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4/8のワクチンの話の続き PART3(この話題はこれで完結)

前回は、


細胞の中で増殖するコロナをどうやって懲らしめるのか

で話が中断していましたので、続きをお話ししたいと思います。

この記事を始めて読まれた方は、是非、ワクチンのバックナンバーを見ていただけるとありがたいです。ついでにフォローやスキをしてくれると更に嬉しく、明日への活力となりますのでよろしくお願いします。

前回は、抗体が細胞膜を通過できない性質から、細胞の中で増えるウイルスにはどうやって対抗しているのやら、という話でした。

実は、細胞の中のウイルスを退治するシステムも人間は兼ね備えています。兼ね備えていなければ、いま僕がこの文章を書くことができなかったことでしょう。

まず、前提のお話を軽く、
ウイルスは好んで侵入する細胞があります。

正確に言うと、好んでいるわけではなく、ウイルスの足場となるタンパク質を発現している細胞に感染します。
細胞膜には、膜タンパク質という構造がそれぞれの細胞種に多様に発現しています。どんな細胞にも発現する共通の膜タンパク質は、大昔からあって生存するのに有利な生命を維持させるための根源的な機能があるものと捉えることができそうです。

ウイルスが吸着できるための足場の膜タンパク質を「レセプター」といったりもします。
例えば新型コロナウイルスだと、ACE2という膜タンパク質にコロナのスパイクタンパクが結合して、人間の細胞に侵入すると言われています。ACE2は呼吸器系の2型肺胞細胞、腸上皮細胞、血管内皮細胞、眼や腎臓の上皮細胞、肺胞単球細胞やマクロファージなど一部の免疫細胞、大脳皮質、脳幹などの神経系細胞などにも広く発現されています。しかし、全ての細胞ではありません。
ここでは、スパイクタンパクが鍵、ACE2が鍵穴の関係になると考えるとわかりやすいと思います。

ここで言えることは、
・ACE2を多く発現する細胞ほどウイルスが侵入しやすい。
・ACE2を発現しない細胞には、ウイルスは侵入できない。

ということです。
このようにウイルスが侵入する細胞に違いがある様を「トロピズム」と表現します。

全ての細胞に多量にACE2を発現していたら、一気にウイルスの感染が広がって人間は死んでしまいます。でも実際にそれがないのは、そうではないからです。

ACE2は普段、血圧を下げるために機能している酵素なのですが、主に呼吸器系に分布しています。なので、呼吸器系から侵入できるのです。更には、呼吸器系の細胞が多量にやられてしまうと、ウイルスが血中に放出されてしまいます。
血流に乗ると血管を内張りする内皮細胞へ侵入して、それを壊すこともあります。それが壊され炎症が起こると、免疫が作動して、ウイルスの伝播を抑えるべく粘度の高い血液で固めてしまう反応が起きたりもします。(血液凝固の本質的な機能は、非自己からの攻撃に対する防御の役割なのです。)
これがコロナ感染やワクチン接種で血栓症が起こる原因かと思われます。

その他にも、腸上皮細胞に感染すると、消化吸収機能が落ちて、下痢が起こることもあると思います。神経細胞に感染したら、無菌性髄膜炎という状態も起こしえます。

ここまでしつこく説明すると、ウイルスの感染様式と感染するとどうなるかが納得されたのではないでしょうか。

他の有名な例では、HIVはCD4陽性のTリンパ球とマクロファージという細胞に選択的に感染します。
CD4陽性のTリンパ球は、免疫における指揮者(コンダクター)のような役割を持っているので、HIVを野放しにすると、感染がどんどん広がり、人間の免疫がずたずたにやられてしまいます。HIVの感染によって起こる病気をAIDSと言いますが、AIDSが後天性免疫不全症候群と呼ばれるのはこのためです。

余談ですが、以前中国で、HIVのレセプタータンパク質をクリスパーキャス9という特定の遺伝子をノックアウトする技術を用いて壊し、HIVに感染しない子どもが誕生したというのが問題視されていました。

このように、ウイルスには足場が必要なのです。

次に、特定の細胞に侵入したウイルスは自分の遺伝情報であるRNAを細胞内で放出します。
人間のタンパク質を作る装置であるリボソームは、そのRNAがウイルス由来か人間由来かを判断することはできないので、悲しいかな、ウイルスのボディを作ってしまうのです。

ここで、人間の細胞のすごい機能を紹介します。

細胞内で作っているタンパク質は、その欠片を定期的に細胞の表面に出して自分の免疫のチェックを受ける仕組みを持っています。

定期的に出される宿題のようなもので、自分で書いた解答は先生にバレることはなく採点されるのですが、時間がなくてお父さんやお母さんなどにお願いして作った解答を提出すると、あまりにもできが良くて先生にバレますよね。このように、異質な存在は敵を見分ける際のマーカーとなります。

自分の体に持っていないタンパク質を分解して、そのかけらを細胞膜のところに出している提示した細胞がある場合、それは免疫によって検知され、しまいにはその細胞ごと死んでもらうように誘導されます。

その免疫細胞は主に2種類があり、「細胞傷害性T細胞(CD8陽性Tリンパ球)」と「ナチュラルキラー細胞」と呼ばれています。この免疫細胞は、ウイルスが感染して病魔に侵される自分の細胞を見つけたり、がん細胞を見つけると、それらの細胞の自殺幇助をしてそれ以上ウイルスが拡散しないようにしています。これがアポトーシスの誘導と言われるものです。

昔の時代劇でいうところの水戸黄門の「助さん」「格さん」あたりに該当する、これらの免疫細胞はウイルスの脅威に打ち勝つためにとても重要な実用部隊としてのキャラクターを持っています。ちなみに、黄門様は誰なのかというと、先程登場した「CD4陽性Tリンパ球」がそれにあたると思います。

ワクチンを接種すると、抗体を作るB細胞だけでなく、実はT細胞も活性化されるのです。ひとたび、対象の病原体を排除できると、メモリーB細胞、メモリーT細胞となって、次の襲撃に備え休眠状態で血液中を巡ります。何度も入ってくると、何度も活性化されて、よりパワーアップします。これがワクチンを追加接種する理由です。

ワクチンを追加接種することをブースターといいますが、ブースターはロケットが打ち上がった後の、二段階目のジェット噴射状態を表す言葉としても知られています。

B細胞が作る抗体は体液に存在することから「(体)液性免疫」といい、
T細胞はウイルス感染細胞を倒すので、「細胞性免疫」と呼ばれます。

この用語は多分生物の教科書とかにも載っている、意味分からないけど覚えたという単語なのではないでしょうか。ただ、この記事を読んで頂いた方はもう液性免疫と細胞性免疫をマスターされたと思います。マスターしてもいいことはないかもしれませんが。

まあそんな感じで、ウイルスと免疫の戦いや、ワクチンのあれこれを終了します。

ワクチン関連の話は分子生物学の一部ですが、昨今の情勢では話題になりやすいため、今後もいくつかよくある疑問とその解説を紹介いきたいと思います。

それでは、ごきげんよう。

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