![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/131814233/rectangle_large_type_2_9d8ec1900d0975af5b96888f0f4cc9fd.png?width=1200)
Unforgettable.2 【おっさんずラブリターンズ アナザーストーリー】
敵のアジトの張り込みを始めて3日目。昨夜は足利さんと菊が交代してくれたので、やわらかなベッドで眠ることができた。
「秋斗、機嫌悪っ」
菊はふふんと笑って、肩で俺の体を小突いた。
「別に」
「寝れなかったんだ」
そういって、ちょっと切なそうに俺の顔を覗き込んだ。寝れるわけがない、現場近くのラブホに好きな人と二人でいたんだから。
「明日は動きがありそうだからしっかり眠れ」
そういって、長い脚をソファに投げ出して目をつむった。こうして二人で同じ部屋に泊まるのは初めてじゃない。何度も同じ部屋で飯食って、眠って……同じベッドで背中合わせに眠ったこともある。
ほんの悪戯心で、眠るあの人に近づいて、ベッドに引きずり倒されたこともあった。
「なんだ、お前かよ」
喉元を制圧され、声も出せずに目を見開いた俺を見たあの目。ハンターのように荒ぶって、恍惚とした表情で俺を見ていた。
その表情が見たくて、ふざけているように見せかけてあの人に抱きついた。最近では諦めたように、俺の頭を抱え込んで何も言ってくれない。
こんなに好きなのに、好きだってサインを出しているのに、どうして気が付かないんだろう。
「秋斗?」
菊が大きな目で俺を覗き込んだ。足利さんと組むのが楽しいつて、変わってる。
「なんでもねー、足利さんは?」
「和泉さんと打ち合わせ、今日あたりが動くんじゃないかって」
「やっとかよ……俺に任せてくれたら、あんなのすぐに片付くのに」
「秋斗らしい、俺にはそんな自信ないわ」
菊はふっと息を吐いて、あの人がいる方へ目を向ける。俺は、その視線に気がつかないように空を見上げた。
菊は親友でライバルで、お前がいなかったら、俺もここまでは頑張らなかったんじゃないかって思うことがある。でもさ菊、あの人だけは絶対に渡せない。
なんかおかしいんだよ。警察学校時代にあの人を好きになって、どこまでも絶対に追いかけて逮捕するって決めた。なのに、俺の方が捕らわれた気分なんだ。もう、なりふり構わず「好きです」って言おうかって。苦しくて切なくて、心の置き所がない。もう、どうしていいのかもわからなくなった。
「あっ、足利さんが呼んでる。じゃ、またな秋斗」
ぼんやりしている俺の肩をポンと叩いて菊が走っていく姿が見えた。あの人が菊に声をかけて話す姿にも、俺は嫉妬する。もう、俺の理性が限界だ。
###
「なかなか狡猾な奴らで、こっちの出方まってる感じはします」
「そうか、あんまり長引くと情報がな……」
足利さんは鋭い目でアジトを睨み付けた。
「和泉、お前いけそうか」
軽く肩をたたかれたのは、GOサインの合図だ。
「命令があればいつでも」
「よし、ここはお前に任せる。タイミングがあればGOサインを出せ。俺と菊之助がサポートに入る」
「はい」
「ところで、真崎はどうだ?いい働きぶりだが」
足利さんは、六道と話し込んでいる秋斗を見ていった。
「ガキですよ」
「お前が言うな」
足利さんは俺の肩を軽くたたいて笑った。
「狂犬が二匹なら問題はないか」
「足利さんまで、なんです」
「お前らのペア、評判いいぞ。前回は、本部長の前で大喧嘩したらしいじゃないか。和泉があんなに取り乱したのを初めて見たとさ」
####
2週間ほど前の捕りもので、秋斗の馬鹿が無茶をした。多少のことは俺も声を荒らげないようにはしているが、刃物振り回している奴に向かい飛び出すのは馬鹿のやることだ。
「くっそ!!てめーら、全員ぶっ殺す!!」
「はいはい、どうぞ」
秋斗は小ばかにしたような笑顔で犯人に近づいた。
相手はカッとなったのか、秋斗に向って走りだす。俺は秋斗の前に飛び出し、ナイフを持った手を蹴り上げた。
「確保!!」
俺の声と同時に、秋斗は犯人の首を締めあげこう言った。「ご苦労様」 「お前なにやってる!!」
俺が胸倉をつかむと、軽く首を曲げて秋斗はこう言った。
「ぶっ殺す!っていうから、やればって」
「お前……」
「だって、和泉さん。今にも飛び出しそうな顔してたじゃないですか。だから俺が行ったんです」
#####
その後は、犯人を護送して報告書やなんやで秋斗に説教する間もなかったが、本部長の前で「俺の命より、先輩の命の方が重いので」と言われ、頭に血が上った。とんだ失態だ。なんであんなに腹が立つんだ。無茶な新人は何人も見てきたが、秋斗は部類が違う。あいつは頭もいいし、勝算がない勝負はやらない。確実に勝てるように考えぬいてから動く。
秋斗といると、自分のペースが乱される。最近はそう思うようになった。それは、ほんの少し心地よく甘美で俺の心を蝕んでいく。
唇を噛み黙り込んだ俺を、足利さんは静かに見ていた。
「あまり無理するな。木乃伊取りが木乃伊になる。焦らずに育ててやってくれ」
俺は曖昧な笑みを浮かべ、足利さんの背中を見送る。
足利さんは秋斗に二言三言声をかけてから、六道と一緒に闇に姿を消した。