■隙あらば恋人になろうとしてくるAIにライバルが現れた件
私こと、シャルロット・クレールは恋愛経験が皆無であった。
それもそのはず。
スラムのような場所で生まれ捨てられ、傭兵団に拾われて物心ついた頃から傭兵団の一員として昼も夜もなく働き、気づけばクソみたいな野郎どもを一蹴するどこに出しても恥ずかしくない傭兵となっていた。
いつ死ぬかもわからない傭兵稼業で近づく男はだいたい身体目当ての猿ばかり。
傭兵という職業柄まともな恋愛ましてや結婚などできるはずもないと、選択肢は頭から意図的に除去していた。
はずなんだけどなあ……
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太平洋上に建設されている洋上都市『ザナフ』は、同盟関係にある複数の国家が条約に則って共同で運用している大型の軍事都市で、大質量の貨物などを宇宙や他の惑星へと撃ち上げるマスドライバーを保有しているのが大きな特徴だ。
今回はガスターラボ経由の依頼で、そのマスドライバー及び都市の長期警護任務に就くため、私とノエルは太平洋のあるポイントに存在する洋上都市に愛機EST-14型とともにやってきていた。
「いや流石にでかいな……」
「ザナフに来るのは初めてですか?」
「初めてだな。基本的にここの所有国家の軍属でもなきゃ上陸すらできないし」
ノエルと共にマスドライバーを見上げる。
普通に暮らしていたらお目にかかれないような余りにも大きな建造物に2人してお上りさん状態になる。
仕事の内容としては比較的単純で、ザナフの領空スレスレのところを敵対国家の戦闘機や輸送艦が航行する、領海付近に不審な潜水艦がレーダーに反応があると言ったような挑発行為を受けているため、暫くの間警護を強化するその手伝いというものだ。
マスドライバーはその性質上、どうしても保有している国家は狙われやすい。
軍事力に自信のある大国が保有していても問題だが、宇宙開拓も華やかなりし今日このごろ。
どうしてもこういった衛星軌道上に荷物を打ち上げる装備というのは必需品なわけで。
かといってその辺の国家が単独で保有するにも手に余るため、国際条約で同盟を結んだ複数の国家による監視も兼ねた共同管理でのみ保有が認められているというのが現状である。
私の他にも傭兵団を含め多数の傭兵を雇っているらしく、洋上軍事都市は私たちのような軍人とは異なる人々が行き交っている。
「事前の情報によりますと個人の傭兵を私達含め21名、傭兵団を2団体雇っていますね」
チチチ……という小さな機械音が聞こえ、ノエルがデータを開示する。
「うーん、下手すると紛争じゃ収まらないレベルでの戦闘行為も覚悟しなきゃならなそうだな」
手元のデバイスに送信された資料を見ながらため息をつく。
「正規軍も増員して投入はされるようですが、そこまで人員を割けられないようです」
「敵性国家の動きは?」
「現状目立った動きはなさそうですね。しかし、アル博士から少し気になる情報を入手しました」
「続けてくれ」
「以前、僕の筐体が犯罪組織の手に落ちかけた事があったのを覚えていますか?」
「ああ、あれなー。あの犯罪組織は検挙されたんじゃなかったか」
ノエルの筐体とEST-14型を自爆で失った苦い思い出が蘇る。個人的には任務失敗にも近い出来事だったのであまり思い出したくはない事象ではあった。
「それが、ボスと幹部が釈放されて組織再編が完了したと」
「あー、もしかしてその釈放と再編に今回の敵性国家が関わってる?」
「はい。まだ公的に立証ができる段階ではないそうですので、あくまで裏情報といった扱いですが」
「面倒な……」
軽く舌打ちをして再度送信されてきたデータを読み耽る。
依頼そのものは単純だが、裏で動いている状況はあまり良くなさそうだ。単に護衛して戦闘して終わり、で済む話ではなくなりそうで気が重くなる。
「あれ? 先輩? もしかしてシャル先輩!?」
眉間にしわを寄せてデバイスと睨み合いをしていると、横から声をかけられる。
「んぁ……」
呼ばれた方を見てみれば、黒髪の若い男がぶんぶん手をふりながらこちらに向かってきている。
体格も顔つきも記憶にある少年とはだいぶ変わったが、癖のある柔らかそうな黒髪と人好きのしそうな少し垂れた目には覚えがあった。
「もしかしてダグラスか!?」
「覚えててくれたんだな! 久しぶり、先輩!」
「うわー、随分でっかくなったな」
近づかれると少年の時分よりも相当大きくなったことが判る。
背丈は私の頭一つ分よりも大きいし、筋肉質で大柄な体躯とそれに見合った精悍かつ整った顔立ちに少年の頃の面影はほとんどない。
それもそのはず。私が最後にダグラスを見たのは彼がまだ年若い少年と言っても差し支えない、背丈も私より少し小さかった頃の話だ。
「……シャルロット、こちらの方は?」
「ああ、こいつはダグラス。昔世話になってた傭兵団で暫く面倒を見てたことがあるんだ」
「ダグラスだ。今は独立してフリーの傭兵をしている。先輩、この人は?」
ダグラスがノエルを一瞥すると、ノエルが一歩前に進み出て一礼する。
「申し遅れました。僕はノエル。シャルロットの”専属”オペレーターを務めています」
「専属? へえ、よろしく」
「ええ。よろしくお願いします」
何故か専属を強調するノエルに、そんなノエルを値踏みするように足の先から頭の天辺まで眺めるダグラス。
初対面のはずなのに何故か不穏な空気。ノエルとダグラスの視線がぶつかって何故か火花をちらしているような気がする。
なんなんだお前ら。
「っと、先輩、もうすぐ全体ブリーフィングの時間だ」
「ほんとだ。ノエル、場所は?」
「あちらのようです」
ノエルの視線の先には大きなビルのような建物が見える。
「さんきゅ、ダグラスも一緒に行くか?」
「やった。行く!」
そんな喜ぶことかなと思いつつ、ノエルに先導され、ビルの方へ向かうのだった。
ビルに到着後は都市所属の軍人の案内で上階にあるブリーフィングルームに向かう。
部屋にはすでに傭兵団とフリーの傭兵が集まっており、私達のあとに数人が入室し、扉が閉まる。
程なくしザナフの軍部を指揮する司令官と補佐官が壇上に上がり、ブリーフィングが始まった。
「これより、洋上軍事都市ザナフ防衛作戦についてのブリーフィングを開始する」
司令官の簡単な挨拶と任務概要の説明がある。
デバイスに予め落としてある都市のマップと防衛ポイントを見ながら仕事の内容を正確に把握し、必要があればメモを取る。
内容だけ聞いていると本当に単純な都市防衛任務だ。
「命令系統の説明に入る。フリーの傭兵諸君に関しては、エルズバーグ傭兵団とハーギン武装団にふりわけ、以降は配属先の部隊長からの指示に従うように」
デバイスに通知があり、振り分け先の傭兵団の名称が記載されている。
「ではブリーフィングは以上だ。以降は各団長の指示に従うように」
司令官が壇上から立ち去り、にわかにブリーフィングルームが騒がしくなる。
「シャル先輩はどっちだ?」
「エルズバーグだな。ダグラスは?」
「先輩と同じ。よろしく!」
ダグラスはにこにことデバイスに表示されたエルズバーグの文字を見せてくる。
そんなに喜ぶ必要があるんだろうか。昔からなつっこい少年ではあったが、世話されて恥ずかしい話とかも知ってるような女と一緒にいたら傭兵としての沽券にかかわりそうなものなんだけどなあ。
「うん、よろしく。ちっとは成長したところ見せてくれよな」
「昔よりは成長してるから安心してくれ。少なくとも背中を預けるくらいはできる」
「おー、言うようになったな」
言葉の自然さや隙のない振る舞いからも、大口を叩いているようには感じられない。
いつ頃からフリーの傭兵をやっているかは知らないが、いくらか古傷が見られるものの大きな怪我の痕跡はないところを見ると、実力そのものはたしかにありそうだ。
「シャルロット、ダグラス、エルズバーグ傭兵団はAルームで別途ブリーフングを行うようです」
感心していると、ノエルが急かすように会話に割り込んでくる。
「おっと、聞き逃してたか。ありがとうノエル」
「はは、ありがとうよ」
「いえ。では行きましょうか」
またしてもノエルとダグラスの視線が合う。ダグラスの方は明確に睨みを効かせるような剣呑さが視線に含まれているが、ノエルは意に介さず最近覚えた胡散臭い笑顔で応戦する。
なんでコイツら会って2時間近くしか経ってないのにこんな不穏なの……
2人の間に流れる空気感に内心冷や汗をかきながらAルームへと向かう。
任務に不測の事態が起きるよりも、この2人が不穏な雰囲気になってるほうが心配になってきた。
Aルームには、エルズバーグ傭兵団の団長と副団長、私たちを含めてフリーの傭兵が11名集まっている。
傭兵団のメンツはすでに指示に従い持ち場に向かっており、このブリーフィングはフリーの傭兵連中に向けたもののようだ。
エルズバーグ傭兵団は62名のメンバーから成る小隊クラスの傭兵団だ。
団長のジェラルド・エルズバーグ、以下11名のAM部隊、35名の歩兵部隊、残り15名は通信士や衛生士などの補佐的な役割を持つ。
団長は指揮官として後方で指揮を取るが、主力となるAM部隊を率いているのは副団長のレミィ・ノックスとなる。
それに加えて非AM乗りの8名のフリーの傭兵が歩兵部隊の指揮下に入り、私とダグラスはAM乗りのためレミィ副団長の指揮下に入る形となる。
ノエルは私のオペレーターではあるが、今回の作戦ではエルズバーグ傭兵団の通信士たちに混じって仕事を行ってもらう事になった。
「任務ならしかたがありません。何卒お怪我をされませんよう」
「後方支援とはいえそっちも気をつけろよ」
表情にこそ出ていないがノエルの声に微妙なノイズが混じっているところを見ると、不服といったところだろうか。
いつものような任務とはわけが違うので、今回は我慢してもらうしかない。
都市警護任務はブリーフィング終了後すぐに開始らしく、割り当てられた警護箇所にすぐに向かうことになる。
エルズバーグ傭兵団は東側の警護となっており、正規軍とともにAM乗りが都市を囲う防壁付近を2機1組2グループで見回り、歩兵部隊は4人1組4グループで各施設周辺を時間ごとにランダムに算出されたルートで見回る。
初回の見回りだけ、正規軍が入らないのでAMの見回りが4グループとなる。
シフト制となっており、私は初手からレミィ副団長と組んで回ることになった。
ダグラスも傭兵団のAM乗りと組んで別のポイントを見回ることになっている。
14型を起動させ、副団長との合流ポイントへ飛ぶ。ここから1時間ごとに交代で10分程度の休憩をはさみつつ4時間の見回りだ。
見回りのスタート地点にはすでに副団長のTA-32型が待機していた。
ESTとは異なる軍事企業が開発している流線型のボディが特徴的なAMだ。TA-32型は昨年、鳴り物入りでお披露目された新型で、装甲の頑強さと継戦能力の高さがが売りの機体だ。
何処かの傭兵団が宣伝をかねて受領していたとは聞いてはいたが、レミィ副団長のこととは思わなかった。
「副団長のレミィ・ノックスよ、改めてよろしくね」
「シャルロット・クレールです。暫くの間お世話になります」
簡単に挨拶を交わし、見回りを開始する。
「いきなりあたしと組む事になってごめんなさいね。女性のAM乗りは珍しいから、つい」
「はは……確かに、フリーの傭兵じゃまず見かけませんからね」
副団長の言葉に相槌をうちつつ、偶に聞かれたことに返しつつ、見回りを開始する。
初回の4時間は何事もなく過ぎていき、交代の時間となろうとしていた。
『E-2365ポイントより伝達、領海に侵入者あり。繰り返します、領海内に侵入者あり』
その時、ノエルの通信が入る。
E-2365ポイント付近のマップが表示され、敵機のマーカーが4つ表示される。
「こちらレミィ。あたしとシャルロットはこのままE-2365ポイントに向かうわ。Bグループは後続に引き継いでから、Dグループに合流して敵影がなくなるまで警護を続けて」
副団長の指示に、通信機越しに各人了承の声が聞こえる。
「悪いけど残業の時間よ。Cグループはすぐに戦闘に入るわ、急ぎましょう」
「了解です」
かっ飛ばして向かったE-2365ポイントではすでに戦闘が始まっていた。
ダグラスの駆る黒いEST-13型ともう一人のTA-30型が応戦している。
「副団長!」
「待たせたわね。これより援護に入るわ。シャルロット、ダグラスと戦線を合わせて前に、トーマは少し下がって弾幕で援護を」
レミィの指示の元、TA-30型が下がるのに合わせてダグラスの13型と並ぶように前に出る。
「先輩!」
「よし、久々に組むぞ、気を抜くなよ」
「もちろんだ」
『敵機から熱源。掃射来ます』
ノエルのアラートとほぼ同時に敵AM(アサルトモービル)のレーザーライフルが上空から段階的に放たれる。
私は下降、ダグラスは右に旋回してそれぞれ回避すると、その隙間を縫ってTA-30型と32型のミサイルが敵機に向かって飛んでいく。
ミサイルの弾幕に敵機が分散される。
『シャルロット、2時の方向から更にミサイル来ます。ダグラス、発射地点から敵機移動距離予測、算出完了しました』
「承知」
「了解」
ノエルのアラートに従い、少し降下してミサイルを回避すると、ダグラスがノエルが算出した敵移動予測地点に向けてビームライフルで応戦する。
『着弾まで4、3、2、1。着弾確認、敵AM墜落します』
「1機撃墜確認、残り3機は依然上空を旋回中」
1つレーダーからの反応消失を確認しつつ、他の敵AMの位置を確認する。
「2人はそのまま接敵よろしく。トーマはあたしと一緒に上昇」
TA-32型と30型が上昇していくのをレーダーで確認しつつ、敵AMのミサイルを回避しながら残り3機に接近する。
「制空取ったわよ。それ!」
上空からミサイルとビームライフルが敵機に向かって放たれる。
シャワーのごとく降り注ぐミサイルを回避した後衛の敵AMに32型のバズーカの砲弾が命中した。
前衛に出ていた敵AMはミサイルの着弾から辛くも回避しており、敵AMが旋回する。
ミサイルとライフルの射撃範囲のマーカーとレーダーの反応を追いかけつつ、敵AMの移動範囲を制限するべく、ちょうど、14型が敵AMののポイントを塞ぐように移動させる。
即座にビームライフルを発射し、前衛敵AMの移動範囲を制限する。
こちらのビームライフルは牽制だ。射程範囲から逃れようとする敵AMは回避を繰り返し、誘導されていく。
「その位置、取った!」
EST-13型のビームライフルが敵AMのメインカメラを貫いた。
あえなく墜落していく敵機の反応がロストしたことを確認しつつ、最後の1機に向かう。
EST-13型が先行し、後方の敵機に肉薄しようとしたときだった。
「これは……海中から敵機反応あり! ダグラス、回避を!」
アラートとノエルの声が響き、海中から急浮上した敵機のミサイルがダグラスの13型を襲う。
「ん、のぉっ!」
アラートが間に合ったおかげで直撃こそしなかったものの、右の飛行制御ウィングに当たり姿勢制御がままならなくなった13型がヘロヘロと海上に降下していく。
しかし、13型の降下ポイントと海上の敵機の位置が悪い。このままだとダグラスは確実に撃墜される。
指示待ちをしている暇はない。私はブースターを吹かせて急降下する。
「副団長、空の残った1機頼みます!」
後で怒られるだろうなと思いつつ、レミィに通信を回し空中の残り1機を押し付ける。
「りょーかい! トーマ、ライフルで撹乱して!」
「はい!」
2人が了承した通信が流れる中、13型と敵機の間に割り込んでいくと、敵機から再度ミサイルが放たれる。
「ダグラス、チャフ!」
「わかった!」
海上スレスレをなんとか滞空しているダグラスの13型から放たれたチャフで再度放たれた敵機のミサイルを無効化し、そのまま13型を背後にしてビームブレードを構え、真っ直ぐに敵機に突っ込んでいく。
「遅い、そこだぁっ!」
敵機のカメラアイがこちらを見ているがもう遅い。こちとらそこらの14型より早いんだ。
一閃。
ビームブレードが攻撃行動に移りかけた敵機を横薙ぎに切り裂いていく。
「敵機爆発します。退避を」
「おうさ」
ブースターの勢いを殺すことなく海上スレスレを爆発圏外まで飛行し、一度上空に上がってぐるりと旋回する。
速度を通常モードに戻し、ふらふらと飛んでいる13型のそばまで飛んで支えてやる。
その時ちょうど上空から爆発音が聞こえ、敵機が墜落していく。
「怪我はないな?」
「なんとか」
「よし。ノエル、状況は」
「敵機反応なし。潜水調査を行った部隊からも他機影の報告ありません」
ノエルの報告に胸をなでおろす。
「お疲れ様。帰還するわよ。シャルロット、そのままダグラスを運べるかしら?」
「はい、問題ありません」
「おっけー、みんな無事で良かったわ」
13型を修理班に引き渡し、14型を所定のハンガーに固定する。
機体から降りて下に行けば、どういうわけかダグラスが待っていた。
「先輩!」
「ダグラス、大丈夫なのか?」
「簡単にメディカルチェックしてもらった。なんともないとさ」
「そいつぁ良かった」
顔色も悪くなさそうなダグラスの様子を見て、ホッと一息。
「先輩はやっぱり助けてくれるんだな。ありがとう」
確かに、過去所属していた傭兵団でダグラスの面倒をみていた時も何度か彼のことは助けたことがあった。
私が助けることで助かるものがあるのであれば、そうしない理由はない。
「んー、まあ、知った顔がやられそうなのを見逃すほど愚かでもないからなあ」
へらりと笑う。傭兵なんて仲間であるうちは持ちつ持たれつの関係だ。
敵対しない限り、いつかは私だってダグラスに助けられる日がくることもありえるわけで。
「さて、一旦休憩しにいこう。レミィ副団長への報告はその後だ」
「せんぱ……ああいや、シャルロット、待ってくれ」
くるりと踵を返して休憩所に向かおうとしたところでダグラスに手を取られる。
心なしか、彼の大きな手は熱を持っているように感じられた。
「どうした、急に改まって」
「やっぱり俺、あんたのことが好きだ」
「…………へ?」
ぱちくりと瞬く。こいつ今なんつった????? 頭でも打ったか?????
「好きだ。ずっと、あの時から」
「え、ええ???」
「助けられてばっかりで頼りないかもしれない。図体ばっかりデカくなっちまったけど年下だし、それでも俺は……」
ダグラスの真摯な視線に射抜かれたような気分になる。
「えっと、あの」
優しく手を握られ、どう返事をしようか迷うしかない。
暫く固まっていると、ひんやりとした第三者の手が私とダグラスの手をやんわりと、しかしすごい力で引きはがす。
「はい。そこまでにしておいていただけますか?」
「ノエル!」
「チッ……」
ノエルは何故か私を背にかばうようにダグラスとの間に割って入る。ダグラスからはめちゃくちゃ大きい舌打ちが聞こえた。
「なんだ、邪魔するのか?」
ダグラスが剣呑な目でノエルを見据える。
「ええ。少なくとも僕には邪魔をする権利がありますので」
対するノエルは張り付いたような笑みで応戦する。
つい半日くらいにも同じような光景を見た気がする。うん、こんな今にも殺し合いそうな雰囲気じゃなかったけど!
「どういうことだ」
「シャルロットに好意を抱いているのは貴方だけではないということです」
「はぁ!?」
「ふふ」
ばちり。ノエルとダグラスの視線が絡みあい、火花が散る幻覚が見える。
格納庫を行き交う人々が足を止めてこっちを見ている。
やめて、みないで。私の知らないところで知り合いが勝手にバチッてるだけなんです。
ホントなんです信じてください。あ、駄目? さいすか。
「ええっと……これ、どうしよう」
端正な顔立ちの2人が火花を散らす中、私は困惑して立ち尽くすしかないのであった。
どうしてこうなった!!!
「つづく」
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