華氏451度

 人は皆違うのに、同じ一つの目的に向かって競い合っている(心の中では)感じがなんとなくしていた。仕事では勿論それでかまわないが、プライベートでもつきまとうそれに、社会人になってから2年経とうとしていた今、うんざりしている自分にようやく気付かされたのはこの本のおかげかもしれない。
 この本に出てくるクラリス・マクラレンみたいな感性が自分にもっとずっと昔にはあったような気がする。いつしか、自分の人生にメリットにならないとする前から決めつけて日々淡々と過ごしていたから、最初この本を読んだ時、特に感想もなかった。でも何日か経った今こうして感想を書いているのは一体どういうことだろう。読み終わってすぐ自分の考え方とかモノの見方とかに速攻で影響する本もあるけど、もっと時間が経ってからじわじわと影響を与えてくれる本もある。自分は自分の感性が全く鈍っている事に気づかないまま過ごしていて、この本を読んでもはじめあんまり感想もなかった。でも数日経った今、じわじわと効き始めている。小説を読んでも、収入が増えるわけでもないし、交友関係が広がるわけでもないから、小説なんて読んだって無駄ですよと、誰かから言われているような気がして、周りは結婚やれ、国外旅行やれ、資格勉強やれ、料理教室やれ、前に向かって進んでいるのに、このおれときたら、一人自室に籠って小説なんぞ全くもって意味のないものを読んでいる。(いま文章にしたから明確になったけど、今までずっとなんとなく感じていた。)
上記のような呪いがかかっている事にすらはっきり気づかないままかかっていた。
その呪いを解いてくれたのは、本書だった。
 インターネットの普及によって世の中が広がったかと思いきや、影響力の強い人のショート動画ばかり拡散されて逆に世の中の価値が狭くなって、意味のないと切り落とされていくもののなかにこそ、自分にとってはかけがえのないものがあったはずなのにそれに気づかないまま無感覚に過ごしていたのは、反省すべきだと思った。 
 社会的にわかりやすい価値だけが、価値のあるものではないと思う。自分の感性を鈍らせてはいけないと強く訴えかけられた。

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