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映像制作会社が今すぐ試せる「実践的節税ガイド」

はじめに:映像制作業界のお金の課題について

映像制作業界は、かつてないほど需要が増大しています。
でも、だからといって十分な利益が出ている会社は、実はそれほど多くありません。

その原因は、一つは競合が多いことにもあります。
しかし、この状況はしばらく続くでしょう。

映像会社の生き残る戦略の鉄板は、しっかり財務のコントロールをしつつ、疲弊しないうちに会社の強みを作り出すことです。

そのために、締めるべきところを締め、新しい挑戦をするための資金を作り出す必要があります。

この記事は、「締めるべきところを締める」ために必要なことを書きました。

映像制作会社の企業活動と密接にかかわる映像制作、チーム形成、機材の購入、研究開発、補助金活用といったことについての節税ポイントを書いています。
ぜひ、参考にしてください。


1.制作費用の効果的な管理と計上

映像制作プロジェクトの成功には、クリエイティブな側面だけでなく、制作費用の効果的な管理と適切な計上が不可欠です。
以下に、重要なポイントをまとめます。

1.予算管理:
プロジェクト開始前に詳細な予算を立て、定期的に実際の支出と比較します。予算超過の兆候があれば早期に対応し、必要に応じて計画を調整します。
2.費用の分類:
制作費用を適切に分類することで、税務上の取り扱いを最適化できます。例えば、直接費(撮影機材のレンタル料、ロケーション費用など)と間接費(企画開発費、管理費など)を明確に区分します。
3.クラウド会計ツールの活用:
クラウド会計ツールを活用すると、発生主義に基づき、費用が実際に発生した時点で適切に計上することが簡易になります。
このクラウド会計ツールを活用し、リアルタイムで費用を追跡・分析できます。
これにより、迅速な意思決定と正確な財務報告が可能になります。
予算管理もクラウド会計ツールを使うことで、やりやすくなります。
4.源泉徴収の管理:
フリーランスのクリエイターへの報酬支払いには、適切な源泉徴収が必要です。
これを正確に管理することで、後のトラブルを防ぎます。
5.助成金・補助金の適切な処理:
受給した助成金や補助金は、会計上と税務上で適切に処理します。
これらは通常、収入として計上されますが、特定の条件下では圧縮記帳が可能な場合もあります。

制作費用の効果的な管理と適切な計上は、プロジェクトの収益性を高めるだけでなく、税務上のリスクも軽減します。

2.人材戦略と税務:フリーランス契約の注意点

映像制作業界では、プロジェクトの規模や性質に応じて柔軟に人材を確保する必要があるため、フリーランスの活用が一般的です。

しかし、フリーランス契約には税務上の注意点が多くあり、2024年11月1日に施行されるフリーランス保護法(正式名称:フリーランスとして安心して働ける環境を整備するための法律)により、さらなる注意が必要となります。

契約書の作成
フリーランス保護法では、書面での契約が義務付けられます。契約書には以下の項目を明確に記載する必要があります:
「業務の内容」
「報酬の額」
「⽀払期⽇」
「発注事業者・フリーランスの名称」
「業務委託をした⽇」
「給付を受領/役務提供を受ける⽇」
「給付を受領/役務提供を受ける場所」
「(検査を⾏う場合)検査完了⽇」
「(現⾦以外の⽅法で⽀払う場合)報酬の⽀払⽅法に関する必要事項」

https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/torihiki/download/freelance/law_03.pdf

これらを明確にすることで、後のトラブルや税務上の問題を回避できます。

そのうえで、次のことに注意しましょう。

報酬の支払い
法律では、成果物の受領から60日以内に報酬を支払うことが義務付けられています。この期限を守ることで、経費の適切な計上と、フリーランサーとの良好な関係維持が可能となります。
源泉徴収の取り扱い
フリーランスへの報酬支払いには、原則として源泉徴収が必要です。ただし、個人事業主として確定申告を行っているフリーランサーの場合、源泉徴収不要の特例を申請できる場合があります。適切な処理を行うことで、税務リスクを軽減できます。
消費税の取り扱い
フリーランサーが課税事業者の場合、支払う報酬に消費税が加算されます。会社側では、この消費税分を仕入税額控除として活用できる可能性があります。
経費の適切な計上
フリーランスへの支払いは、適切に経費として計上することができます。ただし、報酬の内容が明確で、業務との関連性が説明できることが重要です。
偽装請負・違法派遣の回避
フリーランス契約であっても、実態が雇用関係に近い場合、偽装請負や違法派遣と判断されるリスクがあります。以下の点に注意が必要です:
・業務指示は必要最小限にとどめる
・フリーランサーの就業時間や場所を厳密に管理しない
・会社の従業員と同様の扱いをしない

3.機材投資の賢い活用:減価償却の最適化

映像制作会社にとって、高性能な機材は作品の質を左右する重要な要素です。

会社を立ち上げたときは、とにかく機材の購入が必要です。

しかし、これらの機材は多くの場合高額であり、売上が安定しない立ち上げ時には、財務面での大きな負担となります。
ここで重要となるのが、減価償却の戦略的な活用です。

減価償却とは、固定資産の取得価額を使用可能期間にわたって費用化する会計上の手続きです。
10万円以上の資産が減価償却の対象となります。
これにより、大きな支出を複数年に分散させ、各年度の課税所得を適切に調整することができます。

減価償却の方法には主に定額法と定率法があります:

  1. 定額法:毎年同じ金額を償却します。安定した経費計上が可能で、長期的な財務計画を立てやすいのが特徴です。

  2. 定率法:初年度の償却額が大きく、年々逓減していきます。初期の税負担軽減効果が大きいため、急速に陳腐化する機材に適しています。

例えば、1000万円のカメラシステム(耐用年数6年)を購入した場合:

  • 定額法:毎年約166.7万円を償却

  • 定率法(250%定率法の場合):初年度は約417万円、2年目は約250万円を償却

機材購入時期に大きな節税効果を得たいなら定率法ということになります。もちろん、どちらの方法を選択するかは、会社の財務状況や将来の収益予測に基づいて慎重に検討する必要があります。

また、30万円未満の少額減価償却資産については、全額を購入年度に経費計上できる特例があります。これを活用すれば、小規模な機材投資の際に即時の節税効果を得られます。

さらに、中小企業経営強化税制などの特別償却制度を利用できる場合もあります。

これらの制度では、通常の償却に加えて、取得価額の一定割合を初年度に償却できるため、より大きな節税効果が期待できます。

賢明な減価償却戦略を立てる際のポイントは以下の通りです:

1.機材の性質を考慮する:急速に陳腐化する機材は定率法、長期使用する機材は定額法が適している場合が多い。
2.会社の収益予測を踏まえる:今後数年間の収益見込みに応じて、最適な償却方法を選択する。
3.税制改正に注意を払う:減価償却に関する税制は変更される可能性があるため、最新の情報を常に確認する。
4.専門家に相談する:税理士や会計士のアドバイスを受けることで、より適切な判断ができる。
5.設備投資計画と連動させる:将来の機材購入計画を考慮に入れ、長期的な視点で償却戦略を立てる。

ところで、「減価償却の最適化」という見出しを付けましたが、この調整方法の本質は、納税の先送りです。
短期で最適化する方法で長期的には必ずしも最適化とはいえません。

節税だけを考えるのではなく、今後のビジネスモデルを考え、収益予測とセットにして考えるようにしてください。

4.研究開発費の活用:小規模でも可能なアプローチ

私は、競争しなくてもいいような、独自の技術を身に着けることが映像制作会社を続ける道だと考えますが、どうでしょうか。

大規模な投資が難しい中小企業でも、研究開発費を効果的に活用できる方法があります。

1.日常業務からの改善:
通常の制作過程で生じる技術的課題の解決を、小規模な研究開発プロジェクトとして位置付けます。例えば、新しい撮影技法の開発や編集ソフトウェアのカスタマイズなどが該当します。
オープンソースの活用:
既存のオープンソースソフトウェアを基に、自社のニーズに合わせた改良を行います。これも研究開発活動として認められる可能性があります。
産学連携:
地域の大学や専門学校と連携し、小規模な共同研究プロジェクトを立ち上げます。学生のアイデアを活用しつつ、コストを抑えられます。
クラウドソーシング:
特定の技術課題について、クラウドソーシングプラットフォームを通じてソリューションを募集します。
これを研究開発の一環として位置付けることができます。
従業員の自主研究支援:
従業員の自主的な技術研究を奨励し、その活動を会社の研究開発として認定します。
少額の研究費支給や勤務時間の一部割り当てなどで支援します。
ハッカソンの開催:
社内外の人材を集めて短期集中型の技術開発イベントを開催します。
新しいアイデアの創出と、研究開発費としての計上が可能です。

これらのアプローチを組み合わせることで、小規模な映像制作会社でも研究開発活動を実施し、税制上の優遇措置を活用できる可能性があります。
ただし、具体的な適用については税理士に相談し、適切な文書化と記録保持を行うことが重要です。

5.補助金・助成金の最新動向と活用法

映像制作業界における補助金・助成金は、制作会社の財務を支援し、創造的なプロジェクトの実現を後押しする重要な役割を果たしています。
2024年の最新動向と効果的な活用法について詳しく見ていきましょう。

補助金の動向

1.デジタル化支援の強化:
政府のデジタル戦略に伴い、VR・AR技術を活用した映像制作や、AIを利用したコンテンツ制作に関する支援が増加しています。

2.地域活性化コンテンツへの注目:
地方創生の一環として、地域の魅力を発信する映像コンテンツ制作への支援が拡大しています。

3.SDGs関連プロジェクトの優遇:
持続可能な開発目標(SDGs)に関連する題材や制作プロセスを持つプロジェクトへの支援が強化されています。

4.国際的なクリエータ育成:
グローバル市場を見据えた国際的なクリエータ育成支援が充実しています。

  1. 主要な補助金・助成金プログラム

ものづくり補助金

小規模事業者持続化補助金

文化庁「日本映画製作支援事業」

まとめ

長期的な税務戦略は、単なるコスト削減ではなく、会社の持続的成長を支える基盤となります。
節税だけに一生懸命になることは近視眼的であるともいえます。
結局は、どのように会社を成長させるか?という視点が欠かせません。

クリエイティブな挑戦と堅実な財務管理の両立を目指し、常に先を見据えた戦略的アプローチが求められます。

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