
フジテレビ問題に思う日本の企業風土とぬるいギョーカイ体質
年明けから、この問題で話題がもちきりとなっている。しかも、時間を追うごとに問題が大きくなっている。総括すると、正直、情けない思いに駆られる。今更ながらであるが、思ったことを綴りたい。
ことの発端は、大物タレントと女性アナウンサーとの間であったトラブルであるが、個人的な問題の話ではない。事案の詳細や真偽については、現在、ほとんど明らかになっておらず、今後、フジテレビの第三者委員会が明らかにしていくので、この場でどうこう言うつもりはない。
先日行われたフジテレビによる会見で、いくつかの問題点が浮き彫りになったが、その中で二つの問題について、注目したい。
一つ目は、企業、とりわけ、いわゆる「ギョーカイ」内における商取引の慣行の在り方だ。タレントと放送局の長年の癒着ぶりが、今回のような事案の発生を生み出したと言える。これまでの報道から読み取れるのは、女性アナウンサーが、業務に何かしら関係した会食等のイベントが常態化しているという点。
私も、放送局で報道、営業のセクションに籍を置いていた身からすると、イベントの大小はあるにしても、そうしたことがあるのは否定できない。
放送局にとってのお客さんである、タレントやスポンサー企業と接する機会に、女性アナウンサーをはじめとした女性社員がその場にいることはもちろんのこと、記念撮影をしたり、握手をしたり、会食をしたり、ゴルフをしたり・・・、様々見聞きする。
イメージが大事な放送局にとって、イメージキャラクター化しているともいえるかもしれない。ましてや、放送局という世間からしたら目立つ商売であるがゆえに、今回、ここまで問題が大きくなったともいえるのではないか。
ただ、メディアを擁護するつもりは全くないが、こうした営業上の「おつきあい」は、メディア業界だけに限らないのではないだろう。
様々な業種の企業において、女性社員が同じような扱いをうけていることは否めない。
なぜ、だろうか・・・。
そこには、日本のジェンダーギャップの遅れが大きく影を落としているように思う。
世界経済フォーラムが昨年発表した、ジェンダーギャップ指数の調査によると、日本の順位は、146か国中118位で、社会参画における男女の不平等は、世界的にみて、ワーストに近い。男性中心の社会構造は長年変わらず、女性は男性を補助する仕事で良しとする傾向が依然として高い。そして、男性同士の商取引の中で、接待要員という役回りになる。日本における企業風土は、業種に限らず、総じて、フジテレビと同様の企業風土を持ち合わせていると言えるのではないか。
今回、放送局だったから、ここまで大きく取り上げられることになったが、脈々と世間のあちらこちらで続いているとすれば、今回の一件は氷山の一角にすぎないと思う。社会全体が、一刻も早く転換すべき時に来ていると思う。
もう一つは、いわゆる「ギョーカイ」内のぬるい癒着構造だ。
放送局にとって、番組コンテンツを作るうえで、タレントのキャスティングは大きなウェイトを占める。大事な「お客様」なのである。
トラブル発覚後から10時間に及ぶ会見に至るまでのフジテレビの失態は、そのお客様に対する忖度といって過言ではないだろうか。
事案が発生しても、社長の一存で、コンプライアンス部門に情報共有が共有されていない。しかも一部上場企業の大会社である。経営者の統治能力がこれまで落ちたものかと感じる。
そして、一方の当事者である、中居正広氏本人に対する報道はコメント程度に抑えている、各社各局の報道の在り方にも疑問を呈する。事案の当事者同士の守秘義務の問題もあるだろうが、なぜ、会見を開かせようと追及しないのかが理解できない。
芸能界に対してあまりに手ぬるい対応としかいいようがない。
罵声を浴びるほどの猿山と化した、あの10時間の会見をやっておきながら、なぜ、タレント側にはそれがないのか。かつてあったような、当事者を泣かせるまで叩いた、ワイドショー全盛時代を彷彿とさせるあの会見は取材者側に問題があり、そのような非人道的なことをやれとは言わないが、生のコメントを導き出すことは、取材するメディア側には必要ではないか。こうした状況も、芸能界にぬるいメディアの体質と見て取れる。今一度、発言してもらう機会を作る努力をしてほしいと思う。
また、フジテレビに限らず、近年、放送局におけるトラブルが散見されるが、その際の対応は。いずれも腑に落ちないものがある。コメントベースか通り一辺倒の当たり障りのない会見をし、明らかにする情報も小出し。トロトロした対応をし続け、いつしか世間の関心から消え去らせる。「のど元過ぎれば熱さを忘れる」を待っているかのような対応が多いように思う。「ギョーカイ」というムラ社会的構造の中で守られながら、保身に走っている姿勢が透けて見える。取材し、発信する報道機関として、お粗末な危機管理対応としか思えない。報道機関ゆえに、どの会社も襟を正し、できうる限りの節明責任を果たすべきではないか。
「フジテレビ問題」、次に訪れる注目は、第三者委員会による報告だ。
社長を交代し、新経営陣の問題に向き合う姿勢とフジテレビの会社としての資質が問われてくる。
新しく社長に就任した清水氏は、長くアニメ畑を歩んでこられた方だときく。漫才ブームに始まり、バラエティーやトレンディードラマで全盛期を築いた現在のフジテレビのイメージからすれば、マイナーなセクションから登り詰めた社長人事に見えるかもしれない。だが、全盛期前のフジテレビの番組を見ていた印象からすれば、こじつけかもしれないが、原点回帰したようにも見える。
フジテレビといえば、平日朝は「ママとあそぼうピンポンパン」「ひらけポンキッキ」、水曜夜は「銀河鉄道999」「Drスランプアラレちゃん」、日曜夜は「サザエさん」に、「母をたずねて三千里」をはじめとした「世界名画劇場」など、子供向け番組を多くやっていた印象がある。東京民放キー局4番手の後発局として、2強2弱時代に甘んじていた頃のメインコンテンツだった。そして、かつての局のキャッチフレーズは「母と子のフジテレビ」。
3月末の第三者委員会でどのような報告がなされるのか、そして、それをうけ、新経営陣の体制がどう動くのか。信用を取り戻し、経営を立て直していくのは至難の業かもしれないが、正念場だ。原点に立ち返り、イチから再建していく姿を見続けたいと思う。