『アポイントメントの家』(#2000字のホラー)
僕が大学生だった頃の話です。
大学の近くに心霊スポットがありました。
いわゆる「呪いの家」ってやつですね。
幽霊が出るとかじゃなくて、学生の間では「呪われるから行くな」とだけ伝わっていました。
しかし僕は絵に描いたような馬鹿な大学生でしたからね。
「呪われた場所に行って伝説を作ってやろうぜ!」って周りの友人を誘ったんです。
今思うと馬鹿な話ですが、結局4人の友人と数日後に行くことになったんです。
呪いの家の話をした次の日、実家の母から突然連絡がありました。
「変な留守電が入ってたんだけど、お前何か身に覚えないか」って。
知らない番号から留守電がいっぱい入っていたそうです。
その留守電はただ一言、女の声で「何時に、何人でいらっしゃるのですか?お伝えください」とだけ言うんです。
しかもそれが30件以上入っている。全部同じ女の声で。
意味不明でした。
不気味だなと思いつつ、僕は身に覚えがない事と不安なら警察に連絡するよう伝えました。
だってねぇ?そう言うしかないし。
そして呪いの家に行く当日になりました。
深夜に車で出発です。
その時はまだアトラクションに行くみたいな気持ちで、車内でビールを飲んではしゃいでましたよ。
そんな時、僕は例の留守電の話を皆にしました。
心霊スポットに行く前に不思議な話なんて盛り上がっていいぞ、と思って。
すると友人のA君が凄く嫌そうな顔をして「それって今から行く家からの電話なんじゃないですか。いつ来るんだって」と呟きました。
そんな馬鹿な。
心霊スポットの方から電話だなんて。
「何言ってんだよお前」なんて他の友人達も笑ってましたよ。だってそうでしょう?
あなたならどうです?
自分の実家に変な電話がかかって来て、
それを心霊スポットと結びつけて考えたりしますか?
呪いの家の周囲は田んぼばかりで、一番近い家とも距離がありました。
もちろん車を停めるところなんてない。
近場のコンビニに車を置いてそこからは歩きです。
稲刈りが終わったばかりの田んぼ道はやたら殺風景でした。
呪い家は着いてみたら、正直ガッカリしましたね。
本当にただの民家の廃墟なんです。
平家で小さい。
もっとおどろおどろしいものを想像してたから、友人達も「なんだ大したことねぇな」って。
鍵も空いていて簡単に入れましたし。
中はほとんど家具がなく、閑散としてる。
引越しの後みたいな室内。
まるで何もない。
拍子抜けしつつも、何か面白いものはないかって皆で散策を始めました。
僕は台所の壁にカレンダーが掛かっているのを見つけました。
懐中電灯で照らして見ると、それはその年のカレンダーだったんです。
変な話でしょう?
廃墟の中で、カレンダーだけが最新のものだなんて。
しかもよく見ると日付ごとに数字が書いてある。
25、17、54とかバラバラの数字が。
僕はその当日の日付、9月20日の部分を見ました。そこには「45?」と書いてある。
その日にだけハテナマークが付いてたんです。何だこれって思った時でした。
どんどんどんどん、と激しく何かを叩く音がしたんです。
驚いた僕は、すぐに音の方に向かいました。
友人たちも皆集まってくる。
音は玄関の方からしています。
玄関の引き戸の磨りガラス越しに人の影が見えました。
何人も何人も玄関の向こうに立っているみたいなんです。
「なんだ、誰だよあれ?」
皆、ひどく戸惑っていました。
「お前さぁ、ほんと良くないと思うよ、こういうところ」
唖然としている僕の方を見て、A君が言ったんです。
非難するような口調。
「ちゃんと何人で何時に行くか、アポぐらいとらないと。ほら、訪問の予定が被っちゃったじゃん」
その瞬間、引き戸が勢いよく開き、人が列を成して入ってきました。
何人も何人も・・・まるで電車ゴッコでもするみたいに、ずらずら入ってくる。
彼らは一様に黒い服を着ていました。
今思うと喪服だったと思います。
悲鳴を上げた僕たちは一斉に家の奥に逃げました。
僕は台所の勝手口から飛び出し、稲刈り後の田んぼを這うように走りました。
・・・しばらくして、皆がコンビニに停めた車のところに戻ってきました。
しかしA君の姿がない。
携帯に連絡しても彼は出ません。
恐怖に駆られた僕たちは・・・そのまま彼を放って帰ってしまったんです。
今思うと酷い話です。
しかし、次の日A君は大学に来ていたんです。まるで何もなかったみたいに。
彼は昨晩のことを何も言いませんでした。
僕も置いて帰った罪悪感で何も言えません。
そのままA君とは疎遠になって、今彼が何をしているかは知りません。
・・・それで、今日この話をしたのはあなたにお願いがあるからなんです。
あの電話、僕に来る時間や人数を聞いてきたあの電話ですよ。
あの電話にもし答えていたらって思うんです。
カレンダーに書いてあった数字はきっとその日の訪問者の人数です。
僕が人数を電話で伝えなかったから、ハテナマークがついてたんだと思うんです。
もしちゃんと時間や人数を伝えてあの家に行ったらどうなっていたんでしょう?
気になるんです。
気になって仕方ないんです。
どうです?
この話に興味があるなら、ぜひ一緒に行ってくれませんか?
今度はアポを取って、あの呪いの家に。
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