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ミュージシャンと鹿の角-B型事業所ディスポの挑戦-

あなたは、自分がやりたいことを仕事にしたことがあるだろうか?
やりたいことを目指して行動を起こしたことはありますか?

これは実は本当に難しい。子供の頃は「ウルトラマンになりたい」とか「笑っていいとも!の火曜レギュラーになりたい!」とかキラキラした夢を持っていた時期もあるかもしれない。

しかし、高校生くらいからなんとなく自分の手からスペシウム光線が出ないことに気づいてしまうし、笑っていいとものレギュラーになるには才能と運に恵まれていないと出演出来ないことに気づき始めてしまう。
いつからか、なりたいものややりたいことを口に出すと周囲の目が気になるようになってしまうのだ。「そんなの一部の人しか出来ない」と後ろ髪を引く引力がめちゃくちゃ強まる。そう、周りは「もう叶いそうな夢」じゃないと応援してくれない。あと少しで叶う、と言うところまで孤独に自分で努力した状態じゃないと、応援してくれないどころか引き留めにあう始末だ。

あれこれ引き留めに合う一方で、大人になるにつれて「やりたいことないの?」とか「将来の目標は?」とか聞かれまくる。コンビニの本棚には「夢の叶え方!」とかキラキラしたタイトルの雑誌が800円くらいで売っている。周りからの声で混乱しかかっているのでつい800円払ってしまいそうになるが、もう騙されないぞ!!、、はい、ペイペイでお願いします。

‥くそ、買ってしまった。


申し遅れました。
私は精神科にうつ病や発達障害など、様々な理由で通われる方の就労をサポートしている者です。メンタルの不調になると「働く」ことが難しくなります。気分の落ち込みや体力の低下、同僚がだんだん敵に見えたり、仕事に通うことが安全ではなくなります。

仕事を辞めた後、皆「自分は何がやりたいんだろう?」と自問自答します。しかし、周囲からはやはり引き留めにあうのです。

「淡々と黙々と作業できる仕事の方がいいんじゃない?」
「なるべく人と関わらない仕事の方がいいんじゃない?」

「とりあえず事務とかどう?」

これは、精神科の医療や福祉の業界で当然のように交わされている会話だ。
もちろんこうした仕事が合っている方も大勢いる。こうした仕事を否定しているのではない。「とりあえずビール」みたいに事務職が紹介されていたり、モチベーションや個性を無視して「とりあえず事務職」と言われる世界に疑問があるのだ。

人はやりたいことを仕事にしようと思った時に、逆風とまでは言わないが、世間からなんとなく感じるこの引力に引っ張られながら再就職に向けて動き出さなければならない。
しかし、こうした引力に逆らい、再就職を目指す方の「やってみたい!」に真摯に向き合い、再就労をサポートしてくれる会社がある。

「いやいや、福祉の就労支援を受けたことあるけど、俺はやりたいこと話しても取り合ってもらえなかったよ」

そんな声も聞こえてきそうだ。

まぁまぁ疑う気持ちは分かります!
ただここまで読んでくれたあなたは少し興味があるはず。
手から光線を出せると思っていた時のあなた!アイドルになってコンサートに立とうと思っていた時のあなたを少しだけ復活させて!一緒にこの就労をサポートしてくれる会社がどんなところなのか?一緒に見ていきましょう!!




今回お話をして頂くのは
就労継続支援B型事業所「carabanc at dispo.(キャラバンス アト ディスポ)」代表の三上さんだ。

三上さんはロン毛だ。
そしてこの会社の社長でもある。
なんと、24歳まで本気でプロのミュージシャンを目指してバンド活動をしていた異色の福祉人だ。

三上さん:「24歳までは本気でプロになることを目指していました。けれど24歳になってプロになれなかったら音楽活動を辞めると決めていたメンバーがいて、それぞれの道を歩むことになりました。」

なんと!これが世にいう「方向性の違いによる解散」か!!何やらかっこいい!!私も何か「方向性の違い」とか言ってみたい!!
しかし、高校卒業後も24歳まで本気で目指したからこそ、ここには色々と複雑な葛藤もあったのだろう。きっと世間体や周囲からの逆風と闘ってきたのかもしれない。

三上さん:「高校生の頃、【シーラという子】という本を読んで、カウンセリングやソーシャルワーカーという仕事に興味を持ちました。仕事をしながら精神保健福祉士の国家資格をとり、共同作業所(今でいう就労継続支援事業所)で10年経験を積ませて頂きました」

なんだと!元ミュージシャンなのに高校生の頃読書していただと!!
なんというギャップ!高校生で読書をするのは花沢類だけだと思っていたのに!!自分のやりたい音楽活動をしながらも、一冊の本を通して福祉の世界に飛び込んだのか。
でも福祉というのは音楽の世界と違ってとても地味なイメージだ。元ミュージシャンをしていた三上さんは福祉の世界をどう生きているのだろう?


三上さん
:「就労支援の世界でも音楽活動をしていた時のことが活きています。例えば音楽活動をしていた時、仲間と色々なイベントを企画しました。今でも利用される方がやってみたいことを起点に仲間とイベントを企画したり、新しい仕事につながったりしています。」

確かに、福祉の事業所はさまざまな企業と連携して仕事を取ってきたり、企業とコラボして新たな仕事を生み出している。それ故に福祉の事業所だけで孤立していては発展はない。企業に何かビジネスを提案したり、ワクワクするようなアイデアを提案したり、一緒にコラボするノリの良さみたいなエネルギーも必要なんだな。。

三上さん:「ある利用者さんの中にネイティブアメリカンの文化にシンパシーを感じて鹿の角を使ったアクセサリーを作りたいという方がいました。最初は『どうやって鹿の角を手に入れたらいいんだろう?』と思いましたが、それでも利用者さんがやりたいのであれば、僕らも同じ目標を持ちたいと思いました。そうすると間も無くして、たまたま鹿の角を使って彫り物をしている方と繋がることができて、鹿の角を譲って頂けることになりました。それは偶然だったのですが、その利用者さんがやりたいことを口に出してくれたことで、誰かに繋がり、こうして新しいチャレンジに繋がるんだなと思いました。」


すごい。鹿の角のアクセサリー作りをするために鹿の角をくれる人と繋がるなんて、ある意味「笑っていいとも!」に出演するより難しいかもしれない。確かにやりたいことはあっても自分の頭の中だけで終わらせてしまう癖がついてしまっているかもしれない。誰かに言ってもどうにもならない、笑われるかもしれない、どうせ叶わないなら夢を見ない、そんな考え方の癖が私たちにはこびりついてしまっているのかもしれないな。


三上さん:「うちは夢を叶えます!みたいなことは言えません。でも、膝を突き合わせてやりたいことについて話す中で、利用者の方々と一緒に目指すことはできます。そして、いつかそこに行けるよう僕たちはアンテナを張ることもできます。こうしてdispo.のプロジェクトは広がってきました。こうしてまた利用者さん達と新たな夢を見ることができると思っています。」


そうか。
ここは「あなたの夢叶えます!キラリーン!」みたいなコンビニ並んでいる雑誌とは違う。過去に自分がやってきたスキルを大切にしてくれ、やりたいと思っていたことを大事にしてくれ、そしてこれからの活動を一緒に考えてくれる場所なんだ。
それは、代表の三上さん自身がミュージシャンを目指す中で培ったスキルや経験が今の福祉に生きていて、多くの障害のある方々の就労をサポートしてきたという原体験に基づいている。

そんな三上さんはさまざまな企業と連携し、数多くの仕事を生み出している。

三上さん:「今企業も新しい事業を生み出していく中で人が足りない、人が足りないとなった時に自社と完結せずに他社と協力するような動きが見られています。そこの協力するパートナーとして福祉事業所が入れていただけるようになったと感じています。企業がそれぞれ感じている課題があると思います。そこに福祉事業所として一緒に課題解決をお手伝いする、福祉事業所の力が掛け合わされば新たな可能性が出てくると感じています。」


福祉事業所は就労を目指して利用される方々の課題解決はもちろんだが、一緒に協働する企業の課題解決もサポートしてくれる。就労支援というのは会社の支援でもあるのだ。そして就労というのは本当に様々な形、価値観がある。お金の稼ぎ方は本当に変化した。終身雇用という言葉はもう伝説と化し、個人事業主やフリーランスで活動する人も増えた。小学生のなりたい職業ランキングはYoutuberだ。一昔前にこれを言おうものなら何と冷ややかな視線を浴びせられただろうか。しかし、そこを目指す中で本当に様々なスキルを身につけ、多くの出会いがある。このスキルや出会いが思いもよらなかったシナジーを生み出し、まだ知らない世界へと連れて行ってくれるのかもしれない。

福祉の就労支援というと昔は単純作業をするだけ、というイメージがどうしてもあった。しかし、今の時代の就労支援は違う。こんな孤独な時代だからこそ、人と人が、企業と企業が連携してお互いにサポートし合いながら仕事を生み出すのだ。


今日は熱い話を聞いた。私は今日もコンビニで立ち読みをする。
「夢の叶え方!」というタイトルの雑誌も少しだけ悪くなく感じる。
昔やってみたかったこと、今少しだけ興味のあること、人に話すつもりなんてなかったのにな。
でも応援してくれる人がいたり、それを一緒に楽しんでくれる人がいるなら、悪くないかも。

そんな気持ちにさせてくれる、素敵なインタビューでした。
これから就労を考えている障害をお持ちの方、あるいはお困りごとがある企業の方々、ぜひ株式会社dispo.へご相談をお待ちしております。




記事-上田広大-
:フリーランスのソーシャルワーカー。カウンセリング・ソーシャルワークオフィス アジール代表。就労や生活、精神医療に関する悩みなどをオンラインで相談を受ける活動を行う。


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