ミニ四駆を科学する#05 転がり抵抗を極める
ミニ四駆に限らず物体を速く走らせる(飛ばす)には、動力源のパワーアップと共に物体に掛かる抵抗を減らす事も有効です。
抵抗が少なければ小さい力(非力なモーター)でも速く走れるかもしれないし、使うエネルギーも少なくて済み電池も長持ちするかもしれません。
そこで今回はミニ四駆にかかる走行抵抗について調査します。
#05ではまず低い速度から影響が出る『転がり抵抗』を取り上げます。
◇そもそも走行抵抗とは
ミニ四駆を走らせる際に、モーターの力で前に進もうとするのを邪魔する力の事です。一般的には『転がり抵抗』『空気抵抗』『摩擦抵抗』などがあります。
摩擦抵抗は、ギアやシャフトが回転するときに発生する各部が擦れ合う際の摩擦による抵抗ですが、切り分けが難しいので今回は転がり抵抗に含めて考えます。
・転がり抵抗
一般的に、転がり抵抗は走行速度の影響を受けず、どのスピードでも一定と
されています。そして基本は重量に比例します。転がり抵抗の良し悪しを表現する転がり抵抗係数が分かれば、重量を変更しても計算で抵抗力を算出できます。
一方、今回はギアなど各部の摩擦分も含めて考えているので、タイヤはもちろん、ベアリング、シャフトなどを変えた場合は係数も変わります。
転がり抵抗力 = 転がり抵抗係数 x 重量 x 重力加速度(x9.81)
軽量化は慣性力(速度を維持しようとする力)への影響(加速や減速など)が最も大きいが、全速度域に影響が出る転がり抵抗低減にも効果があります。
・空気抵抗
一方、空気抵抗は走行速度の二乗に比例して大きくなるとされ、速く走れば速く走るほど抵抗が増え速度を上げるのが苦しくなります。最高速が空気の壁との闘いと言われる所以です。
空気抵抗 = 抵抗係数(CD値) x 前面投影面積 x (1/2 x 空気密度) x 速度x速度
同じ形(もしくはCD値と投影面積を掛け合わせたCDA値が同じ)であれば、20km/hで走った時の空気抵抗は、10km/hで走った時の4倍になります!
◇転がり抵抗の計測
専用のころがり抵抗計測装置(装置と呼ぶほどの物ではない・・・)を作り、実際にミニ四駆を転がして得られる値から、計算で抵抗係数を算出します。
・計測装置
実はただの坂道です。オーバルコースの路面と同一素材の段ボール箱を斜めに固定しただけです。ダイソンの箱である必要はありません。
(サイクロンテクノロジーは利用してません。笑)
坂道の先は広く平らな床が必要です。
どこまで転がるかで転がり抵抗の良し悪しが分かります。
本当は段ボールを敷くなどコースと同じ素材の床の方が望ましいです。
転がす際は、電池込みの状態の上で、カウンターギアを外しておきます。
ギアを抜かないと、転がる時にモーターが回され発電し(回生)、モーターがブレーキをかけている状態となるので走行抵抗のみを正しく測ることができません。
・転がり抵抗力の算出
ここでは少し複雑な物理と数学(高校レベルかな?)を使います。
転がり抵抗係数は坂道も平坦路も常に一定、段差は無視、そしてこの実験レベルの速度では空気抵抗も無視できるレベルとして扱います。
(計算に入れるとかなり複雑になる上、そもそも精度が期待できないので…)
以下にザックリ計算の流れを記します。
(エレガントでない導出なので読み飛ばしOKです)
ここでμを求めるのに必要な入力情報は、以下のように全て簡単に揃えることができます。
重力加速度g ⇒ 地球上では約9.81 m/s2で決まっている値
坂道の角度Θ ⇒ 分度器か三角関数で調べます。
坂道を転がっていた時間t1 ⇒ ストップウォッチで測ります。
平坦路を転がった距離X2 ⇒ メジャーで測ります。
・実際の計測結果
我が家の計測装置とエアロアバンテのデータ以下通りでした。
坂道の角度Θ 12.2度
坂道の時間t1 0.80秒
平坦路距離X2 3.1m
計算結果 転がり抵抗係数μ = 1.432 または 0.032
さて、ここで問題なのはどちらの値が正解なのか?ということです。
選ぶために私が考えた方法は、平坦路走り始めの速度V1を計算して妥当な方を正解と判断することです。以下に計算方法と計算結果を記します。
明白な違いを確認できる結果がでました。
μ=1.432を使った場合の坂道を転がり終えた速度は33km/hに到達している事になります。これは明らかに速すぎます。
ノーマルモーターのオーバルコース速度でも10km/h程度だったので、12cmの高さから転がしただけでココまで増速はされません。
もちろん見た目もそんなに速くなかったです。
そして、抵抗がない時の理論坂道最高速度をも大幅に超えているので、こちらは現実解ではありません。
※数学というのは便利ですが、時に現実では起こりえない解が出ます。
一方、μ=0.0032の計算速度は、抵抗なしの理論速度と比べても近い速度の上、転がり抵抗によっておおよそ10%速度が落ちるという結果なので非常に理にかなった値であるように見えます。以上を踏まえ
ノーマルエアロアバンテの転がり抵抗係数μは0.032程度
であることが分かりました。
(思っているより坂道で速度が乗っていたので、空気抵抗分も幾分か含まれていると思われますが、今回は大目に見ることにします。)
◇転がり抵抗μ=0.032ってどの程度?
係数だけではこの値が大きいのか小さいのかよくわかりません。
そこで力を計算して相場を理解します。
転がり抵抗力[N] = μ x 重量m x 重力加速度gなので、
120gのアバンテは0.032[-] x 0.12[kg] x 9.81[m/s2]=0.0376…[N]
『前回の#04のモーター特性を把握する』で9000rpmの時のトルクが0.25[mNm]である事が分かっているので、アバンテのタイヤ直径24mm、ギア比4.2で前進しようとする力、駆動力を計算し比較してみます。
駆動力[N] = トルク[Nm] x ギア比[-] / タイヤ半径[m]
= 0.00025[Nm] x 4.2 / (0.024/2) = 0.0875 [N]
◇まとめ
0.038Nの抵抗力は、ノーマルアバンテの9000rpmの時に発生する駆動力0.088Nの約半分に相当すると言えます。小さくないようです。
アバンテの速度は9000rpmで伸び悩んでいたので、残りの駆動力(0.088N-0.038N=0.050N)は空気抵抗に食われて、それ以上加速できなかったのでは?と考えても良さそうです。
次回は、残りの走行抵抗である空気抵抗について考えていこうと思います。
今回は計算式ばかりで眠くなる記事ですが、最後までお読みいただきありがとうございました。
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