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【小説】死の運命
強制サイボーグ化尊厳破壊の話。(カンパ募集全編公開)
※当記事、及び関連する私の著作物を転載した場合、1記事につき500万円を著作者であるFakeZarathustraに支払うと同意したものとします。
※本作品はR18指定の内容です。note運営の判断の如何に関わらず18歳未満の閲覧はご遠慮ください。
※本作品に於ける描写は、現実的な観点での法的な問題、衛生的な問題をフィクションとして描いており、実際にこれを真似る行為に私は推奨も許可も与えません。当然、その事態に対して責任も負いません。
※フィクションと現実の区別の出来ない人は、本作品に影響を受ける立場であっても、本作品の影響を考慮する立場に於いても、一切の閲覧を禁止します。
※挿絵はDALL·E/GPT4を用いています。
人類は人類の夢である永遠の命を手に入れた。
電脳化技術と完全義体の技術を確立した。
大きな事故で脳殻が壊されない限り、人が死ぬことがない。それ以外の部品は交換によって更新出来て、多重の安全策によりソフトウェア的な事故もハードウェア的な事故も発生率は殆どゼロだ。
人々は歓喜して、お金に余裕のある人はこぞって電脳化と完全義体化を手に入れた。
尤も、その金額は富裕層でしか払えない。
或いは政府が、人類の未来に資する存在と判断した人間が手術を受けられたが……そんな審査が腐敗しないで済む筈がない。
世界の不公平は広まった。
死ぬ運命にある人間と、死ぬ運命から逃れた人間。
前者は後者の為に命を削るようにして働く必要がある。
世界中の国がそう言う傾向になり、そして人類の幸福度は下がったのだ。
さて、世界がそのように定まった頃、人類はもう一つの夢を実現した。
死後の世界との交信である。
正確に言えば、マルチバースの中で交信可能な世界を探すと、その中に亡くなった人間の世界が見つかったのだ。
その世界は二つあり、一つは"比較的正しい生き方をした人間"の暮らす幸せな世界と、"比較的間違った生き方をした人間"が一生争う世界なのだ。
これを信じる人間は多数いた。
当然そうだ。死の運命にある人間に取って、"天国"は唯一の希望だ。
そして、その希望のためによい生き方をしようと努力した。
一方、死の運命のない人間はこの状況に嫉妬した。
自ら死ねば地獄行き、地獄行きを覚悟で自分を殺してくれる人間はいない。
彼等の精神衛生は悪化した。
自分の社会的立場をいいことに、快楽殺人に手を染めるサイボーグまで出てきた。
大多数の庶民は、そう言う"持てる者"を見下し、そして現世の不公平に耐えた。
しかし、こういう状況に対して戦う事も天国への道と言う事も、"交信"にてはっきりしていくのだ。
より正しい未来へ公平で公正な未来へ、世界は前進したのだ。
日本は比較的早期に新しい政府が誕生した。
非暴力的な革命だった。
伝統的な議員は尽く落選したし、この自体に過去の過ちを告白した人間は救われた。
勿論、この期に及んでも、天国と地獄の存在を否定したがる人間や、自己欺瞞を塗り固めて、己の罪を認めないばかりか、新たな罪を犯す人間も出てくる。
制度の上の死刑がやむを得なかった時代は終わった。
過去の執行者とて、その時代正しく生きれば天国へ行けた。
しかし、今、天国と地獄がはっきりして、多くの人が己に正直に正しくあろうとしている中、死刑判決も死刑執行も不可能だ。
何なら刑務所だって問題があるだろう。
新政府は最大の刑罰を、完全義体化としたのだ。つまり、死刑の真逆。死ぬことを許されなくなったのだ。
同時に、全てのサイボーグに対して、多くの制限を設けた。
行うべき仕事に特化した身体によって、死の運命にある人に奉仕をするのだ。
勿論、それまでに犯した罪や等によって自由度は異なる。
人倫に反した犯罪を犯したサイボーグは、そのような行動が不可能になるように、AIによって制御される。
為政者にあって、自分の利益のためや偏った思想のために、国民を苦しめたり自由を奪ったりした人は、当然、参政権など奪われるし、それ以上にそのような発言自体が制限されるのだ。
私は所謂、名誉人間と呼ばれるサイボーグだ。
私は親の手によってサイボーグ化された。
元々病弱で、二十歳の誕生日を迎える可能性は絶望的だったのだ。
両親はまだサイボーグ化が珍しい時代に、全財産を掛けて私を生かしてくれたのだ。
その後、革命の時期を乗り越えるまで、私は非道なことをしてこなかった筈だ。
両親は自身をサイボーグ化する事はなかったし、新政府の支持者だった。
結局は動乱期に旧政府の凶弾に倒れたが、そのような事情によって、私は"道徳的に正しい"サイボーグとされた。
名誉人間とは、AIによる行動制限を受けないサイボーグだ。
そしてそういうサイボーグは、サイボーグを管理する仕事を任される。
間接的に言えば、人間の自由を奪う仕事だからだ。
死の運命にある人間はやりたがらないだろう。
旧政府や、新政府側にあっても動乱期に自己中心的な行動を取った人が沢山いる。
一人一人を裁判にかけて、制限すべき内容を決める。
この期に及んでも犯罪者はいるし、私の仕事が終わる日は見えない。
今日も罪状をコンピューターにインプットして、AIによる判決に目を通す。
基本的にそのままの罪状となる。
AIによる見落としを補正する事があるがそれは稀だ。
言ってみればトロッコ問題を毎日やるようなものだった。
今日は旧政府の政治家の不正蓄財を見逃して、利益を得ていた女だ。
その事実を隠すためにサイボーグに人を殺させたり、挙げ句、そのサイボーグを告発して自分の罪を逃れようとしたのだ。
殺された人の中には両親や兄弟さえいた。彼らは自分を差し置いてサイボーグ化されていたからだ。
こういう"英雄的行動"がある意味、新政府中枢へ潜り込む手段となったのだが。
女は没落した経営者一家の娘で、両親が長男、次男に目を掛けていて、彼女を無視していた等という事情もある。
しかし、サイボーグ化しなかったことを武器に、身体を使って新政府の中枢へと侵入した訳だ。
彼女は所謂美人だ。
容姿に自信があるのだろう。
彼女の口からは社会的地位にも育ちにも自信があるようだった。
そしてそれでいて、他人は利用するために存在していると思っている。
私は彼女との問答で、裁判AIの判断材料を集める。
彼女は自分が両親に愛されなかったのが原因だと嘆き、喚いた。
自分は可哀想な人間だから、それだけで道徳的価値があるのだと言うのだった。
「天国へ行けるのは、どれほど困難な状況に直面しても己を失わない人間。己の失敗に対して謙虚で正直な人間だけだ。
失敗しない事でも、可哀想であることでもない。
貴方は、既に天国へ行ける資格がないんです。
せめて地獄へと落ちないように、サイボーグ化するのが妥当と判断します」
彼女は絶叫した。
新政府のことも、道徳的であることを求める世界も、天国の存在とか、この刑罰のこととか。
ありったけの罵詈雑言を私に浴びせた。
警備用のサイボーグが彼女を取り押さえる。
警備の彼が、この女に対して何を思っているかは知らないが、裁判所に配属されているのだから、思考制限の度合いは低いだろう。
何となく彼女を憐れんでいるようにさえ見えた。
今の世の中が天国かどうかと言う質問に答えはない。敢えて言えば、人生の目的が天国へ行くという事に特化していると言うだけだ。
良きサマリア人の話をするつもりはないし、参照先が聖典の類ではなく、"現実に天国へ行けた人はどのような人であったのか?" と言う部分は重要だ。
しかし、そう言う事に一喜一憂している人間が愚かにしか見えないのだ。
天国への道として、許される過ちは何なのか? そんな事を調べるのに必死になっているのは滑稽だ。
如何に正しく生きるか? が重要なのに。
死なない身体の自分にとっては、ここに思考制限が掛からなければ何でも良かった。
天国や地獄の実在性なんてどうでも良かった。
そういう意味で、今から電脳化される彼女は真実の人間にさえ見えたのだ。
勿論、どれほど酷い内面でも、悪事を働かなければ――そして偽善でも人の為になれば、人間は天国へと行けるのだ。
人にどう思われるか、人から見て自分が幸福に見えるかなんて、多分関係ないのだ。
ある時のこと、天国に重罪人とされた人間がいて驚いて調べると、冤罪が今になって証明され、実際、不当な捜査や判決を下した警察や裁判官ばかりでなく、当時の世論を煽っていた記者までもが地獄へ堕ちていた。
生前の彼らはお金もあったし、立派な社会的地位も高かっただろう。
誰もが彼等の言い分を信じただろう。
マスコミが描いた件の重罪人は、私生活の全てが悪徳に塗れているようだった。
当時の人々はそういう犯罪者を見て、自分は立派な人間だと溜飲を下げたのだろう。
全てにおいて悪い人間が、その罪によって破滅する。
そういうストーリーがお好みだったのだ。
警備サイボーグに取り押さえられた彼女は、自分を憐れむなと言った。
「もはや人にどう思われるかは関係ない時代だ。それを理解しなかったのが貴方の失敗の始まりだ」
そして、身体の活動を止めるクスリを注射する。
身体を弛緩させながらも、泣き言を喚いている。
彼女をベッドに乗せ、手術を始める。
彼女の静脈に点滴を繋ぎ、ナノマシンによって脳や神経系が置き換えられるのを待つのだ。
同時並行的にナノマシンによって置き換えられた脳を維持する為の装置を繋ぐ。
血液は人工血液へと代わり、人間の身体はそれでも生命維持を続ける。
彼女は涙を流しながら呻いている。
私も経験があるが、このナノマシン手術は何かに脳みそが侵されている感覚だ。
それは気持ち悪いと同時に、快楽的刺激が走るので、弛緩した身体も時々痙攣のような動きをする。
その度に彼女は「嫌!」とか「殺して!」と喘ぐように叫ぶのだ。
顔面をぐちゃぐちゃにさせながら涙を流すけれど、それも少しずつ機能停止していく。
顔さえも弛緩して、そして何も言わなくなる。
ナノマシンへの置き換えが済んだのだ。
別の種のナノマシンを注入して、脳殻の内部構造を作り出す。
プログラムに沿って、ナノマシンの脳を保護するような構造物を作るのだ。
この時間が一番静かだ。
そして、彼女が人間である最後の最後なのだ。
脳殻が取り出せるようになると、人体を溶かす液体を注入する。
この時、再び意識が戻る。
痛みで喚きながら溶けていく身体の感覚を味わう。
最悪な気分なのは分かっている。
しかし、肉体的な痛みを感じる最後の機会なのだ。
今になって思えば、この時が一番人間であった気がしている。
顔が、身体が崩れていく。
ドロドロに崩れていく。
染料を混ぜた蝋が溶けていく様に。
全て溶けてしまえば、脳みそだけが取り残される。
灰色の塊だ。外部が別の構造体に保護されているので、人間がイメージする脳みそとはいささか形が異なる。
人工的な物質で置き換えられた脳。灰色の取るに足らない塊だ。
取り残された脳殻を保護容器へと収め、そしてその中を保護液で満たす。
そうすれば、あとはナノマシンが増殖して、保護容器のインターフェースへと接続されていく。
脳殻を新しい身体へと接続し、後頭部の蓋を特殊なネジで締結する。
裁判所以外がメンテナンス出来ないようにする為だ。
勝手に思考制限用のAIをいじられては困るから。
彼女は少女の身体に収められる。
愛嬌のある可愛い子だ。
脳みそが接続されると、身体をビクビクと震わせた後、制限AIを通した言葉が発せられる。
新しい身分の名前を答える。
そして自分をセクサロイドと認める。
この世界の肉体を持つ人間は、どれほど正しいことを行おうとしたところで、肉の身体を持つ以上、性欲を止めるのは難しい。
だからと言って、レイプや性的搾取が許される訳では無い。
だからこそモノを犯すのだ。
セクサロイドの需要は多い。
そして、その精神的負担は当然高い。
もしサイボーグ化の刑となったら、セクサロイドにだけはならないようにしたいと言うのが、犯罪者の最後の願いだ。
だから何度も、セクサロイドだけは嫌だと叫ぶ人を見てきた。
そういう精神的負担を避けるために、結果的に何になるのか……を説明することを止めてしまった。
例えば、それが警備サイボーグであれば、泣けない目で感謝されるのだ。
その不自由な身体で喜びを表現する。
一方、セクサロイドは人間を満足させる為に、身体表現は"結構な出来"だ。
涙も流せるし、よだれも、尿も愛液も"再現"できる。
目の前の彼女は、自分がセクサロイドになったのだと悟って涙を流した。
涙はセクサロイドにとって唯一の救いだろう。
涙を流しつつも、裁判官であり、管理者である私に対する応答は機械的に行われる。
「気分はどう?」
「不調はないし、最高よ」
「すぐにお仕事になるけど大丈夫?」
「今すぐにでもお仕事したい」
彼女が内部で何を言っているか、調べようと思えば調べられる。
彼女の精神的ストレスが評価されて、一定数以上ならば、私だけが脳と直接会話できる。
そして、彼女のストレス評価はその水準に達していた。
コンソールを操作すると、コンソールのスピーカーから彼女の鳴き声が聞こえる。
こんなの酷い、こんなこと認めない……
彼女は相変わらず恨みつらみを吐き続けていた。
「でも諦めるしかないじゃない? こういう末路になると思わなかった貴方の所為よ。
親も兄弟も、邪魔な人間も見下しながら殺したじゃない。
その分、貴方は人に見下されるのよ。
因果応報と思わないとね」
冷たいようだが、彼女に寄り添ったところで何も解決しないし、生産的な結果にもならない。
そしてこれでも落ち着かないと見るならば、薬物で緊張を取り去るしかない。
私は彼女にそう告げると、彼女は黙り、そしてストレス指標は減っていった。
ストレス指標とは、要は制限AIに対して反抗的かどうかということだから。
斯くして彼女は仕事へと向かった。
少女の身体は人気があるから、今日一日でどれほど"稼ぐ"か分からない。
とは言え、何人か相手にしたあと、もう一度彼女と話をする必要もある。
セクサロイドは何かと面倒なのだ。
手間が掛かるし、維持コストも掛かる。
だからこそ、稼いでもらう必要があるのだ。
私はそれまでの間に雑務をこなす。
軽微な罪状の裁判とか、私が管理する必要のあるサイボーグに不調はないか、心が壊れていないかを調べる。
サイボーグとしては心が壊れていようといまいと、人間の為の仕事を全うできれば問題がない。
制限AIのお陰で暴走してしまうなんてことはない。
そうもなれば、ただただAIを動かすための動力でしかなくなるのだが。
仕事から戻ってきた彼女は、泣き言を言い続けていた。
涙を流し、鼻水を垂らし、表情筋を限界まで使っている。
それでもAIを通した彼女は、「なんとか頑張れる」と言っている。
脳に直接尋ねると、痛いと気持ち悪いと言う言葉でいっぱいだった。
「クスリを使うかい?」
私が尋ねると、「ごめんなさい」と答えた。
クスリを使えば、そう言うことも考えられなくなるから。
そして脳に対して「どうする?」と言えば、「仕事をします」と屈服していた。
彼女のことを可愛そうだとは思わないし、こうした仕組みを作った人間を残酷だとは思わない。
世界はただただそこにあるだけだ。
その世界に私も彼女も組み込まれている。
死ぬことはないのだ。だから恐れる事はこれ以上悪くなる言うだけのことなのだ。
私と彼女と違うところがあるとすれば、それは両親を愛しているかどうかだろう。
私は両親に愛されたと言う記憶だけで生きていられるし、人間に代わって非道なことも出来る。
死なない身体なんだ。この世界が地獄にならなければ、ずっと天国にいるようなものだ。
そして、両親を永遠に憎み、他者を軽んじた彼女は永遠の地獄に落ちたのだ。
神の国とは己の心のなかにあるとは、ルカの言葉だったか?
そんな彼女も少しずつ世界の真実を掴むだろう。
自分の身体の中で唯一自由な自分の心に向き合うときが。
そういう時が来たのならば、私と彼女は友達になれるかも知れない。
でも、同時に彼女は世界を私を恨む方を選ぶだろうな。
仕方ない。
そうなるのならば仕方ないだろう。
時間は永遠にある。
下記、カンパのお礼だけです。
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