スタンディング オベーション
ひばりが翼を広げ飛んでいる。
ここは新緑が映える若草山。小学三年生の遠足で奈良公園を訪れていた。
東大寺では大仏の大きさに驚かされ、これでもかと多くの鹿が目に映る。
昼食タイムが始まった。
遠足に参加している生徒達は好きな者同士が輪を作り、『ワイワイ』と弁当を食べ始めた。
のどかな情景だった。
そんな時間は長くは続かなかった。
生徒の弁当を鹿が、『ムシャムシャ』食べ始めた。
鹿はどんどん増えていく。
女子生徒はそんな鹿に恐怖が湧いた。
徐々に泣き始め最後は、『キャー』と黄色い悲鳴をあげた。
若草山の傾斜を脱兎の如く先生が現れ、勢いのあまり鹿と一緒に滑落した。
先生と鹿はしばらく起き上がらない。
起き上がったのは先生だった。
そんな先生の隣りで横たわる鹿はそれからも動くことがなかった。
生徒達も他の引率の先生達も、みんな鹿が死んだと思った。
だが鹿は『ムク』と起き上がり滑落した急勾配を駆け上がって若草山に消えていった。
先生の勇気ある行動に、スタンディングオベーションが湧きあがる。
この先生の勇気ある行動によるものなのか?鹿が無事だったからなのか?
それとも両方に対してなのかはわからない。
それでも、『キャー』と聞こえてくる悲鳴がやむことはなかった。
鹿は他にもたくさんいたからだ。