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一日一詩。

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言葉にできないコトバをことばにします。
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#詩的散文

【詩】知らずに歩いて

知らない町で知らない道を 目的もなく歩いていると 思うのです この道を右へ行くべきか左へ行くべきか そんなことに正解はないのだと おもしろそうな道を選べばいい 楽しそうな道を選べばいい なんとなく心惹かれる道を選べばいい 知らない町で知らない道を 目的もなく歩いていると 思うのです それでもなお、正解などなくても 人はどちらかを選び歩いていく 選ぼうとせずとも選んでいる 左に行けば出会えた人 左に行けば見られた景色 そんな可能性を知ることもなく 人は右の道を歩く

【詩】知らない人たちの密林

僕の周りには知らない人たち 知らない人たちが、たくさん、たくさん 見渡すかぎり、そればかり、そればかり 知らない人たちばかりがたくさん パソコンとにらめっこ知らないお兄さん 携帯とにらめっこ知らないお姉さん なにとにらめっこ? けげんそうな顔の知らないお母さん 会話の動きだけが見える知らないお友だちは口パクのエキストラみたい 皆それぞれの世界でそれぞれを生きている だから僕らは知らない人たち 知らない人たちの溜まり場 知らない人たちの行列 知らない人たちを捌く知らない人

【詩】電車のなかで

何も知らなかった頃 誰もが全てを知りたがった 電車に乗れば それはもう冒険で これから待ち受ける未知が 楽しみでしかたなかった 高速で通り過ぎる窓の外 動いてないのに動いている不思議 周りに座っている知らない人の奇妙 不定期に止まったり動いたりする意味 喋っている人がいないのに聞こえてくる声 いつ来るのか分からない終わり 全てが疑問で、 全てを知りたがった なんで?どうして?これはなに? 声をあげると優しくパパは注意する 「静かに」 目に映る全ての疑問に 僕は沈黙し

【詩】裸眼

僕は、目がわるいから 眼鏡をかけて視力を矯正している 僕は、頭がわるいから 勉強して頭を矯正している 僕は、性格がわるいから 怒られて性格を矯正している 誰しもわるいところがあって、 眼鏡をかけるだけで救われ、 努力するだけで救われ、 孤立するだけで、 救われる 裸眼で見る世界の生きづらさが 誰かのほんとうの生きづらさだとして だれがわるいか、ほんとうにわるいか

【詩】動く絵の具

絵の具が踊っている 四角い板の中で 美しく色とりどりに でも絵にはなれない ただ 動く絵の具

【詩】夜の散歩道

風呂上がりの火照った体を夜風に当てたくて こんな時間にまた靴下と靴を履く 夜道を好きな時間に歩ける平和を ありがたいものと感じてしまう哀しみ 視界の先には美しく橋を照らす街灯 辿り着くともといた所の暗さが美しい ないものねだり 夜の散歩道 まぶしいくらいに働く街灯のせいで 気づかれない今日の満月に気づく 満月がぼやっと霞んで三つくらいに見えるのは 弱い視力のせいか、薄い雲のせいか もしもでこぼこ道だったら五回は転んでいる ずっと満月を見ながら歩ける平らに感謝 終

【詩】ひとりぼっちのふるさと

ある日、消えたふるさと 突然、ひとりぼっちの私 みんなにはあるふるさと 私にはないふるさと 新しく出会うふるさと 私の義理のふるさと しかしそれでもふるさと ひとりぼっちではない私 ある日、思い出すふるさと 今、ひとりぼっちではない私 消えたふるさとはいま ひとりぼっちのふるさと 淋しかったのはまさか 私だけではなかった ふるさとだってきっと 淋しいひとりぼっち 忘れないよきっと 無くさないよきっと またいつかいっしょに すごそうふるさと

【詩】優しい人になるよりも

優しさという名もない花を 今日はいくつ見つけただろう 幸せという小さな生命を いくつ気づかずに踏みつけただろう 輝く太陽にはなれなくても 照らされていない輝きを 見つけることはできるかもしれない 優しい人になるよりも そこに優しさがあることを

【詩】変な人と呼ばれて

あの頃 僕は変な人と呼ばれていた でも、不思議なことに あの頃が人生で一番楽しかった 無理することもなく 気を遣うこともなく 自分らしくなんて考えもせずに 自分のままで生きていた 僕はどこからか 道を踏み外した いつの頃からか 僕は立派な人と呼ばれるようになった 不思議なことに その時は人生で一番しんどかった いつも無理をしていて いつも気を遣っていて 自分らしさとは何かをいつも考え 自分らしくあれずにもがいていた 僕は一度いなくなった 消えたように生きて 死んだように消

【詩】今日も描けなかった絵描きへ

真っ白なキャンバス 真っ黒な構想ノート 対照的な二つの鏡が 今日も描けなかった 僕を映し出している ゴミ箱へと向かう作品が 今日も山ほど出来上がった 一筆目が入れられない 一筆を入れるに値するだけの 奇跡が今日も起こらなかった 日に日に増えるゴミの山 何一つ生み出さずに 大量の何かを吐き捨てている なんとか奇跡を起こそうと 懸命に奇跡が起こるのを待つ 起こるから奇跡なんだ 起こせるならそれは神か天才だ 自分が天才でないことだけは いつしか自然と理解した だから奇跡を待つことに

【詩】朝と散歩の独り言

少し眠いけど目が覚める 体を伸ばすと気持ちがいい 朝の空気は気分屋で 澄んだ瞳で誘惑する日もあれば 冷たく僕を拒絶する日もある 起床を何年繰り返しても 気分屋はやはり気分屋で 最近は四等賞くらいがよく出る 眠たいなとか 外寒そうだなとか まだ時間あるなとか そういう悪だくみを 無意識に思いつく前に 僕は散歩にいく 外の寒さと互角にやり合うために 何枚も何枚も重ね着する この時ファッションという言葉は いつも以上に控えめになる とにかく着替えて とにかく靴を履いて と

【詩】しあわせになろうよ

しあわせには色も形もないんだから 絵にしたらきっと十人十色なんだから 風化もするし昇華もするものなんだから 難しくしてるのはいつも自分なんだから 比べられるのは、ほんの一部分で 上にも下にも限りがなくて 幸せと思えば いつだってそうなれる でも、それじゃ満足なんてしないんだから 絶対の幸せなんてものもなくて ただ一回の人生が一介の人生だとしても 一景、一食、一音を風鈴のような心で その鈴の音は、あなただけの音色 十人十色で、一期一会と 分かっているのに、わかっていない

【詩】ことばを探す旅

広辞苑という図鑑を開いて まだ見たことのないモンスターを探そう きっとすぐ見つかるはずさ 世界は未知のモンスターで溢れているから 見つけたら旅に出よう まだ見ぬモンスターを探す旅に 図鑑に生息地は書かれていない その代わり特徴はしっかり書かれている 書かれた特徴を頭に入れて 難しければ図鑑を腕に抱いて街へ出よう 旅に出ればわかるはずだ 知らないことがたくさんあるということが 知っているつもりになっていたということが 世界はきれいなものばかりでもなければ きたない

【詩】気まぐれサラダみたいな生き方

お気に入りのレストランに シェフの気まぐれサラダってのがある 気まぐれだっていうのに 頼むと毎回ちゃんと作ってくれる これじゃまるで生真面目サラダだ 僕なんて毎日続けるぞなんて言って始めても 次の日には「今日はいいかなぁ」なんて言ってる 僕の方がよっぽど気まぐれの才能がある でも、しばらく経って後悔することもよくある 「続けていたら今ごろは…」なんて 他の動物よりも人間の方が学習能力があるなんて嘘じゃないかと思う こんなに学習しないのは人間くらいのもんだ また