見出し画像

檻の中 前フリ

※実体験につき、身バレ防止のため一部フェイクを入れております。ご了承ください。


数年前、逮捕された事がある。

罪状は住所不法侵入と器物損壊。
取調や裁判では「酒に酔った上での短絡的で極めて悪質な犯行」ということで、それなりの懲役刑と執行猶予の判決が下された。

これは、その時にあった出来事と、その中で出会った人々との記録。


当時、私は都内のとある街の警備会社に勤めていた。
直近に住んでいた23区内のアパートを夜逃げ同然で出ていき、しばらくは知人宅を転々とする暮らしだったが、
単発の音楽関係の仕事で知り合った仲間達と意気投合し、共同で仕事をするようになった。

ある程度すると仕事も軌道に乗ってきて、
「そのうち事務所でも借りようか」という話にもなった。
そこで私は先に申請していた失業保険の早期就業手当目的で、都内のハローワークから件の警備会社へ面接を受けに行き、翌日から寮に入った。
その旨を仲間達にも伝え、数ヶ月したら辞めて合流するつもりだった。
警備関係は一癖も二癖もある方々ばかりだったが、そこでもいろいろ悲喜交交あった。
それはまた別の話。

ある程度現場にも慣れてきて、簡単な現場くらいなら一人でもこなせるようになってきたある日のこと。

その日は午後の現場だけで、少しゆっくり出来るなと考えながらも、これまでの早起きの癖がついていたので割かし早朝には起床していた。
ぼちぼち風呂にでも入ってコンビニにでも行くか、と思っていた矢先に、突然チャイムが鳴った。

時刻は朝の7時を少し過ぎたくらい。
来客にしては早すぎる。
しかし当時の寮には同じ会社に所属している同僚達も多数いたため、その誰かか?とも思った。
恐る恐るドアスコープを覗くと、スーツや作業着のようなジャケットを着た人が5名ほど。
明らかに警備会社の人間ではないことが分かった。

足音を出してしまっていたので、致し方なくドアを開けると、先頭に立っていたスーツ姿の人物が胸元から警察手帳を出して言った。

「〇〇警察。何で来たか分かるよね?」

始めは「はぁ?」という感じだったが、その時には既に件の事件後だったので、何となく察せれた。
事件に関しては今更言い訳も出来ないが、本当はちょっとした事情の元での出来事だった。
それを語る機会も気持ちも、今は更々ないのだが。

そして隣にいた刑事がカバンから一枚紙を出して私に見せた。

「捜索差押許可状、ガザ状ね。これから家宅捜索するから抵抗しないようにね」

そうして腕時計を見て「7時〇〇分、ガサ開始」と言い、後ろの刑事達も続いて部屋に入ってきた。

それからスーツ姿の刑事以外の4人は室内の捜索を始めた。
台所の下棚から、風呂場、トイレ、ベランダといたる所を隈無く物色していく。
その間、スーツ姿の刑事は私を側に座らせてずっと話していた。
逃走、反抗の抑止の為だろうが、いろいろと取り留めのない話をしていた記憶がある。
後に分かったのが、その人物は私の案件の主任刑事で、名前をH刑事(仮名、以下H)と名乗った。

H「いろいろ捜査していく中でさ、君の歌ってる動画とかも観たんだよ。若いのにすっごく良い歌でさ、俺ら捜査陣も何回かリピートして聴いたんだよ。ホントだよ?
でも、そんな人がこんな犯罪を犯しちゃったらダメじゃん。
これから間違いなく逮捕になっちゃうけど、した事はちゃんと反省しなきゃね」

みたいな事や、郷里の親を心配するような事を優しく言ってくれていたが、あまり記憶にない。
勝手な事だが、私の中では「あぁ、おわった」以外の何も出てこなかった。
おそらくだが、そんな体験をした人の大半が私のように罪の反省もなく、自分勝手な思考に陥ると思う。

しばらくしてガサが終わると、他の捜査員達が私物の何点かを押収してH刑事に報告していた。
と言っても、犯行時に着ていた服や靴くらいの物だったが。
そしてH刑事は「これから署に移って取調するから、服着て」と言い、私は普段着に着替えて同行された。
パトカーではなく、警察の捜査車両が二台アパートの駐車場に停まっており、住人なのか警備会社の同僚なのか分からない数名が私達を見ていた。
朝から何の騒ぎだ?とも思われていたろうが、おそらくは警察沙汰と察せられただろう。

そのまま車に揺られること約一時間、私達は都内の某警察署に着いた。
そのまま取調が始まったのだが、この時はまだ逮捕状が出ていなかった為、何をするでも刑事が着いて来る事はあっても、手錠を架けられることもなくある程度自由に行動出来た。
(外に食事を買いに行く、喫煙etc)

あらかた聴き取りが終わり、夕方過ぎ辺りにH刑事が私の元に一枚の紙を持って現れた。

H「これ逮捕状。容疑が固まったので、朝言ってた通りあなたを逮捕します」

18時〇〇分、住居不法侵入と器物損壊の容疑で逮捕

そう言われて、両手に鉄製の手錠が架けられ、私は逮捕された。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?