箪笥から去年の手袋去年の手(朝日新聞東海柳壇掲載)
衣替えをした。
納戸の箪笥から、冬物をだして、夏物をしまう。
納戸は、本当はウォークインクローゼットにしようと思っていたのだが、当時のハウスメーカーの人に、「立派な箪笥があるなら、箪笥をお使いになった方がいい。箪笥の機能の方が数段いいですよ。」といわれ、そのまま箪笥をつかうことにしたのだ。
確かに箪笥の使い勝手はよい。
ような気がする。
冬物を出していると、懐かしい服が出てくる。
手袋も。
皮の手袋は、立体的で、手が入っているように見える。
それは去年の手だ。
去年頑張った手だ。よく頑張った。
さて、本日は私の両親と夫と私で鰻をたべに行った。
店の名前は「かねぶん」。
が、しかし、父親も母親も「かねぶん」ではなく「かなぶん」と言うのだ。
夫が小さい声で「じいさんもばあさんも『かなぶん』って言ってるよ。」
と指摘してきた。
夫「『かなぶん』って言ったら、虫のことだよ。」
確かに、カナブンといえば、虫だ。
柿の木にいっぱいいるやつだ。
でも、じいちゃんとばあちゃんは、柿の木にいる虫のことをカナブンとは言わない。
「へーこきぶんぶん」と言うのだ。
いや、正確には「へーこきぶんぶ」だ。
ちなみハエは「ひゃー」もしくは「ひゃーぶんぶ」だ。
ぶんぶんというオノマトペがなまって、ぶんぶ。
鰻はめちゃくちゃ美味しかった。
「箪笥から去年の手袋去年の手」朝日新聞東海柳壇掲載