海洋恐怖症が見た夢の話
わたしは家具含め白を基調とする平屋に居た。天井も壁も白、床は白の大理石、白い天板を乗せたテーブルの足はステンレス素材だった。インスタグラムに載っているような生活感の無いおしゃれな家だった。
高台に建っているのか、リビングからは住宅街が見下ろせている。高いビルは無く、一軒家が多く緑もある。雲が散らばる青い空も大きく見えて、なかなかいい景色だ。
リビングとは反対側に寝室がある。寝室も真っ白だった。6畳ほどの寝室には白いダブルベッドがひとつドンと置かれ、壁一枚ガラス張りになったといった方が良いくらいの大きな窓からはさんさんと陽が差し込み、カーテンの無い寝室は明るかった。そして海が広がっていた。
「オーシャンビューだ!」
わたしは海が見える家に住むのが昔からの夢なのでとても喜んだ。しかしそれは一般的に想像するものとは違っていた。磯遊びをするような岩場の上に寝室があったのだ。ゴツゴツした岩のくぼみには海水が溜まっている。波しぶきは遠くで上がっていた。
次第に潮が満ちて、あっという間に寝室の窓全面が海水で埋まった。青くキラキラしていた海だが、水面下は黒に近い深緑色で透明度は全く無い。洗っていないプールの底にいるように暗い。まだ昼のはずだが、太陽の光も届かないくらい透明度が無いのか、かなりの深さがあるせいなのか分からない。ただゴポゴポという重い水の音が聞こえ、深緑色の海水に浮かぶ小さな気泡があっちへこっちへ揺れていた。
ふと水の向こうに何かが動いた気がした。魚だろうか。白い影が一瞬動いたように見えたが、すぐ消えた。
目を凝らしてガラスに顔を近づける。また奥の方に白い影が見える。なんだろう。
鼻がガラスに付いた。冷たい。なんかの魚だろうか、白い影は次第にハッキリし、確実に在るのが分かる。こちらに向かってきているのだろうか。
と、少し息を吐いた途端にその白い顔はもうすぐそこにいた。ガラスが無ければ鼻と鼻がくっついているだろう。
わたしの顔よりふた回りほど大きいそれは、死んで色の抜けた金魚の顔だった。細い顔の両側に付いた大きな目玉は濁っていてどこを見ているか分からない。
遠くにいると思われたものは最初から意外と近くにいた。水の濁りによって見えなかっただけだ。エラから向こうは深緑色に消えていて、実際に金魚がどれ程の大きさかは分からない。白い顔だけが、寝室の大きな窓の中央に浮かんでいた。波に寄って気泡はあっちへこっちへ揺れるにも関わらず、金魚の顔はずっと定位置のままだった。そしてしばらくしてゆっくり右目を上にするよう回転し始めたかと思うと、後退りをするように金魚の顔はまた深緑色に吸い込まれて消えた。
わたしは腰を抜かし、ベッドに腰かけた。目の前にはまだ深い深い黒に近い緑色の水がある。見たくないのに目が離せない。
バン!!と大きな音がしたと思ったら一面真っ白になった。金魚の尾びれだった。壁一面を多い尽くすほどの大きな尾びれ。顔はわたしのふた回りくらいしかなかったけど、見えない部分は遥かに多かったのだな、そう思った。
終
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