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【活動報告】家族心理士・家族相談士資格認定機構にて講演

8月10日に家族心理士・家族相談士資格認定機構にて、有資格者向けに「一般医療・プライマリケアにおける家族支援」という内容でお話させていただきました。

家族心理士・家族相談士資格認定機構は、家族療法、家族カウンセリングを積極的に広める団体で、日本でも数少ない家族支援の専門家「家族相談士」 や「家族心理士」の認定を行っています。

参加者には、医療者だけでなく、心理士、保育士、児童相談所、総合相談センター、子育て応援センター、いのちの電話、ハローワーク、NPO法人、さらには県議会議員などがおり、家族相談士の裾野の広さを実感しました。

講演内容

講演では、家庭医・総合診療医やプライマリ・ケアの医療現場の紹介、プライマリ・ケアへの家族療法の応用としての「家族志向のケア」の紹介、そして具体的な応用方法を事例を挙げながらお話ししました。

病気は患者さんだけでなく、家族に大きな影響を与えます。抑うつや不安、怒りといった陰性感情に加え、中には早く気づくことができなかった罪悪感から自己犠牲に陥り、疲弊や孤独を感じることもあります。

病気は患者・家族の関係性にも影響を与えます。これまでの自立した関係が介護者と被介護者の関係に変わり、新たな知識や技術が求められます。介護者になることで社会参加の機会が制限され、家族との距離が縮まる一方で、他者との距離が遠くなりがちです。病気に関する会話はストレスを伴いますが、会話が不足すると誤解やすれ違いが生じやすくなります。

そのため、医療では家族を背景や資源としてだけでなく、病気から影響を受ける生きた対象であると意識することが重要です。だからこそ、家族療法や家族志向のケアの理論や技法がとても役立つと実感しております。

質疑応答

様々なご質問をお寄せいただきました。当日うまく回答できなかったこともありましたので、こちらに回答を掲載いたします。

Q)家族療法を医療分野に適応している先行事例はあるのでしょうか?

日本では、精神科医療、高齢者医療、小児科、がん、緩和ケア、慢性疾患治療、認知症ケアなどの分野で積極的に活用されています。特に、家族の関わり方が患者の治療や回復に大きく影響を与えるケースでは、家族療法が効果的なアプローチとして注目されています。

しかし、日本における家族療法の医療現場での普及状況は、まだ限定的であり、特定の分野や地域において導入されているにとどまっています。

一方、欧米では家族療法が積極的に医療に活用されておりいくつかの具体的な事例として以下のものが挙げられます。

●マギルモデル(カナダ、モントリオール)

カナダのモントリオールにあるマギル大学では、家族療法を取り入れた「マギルモデル」が広く知られております。特に慢性疾患を抱える患者の家族を支援するために家族全体に焦点を当て、家族療法の技法を用いて患者の病状管理をサポートします。

マギルモデルの中心理念は、家族が一つのユニットとして機能し、家族内での健康や幸福を共有することが病気管理やリカバリーに寄与するというものです。看護師や医療従事者がこのアプローチを用いて、家族間のコミュニケーションを改善し、患者への支援を強化します。

●ケイザーパーマネンテの統合ケア(アメリカ、カリフォルニア)

ケイザーパーマネンテはアメリカのカリフォルニア州で行われている先進的な医療モデルで、家族療法を精神保健ケアや慢性疾患ケア、特に糖尿病や心疾患といった慢性疾患の管理に活用しています。

統合ケアモデルとして、医療提供者が家族との連携を重要視し、患者の症状を家族療法的視点から捉えます。家族全体の理解やサポートが、患者の健康回復に貢献するという考え方に基づいており、医師、心理士、セラピストが協働して家族全体のケアプランを作成します。

●イタリアのミラノモデル

イタリアのミラノで発展した「ミラノモデル」は、特に精神疾患を対象とした家族療法です。ミラノモデルは、家族内のコミュニケーションやシステムに焦点を当て、患者の精神疾患が家族全体の関係性や行動にどのように影響を与えるかを探ります。家族全体の協力や関わり方を変えることで、患者の症状の改善を図るというアプローチがとられ、精神科治療において広く活用されています。特に統合失調症や双極性障害の患者に対して、家族療法が導入され、症状の安定化や再発予防に役立っています。

Q)病気の症状を外在化をすることで、問題との距離を置いて、アプローチをしやすくするというが、医療における当事者研究とアプローチが似通っていると感じました。関連性をどのように思うでしょうか?

外在化は、ナラティブアプローチの中の特徴的な手法であり、問題や症状をその人自身から切り離し、「外部の存在」として捉える技法です。これにより、当事者は問題や症状を自分の一部ではなく、外部の影響として捉えることができ、問題に対する距離を置くことが可能になります。

当事者研究においても、この外在化の考え方が応用されています。たとえば、「統合失調症」という診断名や症状を「自分自身の特徴」として抱えるのではなく、それを外在化し、「統合失調症とうまく付き合っていく方法」を見つけ出すことを当事者研究では重きを置きます。病気や症状を「自分とは別のもの」として語り、その関係性を探ることで、問題に対する新たな視点を得ることができます。

当事者研究、ナラティブアプローチ、外在化の手法はすべて、当事者が自分の経験を主体的に捉え直し、物語を通じて新たな視点や意味を見出すことを目指していると捉えられるのかもしれせん。

今後もプライマリ・ケアや一般医療における家族療法の活用や協働について、さらに力を入れたいと改めて思いました。

貴重な機会をくださった家族心理士・家族相談士資格認定機構の皆様、本当にありがとうございました。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

今後もファミラボでは様々なセミナー、勉強会を企画していきます。こんな勉強会して欲しい等ありましたら、お気軽にお問い合わせください。

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執筆:宮本侑達(ひまわりクリニック)
編集:田中道徳(岡山家庭医療センター)

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