Wezzyの「宗教と性」に関する記事がなぜ問題なのかを説明する前に、まず番組のご紹介。

今日はまず記事の問題に触れる前に、記事で取り上げられたこちらのドキュメンタリーの内容を紹介します。おそらくその方が、問題を指摘しやすいからです。
原題は[UN]Well。非常によくできたドキュメンタリーでした、おすすめです。「真偽を問う」とありますが、いわゆる効果としての「真偽」問うものではありません。番組は現代のタントラを取り巻く光と影、効と罪の両方をフェアに描いています。

冒頭には、メキシコのパワースポット、テポストラン在住のヒーラー、サーシャ・コブラのタントラに基づく、zoomを使ったワークショップから始まります。大勢の人がいわゆる「オーガズム」を経て泣いたり笑ったりするワークショップは、人によってインパクトはあるかもしれません。

ただし、欧米を中心とする「タントラ」の流行に、当然否定的な学者がいます。比較宗教学のデイヴィッド・ホワイト教授(エリアーデのお弟子さんだそうです)が出てきて、タントラの概念や発祥、歴史について説明しています。また、女性を尊重するものでもあったと主張します。その上で、現在の欧米における、ホワイト教授のいうところの「ネオ・タントラ」はタントラそのものの文化的背景を無視していると指摘しています。

ところで、この部分の字幕は非常に省略と間違いが多く、かなり雑な日本語表記になっています。英語の聞き取りが出来る方は、字幕を無視した方がいいです。

次に、カルフォルニアで「タントラ」の教室を開いている女性のセラピストが出てきます。日本ではあまりポピュラーではない、夫婦セラピーの様子が映し出されています。このカウンセリングの部分が夫婦の対等を目指す、非常に「フェミニズム的」な部分を含んでいるのもポイントですね。

番組は再びサーシャのセラピーに焦点をあてます。こちらも夫婦セラピーなのですが、焦点が当たっているのは男性の方です。夫婦の関係について聞いてるうちに、サーシャは男性が過去に性的虐待にあっていたか尋ねます。そのことを認めた男性に対して、サーシャは男性を「オーガズム」に導き、エネルギーの停滞を取り除くタッチ・セラピーを妻と行います。結果的に、男性は晴れ晴れとした表情で妻と和解します。

ただし、番組はタントラの負の部分も取り上げています。それが、タントラの教えを説く自称「グル」による、女性たちへの性的虐待問題です。タントラは性的エネルギーを基にしているので、そうした言葉が飛び交います。また、タントラの教えを説くグルの存在は絶対になります。ワークショップに参加したヨガ・インストラクターの女性は初めは拒否していましたが、最終的にグルとセックスするに至ります。紛れもない性的虐待です。自称グルは告発されたものの、女性は今も心の傷を抱えています。他にも、ワークショップのあいだに集団セックスを強要された女性の告白も映し出されています。

このような問題は、番組中の専門家が解説するように、いわば「カルト」化した団体では残念ながら珍しいことではありません。ですが、当事者の告白を前にするとかなり衝撃的な内容となっています。また、タントラを男性の指導者が行うと、そうした支配的な性的虐待につながりやすいという女性セラピストの指摘も流れています。ただし、被害者たち自身はヨーガを辞めているわけではありません。

ニューエイジ以降のヨーガの流行は、欧米で「女性の宗教」とも言われてきました。ざっくり言えば、聖性との結びつきを身体を通して試みることで、「男性社会」から自身の身体を取り戻すことが目指されることがあるからです。父親や男性との葛藤、男性社会への怒りの末に、ヨーガやタントラにたどりついた女性が番組に登場するのはそのためです。

また「性的エネルギー」というとどうしても想像にバイアスがかかってきますが、「性的エネルギー」はどの宗教(もちろんキリスト教や仏教、神道にもです)にも絶対に関わるものです。タントラやいわゆる「ネオ・タントラ」だけが、ことさら「性的エネルギー」を利用しているわけではありません。

ここからの私見ですが、むしろ「ネオ・タントラ」は初めて女性が女性自身のために「性的エネルギー」を組み込んだスピリチュアリティのムーブメントともとらえられそうです(というかそういう研究はあるので、恐らく意図しているんでしょう)。翻って番組中にあるように、男性の「弱さ」も癒す方法として使われるようになったのは興味深い事例です。

しかし番組中にあるように、「性的エネルギー」の利用であるがゆえに非常にあやうく、社会的・文化的状況によって簡単に暴力に転化します。日本でその問題を象徴していたのが、まさにオウム真理教でした。オウムがタントラに執着していたのも、同じく教団内で麻原による女性の性的虐待が行われていたのも有名な話です。

番組はこの両者をバランス良く描き出しているだけでなく、ことさらに煽ることもなく非常に見やすい内容となっていました。お時間がある方は、他の番組も面白かったのでぜひご覧になってみてください。

そしてこの記事をもとに、明日あらためてこちらの記事https://wezz-y.com/archives/82958の根本的な問題を整理したいと思います。

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