初恋の人がロリババァで大家族だった①
ロリババァとドタバタな話を目指します。
※当記事、及び関連する私の著作物を転載した場合、1記事につき500万円を著作者であるFakeZarathustraに支払うと同意したものとします。
※本作品に於ける描写は、現実的な観点での法的な問題、衛生的な問題をフィクションとして描いており、実際にこれを真似る行為に私は推奨も許可も与えません。当然、その事態に対して責任も負いません。
※フィクションと現実の区別の出来ない人は、本作品に影響を受ける立場であっても、本作品の影響を考慮する立場に於いても、一切の閲覧を禁止します。
恋人いない歴が年齢と同じというのは、今日日はそう珍しくなくなったのは、良い事なのか悪い事なのか分からない。だが、三十も過ぎてくると結婚や恋愛の煩わしさやリスクの情報を集めている自分もいる。
随分前から、既婚者で男の芸人と来たら、自分の嫁との生活を悪く言うのが一つのコンテンツとなっている。
嫁が怖い旦那や、旦那が嫌いな嫁の話ばかりが持て囃される。
SNSなんかで自分の旦那や嫁を褒めるポストをすれば、嫉妬に狂った人間に襲われる。
僕みたいな臆病な人間は、女性を遠ざけて生きるのが正解なのだろう。
かと言って孤独を紛らわせるために、男友達が多くしようとか、没頭できる趣味を見つけようとか、そんな器用なことも出来なかった。
これで仕事ができる人間ならば、孤高な存在とでも気取っていられたが、残念ながらそれもない。
メーカーの販社のしがない営業だ。
客先と客先の合間、帰社するには無駄が出来てしまった。
調子のいいやつなら、こういうスケジューリングにはならないだろうな。
街角の神社に寄って休憩しよう。
コーラを片手に木陰のベンチに座る。
ギラギラした太陽を木陰が防いでくれている。
「おにーさん!」
小学校の四年生ぐらいの女の子が声を掛けてきた。
夏休みとは言え、こんなオフィス街に子供が居るもんだなと思った。
見上げれば、境内の裏手がマンションなのに気付いた。
こんな立地ならさぞかし家賃も高いだろう。
邪険に扱って通報されるのも敵わないなと、「僕?」と訪ねた。
「暑いねぇ」
少女は麦わら帽子の下から人懐っこい笑顔を見せた。
「そうだねぇ。家で涼んでたら?」
僕がそう尋ねると、「家族が多いから騒々しいんだよねぇ」と言って、「この辺の人?」と言うので、「ワンブロック向こうの会社だよ」と答えた。
彼女は「ふーん」と言ってから、「みんな大変だよねぇ。もっと楽できたらいいのに」と呟いていた。
「大人になったら、そうも言ってられないよ」
僕は残りのコーラを飲み干すと、ベンチを立った。
「もう行くの?」
「隣のビルで商談!」
僕は振り向きざまに笑った。
「じゃぁ、頑張ってね!」
彼女は大きく手を振るので、僕も「ありがとう!」と手を振った。
それが彼女との出会いだ。
基本はルートセールスなので、この街を右へ左へとほっつき歩くのが仕事だ。
業界が狭いので、事務所は大体ひとところに集中している。
出かけるとしても駅二つ分以内が殆どで、新幹線に乗るような出張は年に十回となかった。
同期は辞めてしまったか出世してしまったかのどちらかで、僕は先行きが怪しかった。
とは言え、仕事自体はくもなく続けられている。
今日の商談だって、要するに御用聞きのようなものだ。
細かな商品の話は、本社へと持ち込んで、僕は降りてきた商品の事務処理をするのに近い。
特段難しい仕事ではないが、業界的な知識は必要という程度の仕事なのだ。
例の神社へはなんとなく足が向く。
この辺の土地の鎮守様だから、参拝して罰の当たるものではないだろう。
その度にあの子に出会い、そして一言二言雑談をするのだった。
彼女の何気ない励ましの言葉、ねぎらいの言葉が心に響いていく。
ある日の朝、その日は朝イチでプレゼンがあると言うので、少しばかり早めに出社した。
その時、あの女の子が巫女服を着て境内を竹箒で掃いていた。
「あぁ、ここの子なんだ」
僕が少し声を掛けると、「あっ! お兄さん、おはよー!」と元気な声が届いた。
「早いんだ?」
「今日はちょっとね」
彼女は「大変だねぇ」とくすりと笑うと、「そうだ、今週末神社でお祭りがあるからおいでよ!」と誘われた。
「考えておくよ!」と手を振り去っていくと、「お仕事頑張ってね!」と大声で声をかけられた。
彼女の顔を見て声を聞くだけで、その日一日がとても良いもののように思えてくる。
あぁ問題はそれが小学生と言うことぐらいか。
インターネットで調べれば、神社とその周辺でやる結構古いお祭りらしい。
境内は狭いけれど、横の通りが歩行者天国になるそうだ。
入社して十年ほど経つけれど、全くお祭りのことを認識してなかった――そう言えば、役員の手伝いで何人か総務の人間が行かされるなんて話があったっけ。
兎に角まぁ、彼女に誘われたなら少しぐらい顔を出すのも悪くない。
土曜日の昼近く、感覚的に不思議な感覚で土曜日の電車に乗る。
会社へと進む道は、いつもとずっと違った風景に見えた。
その途中に神社がある。
脇の道には屋台が並んでいる。
昨今の反社条項との兼ね合いだろうか? キッチンカーのようなタイプが多くて、昔ながらと言うような屋台はない。
その反面、この地域のブラジル人やらトルコ人やらが屋台を出している。
この界隈の商社やメーカーも賑やかしに店を出していた。
うちの会社も例に漏れず、常務と総務課の数人が焼きそばを焼いている。
無視するのも悪いので、とりあえず挨拶をして、焼きそばと缶ビールを買った。
総務に顔を出すことはたまにあるので、悪いことではないだろう。
相手も「あっ、中山さん来たんだ」と意外そうでもない顔をしていた。
歩行者天国になった道の真ん中に、テントと机が用意されている。
そこで焼きそばを啜りながら、ビールをぐっと飲んだ。
見慣れた筈の見慣れない風景に、少し気分が高揚した。
「あっ! お兄さん、来てくれたんだね!」
あの子の声がテントに反響した。
振り向けば、彼女はバッチリとしたメイクと、巫女服に半纏を付けて、綺羅びやかな髪飾りが揺れていた。
「きれいだね」
僕が答えると、「もぅ! お兄さん、恥ずかしいって!」とキャッキャしていた。
手にしたビールを見て、「美味しい?」と訪ねたので、「真夏のビールは最高だよ」と笑った。
「いいなぁ」
彼女はそう笑い、「夜はお神酒を飲むんだ」とくすりと笑った。
あぁ、こういう狭いコミュニティでは、そういうのがあるよなぁと思った。
僕も田舎にいた頃、村の祭りでは顔役のおっちゃんたちに「お神酒だから飲みなさい」と言われた事がある。
お陰で酒に強くなったような気がするけど、冷静に考えて違法行為だ。
僕はお神酒の行をどう言ったものかと考えていたら、更に奥の方から声が掛かった。
「もう! カナエちゃん! すぐいなくなるんだから!」
中学生ぐらいの女の子が、あの子と同じような出で立ちで現れた。
「悪い〜悪い〜」
カナエちゃんは引っ張られるようにして人混みに姿を消す。
「またあとでねー!」
人影の裏から振られた小さな手が見えた。
境内の中央の神楽殿では、お神楽が始まろうとしていた。
観客がこぞってカメラを向けていた。
偶然、一人分の隙間があったので、最前列で見られる感じとなり、特等席だなと一人笑った。
お神楽が始まると、カナエちゃんとあの中学生、そしてもうひとりの小学生らしい子が現れた。
それは珍しいことはない、日本各地の夏祭りで見かけるお神楽だった。
近頃は少子化で伝承が難しいという話も聞く。
こんな街中なら氏子も多いだろうし、困ることはないのかも知れない。
そんなことを考え、そして再びお神楽へ意識を戻すと、ふっと神秘的な感覚を得た。
言葉では上手く表現できないが、過集中の状態というか、周囲のあらゆる音が消え、優雅に舞う三人しか視界に入らなかった――カナエちゃんと目が合うと、彼女は一瞬だけ僕に微笑みかけた。
一瞬が全てだった。
お神楽が終わった瞬間、僕は現実に引き戻された。
夏のコントラストと彩度が開き切った瞳孔に突き刺さる。
鼓膜も少しずつボリュームを上げていった。
夢心地から醒めて、フラフラとしながら往来へと流されていった。
タコスの屋台でテキーラのショットが五百円で売っていた。気付けのつもりでぐいっと飲み干した。
少し正気に戻れた気がした。
店主のおじさんが、「いい飲みっぷりだねぇ」と笑っていた。
テキーラが効いたのか、無限に食欲が湧いてきた。
ブラジル屋台でデカいラムの串焼きを手に入れ、お得意先の屋台で焼きとうもろこしを買い、ベトナムの店でバーバーバービールを小脇に抱えた。
祭りの浮かれた雰囲気に完全に飲まれてしまい、それからあれこれ飲んで食って過ごした。
酔いが回っていい気分になった頃、再びカナエちゃんがやって来た。
「あー、酔っ払ってる!」
彼女はケタケタと笑いながら、僕を中華屋台に引っ張ってきた。
「張さん! いつもの頂戴!」
そう言うと、中華系の店主が「彼氏さんかい?」とじゃれついてた。
「そうなる予定!」
カナエちゃんがそう笑うと、真っ青な瓶からショットグラスに白酒が注がれた。
「彼氏さんも! ほら、サービスだよ!」
そう言われて、カナエちゃんと「かんぱーい!」と一気飲みした。
焼けるような喉越しと、胃の中から漂う微かな甘い香りは、これが強くていい酒だなと思わせた。
カナエちゃんはケタケタと笑い、「これから鏡開きやるから来てよ!」と引っ張られた。
やや朦朧とした意識の中、「鏡開きとは目出度いね!」と気分自体は上々だったのだ。
彼女に引っ張られながら人混みを抜ける時、やたらと顔を見られた気がする。
まぁ気の所為か?
氏子の偉い人っぽい人や、神主らしき人とかに囲まれつつ、何だか分からないまま、紅白の帯の巻かれた木槌を持たされた。
お神楽のもう一人の小学生が、「この目出度き日に乾杯!」と合図が入ると、樽酒の蓋をかち割った。
「おお! 婿殿!」
五十絡みのおじさんだの七十を過ぎただろうおばあちゃんに称えられる。
よくわからないまま、乾杯の渦中で揉まれた。
振る舞い酒は大盛況で、何回も何回も「かんぱーい!」の叫び声が聞こえる。
遠くで聞こえれば、こっちで乾杯が起きて、それに釣られて他方で乾杯が起こる。
エンドレスの乾杯に僕はすっかり気分が乗って、一緒に騒ぎながら枡の新しい木の香りに酔いしれた。
笛太鼓が響き、歓声がこだまする。
オフィス街の合間の神社、篝火や提灯の明かり。
幻想的な雰囲気は夢を見ているようだった。
爽やかな目覚めだった。
幸いなことに、僕は二日酔いしにくい体質だった。
和風の室内に朝陽が差し込む。
柔らかな布団から身を起こすと……カナエちゃんが横で寝ていた。
「隼斗くんも起きたの?」
彼女はうっとりとした目で見つめ笑った。
なんで彼女が僕の名前を知っているのだろうか? そして何故、僕は浴衣を着ているんだろうか?
全てが謎に包まれている。
乾杯の音頭を取っていた小学生が襖を開ける。
「カナエ、いつまで寝ておる!」
「カカ様、頭に響くぅ〜」
カナエちゃんが頭を抱えると、カカ様と呼ばれた子が頭を下げる。
「こんな子だけど、貰ってくれてありがとうね。
貴方様なら、正統な後継者を身籠らせてくれるはず!」
そう笑って、僕を隣の部屋へと通した。
大きな机に書類と筆記具があった。
「これは?」
「勿論、婚姻届ですよ! 人の世は何かと面倒くさくて仕方ありませんね。
たかだか子供を作るのに、こんな紙切れが必要だなんて……
ささ、書くこと書いて、すぐに祝言を挙げましょう!」
僕は驚きの声を上げて、説明を求めた。
「何を言っているのですか? カナエと褥を共にする仲ではありませんか?
よもや、神たる私の娘と遊びで付き合うなどということがありましょうか?」
「ちょっと、母さん!」
更に奥の部屋から襖が開いた。
そこには四十半ばと思しき男性がいた。
男性はこの家の当主である、中之条文哉さんと言う人だった。
彼が説明するに、カナエ"様"と、目の前のソノ"様"は、いわば人間の身体に受肉した神様だという。
神様は一人だけ、自分の正統な後継者たる子供を作るという。
ソノ様の子供がカナエ様で、僕は神の子の子種の適性があるらしい。
「なので、この国の安寧の為にも婚姻届にサインを入れてもらえないだろうか?」
と深々と頭を下げられた。
「そんなこと言われても……」
僕は急な話で無理だと言うことを説明すると、「不本意ですが」と言われ、スマホを手にした。
「あぁ、おじさん? 今から少年課の刑事を二、三人……」
と言い出したので慌てて止めた。
「分かりました! 分かりましたから!」
「分かって戴ければ僥倖です。姉も貴方の事が気に入ってますしね」
「は? はぁ……」
何もかもが分からないが、取り敢えず婚姻届に名前を書かなければならないようだった。
「ほら、カナエ! いい加減起きなさい!」
奥の部屋では見た目少女の神様が騒いでいた。
それから風呂に入れと言われたりとか、髭を剃れ、髪を整えろと入れ替わり立ち替わり入ってきた親類に指示された。
そして真新しいシャツに袖を通し、落ち着いたところでカナエちゃんと話をする事になる。
「そ……そのご免なさい。でも色々事情があってね……」
もじもじしている姿は少女そのものだった。
その姿を見て、急に可愛くみえてくる――否、前から可愛い女の子ではあるのだけど、可愛いのスコープが変わったのだった。
彼女は申し訳なさそうにしつつ、「でも、貴方の事が好きだから」と照れたように笑った。
それからあれやこれやと人物紹介される。
彼女の先代の夫やその子供、孫にあたるような人は、基本的に"家"から出て行くそうだ。
そして彼女の母親――つまりソノ様の子供であり、彼女の"歳の離れた"兄弟と、甥や姪を紹介される。
僕の兄弟となる人には、若い人も老いた人もいる。
その若い人の一人が、お神楽を躍ったあの女の子だった。
「あぁ、貴方が……」
ヒナタちゃんと言うその子は、「カナエちゃんの決めた事だから仕方ないけど……少しは恥ずかしい事だと思ってよ!」と叱られてしまった。
その横にいたのが文哉さんが「ヒナタ、この人は義理のお兄さんになるんだから、そう言う事を言ってはいけません」と言われた。
"序列"として、ソノ様と"直接"血の繋がりのある人間であり、同時に当主が六十歳を迎えた時に次に最年長となる人が当主となるそうだ。
文哉さんは最近当主になったそうで、問題がなければ次はヒナタちゃんが当主になる予定と言う訳だ。
ソノ様の旦那さんは文哉さんと同い年だけれど、当主の資格はない。
勿論、ソノ様から見初められただけあってしっかりした人なのだけど。
実際に会って話して見ると頭の切れる人だなと思った――って何処かで見たと思ったら、親会社の副社長じゃないか!
僕が恐れ戦いていると、「ここでは家族だから」と笑った。
会う人会う人、いい人だった。
皆口々に「家族だからね」と笑う。
そして、家族故に皆、ソノ様の事と、カナエちゃんの事を気にしている。
「婿殿には期待していますよ」
そんな言葉を何度となく聞く。
一介の平社員がどうしろと言うのだろうか?
祭りは大いに盛り上がっていて、そして僕もその手伝いをする。
年上の甥とか姪とか義理の孫とか、とにかく人が多い。
文哉さん曰く、「全員覚えているのはソノ様とカナエ様だけですから」と笑った。
そして、文哉さんはそんな人を相手に、祝言の日取りを説明したり、誰を呼ぶとか呼ばないとかそんな話をしているのだった。
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