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オナクラ②

私達はエレベーターで2階に降り、本来の受付があるフロアに入店した。

「いらっしゃいませ〜」

自分たちは、すでに受付済だという事をチケットを見せて確認してもらう。 

「はい、大丈夫です。楽しんで下さいね〜」

私はオープン間際の人の少ない事をチャンスととらえ、早速「ある事」の段取りを相棒と話し合った。

「やっちゃおうか…」
「うん。じゃ、着替える」

相棒がライダースジャケットを着て準備をしてくれている間に、構図や画角を考える。

「いいよ」
「オッケー、撮るよ」

いつもは可愛い感じの服装の相棒だが、今日は私の提案で少しハードな雰囲気で撮影がしたいと思っていたのだ。

「可愛い」から「カッコイイ」へ…
イイ女なら、どちらも着こなせる。
革ジャン女装娘の誕生だ🕶️

「いいね〜、こっち向いて」
「こぉ…?」
「スゴくいいよ〜決まってる!」
「うふ…ありがと」

フリーメイソンな壁紙を背景に、フリーメゾンの真実の眼の前で相棒の隠された一面を露わにしていく。

「思ったとおりだ…」
「えっ?」
「イメージ通りの絵が撮れたよ」
「よかった…」

撮った画像を二人でチェックして笑い合う。

「私も撮ろうかな」
「じゃ、撮ってあげようか?」
「ん…自分で撮るw」

さっき、ライトを当ててくれた女装さんの言ってたことを思い出して自撮りしてみる。

「この角度か…もう少し上からか…」

色々な角度と光の当たり具合を調整し、渾身の一枚を創り上げる。

「よしっ…」





いい絵が撮れた。

とりあえず目的の一つを達成したので、落ち着いてソファーに座る。

ふと相棒を見ると、横の方に座っているメガネの娘を気にしている。

「あの娘…」

「メイクの時に、私の隣に座ってた子ね」

「うん、一人かな…」

「そうかもね…」

相棒はこうゆう所で、一人で寂しそうにしている娘を見ると放っておけないタイプだ。

「声かけてみようかな…」

きっと自分も一人で寂しい想いをしたことがあるのだろう。
こんな素敵な場所に来てまで、孤独を感じるのはさぞかし辛いことだと思う。

「ん、スタッフさんとかお客さんと話しだしたね」

周りの人が気づいたのだろう。
メガネの若い女装娘ちゃんは、徐々に女の子クラブに溶け込んでいった。

「あぁ、良かった」

こんな優しくて思いやりのある性格の相棒は、本当に素晴らしいと思う。

「私達も何か飲もうか」

テーブルの上のドリンクメニューを見て、軽めのサワーを注文する。

「あっ、私この駄菓子好き」

テーブルには「うまい棒」や「蒲焼さん太郎」や「よっちゃんイカ」が沢山置かれていた。

飲み物を飲みながら、ムシャムシャ駄菓子を頬張る。

「ちょっとwwスゴい食べるね!」
「お腹減ったみたい」
「なら、外に食べに行こうか」
「いいわね〜行こう」

購入済のチケットさえあれば、お店の出入りは自由だ。
私達は素敵なママさんのいるMIXバーに行こうと決めた。

「あ…ちょっと…ごめん…痛いかも」

慣れないヒールの爪先が歩くごとに痛む。

「履き替えてきていい?」
「いいよ」

私は急いで4階に戻り、サイズの合うパンプスに履き替えた。

「ごめんごめん」
「大丈夫?」
「うん、行こう」

私達は「女の子クラブ」を後にし、夜の街へとくり出した。

「う〜…緊張する」

なんせ女装した状態で初めての外出だ。
多様性が許される二丁目といえど、初心者ゆえに伏せ目がちになってしまうのは仕方がない。

土曜日ということもあり、街は人でごった返していた。

「カッコイイ男の人多いね…」

路上を勇ましく歩く屈強で男らしいイケメンが、アッチにもコッチにもいる。

「スゴい女の人にモテそう」
「いや、そっちじゃなくて…」

そう…
彼らは女にモテたくて日々鍛えているわけではない。
むしろ逆なのだ。

「ウメちゃん、ああいう感じの人がタイプ?」

私は少し考えた。

「ん〜、私はキアヌ・リーブスがいい」
「私も〜w」

相棒と男の趣味が被ったようだ。

リバーシブルなイイ男♡

「着いたよ〜」

今宵、第二の目的地に近づいた。

2階に上がるため階段まで歩く。
すると、幾分テンションの高い人達が階段付近を占拠していた。

おそらく上の店で飲んで気分良くなっている方々だろう。
私達はその人達が流れて外に出て行くのを階下で待った。

横をすり抜けて階段を上がることも出来ただろう。
でも、それはしたくなかったのだ。
おもに私が…

私は今、丈の短いワンピースを着ている。
階段を上がっているところを下から見られたら、おそらく丸見えになるだろう。

誰が中年オカマのケツなんか見るかよ?!
と、お思いでしょう。

わかります。

ですが、見てしまうものなんです。
なぜか目がいってしまうものなんです。

ラッキーと思うか、ガッカリするかは個体次第ですが、見られる恐れがあるのは確実です。

私がそうですから。

そうゆう生き物なんです、男なんて。

「人捌けたね、上がろうか」

「うん」

私は少しスカートの裾を押さえて階段を上がった。

2階に到着し、お店のドアを開ける。


(ガラッ…ザワザワ…)

「いらっしゃ〜い!ちょっと待っててね〜」

店内はお客さんで賑わっていた。
まだ、開店して間もないというのに大盛況なのは気さくで笑顔が素敵なママさんの努力の成果だろう。

「ここ空いたよ〜!どうぞ〜」

カウンターの手前側の並びに二人で座る。

「えっ〜?!そうゆうのもアリ?!笑」

ママさんは私の女装に気づいたようだ。

「も〜すぐ分かったわよ〜ww」

すぐに分かったということは、つまり仕上がりが甘かったという事だ。
私が誰か分からないくらい驚かせたかったんだけどな…笑

「とりあえず飲み物は、残波(泡盛)のシークワーサー割りで良い?」

このお店に、私は男の状態で2度訪れている。
数ヶ月前の二度目の来店時に注文した飲み物がそれなのだ。

「凄い…よく覚えててくれたね」

「当たり前じゃ〜ん、そちらは冷えたイエガーとコーラよね」

「さすが…お願いします」

私達はママさんの作ってくれたアルコールで乾杯をした。

「何か食べる〜?」

「うん、お腹ペコペコ」

「お肉もらったから焼き肉丼作ろうか〜」

「お願いします!!」

ママお手製の焼き肉丼に舌鼓を打つ。
とんでもなく美味かった。
今これを書きながら思い出しても、ヨダレが出てくるほどの味だった。

「お…美味しい…」
「う〜ん!良い味付け〜!」

「あ〜んwwwなんか、ウチご飯屋さんみた〜い。笑」

美味しいご飯をいただき、タバコに火を点け一服していると、隣に座っている御仁に声をかけられた。

「今日、カラオケする?アニメの歌ならタダみたいだよ!」

アニソンの企画をやっているらしいが、私が知ってる曲と言えば「走れマキバオー」くらいだ。
こんな所で歌ったら白けるに違いない。

「あ〜ちょっとアニメ分からないから、歌わなくて大丈夫かな〜」
と、体よく遠慮した。

「でも、他の曲も歌えるから!どう?お金はオジサンが出してあげるから!」

えっ…このオジサンそんなにカラオケ好きなのかな?

「可愛いね!握手しよう!」

マジ?
私の手を撫で撫でして触ってくる御仁。

完全に頭がパニックになった。


パニックになった私

{わたすは、いま女の格好をしてるのねん…
だから、スケベな男の人に性対象として見られてるのねん…
それは、当然のことなのねん…
こんなオバサン女装でも可愛いとか言ってくれる人がいるのねん…
それって、いわゆる奇跡なのねん…}

私は一瞬、自我を失いそうになった。

「ちょっとトイレ行ってくるね…」

一人でトイレに向かい個室のドアを閉める。

(バタン…)

もよおしてトイレに来たわけではない。
心を整理しに個室に籠もったのだ。

今日、私が女装したのには理由がある。

数年前に初めて女装さん(トイレの女神様)と接してから、今日この日まで関わってきた全ての女装さんに対して、少しだけ…ほんの少しだけでも気持ちが知りたいと思ってチャレンジしてみたんだ。

まだ、人の手を借りている時点で全然ダメなのだが、ヒールの足の痛さ、スカートの不安感、食後のメイク直しの面倒さ、ウィッグの蒸れの不快感…

ちょっとだけ女装さん達の気苦労を知れた気がしたんだ。

スゴく表面的な事しか触れていないけど、彼女達がどんな心境で純男と触れ合っているのか知りたかったから、私は女装をした。

でも、心は変わらなかった。

「可愛い」や「綺麗」は私の為の言葉じゃない。
もっとキチンと自分と向き合っている人に対して投げかけて欲しい言葉だ。

私は…
いや、俺はもう充分だ。

もう、戻ろう。

(バタン…)

カウンターに戻ると、相棒が先程の御仁に手を握られ絡まれていた。

『そうだよな…俺はこの娘の側にいなきゃいけないんだ。俺が女の格好していても、そんなことは関係ない。俺がこの娘を守るんだ。』

俺はスッと相棒と御仁の間を割って入った。

「そろそろ行ってみようか」

「うん、そうね」

ママさんにお会計をしてもらい席を立つ。

「ご馳走様、また来るね」

「ありがとう〜またね!」

俺達は御仁とママさんに別れを告げ、店を出た。

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〜再び女の子クラブ〜

私達が店に戻り2階のフロアを覗くと、ソファー席は埋まっており満員の様相だった。

「仕方ないね、4階行こうか」

エレベーターで上のフロアへ移動する。

「おかえりなさ〜い」

スタッフの方が声をかけてくれる。

「お席どうします?あそこのカウンターでいいかな〜?」

「はい」

こちらもほぼ席が埋まっているので、スタッフの方に誘導してもらい二人でピンク色の席につく。

「何飲もうか?」

「私はオレンジジュースで…」

「なら私もソフトドリンクでいいや」

背の高いキレイなスタッフの方にオーダーを任せ、しばらく女装話に花を咲かせた。

「いや〜女装って疲れるね…」

「慣れてないとそうかもね」

「そろそろ私は男に戻ろうかな」

「お疲れ様でした。私は待ってるから、どうぞ着替えてらっしゃい」

「うん、行ってくるね」

私は化粧台でウィッグを外しメイクを落としてから、自分の服が置いてある着替え室に入り、レンタル服とパンプスを脱いで、女物の下着をはいたまま男の服へと着替えた。

「ふ〜、スッキリした」

いつもの感じで相棒の元へと戻る。

「おかえり」

「うん、戻ったよ」

それを見ていたスタッフの方が少し驚く。

「えっ?先ほどの?」

「はい、ウメだった者です」

「イケメンですね〜」

ここで間髪入れず相棒が、
「ダメ…私の…」

「ふふ…」

キレイなスタッフさんにお世辞でイケメンと言われ、相棒に嫉妬される。

非常に気分が良い。

やっぱりこれだな。

俺はこの立ち位置が良い。

今回は少し女装して遊んでみたけど、俺自身の根幹は男として女装さんを愛したい。

他でもない相棒…
いや、彼女を大切にしてあげたい。

ただ、それだけなんだ。

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「女の子クラブ」
とても素晴らしいお店でした。
初見でも楽しめて、居心地もよくお菓子もドリンクも美味しい。
なにより最初は男しかいなかったのに、気がついたら女の子ワールドに変わっていた衝撃は忘れられません。
沢山の方の夢を叶えてきた場所ですね。
また、お伺いしたいと思いました。


オバサンの奇跡の一枚

ありがとう。。





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