■油断して捕まった元悪役令嬢ですが、お国の危機を救わないといけなさそうです。
壮麗な白亜の城が炎で真っ赤に染まっている。
美しかった城下は炎により焼け落ち、魔物が溢れかえり、いくつもの遺体と魔物の死体が転がっている。
途切れない怒声、悲鳴、罵声や泣き声、断末魔。
王都はまさに阿鼻叫喚の様相で滅亡の時を迎えていた。
これは一体……?
ぐるっと周囲を見回してみると、わたしはどうやら宙に浮いており王都の惨状を見下ろしているようだ。
「ニコラウス王子殿下と聖女様はいずこに!」
「わ、わかりません! すでに脱出したかと!」
「なぜだ! 聖女様のお力が今こそ必要だというのに!」
場面が切り替わり、城内でニコラウス王子と聖女を探す騎士団長と団員が見える。
王子と聖女様はこの異常事態にさっさとケツまくって逃げたらしい。
「仕方がない。我々だけでなんとしても魔物を殲滅しなければ……!」
「フェルゼンシュタイン卿が到着しました!」
「夫人は?」
「同行されています」
「わかった。夫人にはすぐに救護施設に結界を展開するように伝えてくれ。私は卿とともに前線に出る」
「はっ!」
お父様と、婚姻後すぐに退役したお母様までもが国の非常事態に駆り出されている。
「……ヒルデガルドを救えなかった罰なのかもしれん」
再度場面が切り替わり、今度はお父様が悲痛な面持ちで迫る魔物たちを見据えている。
「卿、気持ちはわかるが、彼の者は聖女を手に掛けようとした極悪人。処刑されて然るべきことだ」
「それでも私はあの子の父親だ。どんな手段を使っても、あの子を国から逃がすべきだった」
お父様たちの会話から察するに、どうやらこの風景はわたしが処刑された、要は1周目の世界のその後なのだろう。
何がどうしてそうなったかはわからないものの破滅まっしぐらとは……
なんか間違って幽閉まで減刑があったとしても、最終的にこの有様になったってことだと家族には悪いけどサクっと処刑されちゃって正解だったのかもしれない。
この情景がいつ頃のことかは不明なものの、お父様の顔は疲れてこそいるが追放前に見た時とほとんど変わらないようにも見える。
処刑されてわりとすぐに起きたんだろうか。
そんなことを考えているとまた景色が変わる。
魔物たちが禍々しい角とオーラを放つ黒衣の者に率いられ、今にも城を攻め落とそうとしていた。
「神子サマ! 神子サマ!」
「我ラノ神子ニ祝福ヲ! 全能神ケイドーラノ祝福ヲ!」
ということは、あの黒衣の者が知性ある魔物が呟いた『うつろのみこ』ということだろうか。
みこ。そしてケイドーラ。わたしが見ているこの景色の何がどこまで現実なのかはわからないけど、ここまでパズルのピースが当てはまることもそうあるまい。
……ヴァルシャル教の全能神ケイドーラは人間を守る存在として使徒たる魔物を生み出したという。
その使徒たちを率い、人間を導くために地上に降臨したのが御使いである『虚ろいの神子』だ。
時間の流れで言葉が多少変質はしたが、『うつろのみこ』と『虚ろいの神子』は、その存在をイコールで繋いで間違いではない。
嵐のような風が吹き荒れる。
わたしは飛ばされそうになりながら、魔物を率いる黒衣の者がどんな面構えをしているか見てやろうと意識をそこに向ける。
ちょっとずつ視界が拡大して、黒衣の者の全容が見えてきた。
黒衣の者にの側頭部からは禍々しい暗赤色の角が伸びている。
暗赤色の角に被さるのは、炎に照らされ揺らめく銀の髪。
もっとちゃんと顔を見せろと強く念じると、視界が回転し、黒衣の者の横顔が見えてくる。
長い銀髪に半分隠れているが、その横顔は……
「マックス……?」
わたしの知る年下の冒険仲間によく似ていた。
わたしの声が聞こえたのだろうか。マックスによく似た男が顔を上げ、その仄暗い青色と視線がぶつかりあう。
そうしてそこでわたしは目覚めた。
「んぁ……」
石造りの天井が見える。
身体を動かそうとするも、なにかに拘束されて動けない。
ドレーゼ男爵と従者の女になにかされ気絶した。
そこから1周目と思わしき謎の夢を見て、目が覚めたら拘束されているわけで。
問題はなんでドレーゼ男爵たちがわたしを気絶させ、あまつさえ拘束してるのか。
目が覚めたばかりで考えが回っていないが、本当になんでこんなことになっているのか。
回らない頭でうんうん唸っていると遠くから話し声と足音が聞こえてくる。
さっと目をつむり、気絶しているフリをする。
会話が聞ければ自分の置かれている状況がわかるとは思うけれど……
「まだ目を覚まさないようだな」
「怒りに任せて強いショックを与えるからです。この者が身体強化をしていなければ死んでいましたよ」
「時空嵐の事故とはいえ、この女が第二王子を逃したのだ。許せるものか」
「だからといって次の依代を殺してしまっては元も子もありません」
「そうは言うが本当にこの女を依代に出来るのか?」
「第二王子ほどではありませんが、この女の内包する魔力量は相当なものです。我々の神子の依代の役目は果たせるかと」
「この前のような肉塊にならなければいいがな」
「すべては全能神のお導きのままでございます」
「……ふん。まあいい、この女が依代足り得るのであれば我らの悲願はもうすぐだ」
「はい。準備はつつがなく進んでおります故」
「行くぞ」
2つの靴音が遠ざかっていく。
「うわぁ……」
ちょっとした遠征調査のつもりがだいぶやばげな大当たりを引き当てたものだ。サイコロ出目が狂ってる気がする。
知性ある魔物との関連性までは不明なれど、ドレーゼ男爵がなにかやべえことを企んでいることははっきりした。
というか依代になるも嫌だけど失敗したら肉塊とか嫌すぎるんですけど。
こんなとこにいられるか! はやいとこ脱出しないと詰む。
今回は運良く2周め入ったけど、次があるとは限らない。
はやいとこ脱出しないとまずいことになる。
「あれ……」
何度か身体強化魔法をかけてみるも、一向に拘束具を壊せる気配がない。
もしかして封印魔法かなんかで封じられてる??
いや魔法は発動している音がするから完全に封じられているわけでもなさそう。
依代コースも肉塊コースも勘弁なので、半分ヤケクソになりながら強化魔法を重ねがけしていくと、ぎちり、とちょっと拘束具がきしむ音がする。
お。通常想定される効果分を封じることは出来るだけで、わずかだけど上乗せ分は自分にかけられるっぽい……ってコト?
なるほどそういうことなら、強化魔法をかけ続ければそのうちこの拘束具を壊せる程度には強化される可能性がある。
そうなればあとはわたしの筋肉と強化魔法で拘束をぶっちぎる事はできるはず。
つまりわたしの魔力が尽きる前に拘束が解ければわたしの勝ちってことだ。
なら、この封印魔法とわたしの魔力の根比べといこうじゃないか。
……………
…………………………
封印魔法と根比べを開始してどれくらい時間が経過しただろうか。
ちょっとずつちょっとずつ、身体強化はされていて拘束具も動かせるようにはなったものの、あまり大きな音を立ててドレーゼ男爵たちに気づかれれば脱出できなくなる可能性がある。
しかも、今どの程度の強化がされているかがちょっと把握出来ていないので、念のためともう少し重ねがけをしているますなう。
そろそろいいかなと、拘束されている腕に力を込める。
ガチャガチャと拘束具がこすれる音が大きく響き、金属が摩耗する音がする。
もう少しではずれそう。ドレーゼ男爵たちに気づかれないことを祈りながら、力を込める。
あ、ちょっと腕痛い。でもココで止めるわけにはいかない。
必死で拘束具を引きちぎろうとする。
「何をしている!」
やっべ気づかれた。あとちょっとだったのに。
「やはり依代にするなど考えずに殺しておくべきだったか。いや、今すぐここで神子の依代としてくれる」
ドレーゼ男爵が怒りとともに儀式用と思わしき短剣を握りしめて近づいて来た。
あっこれ死ぬやつだ。
ドレーゼ男爵が怒りのまま、わたしに短剣を突き立てようと腕を振りかぶる。
間近に迫る死に、わたしはたまらず目を瞑る。
ぎいん。と、金属が金属を弾く音がして、何かが地面に倒れた音が次いで聞こえる。
「大丈夫か!?」
次いで聞こえてきたのは普段ののんびりした声色からは想像もつかないほど切羽詰まったマックスの声。
「マックス?」
目を開ければ、わたしをかばうようにマックスの体躯が見える。
間一髪、マックスが助けてくれたようだ。
「貴様、ディートハルトか!」
「その名前で呼ばれるのも久しぶりだな……」
あー、やっぱりそうなのか。上から降ってくる言葉のやり取りで確信する。
年下の先輩マックスは、王国からいつの間にか姿を消していた第二王子ディートハルトで間違いはない。
なんだって王子をやめて冒険者をやってるかは後で聞くとして。
とりあえず今は拘束を解くか解いてもらうかを待つとする。
「わざわざ依代となりに戻ってきたか」
「違う。俺は反逆者に囚われた仲間を助けに来ただけだ」
「反逆者だと。そんなものは貴様をここで依代とすれば関係のない話だ」
「いや。ドレーゼ男爵、そこまでだ。貴方には国家反逆罪の疑いにより拘束命令が出ている。従者はすでに拘束した。あとは貴方だけだ」
ここにきて頭上から第三者の声。しかもこの声は……
「ギルド長!?」
「リオ、無事だな?」
「は、はい、なんとか!」
アンドラス王国ギルド本部のギルド長がまさかのご登場である。
「ギルド長、なんだってここに……」
「お前たちが捉えた魔物が、ドレーゼ男爵により知性を与えられたことを白状したんだ。それとほぼ同時にお前が男爵の遺跡調査に同行すると連絡をよこして来た」
「なるほど。じゃあ、結構タイミング良かったんですかね?」
「結果的にはな。何にせよ最悪の事態にならずに済んでよかった」
ギルド長が手早くわたしの拘束を解いてくれる。ついでに封印魔法が仕掛けられていることを告げれば、解除魔法もかけてくれた。
「動けるようならドレーゼ男爵の拘束に協力してくれ」
「はい!」
人間一人を捕まえる程度なら強化魔法もそこまで必要はない。
身体の具合を確かめて、わたしもマックスの隣に並び、いつでも飛びかかれるようにスタンバる。
だが、追い詰められたドレーゼ男爵がまさかの行動に出た。
「かくなる上は! 神子よ、我が身を受け取り哀れな地上の民にお導きを!」
「待て!」
マックスの剣が儀式用の短剣に届く前に、ドレーゼ男爵は短剣を自分の胸に思い切り突き刺す。
「うっそだろおい!」
「リオ、マックス! 離れろ!」
ギルド長の言葉に従い、わたしたちはドレーゼ男爵と距離を取る。
儀式の短剣を中心に魔力と時空嵐が渦巻き、ドレーゼ男爵に収束していく。
「はは、はははは! 神子よ! 神子よ! 全能神の祝福を! 聖女を生み出した我らに罰を!」
ドレーゼ男爵の声が響く。次第に、男爵の声には水っぽいゴボゴボとした音が混ざるようになる。
男爵の身体が膨れ上がっていく。
「来るぞ!」
ギルド長の声とほぼ同時に、男爵の身体が爆ぜ、無数の肉色をした触手がわたしたちにむかって迫ってくる。
「うわ……」
「ぎゃー掴んできた! やだこれヌメヌメしてて気持ち悪い!」
そこからはもう阿鼻叫喚。ドレーゼ男爵だったものから伸びる無数の触手に掴まれ、切り飛ばし、あるいは燃やし。
ドレーゼ男爵だったものをちぎっては投げ、切り刻んでは燃やしと、繰り返していく
だんだんと触手の本数が減っていったころ、触手の一本がわたしの首に巻き付いた。
「ぐぇ……」
色々あって怒り心頭なのか、わたしの命だけは持っていこうとするドレーゼ男爵の殺意がこれでもかと伝わってくる
「リオ!」
「うぎぎぎ……ふんぬっ!」
わたしもタダではやられないというか、死にたくなかったので触手をつかみ力任せに引っ張る。
ぶちぶちぶちッと筋繊維がちぎれるような音がして、触手がちぎれていく。
やはり頼れるのは己の筋肉。筋肉はすべてを解決するし裏切らない。
「おおう……」
ギルド長がドン引きしてこっちを見ていたが、こちとら生死がかかってたので一旦は気にしないでおく。
この触手で最後の力を使い果たしたのか、ドレーゼ男爵は肉塊のままぐずぐずと崩れていき、そのうち動かなくなる。
その様子をわたしたちは渋い顔でながめるしか出来なかった。
魔力が少ない人間を依代にすれば、その身は肉塊となる。彼自身が言ったことそのままの通りとなってしまった。
こうして、ドレーゼ男爵の反逆事件は、コトが起きる前にドレーゼ男爵の死という形でギルドによって処理され、以降は何事も起こることはなく終焉を迎えた。
男爵家とはいえ貴族が反逆を起こしかけていたということでギルド長から王国の議会や法的組織に報告があがり、それが国王陛下の耳にとどいたそうで、わたしたちは褒賞を賜るために王宮に参上することになった。
謁見前にわたしとマックス、両者の認識に齟齬があると困るということで、ギルド本部の一室でマックスと打ち合わせをすることとなり、今回の件の簡単な認識合わせが行われた。
「あーあ。フェルゼンシュタイン公爵家の娘ってバレちゃった」
「国王陛下に謁見するのに、いくら反逆者を討伐した功績があるとはいえ素性不明の人間を連れていけないでしょ」
「そりゃそーだ」
国王陛下への謁見ということで、わたしの素性に調査が入り、観念してヒルデガルドの身分を明かす羽目になったのであった。
そういう意味じゃマックスだって同じじゃんと思ったが、囚われ体質だの王族としては保有魔力量が少ないとかの諸事情があって10年以上前に王家を離脱した身だそうで、そもそも元第二王子であると素性がわかっているんだとか。
ずるい。
とはいえただ素性がバレただけではなく、裏取りの際に、追放の要因となった救国の聖女への嫌がらせも再調査がされた結果、国防で絶大な力を発揮していたフェルゼンシュタイン公爵家の力を削ぎたかったドレーゼ男爵が裏で手を引いていたことが発覚したのであった。
男爵家のミソッカスちゃんこと救国の聖女が王宮入りしたことは想定外かつ腹立たしいことだったようだが、それはそれとして救国の聖女に洗脳した侍女をつけてスパイとしてコキ使ってたらしい。
まあ、王都に攻め入るなら、お父様率いる魔法兵団の精鋭たちは非常に邪魔ではあるので、残念ながら当然というか。
むしろわたしは巻き込まれた側であったというオチだ。もしかして、1周目のきっかけもドレーゼ男爵が噛んでたりしたんだろうか。
「あ、ねえ。ドレーゼ男爵家って、もしかして500年前にうちの国に亡命したガライバ法国の法王子女一家の末裔だったりする?」
「そう。当代の国王陛下の計らいで、一緒に亡命してきた他のガライバ法国の民をまとめるために男爵の称号と少しの領地を与えたんだとか」
「昔のこととはいえなんだって恩を仇で返すような真似しちゃったかねー」
「考古学の研究に邁進するだけの人だったようだけど、10年前に大聖堂の遺跡で虚ろいの神子の儀式を発見してから変わってしまったみたいだね」
「ご先祖様が信仰してた神や神子を見たくなっちゃったとか?」
「さて、どうだろう。もしかしたら500年前に暴走した魔物の亡霊に取り憑かれたのかもしれない」
どちらにせよドレーゼ男爵は肉塊となってグズグズに溶けて消えてしまったので、何をどうして反逆を企てたかの真相はヤブの中だろう。
そんなこんなで謁見当日。
ドレーゼ男爵の謀反を大きな被害なく収めたわたしたちへの褒賞として国王陛下が提示してきたものは2つ。
一つはマックスをディートハルト王子として王室に再度迎え入れること。
もう一つはわたし、つまりヒルデガルド、ひいてはフェルゼンシュタイン公爵家の名誉回復と、公爵家に戻り追放前の生活に戻って欲しいということ。
提示された褒賞はわたしたちが過去に失ったものを取り戻させるためのものだ。
まあなんというか、ある種破格の申し出のようにも思えるが、魅力的かと言われると困るものがある。
ていうかこれ、戻ったら戻ったで護国奉仕業務が待ってるよね。
それを考えると……
「「家に戻るのは謹んでお断りします」」
わたしのマックスの声がきれいに重なった。
「おお、快く……へ?」
国王陛下が唖然とした顔でわたしたちを凝視する。
王妃様の方はほらねと言わんばかりの顔だ。
「名誉回復していただけるのはありがたいんですけど、わたし今の生活気に入ってるんですよね。ああでもわたしはともかくフェルゼンシュタイン家の名誉回復はお願いしますね」
「やむを得ない事情で王家から離脱した身ではありますが、今の生活が性に合ってるので」
マックスも王子生活に戻る気はなかったようだ。
「……だから言ったでしょう。彼女らは冒険者であることで不自由なく生きているのです。水を差すのは野暮であると」
驚いたままの国王陛下に王妃様が無慈悲にピシャリと言い放つ。
「二人がそう決めたのなら仕方がない。公爵令嬢、そなたの願いはしかと聞き入れた。公爵家は近く復権しよう」
「ありがとうございます!」
「じゃ、行くかぁ」
「では失礼します!」
深々と一礼して意気揚々とわたしたちは謁見の間をあとにするのだった。
……
…………
………………
北の国にとアンドラス王国を隔てる険しい山脈の麓。
かつては炭鉱の町として賑わった廃墟の入り口にわたしは仁王立ちしている。
国王陛下の申し出をお断りしたあと、わたしは一度公爵家に顔をだし、お父様とお母様に正式に冒険者になるお許しをもらうことに成功した。
お父様には盛大にゴネられたものの、何節かに一回は家に戻ることでなんとか許してもらった形となる。
まあそんなこんなで気ままな冒険者生活に戻ったわたしとマックスだったが、各々でいつも通りにギルドの依頼をこなして生活していた。
が、はい。囚われの元王子再び。
今度はこの廃墟を拠点としている盗賊団に襲われた村で、村長を庇って共々捕まってしまったとのこと。
盗賊団は身代金を要求しているが、貧しい村ではそんなものを払えるほどの蓄えはない。
村長が捕まっているせいでマックスも単独での脱出が難しいのか、2日経っても戻ってこないということで、たまたま手があいていたわたしが助けに行くことになったのだった。
「さて、囚われの王子様を助けにいくとしますかね」
強化魔法をこれでもかとかけて、わたしは廃墟に足を踏み入れる。
と、廃墟の奥の方からなにやら騒ぎ声が聞こえる。
「おんやぁ?」
そういえば見張りとか誰もいないな。
もしかしたらタイミングよくマックスの脱出劇の最中か。
急いで騒ぎの中心地に向かって跳躍していけば、マックスが村長を庇って盗賊団に囲まれているのが目に入る。
村長を連れて何処かから脱出したはいいものの、囲まれて逃げられないとかそんなところっぽい。
よぅし、いっちょ助けに入りますか。
「ちょあーーーーーーー!」
意気揚々と雄叫びを上げ、わたしは盗賊団の連中の只中に突っ込んでいく。
唖然とする盗賊たちの顔と、マックスの笑顔が視界に映ったのだった。
「了」