「CDUA-公安部情報資産不正利用取締局」企画書

●キャッチコピー
適切に扱われない情報は、ただの凶器でしかない

●あらすじ
まさにそれは婚活全盛期。
人手不足だ孤独死の増加だと騒がれる世の中に人が誰かと寄り添い生きるための手助けをする仕組み。それが国営化した結婚仲介業、婚活支援機構・通称『イーエス(Empathize for Someone)』だった。
しかし、俺はその裏に蠢く影を感じていた。大きな権力を持ったイーエスの仕組みを利用しようとする陰謀が渦巻いていると。
そして俺はある男『N』に遭遇する。Nは言う。「情報は武器にもなり、凶器にもなるのだ」と。
その時の俺は理解できなかったが、後で知ることになる。
やつが背負う使命。そして、Nこそが陰謀を穿つ、一筋の希望だと。
(著:サーペント城(じょう)『俺の婚活時代Ⅰ』より抜粋)

●第1話のストーリー
夕焼けの公園に響き渡る、鋭い平手打ちの音。
「婚活支援はもう結構!」と走り去る女性。
平手打ちを受けた南條公貴(35)は、もさりとした前髪の下のサングラスを直し、途方に暮れた。

南條は婚活支援機構・通称イーエスのエージェントだが、“不器用”、“無遠慮”、“(よく)ぶつかる”の『3B』を携える、カップル成立件数ゼロの落ちこぼれ。
しかし、社内貢献度(集計要素は一般社員非公開)はナンバー4であり、社内で不審がられていた。

そんな南條に上司兼親友の北御門優真(36)から連絡が入る。
「不正アクセスだ」と。
イーエスはあらゆる手段で収集した趣味嗜好を含むプライベートな個人情報の保有、参照権を持ち、それを不正利用する輩も存在する。
ワイドショーで『10年前、反政府組織「Adam」がイーエスに不正アクセスした!あれの真相は!』と騒ぎ立てるのは、コメンテーターのサーペント城(37)。

南條の正体は公安部情報資産不正利用取締局(Crack Down for Unauthorized use for Asset information)、略称「CDUA」所属の捜査官。
北御門、南條はイーエスの情報資産利用の監視のため潜入任務に就いていた。

翌日、南條は問題の部署に潜入し、小幡鳩子(23)と共にシステムエンジニア 鈴木祐介(35)の婚活支援に臨む。
婚活に乗り気でない鈴木に南條が発した言葉は「鈴木さんのご趣味は?」だった。
なぜ知っている情報を話題に?と問う鳩子に南條は答える。
「勇者の武器が木の枝だからって弱いとは限らない。情報はその人の装備で本質ではないからね」と。
鈴木の婚活は失敗に終わるが、鈴木は今は結婚より仕事がしたいと自覚。家族に自分の意思を伝えられたと晴れやかな表情で去る。

鈴木の様子を見て、ハイタッチをする南條と鳩子。
だが次の瞬間、素早い動きで南條が鳩子を拘束する。
不正アクセスの犯人は鳩子で、鈴木と相性の良い女性の分析結果を改ざんしていた。
前髪をかき上げ、鳩子を鋭く睨みながら南條は問う。「お前は何が不満なのか」と。
口を割らない鳩子だが、執拗に“鳩子の意思”を問う南條に「なぜ南條さんがナンバー4なのかわかりました」と不敵に笑い、ポツリと告げる。「Adamが果たせなかったことを我々Eveが成す」と。

「爺さんに汚名を着せた組織を、必ず壊滅させてみせる」
連行される鳩子を見送り、南條はきつく拳を握りしめた。

●第2話以降のストーリー
南條の唯一の肉親である祖父は無愛想で無口な武闘派。
そんな祖父がある日孤独死してしまう。
南條は祖父の日記から、祖父がある組織の人間と勘違いされ、孤独を感じつつ独りでいたことを知る。
その組織が「Eve」だった。
南條は祖父を孤独にした後悔を抱え、組織を追っていた。

鳩子の尋問の結果を待ちつつ今日も平手打ちをくらう南條に、怪しい影が付き纏っていた。
影の正体は、別れさせ屋「エンギリ」の首領、八代花(27)。
エンギリはその名の如く、イーエスとは対極の思想の組織。
SNSを巡回し、トラブルを抱えたカップルや夫婦を別れさせている。
花は南條に問う。「我々の組織に入らないか」と。
花曰く、イーエスの支援によってカップル成立したものの、その後のアフターケアが至らず、家庭内暴力や子供の育児放棄が発生しているという。
南條はイーエスの所属だがカップル成立ゼロ。もしかしたら同じ思想ではと考え、コンタクトを図ったという。
南條はエンギリに加担するふりをして、エンギリが持つ『アフターケアが至らなかったケース』の情報を奪取する。

南條は奪取した情報を元に、イーエスの内部不正の対処を始めた。
入手した個人情報で被支援者を脅迫し、恐喝まがいのカップル成立を強いていた、社内貢献度ナンバー3、東原健(40)。
個人情報を横流し、特定の被支援者にだけ有利に事が進むように画策した社内貢献度ナンバー2、西園寺彩也香(33)。
誰が敵で誰が味方かわからない状況の中、南條が唯一信じられるのは親友であり社内貢献度ナンバー1の北御門のみとなっていた。

そんな南條の前に、今にも倒れそうな状態の鳩子が現れる。
鳩子が告げたのは『北御門はイーエスの情報を不正利用する組織の一員』という衝撃の事実だった。
事実を受け止めきれない南條に、鳩子は物的証拠を突きつける。
鳩子は尋問の様子を秘密裏に撮影していた。そこには鳩子が強引な尋問に遭う様子と、仄暗い表情をした北御門の姿が映っていた。
鳩子は南條と接したことで、Eveの活動が本当に自分のやりたいことなのかを見極めたくなり、そのために南條の力を借りたいと訴える。
そして、自身が所属する組織「Eve」について語り始める。

「Eve」の大きな目的は、『女性へ自由を』だ。
子を成すことができるのは女性だが、女性だけが人財不足の対策を強いられるような婚活支援の風潮は無くすべきである。という思想であり、鳩子が課せられていたのは「特定の人物同士をマッチングさせること」だった。
鳩子は「結ばれた後に破綻しない相手とマッチングをさせるもの」と説明を受けていたが、南條に捕縛される直前にエンギリと接触。「Eveがマッチングした男女は消息不明になっている」という話をされたと語る。
そして、北御門は鳩子への尋問の様子から、Eveとはまた別の組織であり、別の目的を持っている可能性が高いと。
南條は鳩子を匿い、Eveの真の目的と、北御門の正体を一人探り、真実を突き止める。

Eveのトップは、婚活支援機構イーエスのトップ吾妻昭浩(68)。
最終目的は『優秀な遺伝子のみを選別し、選別した遺伝子を持たない人間をバイオテロにより一掃、世界の人口自体を減少させる』こと。
北御門は組織「ウロボロス」の所属。目的は『イーエスが持つ膨大な個人情報を用い、あらゆる経験則のデータを学習させたAIを構築し、AIを基盤とした社会を構築する』ことだった。
そして、南條の祖父である故人・南條重貴は吾妻の親友であり、ウロボロスの創始者の一人であったことが判明する。

真実を知った南條は北御門に詰め寄る。
北御門は人財不足を補う施策であると語るが、ならなぜ表立った活動を行わないのかと責める南條。
北御門には別の目的があったのだ。

北御門には死に別れた恋人がいた。
それを受け入れられなかった彼が目を付けたのがAIだった。完璧に恋人の経験を学習したAIを創ることができれば、恋人が帰って来ると考えた。
北御門はウロボロスに所属し、窃取したあらゆる情報を学習したAIで恋人を構築し続けたが、北御門の思う水準には到達できなかった。
ちょっとした癖、仕草、恋人とは違うそれを目にする度、彼は何度も恋人を模したAIを壊し、同時に北御門の心も徐々に蝕まれていた。
そして北御門は言う「お前が尋問したいのは、祖父のことではないか」と。
南條は親友の北御門にだけは、祖父のことを話していた。祖父が、独りでいることを。
北御門は南條を煽るように言う「彼から知識を得たかったが、役に立たなかったから僕が殺した」と。
激情に駆られる南條だが、寸でのところで殺意を抑え込む。
煽り続ける北御門に、南條は静かに告げた。
「お前が言う情報が正しいか、精査する。それが俺の仕事だ」と。
南條は北御門が疲れ切り、生を終えたがっていることを見抜いていた。
絶望する北御門を拘束した南條は、「Eve」の思惑を阻止すべく、動き始める。

南條は一人、吾妻を止めるために動いていたが、居所すら探れない状況となっていた。
そんな南條の元に鳩子から連絡が入る。
南條が内部不正で摘発したナンバー3東原とナンバー2西園寺から吾妻の活動拠点の情報が入ってきたという。
実は東原、西園寺はそれぞれ不正に手を染めた理由があり、南條は二人の不正を暴いた後、秘密裏に二人を逃がしていた。
二人の情報を元に吾妻の拠点へ向かった南條だが、時すでに遅く吾妻は姿を消していた。

すると、今度は「エンギリ」の首領、花からの連絡が入る。
SNSのアカウントを駆使し、吾妻の目撃情報を探れたという。
情報提供者の中にはエンギリによって救われた者はもちろん、南條に救われたという者もいた。心当たりがないと思いながら吾妻が目撃された現場に向かう南條。
その知らせを聞いた鳩子は一人微笑む。「南條さんって人に寄り添うから、抜群に高いんですよね。顧客満足度だけは」と。
情報提供者にはワイドショーのコメンテーターや仕事の大切さに気が付いた人、平手打ちを食らわせたが結果的に幼なじみと結ばれたという人もいたという。

ついに吾妻を追い詰めた南條。
南條は問う。「お前は何が不満なのか」と。
吾妻は旧友の面影を残す南條を睨みながら語った。
吾妻、南條の祖父・重貴、そして祖母の春恵の3人は幼馴染であり、吾妻と重貴は春恵を廻るライバルでもあった。春恵の心を勝ち取ったのは重貴だった。
しかし、春恵は親族から子供を強行に望まれ無理をし、二人目の子どもを出産した際、亡くなってしまう。
仕方のない事と受け止めてはいたものの、昨今の女性に出産を促す風潮に当時を思い出し、そもそも人間自体が少なくなればという思考に至ったという。
当初、重貴もEveに所属していたが、重貴は組織から抜けて行った。裏切りだと感じた吾妻はより過激に活動を行っていた。
執念に駆られる吾妻に南條は静かに告げる「きっと祖父はあなたを救いたかった。だから、ウロボロスに所属したのだ」と。
南條が手元の端末を操作すると、3D映像の春恵が映し出される。
それは、北御門が重貴の遺品の中から見つけ、復元したものだった。
生前の彼女そのままの姿を目にした吾妻は涙を流し、崩れ落ちるようにうずくまった。
南條は吾妻を逮捕、連行していく。

晴れやかな青空が広がるある日。
祖父の墓前で事の次第を報告した南條は、大きく伸びをして去っていく。

今日も青空の元、鋭い平手打ちの音が響く。

<了>