植物から始まる異世界スローライフ!! 【創作大賞2024 漫画原作部門】
【あらすじ】
キャンプ場からの帰り、軽トラキャンピングカーと接触した私は異世界へと転生した。私が転生した先は魔法があるファンタジーの世界。ママは魔女、パパは魔族の間に生まれたエルバ。そんな私には「博士」という植物に詳しいスキルと、育成ゲームの様なエルバの畑のスキルを持っていた。私はこのスキルを駆使して、まったりと、この異世界の植物を全て知りたいし。いろんな植物のタネを畑に植えたい! エルバのスローライフがいま始まった。
え、従者が黒猫とモフ鳥⁉︎
第一話
ここは、アルクス国にあるシーログの森。
その森の奥へとすすむ私――エルバの足元に、小さな丸みのある葉っぱが"モコッ"と地面から生えていた。
私がみつけた薬草をながめ、心のなかで「博士これはなんという薬草?"」と聞くと、私のスキル"植物博士"が教えてくれる。
《これは、コロ草という薬草です》
コロ草は食べられる?
《はい、食用です》
効能はなに。
《骨を丈夫にする、カルシウムが豊富に含まれています》
カルシウムが豊富かぁ〜。
博士、教えてくれてありがとう。
カルシウムが豊富となると。コロ草を細かく刻んで魔法水を加え、乳鉢で練って、錠剤にすればカルシウムのサプリになるわね。
ほかに。コロ草を乾燥させ粉末にして、コムギン、卵、バターでクッキーを焼けば、簡単にカルシウムがとれるお菓子にもなる。
骨を丈夫にするし、カルシウムは大切だものね。
これは……なかなか優れもの。
そうだ、博士。
図鑑登録と、コロ草のタネをちょうだい。
《かしこまりました。エルバ様、コロ草のタネです》
博士に貰ったタネを、私のスキル「エルバの畑」の画面を開き、畑に植えた。
この"エルバの畑"は育成ゲームに似ていて、博士からもらったタネを植えればコロ草が画面の畑に実り、ほしいときに画面をタップすれば簡単にコロ草が採取ができる。
一度植えた植物は採取した後、すぐに芽を出して永久に畑からはなくならないし、畑には30種の種が植えられる。タネを植え畑がいっぱいになったら、ノートをめくるように指を左へスライドすれば、新しい畑の画面に変わる。とても便利な私のスキルの一つだ。
このエルバの畑には薬草の他にジャロ芋、ダイダイコン、コムギンなどの異世界の野菜、穀物も畑に植えているから、料理のときにも使える。
「よし、コロ草の登録は終わった。次の薬草を探すぞ!」
いま私は仲間、黒モコ鳥のサタ様、黒猫のアール君を連れて、冒険者ギルドで受けたクエストの真っ最中。
この仲間と、受けたクエストの内容はというと。
【シーログの森に危険な、モンスターが生息していいないかの調査】
【シーログの森に危険な、植物が生えていないかの調査】というもの。
このシーログの森は大昔、魔王サタナスと勇者アークが最後に戦ったとされる歴史的にも貴重な場所だが。森はいまも当時の爪痕が残り、魔素があふれる。それを浴び"特異変種となったモンスター"が多くすみつく森だ。
そのため森の入り口には結界が張ってあり、ベテラン冒険でもアルクス国の許可なく、この森には足を踏みいれられない。
年に数回。この森の調査依頼クエストが国王陛下、直々ギルドに立ちあがるが。このシーログの森は未知の森とも呼ばれていて、ランクはS級以上。調査期間は三日間とみじかく。この森に住む、特異変種のモンスターとの戦闘は厳しく、報酬の金貨5枚じゃ―割に合わない。
もう一つ、みんなが受けたがらない理由がある。
それは数ヶ月。この調査クエストにでかけた、数名のS級冒険者パーティーが戻ってこなかった。調査団が組まれて、森に探しに向かって見たものは無残なものだったと、クエストを受けるとき受付嬢から話を聞いた。
『あなたも、危険だと思ったらすぐクエストを破棄しなさい』
と、言われるほど、難易度の高い危険クエストなのだ。
❀
博士、あの薬草は何?
《あれはギリギリ草といいます、食せば体が痺れる麻痺草です》
隣の薬草は?
《グログロ草、毒草です》
麻痺草に毒草は毒にもなるし、薬としてもつかえる!
博士、その植物のタネをちょうだい!
滅多に入らない森の調査だから。非常に珍しい薬草、手に入らない毒草、麻痺草を見つけては、ウキウキ先頭を切って私が進む。だから、頭上にのる"黒モコ鳥のサタ様"は、そのいく手を止める。
「待て、エルバ! ここは知らない森だ。おかしな薬草にふれるな。食べるな。ひとりで先に行くな。――このままだと、ワタシの護り結界から出てしまうぞ!」
「はーい、わかってる!」
「そこ、土がぬかるみが出来ている!」
「えっ? 土?」
ズルッと……サタ様の護り結界から足が一歩はみでた。それをみて、怒りの頂点を超えたモコ鳥は「ワタシのはなしを聞いていないな!」と叫び、てグサッ、グサッ、クチバシ攻撃を繰りだす。
「ぎゃっ! いたっ! サタ様、許して」
「エルバ、ゆるさん!」
「ごめん、ごめんて……いたっ、……もう結界から出ないから許してぇ!」
涙目で、危険な森の中を駆けまわり。
足元にはじめみる薬草を発見。
「お、こんなところに変種薬草、はっけん!」
「エルバ!」
口うるさく怒るサタ様とそれに巻き込まれたくない、黒猫のアール君は遠巻きに私達を見ている。
「いい加減、サタ様もわかったでしょう? エルバ様がこうなったら終わるまで止まりません」
「そんなこと、初めから分かっている」
「サタ様、僕達は何かあったときのために、いまは体力温存です」
「うむ。体力温存か……仕方がない。いまはエルバを見守るとするか」
「ええ、そういたしましょう」
黒猫と黒モコ鳥は呆れながらも、私に着いてきてくれる。力の強い2人に守られて、私は珍しい発見に声をあげた。
「あ――、みんなソコ見て! あの木の幹にまぼろしの"野生のピコキノコ"発見!」
「なに、野生のピコキノコだと?」
「これが野生のピコキノコですか!」
二人もその発見に食いつく。それもそのはず、ピコキノコは乾燥したものしかみたことがない。どこに生えているのかも、知る人しか知らない幻のキノコ。
偶然見つけられたら、採れたてを網の上で焼いて食べるのもよし。切ってそのまま生で、スープ、炊き込みごはん、肉詰めにしても最高だ――と書物に書いてあるほどだ。
グウゥ〜。
お腹すいた。
私は近くに焚き火の出来そうな場所をみつけ、アイテムボックスと併用のマジックバッグを下ろして、野生のピコキノコに夢中の二人に声をかけた。
「サタ様、アール君、ここで昼食にしよう」
「了解。余はさっき狩ったモチモチ兎をさばこう。エルバ、調理器具と調味料、ハーブミックスを出してくれ」
「はーい!」
私はマジックバッグを漁り、アウトドアナイフ、まな板、調理器具、岩塩、ガーリック、ブラックペッパ、ハーブミックスを入れた、木製のスパイスボックスをとりだした。
「ありゃ、ハーブミックス……減ってきたね。そろそろ作らないと」
「そうだな、クエストが終わったら作ろう」
「うん!」
このハーブミックスとは――オレガノ、バジル、タイムを魔導具のミルで粉々にして、風魔法と火魔法を使用して乾燥させて作った――お肉、お魚にかけて焼くだけで、臭みがとれて美味しくなる便利な万能調味料。
「サタ様、ココに道具を置いたから後はよろしく。アール君、ここにカマドを作ろう」
「はい、エルバ様」
石を集めてカマドを作り、薪をマジックバッグから取り出して火をおこし。みんなでたのしく昼食の準備に取りかかった。
私が、この異世界に来る前の話。
時刻は明け方、私はほそいクネクネ山道をスマホを頼りに、キャンプ道具をロープでくくりつけた原付バイクで走行していた。
「もう最高! キャンプ場に山奥に来るまでの道のりは険しいけど、人が少なくて静かでゆっくり過ごせたし、珍しい植物もたくさん見れた!」
原付を2時間ちょい走らせてアパートに戻ったら、スマホに撮った可愛い花たちと植物を図鑑で調べなくちゃ。私はソロキャンプと自然のなかに咲く、植物を眺めて調べるのが好きだった。
(もう野草とか木の実って、すごい効能があったりして面白いんだよね。……たまに毒草とかもあるけど……)
それがまたまたいいのだ、植物はおもしろい。
「ハァ〜楽しかった。さて、次の休みにはどこの近場のキャンプ場に行こうかなぁ~。アパートに帰ったらキャンプ雑誌で調べて〜。フフン〜」
のんきに鼻歌を歌いカーブを曲がる直前、タイヤのスリップオンが聞こえ、こちらに向かってくる眩しい光がみえた。
あ、あの軽トラは手作りキャンピングカー?
この山道のカーブを曲がり切れていない?
え、ええ? 私に、ぶ、ぶつかる⁉︎
「きゃあぁあ――――――!」
軽トラとぶつかったひょうしに、乗っていた原付バイクはガードレールを突き破り、私の体は空中に浮いた。
え? え?
いま自分の身に何が起こったのかわからず、目の前に放りだされた、大事なキャンプ道具を入れたカバンを胸に抱きかかえた。
「……う、うそ? 私、空中に浮いてる? うおっ? アレは崖だぁ――⁉︎」
……ああ、これは助からないかも。
な――んて、のんきに考える余裕さえもあって。
まっ、いいっか。
しかたがない。と、あきらめる自分もいた。
幼い頃から冷たい両親に、出来が良く要領のいい妹と比べられ――はやく、家をでたくて高校卒業後に就職したけど。
残業ばかり、ブラックまではいかない職場。やりたくない面倒な仕事を私に任せて。出来が良かったと私が褒められるといきなり口うるさくなる、先輩たちにもうんざりしていた。
この世界にもし神様がいて、私が生まれ変われるのなら。
優しい両親がいて。
自然とふれあえて。
のんびりとキャンプがしたい! なんて贅沢なお願いだけど、神様、よろしく! と叫び、私はキツく目を瞑った。
……。
……ち
……ちゃん。
(あれ? どこからか声が聞こえる?)
……ちゃん、おねんねしましょうね?
おねんね? とても優しい女性の声だ。
こんどは、低音の男性の声まで聞こえた。
「カルデラ、エルバは寝たのか?」
「ええ。いま、お乳を飲んで寝たところよ」
(……カルデア? エルバ?)
お乳? わ、私、そんな歳じゃないんだけど。
それに今、事故に遭ったはずだ! とパッチリ目を開いた。
ふぇ? ここはどこ?
「エルバはいつ見ても可愛いなぁ〜。俺がパパだよ」
パパ? え? 見覚えのない部屋、柵、いくつもの変な動物、植物がついた吊り下げたおもちゃと、嗅いだこともない独特な香りがする。
病院で、病室ではなさそう。
「(どこ、どこなの?)あ、う、ううっ?」
おお、言葉もうまく話せない?
小さくて、ぷにぷにした手?
う、動く……これ、もしかして私の手?
私。もしかして、赤ちゃんなの?
男性は手足をパタパタばたつかせる私に気付き、柵をのぞき込んだ。
「あ、……カルデア、ごめん……エルバが目を覚ました」
「ほんと? あら、しかたのないタクスパパでちゅね」
「うーうー(タクス、パパ?)」
もしかして、この人達は私の両親だったりして?
「あー、あ(パパ)」
「フフ、エルバも、そうだって言っているわ」
「そんなぁ、エルバ……」
「あーあー」
パパ、どんまい。
「あなた。エルバが、あなたをみて笑ったわ」
「ほんとうだ、笑ってる。可愛い笑顔だ……なぁ、ほんとうに…………可愛い、俺とカルデアの娘」
パパの声は、だんだんと震えてきて。
瞳には大粒の涙を浮かべた、そばにいるママも目頭を抑えている。
え、ちょっ、泣かないで、パパ、ママ?
2人に手を伸ばしたけど、私の小さな手ではポロポロ流れ落ちる、その涙を止めることはできなかった。
「……タクス、私。とても、幸せだわ」
「ああ、俺だって……美人なママと、可愛いエルバのパパになれて、世界一幸せだ!」
そう叫んだ後、さらにパパは号泣した。
「あー、あー」
部屋天井から吊るされた、魔法の力で回るオモチャ。
手には光りがでてカラカラ鳴るオモチャ、ベビーベッドで寝返りを打ちながらいまの私の状況を考えた。
キャンプ場からの帰り、軽トラギャンピングカーとぶつかり、ガードレールから飛び出して私は魔法がある、ファンタジーの世界に転生したのか。あの日、願った優しい両親がいるし、魔法もおもしろそう。
はじめて目の当たりにしたママの魔法。
ママは指ひと振りでコンロに火の魔法で火をつけ、水を水魔法で出し。お鍋、おたま、包丁、まな板――調理器具を自由に操る。
編み物をするときだって浮いたまま編まれていくし、うちには薬を調合する調合室あるみたい。
(一度覗きたいわ!)
❀
私が、この世界に生まれて八ヶ月が経った。
つかまり立ちとハイハイができるようになり、行動範囲が増えた。なかでも、この世界の文字が読めるとわかり、パパとママの目を盗み、ハイハイで書庫に移動して本を読んでいる。
この日もこっそりベビーベッドを抜け出して、書庫にきていた。
(今日はどの本を読もうかな?)
本棚に掴まり立ちをして本を探して、前から気になっていた、この国の歴史書を本棚から引きずりだし本を開いた。
この、リーベラ大陸の西には人間の国アルクス。
中央にサングリア魔法都市。
東には魔族の国マシュがある。
ふむふむ。私が生まれたのは中央にあるサングリア魔法中立都市ね。都市にはおおくの魔法使い、魔女、亜人種たちが住んでいる。
魔法都市の中央に建つ古城サングリアには"希少な魔法石"を守る、大魔女と呼ばれるミネルバ様が住んでいて。
朝昼晩――魔法石に祈りを捧げ"守り結界"を都市に張り、人間、魔族から私たちを守っている。
人間と魔族から守る? なぜ?
大昔――サングリアは勇者と魔王の戦いに巻き込まれた。争いごとが嫌いな魔法使い、魔女、亜人達は勇者側の人間に捕まり、戦争の道具として使われた。と書物に書いてあった。
またある日……書庫で魔法の本を読んだ私は、見よう見まねで魔力を練ってみた。お、目の前に真っ白な球ができた……けど。なぜかそれは、どんどん大きくなっていった。
まずい、この球を消せないし。
制御できない……目の前で爆発する?
「――あ!」
ふくれあがる魔力にいちはやく気付いた、ママが書庫に飛んできて。魔力の真前にいる私を抱きかかえ、杖をだし「魔力吸収」と唱えて、ふくれあがる魔力をすべて吸いとった。
「ハァ、ハァ、なんて魔力量なの……フウッ、エルバ……あなたがやったの?」
「……うっ」
「その顔は。悪いことをしたパパと同じ顔ね……まったく、うちの子はすごいでちゅね。もうしちゃダメですよ」
「あ、うわあっ」
魔力の扱い方を習いもせずに使うと、大けがをしてしまうといい――次の日から書庫に鍵が掛かり。私がベビーベッドから逃げださないよう、パパとママはベッドの柵をたかくした。
つかまり立ちをしても無理……外にでられないし、柵を触るとママがやってくる。私はベッドでおとなしく、小指の先くらいの小さな球で魔力訓練をはじめた。
「う――あっ、あ、う(上、下、右、左)」
魔力の練り方を練習して、自由に光の玉をつくり、その小さな球を操れるまでになった。
この日、お昼寝の時に私は昔の夢を見て泣いた。前の両親は手を伸ばしても無視され、愛されたいと努力したけど愛されない……とても悲しい夢だった。
だけど、いまの私は幸せだ。
手を伸ばせば、無条件に抱きしめてくれるパパとママがいる。そんな、やさしい両親のもとで元気に育ち、私は五歳になった。
すこし前にベビーベッドは卒業して、ママとパパが作ったルールも守れるようになったのだけど。危ないからと、あいかわらず書庫には鍵がかかっていて中に入れない。もっぱら、お昼寝の時間に光の球で魔力の練習している。
「天井まで飛ばして、次に壁に…………ふうっ」
たのしいけど、少し飽きたかも。
いまの時間パパは仕事で、ママはリビングで編み物かな?
目も覚めたし、ママのところにいってみよう。
毎日欠かさず光の球をだして魔力に触れていたからか。リビングのソファーで編み物をする、ママの魔力がみえた。
(とても、繊細な魔力を調整しなから編み物してる)
両手を使い魔力をこうして……あーして……こう、
「! ……エルバ、そこで何をしているの?」
あちゃ、ママにバレた。
少しでもママのまねをすれば、すぐに見つかる。
「……ママ」
「こんな壁ぎわに隠れて、なにしていたの?」
「あ、あのね、ママに絵本を読んでもらいたくて……」
「絵本? あーあ、クマさんとウサギさんの絵本ね。いらっしゃい、エルバ」
「お、おおっ!」
ママがひょいと人差し指先を動かすと、私の体はフワリと浮き、ソファーに座るママの膝の上に乗り。ちかくの本棚からは絵本が飛びだし、私の膝の上にのった。
「クマさんとウサギさんの絵本だぁ! ママ、ママ、はやく読んで、読んで!」
「はい、はい、読むわね。昔々。ススの森には仲良しの、クマさんとウサギさんが住んでいました……」
その、クマさんとウサギさんは些細な事でケンカをするけど、いつの間にか仲良しに戻っている……そんな内容の話だった。
その内容に、また昔を思い出した。
なぜか、妹はいつも私を見下していた。
あの絵本の様に仲のよい姉妹なんて夢のまた夢で、ケンカ、言い合い、テレビのリモコンの奪い合い……ひとつもなかく。ただ私は嫌われていた。
妹と目があえば
『お姉ちゃんは近寄らないで』
と言われた。そして妹が嫌がるからか家族の輪にも入れず、部屋でひとり、勉強机に座り勉強していた。
なぜかわからないけど、妹に嫌われていたわね。
ほんとうは、妹と仲良くしたかった。
もう、会うことがないから叶わないけど。
「ママ、ママ。クマさんとウサギさん、なかよしになった~!」
「そうね、なかよしになったわね」
❀
私が生まれ変わったここの時間は、ゆっくり進む。魔女、魔法使いは自由に寝て起き、気が向いたら薬を作り、実験、研究して魔法を使用する。
ほら、今日もお隣から聞こえてきた。
「ららら~らぁ~」
「あ、きれいな歌声だぁ?」
「フフ。おとなりのカリーナの歌声ね。彼女の歌声はいつ聞いてもキレイね」
「うん、キレイ、キレイ!」
おとなりに住む魔女のお姉さんは。魔力をふくんだ歌と水魔法を使い、庭に咲いた花と木々に水を撒く。その水と歌声を浴び、花と木々は生き生きと育っている。
「ママ、窓からみてもいい」
「いいわよ。いま、エルバ専用のお立ち台を用意するわね」
お立ち台をママに置いてもらって、窓枠からながめる。歌いながら花に水をまくお姉さんの周りには、魔力の光がキラキラしていた。
「ステキ、キラキラだ!」
(カリーナお姉さんもママと同じで、繊細な魔力をあやつってる)
その反対側の家から薬を作っているのだろうか。
ナナバァの楽しげで、パワフルな魔法詠唱が聞こえてきた。
「ほれっ、そりゃ、とう! 良い腹痛の薬になるのじゃーぞぉ!」
「あらあら、ナナバァも張り切り出したわね」
この詠唱と歌を聞き、ママはエプロンを付けて袖をまくった。
「エルバ、私達もカリーナと、ナナには負けられないわよ」
「あい!」
ママは指揮者のように、人差し指を振りながら魔法を操り、家の掃除を始める。私もそれをまねて子供用のはたきを握り、お手伝いをする楽しい時間のはじまった。
私がこの世界に転生して、十回目の誕生日を迎えた。灰色の髪、緑色の瞳、伸びた髪はポニーテイル。ワンピースの上にローブを羽織り、髪にお花の髪飾りをつけて、両親に誕生日の日に貰った、マジックバッグをかけお弁当をいれた。
「ママ、エルブ原っぱにいってきます」
「エルバ、あまり遅くならないで帰ってくるのよ。変な人にもついて行かない」
「はーい、わかってる!」
家から徒歩十分くらい、外壁近くのエルブ原っぱに向かった。基本この都市の魔女、魔法使い達は薬に使用する、薬草などは温室、庭で作っている。
ウチにも温室と庭はあるけど。ママは危険な薬草もあるからといって、入る許可は貰えなかった。
だけど、大丈夫。
ママとの散歩の途中で、都市のみんなが畑で育てている薬草のタネが飛び、知らない間に育ち原っぱになったエルブの原っぱを見つけたのだ。
家を出て、原っぱについた私はウキウキと
「昨日はその辺の薬草を調べたから……今日はこの辺に決めた!」
と、マジックバッグからシートをだしてひき、草の上に寝っ転がった。なんと、私の能力は植物に特化しているらしくて、初めて発見した薬草と植物を教えてくれる。
私だけのスキル。
物知り博士がいる。
❀
このスキルに気が付いたのは七歳とき。
家に飾られた紫の花を見て「この花は、なというのかな?」と気になった瞬間、頭の中に声が聞こえた。
《この花はフル草と言います》
え、誰? フル草?
《花びらを天日干しで乾燥させ、煎じてお茶として飲めば疲労回復いたします》
お茶?
疲労回復?
《フル草の種をどうぞ》
種? 目の前には白く光るタネが浮いていて。
そのタネを取ると、目の前に畑の画面が現れた。
「エルバの畑⁉︎」
《この種を畑に植えてください》
声の通りに画面に種をかざすと、手の中のタネは消えて、畑に新芽が生えフル草は花を咲かせたのだ。
《採取をするときは、花をタップしてください》
声に言われた通り画面をタップすると、畑の花は消えて、育った花が目の前に現れた。
《一度、調べたものはその場に採りに行かなくても、エルバの畑で、永久に採取できます》
畑に採取したはずの場所に、フル草の花が咲いていた。
凄い、ゲームみたい。
学生時代は勉強ばかりで働きに出るまで、ゲーム機、スマホもなく、ゲームで遊んだことがなかった。はじめて買ったときは嬉しくって、夜通しで遊んだ。
ゲームもだけど。ソロキャンプを始めてからは、キャンプ場に実る植物のをスマホで撮り、帰ってから調べるのが好きだったから嬉しい。
私はこの声を"博士"と名前をつけた。
このエルバの畑は便利だ。
私はもっとこの世界の薬草を知りたくなり、両親に頼んで薬草図鑑を買ってもらった。
(この図鑑に載ってる植物に触ったら、博士が教えてくれる?)
だけど、図鑑でみる薬草に博士は反応せず、タネも貰えなかった。
博士、なんでぇ?
《エルバ様、実際に植物を見て触ってください》
植物に触る? ただ図鑑で見るだけではだめらしく、実際に自分の目で見て、植物に触らないとスキルが発動しないみたい。
どうすれば? うぬぬ……あ、家の近くのエルブの原っぱがあった。
パパとママに、ママとの散歩の途中で見つけた、エルブの原っぱに行きたいと言ってみた。パパとママはあの原っぱなら、家からも近いからと許してくれた。
この原っぱ、はじめて見る植物ばかりで楽しい。さっそく見つけた植物を博士に聞いた。
博士、この三角の葉っぱの薬草は何。
《これはトンガリ草と言います》
目の前にタネが現れて、それを受け取り畑に植えて、この草の効能も聞いた。効能を知っておけば、後で何かの役に乗るかも知らない。
ただ単に、好きだからだけど。
《脂肪燃焼の効果あり、食用で炒め物、おひたしとして食べられています》
この草はダイエットに効くのか……女性の味方だな。
原っぱを歩きまわり、紫色の草を見つけた。
この薬草は。
《これはフク草といいます》
色といい、効能を聞かなくてもわかるけど……一応ね。
《食しますと体が痺れる麻痺草の一種です》
タネは植えても画面上にはなく、違うページに植えられていた。
この草は食べちゃダメなのは知っている。
だけだ私は生まれもった体質なのか毒草、痺れ草が効きにくい、効能を博士に聞かず口に入れた。
「お、おお!」
すぐに口の中がピリピリして、体の自由がなくなる。
「体が、痺れた……でも、面白い!」
この痺れが切れるまで"お昼寝するか"と、そのまま仰向けに目を瞑った。
好奇心に負け痺れ草を食べ、エルブ原っぱでお昼寝中。近付く足音と顔がモサモサして目を覚ますと、顔の上に得体のしれない、"ナゾの薬草"が置かれていた。
何これ?
誰かのいたずら?
いや……都市に住む人たちは大人の人しかいないし、十歳の私にそんなことしないだろう。その薬草を手に取って調べると、枝に小さな赤い実が実っていた。
これ、はじめてみる薬草だ。
博士、この薬草は何。
《これはピリトリ草といいます》
ピリトリ草?
効能は?
《薬草にみのる、赤い実は麻痺を取り除いてくれます》
痺れとり?
博士にタネを貰いエルバの畑に植えて。枝から、赤い実を一粒とり食べると、口の中でプチッと赤い実が潰れた。口の中に広がる酸味……
「ス、スッパイ――! この赤い実、梅干しよりも酸っぱい……」
でも、すぐに効果がでて、体の痺れが取れた。
「痺れがなくなった……」
この薬草いったい誰がくれたのだろう。まわりを探したけど誰もいない「ありがとう」とお礼を言って、残りをマジックバッグにしまった。