奈良県と他府県の対戦で感じた圧倒的な攻撃力の乏しさ~近畿高校サッカー選手権大会1回戦を観戦して~
2023年2月18日(土)、19日(日)にて近畿高校サッカー選手権大会が奈良県各会場で開催されました。
これまでは近畿2府4県のインハイ予選終了後の6月中旬に開催されていた近畿大会でしたが、今回は各府県の新人大会の終了後(大阪府は過去大会ポイント制での上位推薦)に開催時期が変更されました。
2月23日(木)の決勝戦は中止となりましたが、結果は下記トーナメントの通り、大阪府第1代表の履正社高校の優勝で幕を閉じました。
さて本題に入りまして、今大会は奈良県代表の3校(畝傍/一条/奈良育英)が、それぞれ他府県の強豪校と対戦して、ある程度予想されていたものの初戦3校全滅という残念な結果に終わりました。
この結果を踏まえて私が観戦した2試合から、奈良県と他府県の現時点での攻撃面の実力差について、感じた事を書き残しておきたいと思います。
一条高校vs近江高校
【公式記録】
(※)ゲーム内容については公式記録の総評を確認してください。
スタッツを見れば分かる通りシュート数が17対2でコーナーキック数は7対0と、データ上からも一条が近江に圧倒されていたのは一目瞭然な結果でした。
近江はプリンスリーグ関西1部で全国区の強豪校という事もあり、一条との対戦で実力差をまざまざと見せつけられたので、今回はこのポイントをピックアップしてみました。
【両校のKICK OFF時システム】
県内では数少ないポジショナルプレーを見せるスタイルの一条は、オーソドックスな1-4-4-2のシステムで入り、奇しくも近江も1-4-4-2でシステム組んできたため、お互いミラーゲームでがっぷり四つの展開になるかと思いましたが、試合開始とともに両校の明暗はくっきりと分かれました。
【ミドルブロックを選んだ一条】
一条はボール非保持時の際、近江に対してコンパクトにミドルブロックを組んで、近江に自陣ゴール前への侵入を防ぐプランで守備対応してきたと思われます。
そして、ミドルブロックで近江の縦パスを引っ掛けてボールを奪い、ショートカウンターで一気に攻め上がる攻撃をプランしてきたと思いました。
(※)このあと明記している番号は背番号でなくポジション番号です。
次に上記のツイートの説明をしていきます。
【ミドルブロック攻略する近江】
一条がミドルブロックを組むことで、近江は自陣深くでスペースを確保できため、ボールを循環する時間を作れ、ここでゲームの主導権を握る事ができました。
そして、近江は底でのボール循環から8番(IH)が落ちて構造を作り、5番(CB)からの縦パスを受けると、インサイドに移動して4人目のMFとなった11番(SH)にボール当ててスイッチを入れて、オーバーラップした3番(SB)にスルーパスを通して攻撃を加速させると、サイドアタックから一条ゴール前に走り込む7番、9番、10番の前線3枚に対して、速いクロスを入れる再現性ある攻撃を見せていました。
前半このパターンでの得点は無かったものの、近江のパススピードとリズム感のあるパス交換は、一条のミドルブロックを崩すのにとても効果的な攻撃でした。
【前プレに攻撃放棄する一条】
逆に一条がボール保持した際、近江は前線からプレッシングを仕掛けて一条DFラインにプレッシャーをかけると同時に、中盤も連動してパスコースを消してくるので、一条は苦し紛れに前線へロングボールを蹴ってしまい、近江にあっさりとボール回収され主導権を明け渡していました。
次に上記のツイートについて説明していきます。
【近江/中盤のポジショニング】
前半3点のビハインドで折り返した一条は、後半からミドルブロックから前プレの守備に対応を変更してきました。
序盤は近江も戸惑いを見せましたがこれも直ぐに馴れて、一条が前プレしてきても近江は底でボール循環させて前プレを剥がしてから、中盤四角形の4角をIHの6番、8番と7番(SH)がインサイドへ、10番(FW)が落ちて4角のスペースを全て埋め前進ルートの構造を作り、いとも簡単に一条の2ndラインとDFラインを突破して再び一条ゴールを脅かしました。
常に中盤四角形の4角を被らずポジショニングできると、ビルドアップの前進ルートを確保できるので、奈良県の高校には是非とも見習ってほしいプレーでした。
【一条/中盤のポジショニング】
逆に一条は、この近江戦で中盤四角形の4角のスペースを埋める事ができず、自陣でボール保持した瞬間にFW、SH、SBが一気に近江ゴール前に向かって走り込んでしまうため、IHの6番と8番で4つ中2つしか4角を埋めていない状態となり、前進ルートの構造を作れないため、このシーンでも簡単に前線へロングボールを蹴ってしまい、これもまた近江にボールを回収されていました。
この様に中盤のスペースを空けて間延びしたまま、何人もムダに相手ゴール前へ走り込む悪い癖は、一条だけでなく奈良県全体に蔓延する課題の1つだと思います。
【まとめ】
奈良県内のレベルではボール保持できたとしても、そこで満足してしまうと他府県の強豪校との対戦では、この日の近江戦の様に全くボールを持てなくなってしまう事になるので、パス精度にパススピード、そして正確なトラップなどボールテクニックを高めたベースの基、特に中盤四角形の4角をしっかり意識するポジショニングを取れる様に、今後はサッカーに対する理解度も高めておきたいです。
この試合を観た限り技術も理解度も近江に劣ってたので、一条にはこの完敗した経験を次のステップに繋げてほしいと思います。
結局のところ、守備対応では前プレもミドルブロックも近江に攻略されてしまった一条なので、まずはサッカー理解度を上げる事で守備の強度をアップ出来れば、他府県の強豪校相手でも最少失点で乗り切れる守備力を身に付け、ゲームメイクしていける自信に繋がると思いました。
ただし、格上の近江相手に打算的なゲームプランで保守的に入る事なく、現時点でのチーム力を確認するため果敢に真っ向勝負を仕掛けて、アディショナルタイムにはサイドアタックから一矢報うゴールを奪った一条には、本当に評価したいプレーだったと思います。
奈良育英高校vs興國高校
【公式記録】
(※)ゲーム内容については公式記録の総評を確認してください。
上記のツイートにある通り、この試合は奈良育英が前半のうちにスーパーなミドルシュートを決めて優位に立ち、新庄健民運動場の天然芝のコンディションのせいか、興國各選手のプレークオリティも低かった事も手伝い、奈良育英の前プレとロングボール対応で膠着状態に持ち込み、時間も稼げていたので70分ゲームならこのまま逃げ切りで勝てる流れでした。
その雰囲気の中で奈良育英の守備陣を崩して同点に追いつく興國はさすがだと思いました!
【両校システム】
奈良育英は県大会から同じ守備を意識したシステムで、興國に押し込まれると変則的にWGが落ちて5バックで守備対応していました。
興國はセンターラインに人数かけて奈良育英の守備ブロック攻略を意識したシステムでした。
【雑感】
試合は奈良育英の前プレが思ってた以上に興國を苦しめた様に見えて、前から奪えるとショートカウンターや、先制点に繋がった様なミドルシュートを打っていく攻撃パターンでした。
しかし、興國のテクニックが奈良育英を上回り、奈良育英の前プレを剥がされると一気に自陣に押し込められる場面が多く、選手権本大会でも感じた他府県の強豪校相手には、まだまだ現実的なゲーム運びしか出来ないな…というのが正直な感想でした。
今季はプリンスリーグから降格して再び県リーグを戦う事になったのは、奈良育英だけでなく奈良県サッカー協会にとっても痛い事だと個人的には思っています。
一発勝負のインハイや選手権などの本大会では、どうしてもリスク冒してまで戦えず、現実的な戦術でゲームに挑む事になるので、プリンスリーグで毎試合PDCAを繰り返しながら、関西の強豪校と対戦できる機会を失ったのは、厳しいかもしれませんがチーム力アップに向けて、一旦停滞したと言わざる得ないと思っています。
私立高校で古豪復活という事でもあり、奈良育英は県代表で満足するチームであってはならない宿命だと捉えて、今季は少し厳しめの目で観ていきたいと思います。
そういう意味では今季県リーグでの参戦であれば保守的にならず、一条の様に積極的な戦術も取り入れていく必要があると思います。
詳しくは新人大会の畝傍戦で負けた準決勝の試合を観て感じた事を、下記noteに奈良育英の課題を書いていますので、良ければこちらをご確認ください。
畝傍高校vs桃山学院高校
【公式記録】
(※)ゲーム内容については公式記録の総評を確認してください。
この試合は観戦していないのだけど、スタッツを見てもYouTubeのハイライトを見ても、両校の攻撃は単調そうやな…と思いました。
シュート数が5本ずつ、コーナーキック数は2本ずつは、正直なところ淋しい内容だと思います。
畝傍に足らないのは攻撃がワンパターンなところだと思います。
詳しくは畝傍の課題を下記noteに書きましたので、良ければこちらをご確認ください。
あとがき
奈良県と他府県との実力差について守備面では少しずつ縮まってきた様に思えるけど、まだまだ攻撃面では得点できそうな決定機を作るシーンが少なすぎるので、他府県の強豪相手に得点できる攻撃パターンをもっと増やしてほしいし、そのためにはサッカーの原理原則を理解した上で、どうプレーしたら再現性高い攻撃ができるのか、ミーティングなどで話し合ってほしいと思いました。
思っていたより長くなってしまいましたが、最後まで読んで頂きありがとうございます。
奈良県代表校が全国大会で優勝果たす将来が来る日を楽しみに待っています!