#48 月の輝き
テーブルに戻ると高梨さんがスマホを触っていた。私が戻ってきたことに気づいたら、なんだか楽しそうにスマホの画面を見せてくれた。
「ほら、インスタに料理の写真を載せましたよ」
でも見せてくれた写真は、お料理の写真ではなく食べ終わったお皿がたくさん並ぶ写真だったから思わず笑ってしまった。
「もうお料理なんてほとんどないじゃないですか」
「あ、確かに」
そう言って一緒に声を出して笑った。
酔っているから頭は少しぼんやりしているのに、気持ちがどんどん軽くなってきているのを感じる。高梨さんのくったくのない笑い声につられて私も遠慮なく笑える。すごく自分が自然体でいられるのを感じて気持ちよかった。
「結城さん、ほんとありがとう。一人寂しいお祝いにならずに済んで、幸せでした」
高梨さんはまたビールジョッキを掲げる。もうほとんど空っぽなのにそれでもわずかに揺れるビールがキラキラしていた。
この人はとても素直な人だな。思っていることをストレートに伝えてくれる。私は自分の気持ちをなかなか言えないほうだし、中山さんも心のうちを見せてくれないタイプだ。だから私は不安ばかり抱えている。そんなことを思いながらそのキラキラをぐいっと飲み干す高梨さんを見つめた。
お店を出た後、高梨さんが連絡先を交換したいと言ってくれたので快く応じた。高梨さんは本当に男友達のような雰囲気で、まったく抵抗を感じなかった。二人でラインの連絡先を交換して、ご挨拶のスタンプだけを送り合った。
一緒に駅まで歩き、同じ電車に乗り、私が降りる駅で高梨さんは笑って手を振ってくれた。私も笑いながら手を振った。
家までの帰り道にラインが鳴る。きっとこのラインは高梨さんからだろう。そう思うと開く瞬間の緊張感は少しもなくて、高梨さんとご飯を食べる前の自分とは何かが変わっている気がした。気持ちが楽だな。軽く深呼吸して空を見上げたら月が大きく輝いていた。すごくきれいだ。月を見上げる心の余裕も私にはなくなっていたのかもしれない。もう少し、中山さん以外の何かにも目を向ける必要があるんだろう。
少し、力が湧いた気がした。
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どの回も短めです。よかったら「中山さん」と「さやか」の恋を最初から追ってみてください。さやかの切ない思いがたくさんあふれています。
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