと感じた。
この本を読むことで、自ら失敗をすることと失敗を避けようと動くことでどのような差が生まれるのか、そして失敗を避けようとすることがどれほど恐ろしいことなのかということを実感した。この著書の中でも取り上げられているが、失敗を成功へと変えていける。成長。マインドセットを持たなければ、失敗はただの失敗のままで終わってしまう。失敗することが悪いのではなく、失敗を学びに変えられなければ事態を変えることはできない。失敗を悪いものと言う文化ではなく、成功するためのプロセスであると言う思考を根付かせていくことが大切だと思う。
「失敗は成功の母」という言葉自体は聞き覚えがあるが、この本はその言葉に科学的根拠と具体的方法論を与え、真に腑に落ちさせてくれる名著だった。
これは仕事だけではなく、プライベートにおいて、自分の人生をより良い方向に導いていくためにも使うことができる。どのような人が読んでも、自分の人生にとって参考になるのではないかと思った。