【活動報告】ワークショップ「在宅医療における家族支援」報告(日本家族療法学会第40回福岡大会)
日本の家族療法を牽引する学術団体「日本家族療法学会」の学術大会が9月16日から18日にかけて福岡にて開催されました。
ファミラボ運営メンバーである若林、山田、宮本が永嶋先生、家族療法学会前会長の渡辺先生と共にワークショップ「在宅医療における家族支援」を行いました。
在宅医療に馴染みがない家族療法家/心理職の方が多くいらっしゃると考え、在宅医療に関心を持っていただき、今後どんどんと参入いただけることを目標に致しました。
当日の参加者の大半は心理職の方で、他にソーシャルワーカー、ケアマネージャー、医師(精神科医・総合診療医・外科医)、看護師の方が参加してくださいました。
ワークショップ概要
近年、自宅や施設などの生活の場に医療者が訪問する在宅医療が日本で着目されています。世界で類をみない高齢化対策と最期まで自宅療養を希望する人が多い社会課題の解決が主な理由ですが、在宅医療は臨床に新しい視点をもたらします。
特に、生活場面に赴く在宅医療ではシステム論的視点や家族療法的アプローチは非常に有用です。
老年期から終末期を迎える患者とその家族は、明確な喪失体験にさらされ、介護する側/される側の役割交代が起こり、自立していた世代が再度凝集するため過去の未解決の家族問題が顕在化することはよくあります。
また、意思決定の際に患者や家族内に葛藤や対立があることも多くファシリテーション技術も求められます。
ワークショップでは、在宅医療でよくある疾患がんや認知症患者とその家族の特徴、介護家族の課題とポイント、アドバンスケアプランニング、終末期コミュニケーションを在宅医療・家庭医療・精神科・心療内科・家族療法家のエクスパートと共に学んでいきました。
ワークショップの流れ
6時間にわたるワークショップの前半3時間はレクチャー、もう後半3時間はグループワークにし対話にも重きを置きました。
在宅医療の現状と家族支援(総論) 三重大学総合診療部/名張地域医療学講座 若林英樹医師
在宅医療現場の実際 弓削メディカルクリニック 永嶋有希子医師
在宅医療における家族支援~がんとターミナルケア〜 聖路加国際病院心療内科 山田宇以医師
認知症患者とその家族 渡辺医院/高崎西口精神療法研修室 渡辺俊之医師
グループワーク(振り返り・事例ディスカッション) ひまわりクリニック 宮本侑達医師
総合討論・クロージング
講義の内容
在宅医療の現状と家族支援(総論)
若林医師より、在宅医療の概論と実際の現場の話を事例を交えてお話がありました。在宅医療では、包括的、継続的な医療、家族・地域システム的視点、多職種協働などにおいて、総合診療医、家庭医療の専門性が発揮されます。
ご自身の在宅専門クリニックで行っていた家族相談チームを紹介され、在宅医療や終末期医療における家族の困りごとは、介護の実質的な問題、感情面での悩み、関係性に関わることなど多岐にわたるため、多職種で支援を提供することの重要性を強調されました。
そのため、心理職/家族療法家の方には在宅医療の現場における家族へのジョイニング、ニーズ・リスク評価、家族アセスメントなどを担っていただきたいと締め括られました。
在宅医療現場の実際
永嶋医師より、自身のクリニックの在宅医療の取り組みを紹介いただき、在宅医療の対象年齢や疾患、家族の特徴などを具体的にお話しいただきました。
また、事例紹介されながら、家族支援の観点が重要で患者や家族の心理支援のみならず、家族葛藤を扱うために家族内コミュニケーションを促進する役割が必要と話されました。
ご自身のクリニックにおける心理職へのニーズ調査もされ、9割の医療スタッフが事例に対する介入を望んでおり、癌・認知症患者・精神疾患・心身症・発達障害の患者や家族の対応、DV、 診察を拒否する患者、ACPの話し合いなどがニーズに上がっておりました。
また、医療者自身も喪失感や精神的な疲労を感じやすい現場であるため、医療者自身のケアもニーズも強調されました。
心理職は医療現場で求められている一方、医療者と心理職の連携、医療制度の障壁もあり、在宅医療の現場への同伴や事例検討会に参加することから始めていきたいと締め括られました。
在宅医療における家族支援~がんとターミナルケア〜
山田医師より、がんの病態と治療の実際、がん患者の家族の心理状態についてお話がありました。家族はがんに立ち向かう中で、無力感、不確実性、常に急な状態変化と隣り合わせになるなどの心理的負担や、家族や外界との関係性が変化する二重のストレスを感じることとなります。
また、がん患者と家族のコミュニケーションの特徴として、病気の進行や死についてなどの需要な話題は苦痛から身を守るため、意外に話していることが少ないこと、だからこそ互いに考えていることを誤解している可能性が高いことがあります。
その中で、医療者はコミュニケーションを促進するファシリテーター的役割が求められます。その例が「Advanced Care Planninng」です。
よって、心理職には家族アセスメント、適応のサポート、グリーフケア、ACP、意見対立、コミュニケーションの問題への介入、医療従事者のサポートが求められると締め括られました。
認知症患者とその家族
渡辺先生より、まず高齢者とその家族の支援において大事なのは、①介入する階層(疾患、人、家族、地域)の焦点化、②医学(症候論と治療論)と心理学(ライフサイクル論など)を知ること、③家族理解・地域理解のためのシステム理論、④福祉制度、行政の在り方などを知ることを強調されました。
その上で認知症ケアに必要なこととして、個人においては「発見」「対応」「連携」、家族においては「歴史」「構造」「機能」、地域においては「地域特性」「社会資源」「行政」を挙げられました。
その上で、家庭を訪問する上で重要な家族療法的視点としては、①治療家が自宅で家族と出会う意味や役割を考えること、②転移と逆転移を理解すること、③家族代行(Eタイプ)、④自身を含めた支援システムを俯瞰して理解することを強調されました。
特に、支援者は自分自分の歴史、感情、知識、対人関係力などを活用しながら、関わることが重要であり、そのためにもセルフオブセラピスト(POTT、原家族ワーク、自己分析)も重要であると締め括られました。
グループディスカッションの内容
当日はワークショップの半分はグループワークを行いました。まず、架空のがん患者さんの事例のケースのディスカッションを扱いました。医療現場でよくあるけれど困難な事例を扱ったのですが、心理職の切り口が本当に斬新で、在宅医療に心理職の方が関わる可能性を感じました。心理職を交えた多職種カンファレンスのようでとても面白かったです。
また、在宅医療における家族療法の可能性に関してグループディスカッションを行いました。様々なアイデアが出たと共に、心理職が在宅医療に関与する(そもそも身体科の医療現場にも?)上での壁も徐々に見えてきました。共通言語の乏しさ、診療報酬システムが追いつかない、医療現場では医師と看護師の関係性のため、現場の余白がないなどが挙げられておりました。
精神科で訪問診療されている先生もおられ、在宅医療の制度面で感じている違和感を共有くださいました。例えば、在宅精神療法は精神疾患の患者さんが要介護2以上の身体機能での低下があった際に適応になるため、精神疾患で通院困難になった患者には適応できず、本当に必要な方に往診しずらい、など。
アンケート結果
参加者の皆様からお寄せいただいた感想を一部紹介いたします。
まとめ
在宅医療において心理職/家族療法家が参入することは少ないですが、参入すゆことで活躍いただけることはたくさんあると実感しました。
一方、協働するにあたっての課題も見えてきました。まずは相互交流に重きを置き、在宅医療における家族療法やメンタルヘルスの可能性について対話を重ねていきたいと感じました。
在宅医療はまだまだ発展途上の分野であり、これから心理職の方との協働の可能性を模索していきたいです。
来年2024年の学術大会は金沢で開催されます。来年はなんと、家庭医・総合診療医業界で有名な「医師の家族へのかかわりの5段階」のラダーを考案された米国家族療法家William Doherty氏が来られます。
実行委員長にファミラボ教育顧問の若林英樹先生、私も実行委員を務めることとなりました。
プライマリ・ケアで関わる医療者も関心を持てる企画も考えていきたいと思いますので、ぜひ来年は金沢の学術大会にお越しください!
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執筆:若林英樹(三重大学総合診療部/亀山地域医療学講座)
編集:宮本侑達(ひまわりクリニック)/田中道徳(岡山家庭医療センター)
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