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■喧嘩するAIと後輩に挟まれて大変なことになってる件

ノエルとダグラスが火花を散らしてから3日、今の時点では特段何事もなかったように過ごしている。
が、2人がなにかの拍子に顔を合わせるとどうしてもギスギスするので、個人的にはとても肩身が狭い。

「私を挟んでにらみ合いすんなおまえら、頼むから」
「ダグラスが別の場所で食事を摂るなら考えます」
「アンドロイドが食事取る必要ないだろ。ノエルこそ早く持ち場に戻れよ」
「もーーーーー!」
当然といえばそうなのだけど、ノエルは私のサポーターという扱いでザナフに滞留しているので、基本的にオペレーターのシフトがなければ私のそばにいるのが当たり前だ。
どちらかというと、シフトの合間に私たちのところに来るダグラスの方が目立つ。
傭兵団に所属していないフリーの傭兵なんてみんな個人主義の塊なんだから、バディを組んでいるわけでもない人物と特定人物と関わろうとすれば嫌でも目立つ。
その証拠というか、エルズバーグに配属された他の傭兵は任務以外では関わりを持とうとはしてこない。

というかフリーの傭兵なんてやってると、前回の仕事で仲間だった人物が次の依頼先で敵になって出くわすなんて日常茶飯事なので、下手に関わりを持つ方が危ないに決まってるので。

にらみ合いを続けるノエルとダグラスを無視して、さっさと食事を済ませると、勢いよく立ち上がる。
「ごちそうさまでした! 私は次の哨戒の準備があるからもう行く。2人もさっさと持ち場に行った行った」
私にできることといえば、2人を会わせない間違って顔をあわせても短時間で解散するように促す。
それしかない。

それでもというかなんというか、タイプの違うイケメン2人がしがない女傭兵を取り合って恋の鞘当てをしている。
なんて、明らかにおかしな状況はまたたく間にエルズバーグ傭兵団に広まった。

「やー、なんでこんなことになってるのか私もさっぱりで」
噂はすぐに団長たちのもとにも届いてしまい、私は可及的速やかにジェラルド団長のレミィ副団長に呼び出されて縮こまるしかない。
いやほんと、なんでこんなことになっているやら。
「今のところ任務に支障はなさそうだから問題ないとは思うけどねえ」
「だが、オペレーターとパイロットの不和が要因で何か重大な瑕疵が起きないとも限らんぞ」
「そうねえ。だったら哨戒任務の配置を組み直すわ。3人全員別々の時間に任務についてもらえばその心配もないでしょ」
「ふむ、それならば問題はないか。頼んだ」
渋い顔をする団長に副団長が言えば、渋い顔のまま団長は頷いた。
対する私は長期任務の配置の組み直しに冷や汗ものだ。傭兵団と私たちの実力を加味して綿密に組まれた予定を覆すとなると作業としては大変なものになる。
「ああああほんとにすみません。配置の組み直しは手伝います」
「あら、助かるわ。話たいことも色々あるしね。じゃ早速お願い!」
レミィ副団長はにっこりと笑う。さすがに大きな傭兵団で副団長をやっているというか懐が深い。
私は副団長についていきながら、ひとまずは仕事を降ろされずに済んだことにホッとするのだった。

哨戒任務の配置表が組み上がったのは、深夜を回った頃だった。
「ぬあ~~~~」
大きく伸びをして当面の住居として定められている宿舎の部屋の方へ歩いている。
ノエルにも男性用宿舎が割り当てられているので、夜中の業務でなければ基本的に夜は宿舎にいる。
遅い時間ではあるし、スリープモードになっているかアル博士と通信をしているかのどちらかだろう。
男性宿舎と女性宿舎の間にある休憩所でノンカフェインのコーヒーを買うとベンチに座って一息。
流石に疲れた。

デバイス片手にコーヒーを飲んでいたら、声をかけられる
「シャルロット?」
ちらりと見れば眠そうでもないダグラスがこちらに向かって歩いてきていた。
そのままデバイスに視線を戻す。
元はと言えばダグラスとノエルがギスギスしてるのが原因なので、顔を合わせたら不機嫌になっても許される気がする。
「ダグラスか。朝の配置だろお前、寝なくていいのか?」
「いや、なんか寝付けないから外の空気を吸いに来たんだけど、先輩は?」
「お前らがギスるから団長たちに呼び出し食らってた」
「おう……それは申し訳ない」
わざとでかいため息をついてやれば、心底申し訳無さそうな言葉が返ってくる。
一応悪いとは思ってるのか。まったくもう。
「そう思うならちったぁノエルに対する態度を改めるんだな。ノエルもノエルだけどさ」
「ううん、それは無理だなあ。あいつのあのスカした顔がなんかむかつくし慇懃無礼な態度もムカつく。それに、シャルロットにずっとべったりなのが何より腹が立つ」
「あのな……」
「専属オペレーターだか知らないけど、それだけで優位取った気になってるのも腹が立つ。シャルロットに育てられたAIだかなんだか知らないけど、俺のほうが先に面倒みてもらってたんだぞ」
「えぇぇ……」
聞いてもいないのに出るわ出るわノエルの悪口。お前ら会ってからまだ1週間も経ってないんだぞ。
ダグラスがこの調子じゃノエルからも相当な悪口が聞けそうだ。
そう考えると、私がどう頑張っても任務に支障が出る予感しかない。
「わかった。ダグラス、お前とノエルがその態度なら私にも考えがある」
コーヒーを飲み干して立ち上がり、ダグラスの前で仁王立ちする。
「な、なんだよ」
「お前らが態度を改めるか仲良くなるかしない限り、このザナフを出るまでお前らと一切会わない。会っても無視する」
「は!?」
ダグラスが悲鳴を上げるが、構ってられない。
「実際に任務に支障が出かねんって団長が危惧してるからな。私としてもこんな妙ちきりんなことで仕事を降ろされても困る」
そもそもがガスターラボ経由の依頼なので、アル博士の顔を立てる意味合いも多いに含んでいるのだ。
よし決めた。2人が会うたびにギスギスするなら、その切欠になる自分が2人と接触を断てばいい。
「えっ、待っ……」
「待つか。ノエルにも伝えておく。お前ら、よく考えて行動しろよ」
すがるような声が聞こえたが、全部無視だ無視。
そのままの勢いでノエルにも同じことをメッセージで送りつけ、女性宿舎に戻る。

さあ、明日からは久しぶりに1人で気ままな傭兵ライフだ。

ノエルとダグラスに、会わない宣言をしてから更に3日がたった。
ノエルにはうだぐだとメッセージで色々と言われたものの、やっぱりダグラスの悪口がところどころに挟まるので、険悪にならないほうが無理だと判断してばっさり切り捨てた。

言葉通り、私は2人どちらかの姿を見かけても近づかずに逃げている。
哨戒のときも3人別々で一緒になることはないので本当に一切顔を合わせて会話をしてはいない。
それ以外は特段何も起こってはおらず、非常にスムーズに任務に当たることができている。

この日はエルズバーグ傭兵団やザナフの兵站チームに混じって衛生物資などのチェックを行っている。
AMでの哨戒任務がメインではあるが、配置の関係もあり哨戒任務のない日はこうして別の任務があてがわれている。

「えーと、識別がHだからこれがハーギンの衛生班に回す分……」
倉庫に一時的に格納されている物資の箱をスキャンで確認して、デバイスで振り分けていく。
「ダブルチェックお願いします」
「OKです」
振り分けをダブルチェックで確認し、デバイスの確認ボタンを押せば、あとは自動で所定の場所に運ばれていく。

「ええと……ありゃ」
物資チェックを行ってずんどこ歩いていたら、かなり奥の方まで入り込んでしまった。
このあたりまで来ると、おそらく傭兵が触れるには機密性の高い物資も置いてありそうな気配がして、あまり長居はしたくない。
とはいえ、振り分ける物資がないかは確認しないとと、デバイスを取り出してスキャンをかける。
5秒ほどの時間を置いて、振り分け用の物資が表示される。なんだかんだ奥の方まで運び込まれた物資があるらしい。
「んーむ……」
担当する物資があるのならしかたがない。さっさとチェックして戻ろう。
「包帯が1箱、消毒液が1箱、医薬品が2箱、嗜好品はこっちで……」
コードをスキャン、物資名を確認、振り分けと順繰りに行っていく。
「あれ? スキャンできない?」
奥まったところにあった最後の一つの物資が何度スキャンしても失敗する。
「んー、識別は物資の番号なんだけどなあ。なんだこれ」
角度を変えたり、デバイスを再起動したりあれやこれやとやってみるも、どうしてもこの物資だけ失敗する。

「そこで何をしている。所属を言え!」
背後から突然声をかけられる。
ぱっと振り向けば、ザナフの副司令であるブラウエルがこちらを睨みつけるように立っていた。
「すみません。シャルロット・クレール。エルズバーグ傭兵団所属の傭兵です。ここには物資のチェックで来ました」
居住まいを正して直立不動となり、ブラウエルに告げる。出自のよろしくない傭兵ではあるけれど、軍部に見せられる程度の礼節は知っている。
「……ああそうか、すまないね。人の出入りが激しくて通常の物資がこの辺りに押し込められたか」
きちんと所属と任務内容を伝えれば、ブラウエルも雰囲気を和らげる。
やましいことをしているわけでなし、問題があってたまるかという話ではあるのだけど。
「おそらくそうかと。すみません、ここのチェックが終わったらすぐに戻りますので」
「その物資か?」
「ええはい。何故かスキャンに失敗して、振り分けができないんです」
「どれ、見てみよう」
ブラウエルがデバイスを取り出して識別番号をスキャンする。
そういえば、この人は輜重の統括だったっけ。それなら倉庫にいるのも、スキャン用のデバイスを持っているのもまあわからなくはない。
「ふむ。これは司令用の特別物資だな。君たちに貸与しているデバイスではスキャンができないようになっている」
「そういうことでしたか。失礼しました」
「いや、いい。さ、早く持ち場に戻りたまえ」

ブラウエルに追い立てられるように倉庫の入口付近まで戻ると、新しい物資が運ばれてきていた。
新しく運ばれてきた物資をスキャンし、振り分けていく。
「あれ?」
たった今スキャンした物資は識別が司令部行きの物資だ。
司令部行きはスキャンできないと言っていたさっきの副司令の言葉とちょっと矛盾があるような。
特別物資って言ってたから違うのか。
「何かありましたか?」
ザナフの兵站担当が声をかけてくる。
「ああいえ、このデバイスって司令部行きの物資の識別番号もスキャンできるんですか?」
「? そうですよ。ここに来る物資は消耗品ばかりですから。機密性の高いものはザナフに入る前に分別されて別路から運搬していますし」
「……そうですか、ありがとうございます」
引っかかるものを覚えつつ、物資チェックに戻る。
ジェラルド団長かレミィ副団長には一言進言してもいいかなと考えたものの、怪しいと言えるに足るものが乏しい。
でも、ブラウエル副司令についてはちょっと注視しておく必要があるかもなあ。

なんて、思っていた矢先のことだった。

ブラウエル副司令と倉庫で邂逅してから更に4日後。
ザナフの司令室が俄に緊張に包まれていた。
何処からか侵入してきた犯罪組織と敵性国家の特殊部隊が司令室を制圧してしまったのだ。

司令室にいるのは夕方の哨戒任務に就くエルズバーグの通信士が私含めて3名。
他に、ザナフの下士官が10名、ハーギンの通信士と情報解析担当が2名。
そして、総司令のゴードン大将とその秘書官。
ザナフの下士官が白兵戦の訓練も受けていればいいが、あまり期待はできなさそうだ。
何にせよ私と傭兵団の面子以外はほぼ非戦闘員と言っていいかもしれない。

「ザナフは我々の占領下となった!」
ゴードン大将を人質に、特殊部隊の隊長が高らかに宣言する。
大将は簀巻きと猿轡を噛まされ、自決する手段すら取らせてもらえない。
秘書官以下私たちは司令室の隅に集められ、犯罪組織の構成員複数人にマシンガンを突きつけられている。
動けばすぐにでも蜂の巣にされる状況に、下士官たちの顔は真っ青だ。
一応動けるように一番前で秘書官たちを庇う姿勢を取ってはいるが、マシンガン相手じゃ勝てる見込みもない。

司令室では犯罪組織の構成員たちがあれやこれやとコンソールを操作して着々とザナフの乗っ取りが進んでいく。
この緊急用の臨時司令室からも敵が通信を飛ばしていることを鑑みるに、敵は相当手際が良い。
それにあまりにも相手にとって事が都合よく運んでいることに、内通者がいることはなんとなく察せられる。

せめて司令室の状況がなんとかなれば状況をひっくり返すこともできそうなんだけどなあ。
流石にこの人数を相手に全員無事で済ませることはできない、私一人がどうにか動いたところでというか全滅エンドまっしぐらだろう。
相手の神経を逆なでして事態を悪化させるのだけは勘弁だ。

緊張感が漂う中、周囲の様子を伺いながら必死に打開策を練ろうと頭を働かせるしかない。

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一方その頃。

ダグラスはエルズバーグ傭兵団の通信士たちに混じってシャルロットが司令室にとらわれている状況に焦っていた。
あまりに手際よく司令部が制圧されたせいで、通信網が乗っ取られジェラルド団長たちとも連絡がつかないばかりか、ザナフの指揮も混乱しており手をこまねいているしかできない。

シャルロットや囚われている傭兵団の面々がが反撃できるような隙さえあれば、司令室を制圧し返せるような勝機はあるが、単身で乗り込むには情報が少なすぎる。
八方塞がりの状況で、一人格納庫を右往左往していた。

「ちっ、こうなったら……」
悪態をつきながら苛々を隠しもしないダグラスが立ち上がったその時だった。
「ダグラス、ちょっといいでしょうか」
ノエルが立ち上がったダグラスに声をかけてくる。
「……おう、ちょうど探しに行こうと思ってたところだ」
2人は向き合い、じっとにらみ合う。
周辺の人間は2人が険悪な仲だと知っているので、にわかに緊張が走る。
「シャルロットを助けるのに協力してください」
「シャルロットを助けるのに協力して欲しい」
2人の声が重なる。ダグラスはノエルを見てニヤリと笑う。ノエルも同様に笑みを浮かべた。

「お前みたいないけすかない野郎の手を借りるのは癪だが、俺一人じゃ情報がたりねえ」
「あなたのような粗野な男の手を借りるのは情のないことですが、僕一人では力が足りない」
「だから、協力して欲しい」
「だから、手を組んでくれ」

一人の女を取り合っていがみ合っていた男たちが、一人の女のために手を取り合った瞬間だった。

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犯罪組織の構成員たちとにらみ合いを続けてどれくらい経ったか。
隙を見せた瞬間に殺されそうで一瞬たりとも気が抜けず、正直そろそろ疲れてきている。

いや、マジでなにか反撃の切欠になりそうな何かを見つけないと。
このまま黙って制圧されたままではいられない。

「おい、第三区画、応答しろ」
通信席の方が俄に騒がしくなる。外で何か動きがあったのかも知れない。
「何が起きた?」
特殊部隊の奴らが通信席の方に集まる。
「第三区画より応答あり。傭兵どもが暴動を起こしたが鎮圧したと報告」
「なんだ、脅かしやがって」
惜しい。このまま暴動が成功していれば反撃できたかも知れないのに。
というか、暴動を起こした傭兵たちは無事だろうか。エルズバーグの顔見知りとかだったらちょっと嫌だな。
「お前ら、配置につきなおせ」
「了解」
リーダーらしい男の号令が降りたその時だった。

小さな音が聞こえて上を見た瞬間、天井の換気口から何かが転がり落ちてくる。
転がり落ちてきた何かは、空気を放出するような音と共に白い煙幕を吹き出し視界が悪くなる。
突然のことに一瞬だけ敵が動揺して隙ができたのが判る。

その隙を逃さず、私は一番近くにいた構成員にタックルをぶちかまし、そのままマシンガンを奪い取る。
続いて、エルズバーグの通信士の男性がもう一人の構成員に隠し持っていた銃を撃ち、行動不能にする。

白い煙が換気口に吸い込まれ、わずかに視界が晴れていく。
まだ見えづらいがこれくらいなら行動に支障はない。
マシンガンの銃口を取り囲む構成員の一人にぶち当ててやると、そいつが持っていたハンドガンを奪い取って、腹に一発ぶちかましてやる。
「がっ……」
通信士の男性と女性が倒れた構成員を制圧するように動くのを見て、私は姿勢を低くしてゴードン大将の解放に向かう。

コンソールを盾に銃撃を回避して通信席に回り込むと、特殊部隊員の一人をマシンガンでぶん殴って沈めて、そのままもう一人にハンドガンの銃口を向けて射撃。
銃弾は特殊部隊員の右肩に命中し衝撃でのけぞるのがはっきりと見える。

「くっ、貴様ら! ぐあっ!?」
ゴードン大将がいる方から男の潰れたカエルのような声が聞こえる。
何があったと思う間もなく、司令室にザナフの兵士がなだれ込んで来るのが見える。

完全に煙が晴れるとダグラスがゴードン大将を解放しているところだった。

「ダグラス!」
「シャルロット! 無事だな!」
ゴードン大将をザナフの兵士に任せ、ダグラスが私の方に歩いてくる。
「ああ、にしてもよくここまで来れたな」
「ノエルに手伝ってもらった。さすが、ガスターラボの秘蔵のAIだけあるな」
『はい。司令室までの最短ルートの監視カメラをハッキングしてこちらの接近がわからないようにさせてもらいました』
「さっすが」
『シャルロットとダグラスの制圧力の高さのお陰で事はスムーズに運びました。あなたとゴードン大将たちが無事で何よりです』
流石に緊急事態だから形振り構っていられないのか、ノエルとダグラスに不穏な空気感はない。
というかむしろなんかちょっと仲がいいような?
私が知らない間に仲直りでもしてたんだろうか。

ゴードン大将が解放されたことで、司令部の機能が復活した。
命令系統が回復し、同時に通信網も正常に戻ったことでザナフ側の反撃が始まろうとしている。

一息ついて、周囲を見回すとザナフの兵士がどこからかコンテナを運び出しているのが見えた。
「そのコンテナは?」
「連中から押収したコンテナだ。なんだって連中がザナフのコンテナなんか持ってたんだかわからんが」
「ふむ……ん? そのコンテナ……」
兵士を留め、私はコンテナの識別番号を凝視する。
この識別番号は確か……
「どうかしたか?」
「おい、邪魔を……」
「ちょっとまってくれ」
この識別番号は、4日前に私のデバイスがスキャンできなかったコンテナの番号だ。
ブラウエル副司令のデバイスでスキャンできたコンテナを敵性国家の特殊部隊が持っていたということはつまり……
「ブラウエル副司令! あいつ、裏切り者だ!!」
「は?」
大声で叫んだ私を司令室にいる全員が凝視する。
「どういうことかね。説明してもらおうか」
ゴードン大将の秘書官が私をじっと見つめる。嘘は許さないという視線をこちらも強い視線で返す。
「このコンテナは4日前、私が物資チェックをした際にスキャンができなかった物資です。ですが、何故か倉庫に副司令が来訪して、持っているデバイスはそのコンテナのスキャンが可能でした。副司令はこれを司令用の特別物資だと言っていた。なのになぜこのコンテナをあいつらが持っているのか、ということです」
「ノエル! 今すぐこのコンテナを解析しろ!」
ダグラスが通信機に向かって声を張り上げた。
『すでに解析始めています。うまく偽装されていますが、このコンテナは正式なザナフのコンテナではありません。正式識別判明。これは、敵性国家のものです』
「ジェラルド団長にすぐに報告! ブラウエル副司令のデバイスにそのコンテナのスキャン歴が残っているはずだ、急げ!」

そこからはもうてんやわんやだった。
ジェラルド団長やハーギンの団長は歩兵を率いてブラウエルの捕縛作戦を開始し、ゴードン大将は機能が回復した司令部で指示を飛している。
各所で反撃が始まったと思いきや、敵性国家のAM部隊が大挙して押し寄せてきたという知らせも入る。
私とダグラスは司令室を出てすぐに格納庫に向かい、レミィ副団長の指揮の元、エルズバーグ傭兵団のAM部隊として出撃。

人使いが荒いとは思いつつも、こういった事態も想定していたのでまあ致し方ない。
「シャルロットはダグラスとツーマンセルでお願い! オペレーションはノエルに任せるわ」
「いいんですか?」
「緊急事態だしね。それに、今のあの子たちなら大丈夫でしょ」
「うん? えっと?」
「ま、あの2人を信用してあげなさいってことね」
「はあ。まあいいか、シャルロット・クレール、出ます!」
レミィ副団長の言葉に疑問は残るものの、考えている時間はない。
ダグラスに続いて、EST-14型を発進させる。

最初の出撃からかれこれ4度、出撃と補給を繰り返している。
「指定座標まであと1分で到達」
敵の数はだいぶ減ってきたものの、なんとしてもザナフを落としたいのか攻撃の手が休まることはなかった。
『了解、敵機確認、総数10機。増援の可能性あり、注意してください』
「わかった。射程圏内に入り次第迎撃を開始する」
13型の後ろについてレーダーを確認すれば、目視でも敵機の姿が見える。
私たちのほかにも無事なザナフのAMが僚機として出撃しており、完全に総力戦の様相だ。

13型が先制してミサイルを射出する、弾幕に合わせてザナフのAMが追撃し、初手で敵機1機が落とされる。
『10時の方向から強力な熱源反応。長射程ライフル、来ます』
ノエルの警告に従い、降下して射線からずれると、そのまま敵機の下に潜り込んでビームライフルで動きを止める。
動きが止まったところに13型のビームライフルが敵機のコックピットを貫いたのが見えた。

『敵機、散開します。移動地点予測、算出しました。ダグラス、シャルロット、この位置です』
「了解!」
「わかった」
ノエルの算出した敵機の予測移動地点に先回りする。
予測地点に先んじてミサイルをばらまくと、敵機がビームサーベルを振りかぶって高速で接近してくるのが見える。
こちらもビームサーベルを取り出し、応戦すればばちばちと音を立ててサーベルの刀身がぶつかり合う。
反発する勢いで敵機と離れ、再接近しようとしたところで、後方に控えていた別の敵機のビームライフルの銃口がこちらを向いていた。
「させるかよ!」
ダグラスの13型がビームライフルを構えていた敵機に向かって再度ミサイルを放てば、敵機の射線がずれて接敵した14型の頭上ぎりぎりをビームが掠めていく。
ビームライフルの射撃をものともせず突っ込んでくる14型に動揺したのかろくな反撃もできないまま、ビームサーベル出応戦していたほうの敵機は14型のビームサーベルにあっけなく真っ二つにされて落ちていった。
同時に、14型を狙っていた敵機が13型のビームライフルによって落とされていく。
「助かった」
「この間の借りは返せたな」
『ザナフ側で2機撃墜を確認。敵機残り4機です』
ノエルの声が聞こえ、レーダーを見ると4機が少しずつこちらと距離を取るように動いている。
「まて、なんか敵の動きがおかしい」
「後退している? 追うか?」
「罠かもしれない。様子を見からのほうが……」
『司令部から緊急報告。ザナフ全域の敵部隊の鎮圧を確認。またブラウエル副司令の捕縛に成功しました』
訝しみつつ、レーダーを注視していると、ノエルから報告があがる。
なるほど、内通者であるブラウエルが捕まって、敵さんとしてもこれ以上は戦っても無駄という判断が下されたとみた。
『敵機の撤退を確認。周辺に敵影はありません。帰投してください』
「一旦は終わり、かな?」
「これ以上は流石にしんどいな」
コックピットの中でぐったりしつつ、私たちはノエルの誘導に従ってザナフに帰投するのだった。

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ザナフでの長期任務が終わりを迎えて数日後。
ガスターラボに帰投するヘリには、私とノエルそして何故かダグラスが搭乗していた。
「なんかすごいことになってるねぇ」
「……はは」
私はノエルとダグラスに挟まれながらアル博士との定期通信を行っている。
アル博士はノエルが私にべったりなのは知っているが、ダグラスと顔を合わせるのはこれが初めてのはずだ。
でっかい男2人に挟まれて暑苦しいし乾いた笑いしか出てこないが、定期通信での報告は淡々と進んでいく。
「ザナフの任務については詳細を聞いたよ。この襲撃を鑑みて各国は敵性国家には経済制裁を加えることを決めたそうだよ」
「あー、ほとんど戦争でしたからね。よく生きて帰れたもんです」
「本当にね。3人とも無事でよかったよ」
「ザナフ側は大丈夫なんです?」
「副司令が敵性国家と内通してたからね。同盟国家間で人材の再選出は必須になるんじゃないかな。政治のことはよくわからないけど、まあうまくやるでしょ」

そんな感じで雑談のようなそうでないような物騒な話を挟みつつ、ノエルから取得できたデータのチェックや機体のログデータとのすり合わせを行い、定期通信は終了となる。

「ああそうだ、ノエル、ダグラス」
「はい」
「ああ」
うん? なんでここでアル博士がダグラスを呼ぶ?
なんだかあんまりよろしくない予感がしてきたぞ。
「シャルロットとは別アプローチの戦闘データ集積の件、ダグラスに請け負ってもらう事にきまったよ」
「は?」
「今回の件で、もう少し操縦者の人物学習パターンに対して多角的アプローチが必要って結果が出てね。ノエルに相談したらそこのダグラスを推薦してきたんだよ」
「え?」
「はい。シャルロットだけでも十分だとは思うのですが、ザナフでのオペレーションの経験から一人の人間の思考パターンから予測を産出するにも限界があるとわかりましたので、推薦させていただきました」
「……ダグラス、お前知ってたのか?」
ぎぎっと、ノエルの方を見てにこやかに笑い返される。
次いでぎぎっとダグラスを見れば、とても爽やかな笑みを浮かべている。
「ああ。秘密にしてて悪かったな」
「ごめんなさい。アル博士からは決定するまで伝えないようにと」
「そういうことなんでシャルロット、ダグラスに色々教えてあげて。あと、ラボに帰ってきたら3人とも所長室にすぐ来るようにね」
アル博士の映るモニターを見れば、にこやかに笑っている。
この中で私だけが一人ぷるぷると震えていた。
つまりあの、それって……
いや、私もたいがいにニブチンではあるが、ここまであからさまにされれば嫌でも気づく。
ノエルに加えてダグラスからも、つまりだ2人から恋愛的アプローチを受け続けないといけないということで……
「ま、よろしくな。シャルロット」
「僕たち、もう決めたんで」
「な、なにを……」
逃げようと身体が動くはずが、ノエルとダグラスに両脇をがっちりと挟まれてしまい動けない。
「気づいてしまったんですよ。僕一人ではあなたを守れないと」
「気づいちまったのさ。俺一人じゃあんたを守りきれないって」
「だから、協力することにしたんです」
「そ。シャルロットが選べないってんなら俺とノエル両方でいいだろ」
白皙の美貌と精悍で端正な顔が近づいてくる。
こわい。イケメンこわい。やめて、ほんとにそういうの困るんだってば。
協力って何いってんの。いつの間に仲良くなったんだ。襲撃のあの短時間で何があったし。
てか選べないんだったら選ばなければいいってか。こいつらバカなの。
倫理観は何処行った。最初からそんなもんないって? そんなー。
いろんな疑問が私の頭を埋め尽くす。もうわけがわからない。

■AIと後輩が手を組んで私を落とそうとしてくる件

「……もうやだーーーーーーー!!!」

渾身の叫びが輸送ヘリのハンガーに響きわたるのだった。

「了」

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