初恋の人がロリババァで大家族だった④(終)
ロリババァとドタバタな話を目指します。
※当記事、及び関連する私の著作物を転載した場合、1記事につき500万円を著作者であるFakeZarathustraに支払うと同意したものとします。
※本作品に於ける描写は、現実的な観点での法的な問題、衛生的な問題をフィクションとして描いており、実際にこれを真似る行為に私は推奨も許可も与えません。当然、その事態に対して責任も負いません。
※フィクションと現実の区別の出来ない人は、本作品に影響を受ける立場であっても、本作品の影響を考慮する立場に於いても、一切の閲覧を禁止します。
※挿絵はDALL·Eを用いています。
結婚式は所謂神前式なのだが、神前の意味がやや違うという複雑さがある。
儀式とか色々あるのだけれど、何だかんだで慣れた人ばかりだ。
直近の祝言と言えば、十五年前にソノ様と副社長が結婚した時だ。
ある老人が、今回は間隔が近くてよかったと言っていた。
そういうのもあるだろう。
祝言がなると分かれば、一族の手が空いている人間、休めそうな人間はこぞって神社に参集する。
そう言う事が出来る立場が多いというのもあるだろう。
一族は、ソノ様やカナエちゃんが資本を持っている会社の重役が多く、或いはその重役の縁故関係で就職した人が多いので、そう言う人が声を掛ければかなりの人数を動員できる。
神職の関係者も多くて、正しい方法に悩む事がない。
一週間で決まった式が一気に進んでいく。
神前式で着物姿だから、仮縫いとかそう言う事もない。
とは言え、やはり主役扱いなので、何かと引っ張りだこだ。
会社は当然出社する事もなく、一応社長が出席するらしかった。
僕はとりわけ友達が多いわけでもないし、結婚式に呼ぶほど親密な仲の人もいない。
端的に言って呼ぶ人と言えば、叔父夫婦とその子供ぐらいだ。
親族の人は、そう言うことにも気遣ってくれて。
「僕も実際、会社抜きにしたらそんなにいませんよ」
と笑ってくれたりした。
何はともあれ準備は急ピッチで進んでいく。
何処かの倉庫から色々な物資が運び込まれ、飾り付けられる。
何と言っても神様の祝言だからだ。気合いというのも入るものだった。
時期が時期ということもあるが、祭りからこっち天気がいいのだ。
神様の力なのかどうか分からないけれど、天気予報も向こう一週間は快晴だと言っている。
勿論、夏のこの時期、台風がなければ太平洋高気圧で天気が良いのは当然だが、しかしあまりにも都合良すぎだし、周囲の人も万が一にも降るだなんて思っていないのだ。
挙式の準備に、右へ左へ連れて行かれていく。
その所々で、謎の老人だの謎の子供に出逢う。
"なんとなく"だが邪険に扱ったらマズイことになりそうと言うのが分かる――と言うか、結婚が決まってこっち、親族関係がわんさかいるので、迂闊なことなんか出来やしないのだ。
親族数人で昼を食べに行くとき、「○○様が来ている」とか「××様の機嫌がよさそうでよかった」と言う話をしている。
ソノ様やカナエちゃんのような存在が他にいないと考えるのはいい加減ナイーブすぎるか。
兎にも角にも、そう言う神様にも平等に接する必要がある。
実際、品定めされるように声を掛けられたり、カナエちゃんのことをどうこうと言う話もする。
僕は「とてもキュートですからね」と婉曲表現すると、神妙な顔をされるか馬鹿ほど笑われたりした。
少なくとも好意的な言葉をくれるので、及第点は取れているだろう。
後でカナエちゃんからも「"同類"から評判だったよ」と褒めて貰ったりもした。
今だ以て、僕のどの辺が気に入ったのか分からないけれど、悪い事ではあるまい。
祝言であれこれして、夜はサウナと酒と言う、最高の毎日を過ごすことになる。
ただ、これが祝言の日ともなればタダでは済まないだろうなという気持ちもあった。
とは言え、誰も彼もが親切だし、酒も美味しい。手土産を肴に呑む地酒は美味しくて、それで毎晩酒盛りになるのだ。
エンゲル係数どうなってるんだろう? と思わないではないが――収入なりになるだろう。
周辺のお店にも連れて行かれる。
高級店から庶民的なお店まで、この家族が贔屓にしているお店に、僕を紹介していると言う側面もある。
なんだかんだでこの街は閉鎖的と言われる。
こういう大家族が人間関係を理解しているんだから、まぁそう言うこともあるだろうなと思った。
意外と言えば以外なのは、思ったよりも人種に外国のものが混じる人がいる。
「日本に引き籠もっていてもいいことはないからね」
神の子に特別な能力がないにしても、神との子供を産む能力については常人とは桁違いだそうなので、神の子は他の神様にとって結構珍重されているらしい。
「カナエは子供がよく産まれていいなぁ」
小さな子供がカナエちゃんに突っかかっていたのを見ている。
「安産型だからね」
カナエちゃんが笑うと「何を言ってるんだ? このちんちくりんが!」と笑っていた。
多分、あれも神様なのだろう。
祝言は近づく。
明日は本番だと言うのに、連中は飲んだくれ――そして僕もだ。
叔父家族も空き室に泊って貰って、家族の雰囲気を知ってもらう。
叔父は恐縮しきりだが、家族はそれを鷹揚に受け止めて優しく接する。
そんな時に、叔父は酒酔いにまかせてぽろりと"余計な事"を吐いた。
「お前はなぁ、実は拾われた子でなぁ」
両親はどちらかと言えば僕を贔屓にしていて、それ故に兄と上手く言っていない。
その理由は、僕が養子だという事なのだ。
今まで自分の戸籍をじっくりと見た事がない。
戸籍謄本の取り寄せなんてことはした事があるけど、そのまま封筒に入れて提出なんて事をしていたから、今まで自分が養子だなんて思った事はなかった。
その話をすると、周囲の人間は、それをまるで面白エピソードのように言う。
まぁ、こういう家ならば、先の神様の一件とかあって、養子だなんだと言う事はよくあるのだろうが、それが自分もそうだと言うなら、少しばかり冷静ではいられない。
僕は叔父にあれこれ質問攻めにするのだけど、叔父もよく分からない事が多い。
両親の伝えた話では、突然訪問した"誰か"に赤子を託されたのだという。
その誰かが誰なのかは分からない。
両親曰く「知らない人」らしいのだけど、そんなことも些か胡散臭い。
俺の本当の親は誰なのだろうか?
家族は「隼斗くんが何者でも関係ない。あのカナエ様が選んだのだから君ほどしっかりした人物もいないだろう」と言ってくれる。
挙式を前にとんでもない事をぶちかましたな……
ただ、別段何かしらスケジュールが変わる事もない。
その日の夜、カナエちゃんと一緒に寝るときに「そう言えば、僕は養子だったらしい」と呟いた。
カナエちゃんは「ふーん」と納得したような顔をしてから、「でも、君は大丈夫だから」と笑い、そしてキスをせがんだ。
翌日は早朝から大忙しだ。
予定はぎっちり詰まっていて、儀式やら挨拶やらに忙殺される。
県知事が来たとか、どこぞの党代表が来たとか、そんなのにも対応する必要もある。
そんなクラスの人が来るのかと驚きだ。
式は神社内に収ると言う意味ではこぢんまりとした挙式だが、しかし集まる人間のクラスがヤバイのだった。
オーナー家の娘が結婚するともなれば、会社からも出席する必要もある。
そして、そこと大きなやり取りをしているところも、無関係ではいられない。
入れ替わり立ち替わり挨拶に人がやって来る。
カナエちゃんはその一人一人を大体覚えているのだから凄い。
「あぁ、○○ちゃん!」
エライ人でも小さな頃から見知った仲だとこんなレベルだ。
誰に勝てるというのだろうか?
神様連中は人間に混ざるのをよしとしないが、とは言え折を見て接触してくる。
全く気が抜けない。
儀式、挨拶、酒が何巡もやってくる。
それが二日連続である。
叔父夫婦は十分な歓待を受けたようで上機嫌である。
誰も彼も気分上々に帰っていく。
素晴らしい事だ。
その素晴らしさの中に僕がいる。僕もそれを継承しなければならないのだ。
今日もカナエちゃんはキスを求める。
僕はキスぐらいならと思うようにしている。
彼女の花嫁姿は美しく、美しくはあるが幼い。
それが夜になってもチラつく。
「僕は上手く出来ているだろうか?」
「なぁに? そんなこと気にしているの? 隼斗くんは大丈夫だよ。
誰か悪く言う様なら、私が許しておかないよ」
彼女は色っぽい口調で笑う。
「期待通りの男じゃなかったら?」
「私、これでも神様だよ? そんな間違いなんてしないよ。
うーん、もし期待通りにならなくても、それでどうにかするほど正念はケチ臭くないよ」
そう言うものだろうか?
翌日もつつがなく式は終わった。
酒はもはや、二次会とか三次会とか言うレベルではないが、どうあれ盛り上がる。
鬱々とした悩みを払拭せんとばかりに盛り上がる。
歓談、またの歓談。
話のネタは尽きない。そして面白く、興味深く、実際役に立つ。
そしてこんな僕の話も喜んで聞いてくれるのだ。
挙式が終わり、そして全てが日常に戻る。
式の片付けでなんだかんだと暇になったのは木曜日だ。
さて、木曜日、僕は特に何をすることもない。
他の人達は忙しそうにしているし、老人達は老人達で日々のルーチンがあるようだった。
一応、会社に出向いてあれこれ役員と話したが、それが終われば、もう本当に何もする事がないのだ。
とりわけ自分がチェックしなければならないメールや書類などはなく、それが終わればコーヒーを飲んでそれで退社だ。
神社にとぼとぼと戻ると、カナエちゃんに出逢う。
「どうしたらいいか分からなくて」
僕が彼女に伝えると、「ゆっくり探そうね」と笑った。
まだ昼だが、カナエちゃんは「呑もう!」と言ってくれる。
僕が身構えると、「今日もアタリの日じゃないから大丈夫」と大笑いした。
それで共用ルームで酒を飲む。
ビールを飲んでスナック菓子をぽりぽりと食べるだけだ。
「少しは努力をしてくれてるかな?」
結婚式まで挙げて、もはや逃げ道のない僕は、"努力する"以外の道がない。
とは言え、結婚式は忙しくて感慨に耽る時間もなかった。
今になって思えば、花嫁姿の彼女をもう少ししっかりと見ておくんだったと思った。
「まだ照れがあるよね? 毎日一緒に寝ているのに」
「だって、しょうがないでしょう?」
「いいんだよ、もっと安心して。
別に私みたいなのと君が夫婦でもいいじゃない?
外を歩くとき恥ずかしいなら、妹にでもなんにでもなるよ。
でも、家の中ぐらいはもっとお嫁さん扱いしてくれない?」
そこまで言われると「う、うん」としか答えられなかった。
カナエちゃんは「隼斗くんが次にすることを決めよう!」と言い出した。
次にすること、何があるだろう? 何が出来るだろう?
趣味のない男だ。特にこれと言って楽しめるものと言えば、酒を飲むぐらいだ。
そんな話をすると「面白いけど、流石に無理だよね」と笑う。
「でも、何もないんだからしょうがないだろう」
腹を立てたのだけどすぐに手を掴んできた。
「しょうがなくないよ。何もないなら、何だってできるじゃない」
優しく諭されるように言われた。
「そうだ、旅行しない?」
僕が言うと、カナエちゃんは難しそうな顔をする。
「神って、そんなに理由もなくあちこち出歩けないぞ?」
カナエちゃん曰く、神様は土地を守るものだから、それこそこの前の祝言みたいな特別な理由がなければ日を跨いで、家を離れられないらしい。
「そうなのか……カナエちゃんと旅行したかったな」
そう言うと、彼女は突然抱きついてきて「君は本当に優しいね」と笑った。
「どんな理由ならいい?」
「例えば……厄災とか、特別な祭りとか……私が初めて九州に行ったのは、ちょうど祭りがあったからだよね」
過去の記憶を懐かしむように語っていた。
「じゃぁ、お祭りを巡るとか?」
「そう言うのは、五十年に一回とかなの!」
なかなか上手く行かないものだった。
「あと、神様を弔う時かな?」
神様は信仰がなくなれば姿が融けていく。
その時、生に執着すれば祟り神になる。その神様さえも怨念が強ければ長く生きるだろうけど、それは神それぞれだ。
ただ、最近の山村の神は、そうやって消えていくのが多いらしい。
「じゃぁ、それをしよう」
消えてなくなるだけなんて可哀想だ。
せめて、最後、人との接触を味わって貰いたい。
仮に消えゆく神に人間が接触して、心動かされれば、信仰は伸びる。
だが、そんなものはいつまでも続けられない。
今、僕はカナエちゃんの婿となり、それ故に、他の神様への信仰は出来ない。
ある意味持って来いと言えば持って来いだった。
カナエちゃんは「それなら」と、顔見知りの神々に連絡を取る。
「あぁ、スマホ使うんだ」と笑ったら、こっちの方が盗み聞きされないからだと笑った。
それで最初に選ばれたのは――僕の田舎だった。
そこに神様がいる。
山奥で限界集落となり、最近、最後のおばあちゃんが施設に入ったと言う。
消えることは仕方ない。
仕方ないけれど、せめて穏やかに消えて貰いたい。
僕は車を借りると、カナエちゃんと一緒に車を走らせる。
とっておきの日本酒と肴を携えて。
幅の狭い林道を進み、そして到着したのが藤沢集落だ。
家というのは、人間がいなくなるとすぐに朽ちていく。
たった一年前まで人が住んでいたとは思えない。
戸が破れ、瓦が落ちれば、猪や猿が侵入する。
そうして中身も荒らされ、かつての人の生活も土に戻っていく。
集落の奥の祠へとやって来る。
カナエちゃんが柏手を打つと神様が現れた。
「こんなところに現れるとは」
三十歳ぐらいの女性が現れた。
「消える神を弔いにきた」
カナエちゃんがそう言うと、彼女はにやりとして、「殊勝な心がけだね。君は婿もいて得意満面か?」と煽ってきた。
「そうだけど、せめて最後ぐらい誰かと話したくない?」
「さ、酒とかあるし」
僕が口を出すと、「消える前に酒を飲むのも一興だね」と笑った。
境内にマットを敷き、そこにどかりと座る。
酒と肴を詰めたタッパーを広げる。
「山奥の神など所詮こんなものよ」
彼女は淋しそうに笑った。
「お前はいいのか?」
カナエちゃんが言うと、「さぁね」と言う返事が来た。
「さぁねじゃない。お前も分かっているだろう?」
神様同士の何かだろう。
口を挟めることではなかった。
「私は神の端くれだ。
人間の事如きで動揺などしてられん」
彼女は強気だった。
「違う、お前、お前なんてどうだっていいんだ!」
「そんなに婿の事が大事か? どうせ死んでしまうのに」
「大事だよ! 大事だから、ここまで来ている。
お前に何があって、どうしてこうなったのかは察しが付く。だけど、そんなの関係ないだろう? ねぇ、分かってるでしょ?」
「うるさい!」
彼女はお冠だった。
「お前が言わないなら私から言う」
カナエちゃんは一呼吸置いて僕に向かった。
すると、彼女は「やめろ!」と叫んで飛びかかってくる。
だけど、カナエちゃんは不思議な力で制しながら言う。
「コイツが隼斗くんの実の母親だ」
彼女はなおも「違う」とか「嘘だ」とか叫ぶけれど、神様ならばそんなことは一目瞭然らしい。
「お、お母さん?」
彼女はふてくされた様に顔を背け、「そんなことを言われる権利なんてない」と言う。
「お前が婿入りしたから、私の使命は終わりだ」
彼女が背中を向けながら泣いている。
「せめて抱きしめてもいいですか?」
僕が尋ねると、「そういうのはやめろよ」と言う。
カナエちゃんが「私以外の女をハグするなんて……まぁ仕方ないよ」と笑う。
そして二人で抱きしめる。
彼女がゆっくりと融けていくのが分かる。
風に融けていく。
「ありがとう。お母さん」
彼女は泣きながら応える。
「さようなら。ありがとう」
彼女は言葉を残して消えた。
僕とカナエちゃんは、二人の酒盛りをした。
かつての賑わいを感じ取りつつ、消え去っていく集落を噛み締めた。
僕は泣きながら酒を飲み、カナエちゃんはそれを慰めてくれる。
「神様にもいろいろあるからね」
色々なのか。
そうなのか。
「私は消えないよ。絶対にね」
カナエちゃんが笑う。
そしてキスをした。
「もう。そういうところだぞ」
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