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Ejaculate Responsibly: A Whole New Way to Think About Abortion.のメモ

ガブリエル・ブレアー「射精責任」という題名の書籍が、7月下旬に発売されることで話題になっている。以前、ガブリエル・ブレアーがモルモン教徒であることがツイッターに流れてきたので、その点を明確にしていない宣伝の仕方はよろしくないのではと意見を述べたところ、「タルい」という担当編集の返信をいただいた。

まあ読まないと何も言えないというのはある程度は正であるので、原著にあたる  Ejaculate Responsibly: A Whole New Way to Think About Abortion.をKindleで読んだ。本書が発売されたのは2022年で話題を呼び、筆者は各種のウェブメディアに登場している。また、designmom.comという子育てのサイトを運営している。

結論から言うと、筆者がモルモン教徒であるという情報は購入前に知っておくべき情報だろう。確かにページを開けたらすぐに筆者が自己紹介をしているが、Amazonを始め通販サイトには載っておらず、また表紙にも説明が書いていない。

だが筆者の主張の全体を慎重に読むと、筆者自身はpro-choice/pro-abortionを名乗っているが本書ではこの点に直接的には触れられていない。本書の眼目は、女性がセックスをしても中絶をしないで済むためには、男性の射精をいかに警戒すべきかという主張にある。要は、この本は吉良貴之先生がすでに指摘しているように、性教育の本である。

そして射精責任それ自体も、実のところ男性に問われているわけではない。この本はあくまで射精から女性の望まない妊娠をいかに回避するかであって、例えば射精に伴う快楽と身体性についてだとか、男性はなぜ生殖の主体として責任を感じにくいのかといったことは問われない。より言えば本書で言及されているのは射精の主体たる男性ではなく、妊娠を細胞レベルで引き起こす精子のなのである。

ここでモルモン教徒であることを明示しなければならない理由が出て来る。つまり一見すると本書は男性に対する批判に見えるが、実のところ女性が「健全な」妊娠・セックスを果たすためのマニュアルであり、その先にあるのは確かな家族を作り出す経路である。数年前まで一夫多妻制を擁し、今もなお教義を通して信者の生殖を管理し、「健全な」大家族を価値あるものとするモルモン教の影響は明らかだろう。

同時に、pro-choice/pro-abortionを掲げつつ、その点には直接触れることなく、女性がやんわりと中絶を回避する経路を示す本書は、広くアメリカの保守層に訴求するものであることは想像に難くない。現にアメリカのAmazonサイトでは、自分はpro-life 派だがこの本に共感したという感想の書き込みも見られた。

またガブリエル・ブレアー自身が導き出した「答え」も、「子どもを複数産んだあとで夫にパイプカットを受けてもらう。」といったものであった。

この意見の問題について現時点で掘り下げることは字数が足りないが、家族主義を基礎とした富裕層(パイプカットの費用、男性の理解度)の「答え」であることは明らかだろう。だが、それはガブリエル・ブレアーが望むように中絶手術を減らしたいということにはつながらない。なぜなら、中絶とは女性の身体性・セクシュアリティ、パートナーとのセックスのあり方だけでなく、経済格差や貧困問題、医療システムといった様々な問題が複合的に孕んでいるからだ。そしてもちろん、アメリカでは宗教問題・人種問題が絡んでくる。

そしてより踏み込んで言えば、パイプカットという提案がそれほど抵抗を受けないのも、モルモン教が男性の生殖にも干渉する宗教だという土台がある。ただし、性加害とも言える男性への実情にも、当然のことながら本書では触れられていない。

また、本書では「DNAのつながり」のなかで子育てすることが素晴らしいことであり、したがって養子制度は非難すべきことであることも一章を割いて主張している点も気がかりである。あまりに唐突だが、モルモン教徒であることを加味すると凡庸な思い込みとも言えるだろう。

本書は年頃の娘を持ち、きちんと性教育をして、望まない妊娠を避ける術を教えたい家庭、特に母親には有用な本だろう。あるいは信頼のおける夫との話し合いにも使える本である。だがそれ以上でも以下でもない。そしてミッシングリンクのように、モルモン教の影響が浮上してくる。それを関係ないとするには、本書は予想以上に影響が強すぎる。

そしてこの本の担当者であるふじさわさんは、昨年「宗教二世」という本の編集も担当したと聞いている。日本国内でもモルモン教徒「二世」問題は、それなりに存在している。だとしたら、影響力を与えたいという意図のなかで、発信者の信仰を隠すこと/知らせないことのリスクは十分熟知しているのではないだろうか。よく考えていただきたいところである。

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