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ファミクル「家族ライフサイクルを深める」 第5回 子どもと歩む新たな一歩:思春期の子どもがいる家族の理解とサポート

思春期とは、「子どもが自分の道を探し始める時期」であり、心身の成長が著しいダイナミックな時期です。しかし、この時期は子どもや家族がさまざまな葛藤を感じやすい時期でもあります。

この時期は子どもにおいては思春期危機、親においては中年期危機と表現されるように家族の危機に陥りやすいです。一方、うまく向き合うことで家族の絆はさらに深まります。

この大切な時期をどう支え、家族の調和を育てるか、一緒に考えてみましょう。

思春期の子どもがいる時期に求められる2つの役割

心身の成長がダイナミックかつ子どもや家族がさまざまな葛藤を感じやすい思春期の時期、家族は二つの大事な役割を担います。

まず、子供たちが自立する手助けをすること。自立は思春期の大切なステップで、子供たちに自分の考えを持ち、決断する力を育てます。

同時に、家族は祖父母の年齢に伴う変化を受け入れる必要があります。祖父母は家族にとって貴重な存在ですが、時には彼らの体力的、精神的な限界を理解し、サポートすることが求められます。

この二つのバランスを取るためには、家族境界の柔軟性が重要です。この時期の家族の成長を支援する方法について、ともに考えていきましょう。

思春期の子どもがいる時期における4つの課題

この時期の課題を理解するために大切なキーワード。それは「遠心期」。「遠心期」とは何なのか、どのように課題に関わるのか、一緒にみていきましょう。

①子どもの世話役から見守り役への移行
思春期は、「おとな」になろうと子どもたちが「もがく」時期です。子どもは、社会の中で自分の立ち位置を見つけ、自律的に動き出します。「おとな」として振る舞おうと努力し、挑戦する一方で、ときに失敗し、不安になり、家族に甘えることもあります(「家族」から離れる時期なので「遠心期」と呼ばれます)。

いつものように「世話」をしようとすると反発され、様子を見ようとおもったら急に甘えられる。この姿をみて、多くの親が「どうしたらよいのか」と戸惑います。

この時期の接し方のコツは、「見守り役」に変わること。子どもの意見を尊重し、自立した判断を促しながら、ときには必要なアドバイスやサポートを行う見守り役に変化していくことが大切です。

②子どもの自立を援助するためにコミュニティと架け橋になる
家族は、コミュニティとの重要な架け橋となります。学校、地域社会、趣味のグループなど、子どもが関わるさまざまなコミュニティとの関わり方を見直していきます。家族がこれらのコミュニティとの連携していくことで、子どもは多様な環境での経験を積み、社会的な挑戦に対処する力を養うことができます。

ただし、あくまで大切なのは子どもの「自立」。過度に関わりすぎず、適度に子どもへの支援ネットワークを広げるお手伝いをすることが大切です。

③夫婦関係の見直しと親自身のキャリアについて考える
結婚して夫婦だった時期を経て、子どもが生まれて十数年。最初は「夫婦」で話すのが当たり前だった関係も、気づけば「親」としての会話ばかり。そして、子どもが自立を迎えるにつれ、改めて「夫婦」として向き合う必要に迫られ、話がない、喧嘩ばかりなどコミュニケーションに悩む夫婦は少なくありません。

この時期は、共通の目標や関心を見つめ直し、新しい関係性を築くことが大切です。また、親ではない一人の人間としてこれからの人生やキャリアに目を向け、自己の成長や充実感を追求していくことで、自分自身を再発見し、次の”人生”へとつなげていくことが重要です。

④祖父母世代のケア
現代では健康寿命が伸び、この時期の祖父母はまだまだ現役で活躍していることも多くなっています。一方で、晩婚化が進んでいることや、比較的若くして病気になる場合もあり、思春期と祖父母の老年期が重なることも珍しくありません。

通常、ケアを行うためには、家族の協力が不可欠ですが、思春期の子どもがいると家族間で距離が生まれ、協力が難しくなることもあります。「求心期」と「遠心期」が同時に発生している状態です。この複雑な時期には、弱っていく祖父母のニーズに目を向けつつ、彼らの知恵や経験を尊重して、祖父母が適切な役割を果たせるようにサポートしていくとよいでしょう。

世代間の絆を強化し、家族全員で連帯感を深めることは、教育的な価値も大きく、家族にとって有益になります。

思春期の子どもがいる時期を迎えた家族を支援する

思春期の子どもがいる時期における家族をそのように支援したらよいでしょうか? 以下にいくつかを紹介します。

子どもとの関係性を改善する
まずは「見守り役」としての関わり方を伝えましょう。子どもへの心配を言葉で伝えることは大切ですが、無理に話を聞き出そうとはせず、子どもが自ら話し始めるのを待つ姿勢が重要です。子どもが話をしてくれたときには、「指導」「助言」「批判」はせず、共感的に気持ちに寄り添い、話に耳を傾けましょう。子どもから意見や助言を求められた場合のみ、それに応じることが望ましいです(ただし、犯罪や明らかに危険な行動に関してはこの限りではありません)。

友人関係の問題や長時間のゲーム、動画視聴など、子どもの望ましくない”行動”に対して、すぐに変化を求めたくなる親の気持ちにまずは共感しましょう。そのうえで、「関係性が悪い相手からのアドバイスは受け入れられにくい」という事実を理解してもらい、まずは、子どもとの関係性を改善することを優先目標とします。関係性をよくする方法としては、 CARE(Child-Adult Relationship Enhancement)のようなアプローチを参考にするとよいでしょう。良好な関係が築ければ、子どもも自然と元気を取り戻し、前向きな方向へと進み始めることが多いかと思います。それでも問題が解決しない場合は、専門家に相談することも考慮すべきでしょう。

思春期の子どもはしばしば、親に対して反抗的な態度を見せる一方で、身近な大人(例えば、おじさんや学校の先生)のアドバイスは素直に受け入れることもあります。このような状況では、親は一歩引いて、信頼できる大人の力を借りることが重要です。信頼できる人と協力しながら子どもをサポートすることで、親自身の不安も和らぎ、より冷静に子どもと向き合うことができるようになって、結果的に親子関係の改善につながります。もし子どもに信頼できる大人がいない場合には、まずはそうした大人を見つけることから始めるように促すとよいでしょう。

両親の関係性を見直し、人生を考える
まず夫婦で話し合える時間を確保することの重要性を伝えましょう。ときには、どのような会話をすればよいかわからないという場合もあるかと思います。そんなときには、以下のような方法を試すのも良いかもしれません。

1、共通の趣味をみつけて、一緒に過ごす時間を増やす
2、二人で食事に行ってみる
3、ペットを飼って一緒にお世話をする。

これらの方法は、一緒の趣味を作れるという利点の他に、子どもが自立していくことへの寂しさを埋めてくれて、適切な子どもとの心理的距離を取りやすくなるという効果も期待できます。

夫婦それぞれが今後の人生やキャリアを考え始める時期でもあるため、お互いが将来をどのように考えているのか話し合うのも重要です。お互いに感謝の気持ちを伝え合い、共感し合うことの大切さを伝えましょう。

この時期、ときに子どもが不登校になってしまうなど、難しい問題に直面することもあります。このような場合、夫婦で他愛のない会話をすることは難しいかもしれません。そんなときには、家族で抱え込むのではなく、信頼できる相談先を見つけられるように支援しましょう。相談相手の助言について夫婦で話し合う形にすれば、冷静に話し合いをしやすくなるでしょう。

祖父母のケアと経験を活かす
祖父母のニーズに目を向けつつ、彼らの知恵や経験を尊重して、祖父母が適切な役割を果たせるようにサポートしましょう。

もし祖父母のケアが必要になった場合には、前述したように求心期と遠心期が被ってしまう形になるため、家族内の協力が難しくなります。思春期の子どもに頼ることで、反発されてより家族内での協力が難しくなることもあります。また、子どもに頼りすぎると、ヤングケアラーにつながり、自立を阻害してしまう可能性も考えられます。

家族内で解決が難しい場合も多いため、閉じられた家族の中だけで解決しようとせず、祖父母のケアを介護福祉サービスに頼るなど、外部資源をうまく活用することが大切であることを伝えましょう。

さいごに

思春期の子育ては簡単なことではありませんが、その時期における家族の役割や関係性を理解し、適切なサポートを提供することで、家族全体の絆を深めることができます。子どもや夫婦、祖父母といった家族の一員が直面するさまざまな課題について、親身になって理解し、適切なサポートを提供することが重要です。また、外部資源の活用や専門家への相談も重要なポイントであり、家族支援者として地域の適切な相談先を確保しておくことも大切なスキルとなります。

今回の記事が家族支援に関心を持つ皆さんの活動に有益なものとなることを願っています。最後までお読みいただき、ありがとうございました。

次回

「家族ライフサイクル理論:巣立たせる時期」お楽しみに!

続きは随時更新していきますので、関心ある方はぜひフォローください。

参考文献
ジェノグラム 家族のアセスメントと介入ーM. McGoldrick他, 渋沢田鶴子監訳
家族志向のプライマリケアーS.H.McDaniel他, 松下明監訳

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執筆:田中道徳(岡山家庭医療センター)
編集:宮本侑達(ひまわりクリニック)


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