「恋の病」の治療法【失恋を過去にした話】
私が本当の失恋を経験したのは、23歳のときだった。
学生時代に好きな男の子へアタックしないまま相手に彼女が出来たとか、告白しないまま卒業して疎遠になったとか、そんなふわふわした恋は経験してきたけど、本当に意味で「失恋」のツラさを知ったのは、あれが最初で最後だった。
初めて会った日、運命かもしれないと、浅はかにも思った。今思えば、違うのだけれど。あの時の感情も、嘘ではないと思う。
声が、仕草が、目元が、あたたかい手が、全部唯一無二で大好きだった。好かれたい以上に、もっと知りたいと思った。もっと一緒にいたい。時間が足りないと思った。
彼との別れは、それはそれは無様だった。お互いの家がそこそこ離れていたこともあって、「仕事がかなり忙しくなる、会えなくなるかもしれない」と言われた日から、直接会う時間が本当に全く取れなくなった。
連絡はマメにくれていたけれど、会えない寂しさは埋められない。「次はいつ会える?」「少しだけでもいいから会いたい」。忙しい彼に、その気持ちを素直に伝えるのは間違っている気がして、こんがらかった言葉ばかりを送った。届かなくて当然だよね。
「一緒にいると安心する」「本当に大好き」「俺でいいの?」「少しだけもいいから会えない?」。彼はあんなにも真っすぐだったのに、私はなにをカッコつけていたんだろうか。
連絡の頻度も徐々に減っていった。結局、最後の最後まで、私は全ての言葉を間違え続けて、彼を困らせた。そんな恋だった。
つらかった。だって代わりなんていない。
次の恋をしたいわけじゃない。彼氏が欲しいわけじゃない。ただ、彼に会いたかった。今度こそ、正しく言葉を伝えたい。
きっと、失恋に踏ん切りがつかないのは、間違えた自覚があるからだと思う。あの時、違う言葉を選べていれば。あの時、ああしていれば。間違えたから、もう一度やり直したいんだ。
そうすればきっと、上手くいく。
結局、私はその後、引っ越しをして、新しいコミュニティに飛び込んでみて、失恋どころじゃなくなって、時間が解決してくれたように思う。でも、ふと思い出して彼の夢を見たり、起きたら泣いていたなんて日々もしばらく過ごした。
今でこそ、メソメソするな~、閉じこもるな~、来るはずもない連絡を待つな~、お前はイイ女だ、スマホを捨て街に出よ~、と思うけれど、そうもいかないのが恋だと思う。
地の果てまで、後悔しきること。
そうしたら、後悔に見切りをつけること。
それ以上の後悔や執着は、人生の無駄遣いだ。
人は、いつでも間違う。いくつになっても間違う。
だから、間違わないようにではなく、その度からまりを解ける言葉を覚えていきたい。伝え方を忘れずにいたい。喧嘩しても仲直りしたい。相手への気持ちを見失わずにいたい。
声が届く。そのことに感謝して。